オーバーゲート

JUN

文字の大きさ
上 下
24 / 89

異邦人

しおりを挟む
 俺と采真は、聞き間違えたかと思って、ポカーンとした。
「は?」
「そろそろ成仏したいの」
「……ええっと、どうぞ?」
 向こうは困ったように笑うが、こっちも困ったように首を傾けた。
「それが、生きている時に留める為の装置につながれたせいで、引き留められているの」
「何でそんな装置に」
「あるものを守っていたんだけど、予定ではもっと早くに仲間がそれを受け継いで私達は解放される予定だったのよ。計算違いだわ」
 はあ、と溜め息をつく女性の斜め後ろで、男性の方も目を伏せた。
「ええっと、どのくらい経ったんですか」
「1400年くらいになるかしら?」
「はい、姫様」
「鳴海、1400年前っていつだ?」
「大体、大化の改新の頃だな」
 645むしごめで祝う大化の改新。他には虫も殺さぬというのがあるが、大化の改新は実際には大流血だったので、これだと嫌味だろう。
「そんな昔に外国から!?」
 すると2人は困ったように笑い、言った。
「外国……まあ……」
 ん?
「とにかく、その装置を止めればいいんですか。
 でも、それ、どんな装置なんですか?大化の改新の頃の技術ですよね?ちょっと想像がつかないな」
 俺と采真は首を捻ったが、2人は、
「見ていただいた方が早いでしょう。あなたは珍しく、故郷の人と同じ能力を持っているみたいだから」
と言って、先に立ってトンネルの中へと入って行く。
 采真も、怖いとかいう感覚はないようだ。
 どんどんと進んで、一番奥へと辿り着く。そして、平たい石を指さす。
「ここに魔素を流して下さい」
 俺は眉を跳ね上げた。
 彼らの言う事は、頭の中で知っている言葉に変換されるような感じで伝わって来る。でも、魔素だって?地球に迷宮が現れて50年だ。それまでは、魔術や魔素なんて概念は無かった。
 そういう俺の考えもわかっていると言いたげに、2人は俺を見ている。
「魔素を持つ人間が、宝玉を受け継ぐはずの仲間ですか」
 似たような話を、俺は聞いた事がある。しかし、まさかなあ。
「魔素なら、鳴海だな!」
 考えていても、仕方がない。俺は平たい石に掌を当て、魔素を流し込んだ。
 その途端、足元に魔法陣が展開された。
「うわっ、鳴海!?」
 采真がいきなりで驚くが、俺はその魔式に驚いていた。
「これは系統が違う魔式か。おそらくは転移の――」
 言っている最中に、ふっと体の何かがずれるような感覚がして、その直後には別の閉ざされた空間に立っていた。
 4畳半程度の広さで、周囲は洞窟内と同じ材質だ。そしてその真ん中に、幽霊の2人とそっくりなヒトが並んで眠っていた。その下には、今も稼働中の魔式を綴った陣が展開されていた。部屋の中には、このほかには何も無かった。ドアすらも。
 采真はその2人と幽霊の2人を見比べ、
「本人だぁ」
と声を上げていた。
 俺はその魔式を見た。正直、わからん。
 しかしこれも、系統が違うというのはわかった。
 俺は、2人を見た。
「あなた達は、誰です?どこから来ましたか?迷宮の向こう?」
 采真も、例の昔話を思い出したらしい。
 幽霊の2人は、自分達を見下ろして、悲しそうに笑った。
「鬼の国と獣の国は、私達の国に攻め入り、私は彼や侍女らと一緒に逃がされました。3つの宝玉を全て渡してしまえば大変な事になるので、その内の2つを持って。残る1つは、道を開くために向こうでお母様が使いました。
 道を通ってこの世界に来た私達は、人目を避け、ここに隠れ住む事にしましたが、ここには魔素が無く、1人、また1人と弱って行き、私と彼がまだ元気なうちに、この陣で体を留めて生き延び、いずれ追いかけて来るであろう仲間に宝玉を渡すまで、守る事にしたんです。魔素の痕跡を辿ればここへ着く事は間違いないし、転移石は魔素がなければ稼働しませんから。
 閉じていた通路が広がってしまって、最近ではこの世界にも魔素が流れ始めましたが、でも、どれだけ経っても、仲間は来ませんでした。私達の国は滅んだのでしょう。
 そして私達の体も、限界です」
 沈黙が降りた。
「わかりました。この魔術を停止させるのも、何とかできそうです」
 それで、2人はほっとしたような顔をした。
「待って。それじゃあこの後宝玉はどうすればいいんだ?」
 采真が訊く。
「私達の国が滅んだのですから、もう、守る意味もありません」
 悲しそうに俯いて言った。
「獣は魔獣、鬼は魔人。昔話は本当だったんだな」
 言うと、采真は頷いて、2人は俺と采真を見た。
「この世界に、あれが現れたのですか」
「はい。絶対に強くなって、俺の両親を取り戻して、あいつをぶん殴る!」
「おう!俺も次は負けねえからな、鳴海!」
「そうなのですか」
 彼らは顔を見合わせ、頷き合い、そして、
「ありがとう。それと、あなた達のご武運を祈っています」
と言い、女性の方はふわっと俺に、男性の方は采真に、ハグする。
 その時、ドキッと心臓がはねた。まあ、日本人にハグの文化はないからな。
 采真を見ると、采真も似たような顔をして胸を押さえていた。
「では、お願いします」
 言って、彼らは自分の体に重なるようにして入り込んで行った。それで俺は、改めて陣に向かい、魔式を読んだ。落ち着いて見たせいか、わかる。系統が違うし無駄も多い。その魔式に手を加え、終わりを書き込んだ。
 横たわった2体が、急速に老けて行き、水分を失い、骨になる。
 もう、何の声もしない。
「成仏したのか?」
「らしいな」
 俺達は手を合わせて冥福を祈ると、そこではたと気付いた。
「鳴海、どうやって帰るんだ?」
 ギョッとして辺りを見回すと、部屋の隅に、平たい石があった。
「これか?」
 2人で近寄って、魔素を流してみる。
 浮遊感のようなずれの後、俺達は、洞窟の突き当りに立っていた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

オタクな母娘が異世界転生しちゃいました

yanako
ファンタジー
中学生のオタクな娘とアラフィフオタク母が異世界転生しちゃいました。 二人合わせて読んだ異世界転生小説は一体何冊なのか!転生しちゃった世界は一体どの話なのか! ごく普通の一般日本人が転生したら、どうなる?どうする?

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話7話。

病弱が転生 ~やっぱり体力は無いけれど知識だけは豊富です~

於田縫紀
ファンタジー
 ここは魔法がある世界。ただし各人がそれぞれ遺伝で受け継いだ魔法や日常生活に使える魔法を持っている。商家の次男に生まれた俺が受け継いだのは鑑定魔法、商売で使うにはいいが今一つさえない魔法だ。  しかし流行風邪で寝込んだ俺は前世の記憶を思い出す。病弱で病院からほとんど出る事無く日々を送っていた頃の記憶と、動けないかわりにネットや読書で知識を詰め込んだ知識を。  そしてある日、白い花を見て鑑定した事で、俺は前世の知識を使ってお金を稼げそうな事に気付いた。ならば今のぱっとしない暮らしをもっと豊かにしよう。俺は親友のシンハ君と挑戦を開始した。  対人戦闘ほぼ無し、知識チート系学園ものです。

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】平凡な魔法使いですが、国一番の騎士に溺愛されています

空月
ファンタジー
この世界には『善い魔法使い』と『悪い魔法使い』がいる。 『悪い魔法使い』の根絶を掲げるシュターメイア王国の魔法使いフィオラ・クローチェは、ある日魔法の暴発で幼少時の姿になってしまう。こんな姿では仕事もできない――というわけで有給休暇を得たフィオラだったが、一番の友人を自称するルカ=セト騎士団長に、何故かなにくれとなく世話をされることに。 「……おまえがこんなに子ども好きだとは思わなかった」 「いや、俺は子どもが好きなんじゃないよ。君が好きだから、子どもの君もかわいく思うし好きなだけだ」 そんなことを大真面目に言う国一番の騎士に溺愛される、平々凡々な魔法使いのフィオラが、元の姿に戻るまでと、それから。 ◆三部完結しました。お付き合いありがとうございました。(2024/4/4)

辺境の最強魔導師   ~魔術大学を13歳で首席卒業した私が辺境に6年引きこもっていたら最強になってた~

日の丸
ファンタジー
ウィーラ大陸にある大国アクセリア帝国は大陸の約4割の国土を持つ大国である。 アクセリア帝国の帝都アクセリアにある魔術大学セルストーレ・・・・そこは魔術師を目指す誰もが憧れそして目指す大学・・・・その大学に13歳で首席をとるほどの天才がいた。 その天才がセレストーレを卒業する時から物語が始まる。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...