オーバーゲート

JUN

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再会

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 俺達は、ひたすら魔獣を狩った。そして夜になると、俺は弾に魔素を倒れるまで籠めて、気絶して寝た。そうでもしないと、考えすぎたり焦ったりして寝られないというのもあったし、魔人を相手にするにはありったけの魔術を叩き込む必要がありそうで、強迫観念に囚われるようにそうしていたのだが、皮肉にもそれが、魔力量の増大につながっている。
 そうして、探索の最深部に近い所まで到達していた。
「そろそろ日帰りは無理だな」
 雑魚は無視して走り抜けるにしても、無理そうだ。
「2人の限界か」
「新しいメンバー募集するか、鳴海?」
「ううーん」
 頭が3つある魔術を使う大蛇を倒し、魔石やウロコを拾いながら俺達は相談していた。
 協会からは、とうに、人数を増やす事を勧められている。
「とにかく帰るか」
「今日の晩御飯は何だ、鳴海」
「そうめんにするか、簡単だし」
「そうめんは昨日食ったぞ。ほかのにしようぜ」
 采真に言われて、俺は気付いた。何を食べたか、あまり記憶にない事に。動くためには食事が必要だとは思うし、ちゃんと食べられてはいる。しかし、味やメニューに興味を払っていなかった。
 いつからだろう?これではだめだ。
 俺は深呼吸し、采真に言った。
「悪い。俺、余裕が無かったみたいだな。これじゃあそのうち、つまらないミスでもするところだった」
 采真はニカッと笑うと、片目をつぶって見せた。
「よし!じゃあ、明日は久々に休むか。それで、ゆっくりと休養をとって、美味いもの食べて、できれば女の子とデートしたいぜ!」
「それはともかく、掃除と洗濯もな、采真」
 俺達は肩を竦め、引き返そうと足を出しかけた。その時、悲鳴と怒号と足音が聞こえて来た。
「ん?下か?」
 それを肯定するかのように、ジリジリと後退して来た探索者達が下から現れた。ケガをしている者もいる。
 何があったかと訊く前に、彼らが対峙していた存在が姿を現した。
「詰まんないなあ。探し物はまだ見つからないのか、見付からないなら見付からないで早く研究の結果を出させろとか言われるし。ああ。気分転換に運動でもしなきゃ、やってられないよ」
 嘆息するのは、あいつだった。あの日見た3人の魔人の1人。ヘラヘラした奴だ。
 体が熱くなるような、頭が冷たくなるような、どうにも言えない感覚になる。
「でも、こっちのヒトって弱いんだよなあ。暇つぶしにもならないや」
 本当に詰まらなさそうに言って、無造作に片手を上げ、火の魔術を放つ。
 俺は盾を展開していた。こいつの火の威力は知っている。なので、4つ重ねた。
 1つ目はまるで歯が立たずに壊れた。2つ目はひびが見る間に広がって行き、やがて壊れた。3つ目はそれよりもゆっくりとひびが入って行き、壊れた。そして4つ目は、奴が魔術を放ち終えた時も残っていた。
「ん?」
 奴がそれを見、俺達を見廻した。
「誰かな?」
 その目が、俺を捉えた。そして、輝く。
「あれぇ?君、あの連れ帰ったニンゲンの子供だよね?へえ、生きてたんだ」
「黙れ――!」
 俺は氷を連続で2つ撃ち込んだ。
 氷が奴の張った盾に当たって砕け散り、冷気とキラキラとしたスターダストが舞う。
 奴は攻撃されたとも受け取っていないような涼しい顔で、笑っていた。
「研究が進まないんだ。やっぱり人質は、妻だけでなく子供もいたほうがいいかな。それで片方を、見せしめにしたら本気になるよね。うん、君を連れて行こうかな」
「黙れ、クソ野郎!」
 水と火を撃ち込んで爆発を起こさせ、そこに風を加えて叩きつける。
「うわっ!!」
 悲鳴が上がったのは、味方からだった。魔人の方は笑い声を上げている。
 視界が晴れる前に俺は飛び出して、魔銃剣で炎の大蛇ごと切り裂く。
「うわあっ!」
 ヘラヘラしていた魔人が、慌てた声を上げて飛び退る。
 肩に魔銃剣で付けた傷が斜めに走っていた。
「生意気だな、弱いニンゲンのくせに!よくもやってくれたね!」
 笑顔のまま、目付きだけが鋭くなる。
「この場で殺して死体を持ち帰ってやる!」
 魔術と魔術が激突し、合間に、俺の魔銃剣と奴の剣とがお互いを斬りつけ合う。
 周囲の誰も、手出しができないようだった。強力な魔術もそれを連発する事も、見た事が無いだろう。
 なので、動けたのは、采真だけだった。
 弾が切れた瞬間、俺とスイッチしてヤツに躍りかかって行く。その間に、俺は呼吸を整え、観察した。
「采真!」
「ほい!」
 采真が後ろにひょいと引いたその空間に、続けさまに風の刃を撃ち込む。采真を追撃しようとしていたヤツはそれをモロにくらって、派手に吹っ飛んだ。
「やったか!?」
 誰かが言う。
「いや」
「来るぞ」
 土煙の中、ヤツは起き上がった。


 
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