オーバーゲート

JUN

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小さな違和感

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 無事に依頼を達成させ、協会に報告をすると、学者が飛んで行って調査を始めた。
 転移石の仕掛けは今後迷宮で使えそうだが、その他には、白骨が2人分あるだけで、大した収穫は無さそうだという。
 それを聞いて、俺達は言い合った。
「守っていたという2つの宝玉はやっぱり無かったらしいな」
「どこに消えたんだろう」
「時間経過と共に消えていくようなものとか?」
「あの2人があの世に持って行ったのかも知れないぜ」
「あ、まさかあの平たい石のことか?」
「ああ、2つだしな。うん、そうじゃないか」
 あれを宝玉と言って持ち出すほどのものかと言われれば微妙だが、1400年前の事だし、魔式もまだ未発達という感じがしたし、まあ、あれと考えるよりほかはない。
 研究者もそう越論付けたらしい。
 迷宮内に設置し、入り口と行き来できるようにするとの事だ。
 しかし、何階に設置するかでまとまらないと、協会へ報告書を提出しに行った時に聞いた。
「もっと作って各階に置けばいいんじゃないですか」
 そう言うと、支部長や親父さん達が嫌そうに言う。
「そりゃ、それが便利だろうよ。でも、入り口に各階分の石をズラーッと並べるのか?その前に、どうやって量産するんだよ」
「魔式を複製して刻めばいいでしょう?それで、迷宮内の方は入り口に戻るの一択でいいし、入り口の方は、飛ぶ階数を選べるようにすればいいだけでしょう?」
 そう言うと、協会の魔術士が苦笑した。
「それができれば苦労しないけど」
「え。ちょっと魔式をいじればいいだけだし」
「その魔式が読めないから困ってるんだし」
「は?何で?読めない?」
 俺と魔術師は、お互い奇妙な顔で見つめ合った。
「もしかして、魔式が読めるのか?」
「はい」
 それで、彼らが身を乗り出した。はずみで、テーブルの上に置いてあったその石が落ちる。
「わっ!」
 それを采真がキャッチする。
「ナイスキャッチ、采真」
「いやあ、落ちる気がしたんだよな!」
 落ちて割れでもしたらえらいことになっていた。魔術士と支部長の顔が青い。
「読めるんだな!?」
「はあ」
 詰め寄って来る彼らに、逃げ腰になる。
 采真がなぜか得意そうに言った。
「鳴海は頭いいな!」
「魔術を使うためには魔式が重要で、その魔式を効率よく組むためにはどうしたらいいか、とにかく知識が必要だから、詰め込んだだけだ」
「それで成績が良かったのか」
「それは副産物だな」
 呑気に喋っていたら、魔術士が掴みかからんばかりに割って入って来た。
「やってみて!」
「はあ」
 石に手を置き、軽く魔素を流す。そして、発動した魔式を紙に写し取る。
「系統が違いますし、無駄も多いですけどね。
 ええと、この部分が行先ですから、これをパソコンなり何なりにつないで、階数を選べるように――」
 言いながら、自分でもおかしいと思っていた。
 俺は最初これを見た時、これが読み取れただろうか?いつから読めるようになったんだった?
 俺は何となく、不安が湧き上がって来るのを感じていた。

 協会を出て、2人でスーパーへ寄る。今日はカレーだ。
「鳴海、何カレーがいい?」
 何か考え込んでいた様子の采真が、そう訊いて来た。
「チキンかな」
「俺はカツ乗せのビーフカレー」
「じゃんけんだな」
 そこで采真は、変に真面目な顔をする。
「じゃーんけーんで、ほーい」
 俺達は、お互いの手を見たまま、固まった。
「……勝った?え、勝った?」
 確認する俺に、采真はやけに嬉しそうな顔になりながら、言う。
「鳴海!間違いないぜ!」
「は?ん、まあ、そうだな。今日はチキンカレーだな」
「そうじゃなくて!俺、超能力に目覚めたかも!」
 俺は、まじまじと采真の顔を見つめた。
「采真……唐突にどうした?」
 ストレスか?何かに憑りつかれたのか?
「俺、未来予知ができるようになったぜ!」
「……はあ?」
 俺はかなり不安になって来た。

  

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