オーバーゲート

JUN

文字の大きさ
上 下
17 / 89

目撃者

しおりを挟む
 膝くらいの高さまである小型のイノシシみたいな魔獣の群れも、新人の頃は手こずっていたが、最近ではどうということもない。魔術を使うまでも無く、俺も采真も、物理で片付けて行く。大変といえば、後に残った魔石を拾い集めるのが面倒臭くて大変だ。そう言えるくらいには、俺達も探索者として慣れて来た。
「こんなもんかな」
「ああ。外の魔獣と違って解体しなくてもいいのは助かるけど、やっぱり面倒臭いな」
 俺は腰をトントンとして言った。
 年寄り臭い?未成年でも、痛いものは痛いんだ。
 残らずかき集めたのを2人で確認し、俺達は時計を見た。
「そろそろ今日はおしまいにするか」
「もうこんな時間か。腹も減ったし、そうだな!」
 俺と采真は引き上げる事にして、戻り始めた。
 迷宮の中は昼夜明るさは変わらないが、集中力や疲労などがあり、誰でもそこそこで引き上げて行く。もしくは比較的安全なところで、見張りをしながら宿泊する。
 そこそこの人数の場合は中で宿泊もできるが、2人だと少々難しい。なので、俺達は日帰りだ。
 ゲートを通って現実へ戻り、カウンターで買い取りを頼む。
 と、その騒ぎが巻き起こった。
「魔人が出ただと!?」
 少し向こうのカウンターで、興奮したようなベテラン探索者と、同じく興奮したような職員が向かい合っていた。
 辺りの喧騒がやみ、その会話に誰もが耳を傾ける。
「ああ。人間なのに探索者っていう格好をしていなくて、どういう事かと思って声をかけたら、魔人だと名乗りやがった」
「待てよ。ヒトも魔素を溜められるが、そういうヒトはそれを出す事ができる魔術師か、中毒を起こして倒れるかだ。魔獣みたいに、魔人になるなんて例はないぞ」
 俺は人をかき分けてその探索者に詰め寄って行った。俺は必死で、ただ、話しを聞かなくてはと、その一心だった。
 文句を言いかけた探索者も、それが俺だとわかると、口をつぐんだ。
「そいつはどんな奴だった!?ヘラヘラした奴か!?気真面目そうな奴か!?オドオドした奴か!?」
「なんだよ――あ、お前か。ああ、うん。
 妙にヘラヘラした奴で、『見つからなくてイライラしてるのに』って言って、無詠唱で物凄い炎を叩きつけて来やがった。それで、俺達が死んだと思ったのか、消えやがったよ。
 この通り、装備はいかれちまったが、耐火性能と直前に倒した火属性の魔獣の死体がまだ残ってたおかげで、そいつの下に潜り込んで助かった」
 頭の中で、ガンガンと音がするようだ。
「あいつだ。あの時の3人の魔人の1人」
 職員が、ボソリと言った。
「あの時、誰も信用しなくて無視してたけど、じゃあ、本当に厄災の劫火は、魔術実験の失敗じゃなく……」
 全員の目が、俺に向いている。
「だから言っただろ。真実だって」
 息を呑む音が響いた。
「そいつはどこにいたんだ。教えてくれ」
 その探索者は口ごもり、迷うように視線をさ迷わせ、それから俺を見た。
「言ったらどうするんだ?」
「決まってるだろう。そいつを殴って、両親を取り返す」
 目が丸くなる。
「無茶言うな!あれに敵うわけないだろう!?頭冷やせよ!」
「それでも、あれから初めての手がかりなんだよ!」
 言ったが、背後から誰かが拘束して来た。采真だ。
「落ち着け鳴海、な。飛び出すのは俺、考えるのはお前の役目だろうが。今突っ込んでも取り返せないだろ。準備して、それで2人で乗り込むべきだ。そうだろ?」
 頭ではそうだと分かっている。わかってはいるが、納得できない。
 じとっと采真を肩越しに見ると、ここの一番の腕利き探索者が、頭をぐりぐりと撫でて来た。
「まずは調査だ。挑む時は、お前もメンバーに入れてやるから、今はじっくり力を付けて待て」
 親父さんと呼ばれ、尊敬されているベテランだ。この人は最初から、俺をただの新人探索者としか扱わなかった。信用していい人だ。
「……わかりました。済みませんでした」
「ようしよしよし」
「だから、子ども扱いするみたいに頭撫でるの、やめてくれませんかね」
「俺からしたら18や19なんて子供だからな。うちの娘は21だし。いやあすまんかった!わはははは!」
 俺は毒気を抜かれたようになって、采真と、元のカウンターへ戻った。
「すまん、采真」
「気にすんなよ。誰だって、こうなるぜ」
「ああ。
 でも、やっぱりそうなんだな。迷宮の向こうは、魔人の世界とつながってる」
「ああ、そうだな」
 力が及ばない悔しさと、目指すべき場所が間違いなかったという安心感。俺は魔人目撃の報に、高揚した。

 一方世間も、大騒ぎになった。
 かつて「責任転嫁」「大嘘」「混乱のせい」などと言って、信じるに値せずと斬り捨てられていた俺の話が真実だとなると、世界にとって、またあの厄災が起こるのではないかという脅威となる。
 そして近くの者に限って言うと、当然の権利として俺にあたってきた連中は、どう振る舞えばいいのかと困っているようだ。
 結果、信用するという意見と勘違いという意見で真っ二つに割れていた。
 俺としては、そんな事はどうでもいい。今更謝られても困るし、興味もない。今は、どうやって強くなるのか、それだけが興味の対象だ。
「鳴海。焦るなよ」
「ああ」
「俺を置いて行くなよ、相棒」
 1人迷宮に忍び込んででも行きそうに見えたのだろうか。
 俺と采真は、拳を合わせた。




 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

【完結】伯爵の愛は狂い咲く

白雨 音
恋愛
十八歳になったアリシアは、兄の友人男爵子息のエリックに告白され、婚約した。 実家の商家を手伝い、友人にも恵まれ、アリシアの人生は充実し、順風満帆だった。 だが、町のカーニバルの夜、それを脅かす出来事が起こった。 仮面の男が「見つけた、エリーズ!」と、アリシアに熱く口付けたのだ! そこから、アリシアの運命の歯車は狂い始めていく。 両親からエリックとの婚約を解消し、年の離れた伯爵に嫁ぐ様に勧められてしまう。 「結婚は愛した人とします!」と抗うアリシアだが、運命は彼女を嘲笑い、 その渦に巻き込んでいくのだった… アリシアを恋人の生まれ変わりと信じる伯爵の執愛。 異世界恋愛、短編:本編(アリシア視点)前日譚(ユーグ視点) 《完結しました》

勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。

八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。 パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。 攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。 ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。 一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。 これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。 ※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。 ※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。 ※表紙はAIイラストを使用。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

渇いた世界に潤いの雨を

にゃんこう
歴史・時代
戦争後の悲しみと憎悪にまみれたショートストーリー。 ※この物語はフィクションであり、実在の人物及び団体とは 一切関係ありません。

処理中です...