オーバーゲート

JUN

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異邦人

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 俺と采真は、聞き間違えたかと思って、ポカーンとした。
「は?」
「そろそろ成仏したいの」
「……ええっと、どうぞ?」
 向こうは困ったように笑うが、こっちも困ったように首を傾けた。
「それが、生きている時に留める為の装置につながれたせいで、引き留められているの」
「何でそんな装置に」
「あるものを守っていたんだけど、予定ではもっと早くに仲間がそれを受け継いで私達は解放される予定だったのよ。計算違いだわ」
 はあ、と溜め息をつく女性の斜め後ろで、男性の方も目を伏せた。
「ええっと、どのくらい経ったんですか」
「1400年くらいになるかしら?」
「はい、姫様」
「鳴海、1400年前っていつだ?」
「大体、大化の改新の頃だな」
 645むしごめで祝う大化の改新。他には虫も殺さぬというのがあるが、大化の改新は実際には大流血だったので、これだと嫌味だろう。
「そんな昔に外国から!?」
 すると2人は困ったように笑い、言った。
「外国……まあ……」
 ん?
「とにかく、その装置を止めればいいんですか。
 でも、それ、どんな装置なんですか?大化の改新の頃の技術ですよね?ちょっと想像がつかないな」
 俺と采真は首を捻ったが、2人は、
「見ていただいた方が早いでしょう。あなたは珍しく、故郷の人と同じ能力を持っているみたいだから」
と言って、先に立ってトンネルの中へと入って行く。
 采真も、怖いとかいう感覚はないようだ。
 どんどんと進んで、一番奥へと辿り着く。そして、平たい石を指さす。
「ここに魔素を流して下さい」
 俺は眉を跳ね上げた。
 彼らの言う事は、頭の中で知っている言葉に変換されるような感じで伝わって来る。でも、魔素だって?地球に迷宮が現れて50年だ。それまでは、魔術や魔素なんて概念は無かった。
 そういう俺の考えもわかっていると言いたげに、2人は俺を見ている。
「魔素を持つ人間が、宝玉を受け継ぐはずの仲間ですか」
 似たような話を、俺は聞いた事がある。しかし、まさかなあ。
「魔素なら、鳴海だな!」
 考えていても、仕方がない。俺は平たい石に掌を当て、魔素を流し込んだ。
 その途端、足元に魔法陣が展開された。
「うわっ、鳴海!?」
 采真がいきなりで驚くが、俺はその魔式に驚いていた。
「これは系統が違う魔式か。おそらくは転移の――」
 言っている最中に、ふっと体の何かがずれるような感覚がして、その直後には別の閉ざされた空間に立っていた。
 4畳半程度の広さで、周囲は洞窟内と同じ材質だ。そしてその真ん中に、幽霊の2人とそっくりなヒトが並んで眠っていた。その下には、今も稼働中の魔式を綴った陣が展開されていた。部屋の中には、このほかには何も無かった。ドアすらも。
 采真はその2人と幽霊の2人を見比べ、
「本人だぁ」
と声を上げていた。
 俺はその魔式を見た。正直、わからん。
 しかしこれも、系統が違うというのはわかった。
 俺は、2人を見た。
「あなた達は、誰です?どこから来ましたか?迷宮の向こう?」
 采真も、例の昔話を思い出したらしい。
 幽霊の2人は、自分達を見下ろして、悲しそうに笑った。
「鬼の国と獣の国は、私達の国に攻め入り、私は彼や侍女らと一緒に逃がされました。3つの宝玉を全て渡してしまえば大変な事になるので、その内の2つを持って。残る1つは、道を開くために向こうでお母様が使いました。
 道を通ってこの世界に来た私達は、人目を避け、ここに隠れ住む事にしましたが、ここには魔素が無く、1人、また1人と弱って行き、私と彼がまだ元気なうちに、この陣で体を留めて生き延び、いずれ追いかけて来るであろう仲間に宝玉を渡すまで、守る事にしたんです。魔素の痕跡を辿ればここへ着く事は間違いないし、転移石は魔素がなければ稼働しませんから。
 閉じていた通路が広がってしまって、最近ではこの世界にも魔素が流れ始めましたが、でも、どれだけ経っても、仲間は来ませんでした。私達の国は滅んだのでしょう。
 そして私達の体も、限界です」
 沈黙が降りた。
「わかりました。この魔術を停止させるのも、何とかできそうです」
 それで、2人はほっとしたような顔をした。
「待って。それじゃあこの後宝玉はどうすればいいんだ?」
 采真が訊く。
「私達の国が滅んだのですから、もう、守る意味もありません」
 悲しそうに俯いて言った。
「獣は魔獣、鬼は魔人。昔話は本当だったんだな」
 言うと、采真は頷いて、2人は俺と采真を見た。
「この世界に、あれが現れたのですか」
「はい。絶対に強くなって、俺の両親を取り戻して、あいつをぶん殴る!」
「おう!俺も次は負けねえからな、鳴海!」
「そうなのですか」
 彼らは顔を見合わせ、頷き合い、そして、
「ありがとう。それと、あなた達のご武運を祈っています」
と言い、女性の方はふわっと俺に、男性の方は采真に、ハグする。
 その時、ドキッと心臓がはねた。まあ、日本人にハグの文化はないからな。
 采真を見ると、采真も似たような顔をして胸を押さえていた。
「では、お願いします」
 言って、彼らは自分の体に重なるようにして入り込んで行った。それで俺は、改めて陣に向かい、魔式を読んだ。落ち着いて見たせいか、わかる。系統が違うし無駄も多い。その魔式に手を加え、終わりを書き込んだ。
 横たわった2体が、急速に老けて行き、水分を失い、骨になる。
 もう、何の声もしない。
「成仏したのか?」
「らしいな」
 俺達は手を合わせて冥福を祈ると、そこではたと気付いた。
「鳴海、どうやって帰るんだ?」
 ギョッとして辺りを見回すと、部屋の隅に、平たい石があった。
「これか?」
 2人で近寄って、魔素を流してみる。
 浮遊感のようなずれの後、俺達は、洞窟の突き当りに立っていた。



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