オーバーゲート

JUN

文字の大きさ
上 下
32 / 89

制限時間が決まった理由

しおりを挟む
 俺と采真は実験をしていた。例の袋の実験だ。
「まだいけるな」
「おお、凄いぜ!やっぱ、鳴海は頭いいな!」
 俺はボディバッグに数トン入るだけの袋を作る事に成功していた。
 まあ、それ自体はそう難しくもなかったのだが、難しかったのは、容量の維持だった。魔素を注ぎ込み続けなければならないという問題だ。
 それは、2つの切り替えで解決できた。
 門の内側では、魔素を集める魔式を作動させて、勝手に機能させればいい。
 そして門の外に出る時には、それをオフにして、魔素を溜めたカートリッジをオンにすればいいと。
「これで、半日で一旦帰らなくても済むな」
「おう!」
 采真も機嫌がいい。
 しかし、ちょっとおかしい気もする。この程度なら、誰かがとうに考えていた筈だ。なぜ、製品化しなかったのだろう?
「どうした、鳴海?」
「いや、俺に考え付けた事だぞ?どうして今まで誰もやらなかったんだろうと思ってな」
「探索者はそんな暇がなくて、研究室の人はそんな考えが浮かばなかったんじゃねえの?実際に探索しないとわからないだろ?」
「でも、会社だったらテスターがいるだろ?そういう不便な点は、伝えてると思うんだけどな」
 少し考えたが、わからない。わからない内に猫みたいな魔獣に襲い掛かられ、一旦保留にした。考え事をしながら歩けるほど、迷宮内は安全ではない。

 いつもよりも、体が重い。采真も、動きにキレがなくなって来た。
 俺達は昼食を迷宮内で摂って、午後もそのまま探索を続けていた。
「休憩するか、鳴海」
 いつもより、休憩の間隔が短い。
「そうだな。
 あ。あれを片付けてからだな」
 コウモリの群れが接近して来ていた。こいつらに噛まれると、毒に感染したり、貧血になったりするのだ。1匹1匹は、すばしっこいのを除けば大した事もないが、集団で来られると、ちょっとイライラさせられるし、要注意だ。
「まずは凍らせて、潜って来た奴をやるぞ」
「OK」
 俺はコウモリの集団に向かって冷気をぶつけた。
 大部分が凍り付いて死に、地面に落ちて小さな魔石になる。
 しかし隙間を縫って来たやつや後ろにいたやつが、飛んで来る。
「うりゃあ!」
 采真と俺は、片付け始めた。
 しかし、である。
「あ、すまん」
 采真の剣が、目の前に突き出された。
「あ、悪い」
 うっかり、采真を氷漬けにするところだった。
 どうにか片付け、魔石をかき集めたものの、俺達は悟った。
「そういう事か。わざとだ」
「んあ?何が?」
「袋だよ。大容量のものを持って中に入ったら、長く探索できるよな。で、そうすると、いくら休憩を取っても、集中力が落ちる」
「あ……」
「だから、適当に帰らないといけないように、わざと商品化しないんじゃないか」
 俺達はぼうっとした目を、ボディバッグに向けた。
「帰るか」
「そうだな」
 俺達は立ち上がると、エレベーターで入り口に戻った。

 買取カウンターへ向かっていると、なぜか注目を浴びる。
 血糊も付いていないしなあ、と思いながらカウンターへ行くと、ちょっと待てと言われ、支部長が呼ばれた。
 支部長は俺達の背後に立つと、俺達の頭を片手で思い切り掴んで締めた。
「痛い痛い痛い痛い!」
「何するんですか!」
「何する?鏡見て言え!このアホ坊主共が!」
「禿げたらどうしてくれるんだ!?うちの爺さんはつるっつるなんだよ!」
 采真が怯えたように言った。
 ああ。うちの父はフサフサだった。若白髪だったけど。
「まず医務室行って来い!話はそれからだ!」
「あの――」
「返事!」
「はい!」
 俺達はピョコンと立ち上がり、采真は足をもつれさせて転び、俺は貧血でしゃがみ込んだ。

 常駐している医師に、
「過労だな。君は睡眠不足もあるな」
と言われ、支部長に叱られた。
 そして、袋の件について話すと、その通りだった。
「皆持ちたがるだろう。持てば、事故の元だ。だから、商品化はしないでおこうと決まったんだよ。
 まさか、自作するとはなあ。しかも、カートリッジも作るとは」
「作らなかったんですか」
「ああ。門の外では、魔術士が魔力をカウンターで出すまで注ぎっぱなしになるはずだった」
「おお!鳴海、凄えな!」
「まあ、技術の進歩があるから」
「そういうわけだから、これは危険だ。半日のペースでやるか、人数を増やして負担を減らすかしろ」
「はい」
 これがきっかけで、迷宮に入るのに制限時間が設けられる事になり、インターバルの推奨が決められた。
 采真はしばらく頭髪を気にしていた。
「くそ。ザビエルヘアにならないだろうな、将来」
「適度な刺激はいい筈だし、将来禿げても、それで今回との因果関係を疑うのはどうかと思うぞ」
 采真は心配そうに唸っていたが、俺達は門を出た。
 ボディバッグはあれからも使ってはいる。
 だが、制限時間は守っている。破ればペナルティがあるのだ。
 そしてそれ以上に、伯母や采真の家族や支部長達に心配はかけられないと、実感させられた。
 というのも、俺達がフラフラと門から出て来た後カウンターでダウンしたと聞いて、しばらく伯母が、毎日昼と夕方に協会のロビーに現れるようになったのだ。
「心配かけて申し訳なかったけど、ありがたいな」
「うん」
 去年ならば、「とっとと死ね」扱いだっただろうに。
 俺は、きっと早く探索を進めるとの気持ちに変わりはないが、焦るのはよく無いと、実感させられたのだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

偽物の侯爵子息は平民落ちのうえに国外追放を言い渡されたので自由に生きる。え?帰ってきてくれ?それは無理というもの

つくも茄子
ファンタジー
サビオ・パッツィーニは、魔術師の家系である名門侯爵家の次男に生まれながら魔力鑑定で『魔力無し』の判定を受けてしまう。魔力がない代わりにずば抜けて優れた頭脳を持つサビオに家族は温かく見守っていた。そんなある日、サビオが侯爵家の人間でない事が判明した。妖精の取り換えっ子だと神官は告げる。本物は家族によく似た天使のような美少年。こうしてサビオは「王家と侯爵家を謀った罪人」として国外追放されてしまった。 隣国でギルド登録したサビオは「黒曜」というギルド名で第二の人生を歩んでいく。

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

前世では伝説の魔法使いと呼ばれていた子爵令嬢です。今度こそのんびり恋に生きようと思っていたら、魔王が復活して世界が混沌に包まれてしまいました

柚木ゆず
ファンタジー
 ――次の人生では恋をしたい!!――  前世でわたしは10歳から100歳になるまでずっと魔法の研究と開発に夢中になっていて、他のことは一切なにもしなかった。  100歳になってようやくソレに気付いて、ちょっと後悔をし始めて――。『他の人はどんな人生を過ごしてきたのかしら?』と思い妹に会いに行って話を聞いているうちに、わたしも『恋』をしたくなったの。  だから転生魔法を作ってクリスチアーヌという子爵令嬢に生まれ変わって第2の人生を始め、やがて好きな人ができて、なんとその人と婚約をできるようになったのでした。  ――妹は婚約と結婚をしてから更に人生が薔薇色になったって言っていた。薔薇色の日々って、どんなものなのかしら――。  婚約を交わしたわたしはワクワクしていた、のだけれど……。そんな時突然『魔王』が復活して、この世が混沌に包まれてしまったのでした……。 ((魔王なんかがいたら、落ち着いて過ごせないじゃないのよ! 邪魔をする者は、誰であろうと許さない。大好きな人と薔薇色の日々を過ごすために、これからアンタを討ちにいくわ……!!))

処理中です...