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幽霊の正体
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それから、竜を目撃して様子を見に来た警察に説明し、警察を通して協会にも説明し、ようやく騒動にけりがついた。
虚偽の依頼に迷惑をこうむったが、違約金と竜の魔石や素材で、預金通帳的にはありがたかった。その上、小型だったとはいえ竜を2人で倒したので、「ドラゴンキラー」として名前が広まって、ランクも上がった。Aだ。
「協会からもこってり絞られた以外に、警察にも逮捕されたらしいな、村の皆」
采真が聞き込んできたらしく、そう言った。
結局お土産どころの話ではなく、理伊沙さんに芋けんぴも火山灰せっけんも買って来られなかった。
「ああ。キラー鳥の卵を盗んで密輸して、竜を呼ぶという危険な儀式を行い、しかもそれに当事者でない人間を当てたんだからな。
他の聖竜教信者にも、監視の目が付くらしいぞ」
「そうでないと困るよなあ。
さて。そろそろ寝るか」
俺は歯を磨きに行こうと洗面所へ行った。
そして、ギョッとする。
う、ううう……グスッ
初めて聞いた。これが「すすり泣く女」か。
俺は唇の前で人差し指を立てながら店舗部分に戻り、采真を手招きした。
「ん?」
采真は怪訝な表情を浮かべながらも付いて来て、その声を聞いて目を丸くした。
俺達は顔を見合わせて頷き合い、そこらを見た。勿論だが誰もいない。
次に俺は魔銃剣を持って来て、アンデッドなどを浄化する聖魔術を撃ってみた。
グスッ ヒック ウウウ
効いていない。というか、ここに何かいる気配がない。
俺達は廊下に出て、小声で話し合った。
「見えないやつか?」
「迷宮のやつじゃない、昔からいる幽霊って事か?あれ?この2つは違うのか?迷宮は見えるのに、何で昔からいる幽霊は見えないんだ、鳴海?」
「魔素、かな」
俺はすすり泣く女の声がここで今聞こえているという事よりも、そっちが気になって来た。
と、
グスッ グスッ
キュルキュルキュル
という音がした。
俺達は顔を見合わせた。
「今のキュルキュルって……」
「車椅子か?」
隣の柏木家で、理伊沙さんが泣いていたって事か?それがこの家に伝わって来て、「女のすすり泣き」という幽霊話になったのだろうか。
拍子抜けすると同時に、その原因に心当たりがあって、俺は気が重くなった。
今日、近所でマラソン大会があったのは知っている。きっと、ケガさえなければ、理伊沙さんだって……。
柏木家のある方の壁を見る俺に、采真が言う。
「お前のせいじゃねえよ。
はあ、寝ようぜ。明日は卒業式だぜ」
「ああ、そうだな」
俺はこの事を頭から追い出して、寝る事にした。
が、眠りが浅かったのか、明け方に目が醒めた。
もう寝られる気がしなくて、起き上がり、下に降りた。そして、洗面所へ行き、動きが止まった。
フッ ウッ ウウッ
俺は外に出た。
そして、そのまま表に出て、柏木家を覗く。
「あ……」
「フッ、ウッ、フウウ」
柏木が、庭で筋トレをしていた。
俺はそっと見つからないように家へ戻り、ドアを閉め、天井を見上げると、笑いがこみ上げて来た。
「プッ、ククク、苦しむ男のうめき声って」
爆笑したくなるのを堪えていると、采真が起きて来た。
そして、洗面所へ行ったかと思えば、飛び出して来る。
「采真、そうっと、柏木家の庭を覗いてみろ」
采真は変な顔をしながら外へ出て行き、それとは違う変な顔をしながら戻って来ると、ドアを閉め、笑い出した。
「幽霊の正体?うめき声をあげる男?」
「筋トレって、確かに苦しいけどな!」
「これにビビってたのか、今までの借主は?」
「わはははは!」
朝から大笑いだった。
虚偽の依頼に迷惑をこうむったが、違約金と竜の魔石や素材で、預金通帳的にはありがたかった。その上、小型だったとはいえ竜を2人で倒したので、「ドラゴンキラー」として名前が広まって、ランクも上がった。Aだ。
「協会からもこってり絞られた以外に、警察にも逮捕されたらしいな、村の皆」
采真が聞き込んできたらしく、そう言った。
結局お土産どころの話ではなく、理伊沙さんに芋けんぴも火山灰せっけんも買って来られなかった。
「ああ。キラー鳥の卵を盗んで密輸して、竜を呼ぶという危険な儀式を行い、しかもそれに当事者でない人間を当てたんだからな。
他の聖竜教信者にも、監視の目が付くらしいぞ」
「そうでないと困るよなあ。
さて。そろそろ寝るか」
俺は歯を磨きに行こうと洗面所へ行った。
そして、ギョッとする。
う、ううう……グスッ
初めて聞いた。これが「すすり泣く女」か。
俺は唇の前で人差し指を立てながら店舗部分に戻り、采真を手招きした。
「ん?」
采真は怪訝な表情を浮かべながらも付いて来て、その声を聞いて目を丸くした。
俺達は顔を見合わせて頷き合い、そこらを見た。勿論だが誰もいない。
次に俺は魔銃剣を持って来て、アンデッドなどを浄化する聖魔術を撃ってみた。
グスッ ヒック ウウウ
効いていない。というか、ここに何かいる気配がない。
俺達は廊下に出て、小声で話し合った。
「見えないやつか?」
「迷宮のやつじゃない、昔からいる幽霊って事か?あれ?この2つは違うのか?迷宮は見えるのに、何で昔からいる幽霊は見えないんだ、鳴海?」
「魔素、かな」
俺はすすり泣く女の声がここで今聞こえているという事よりも、そっちが気になって来た。
と、
グスッ グスッ
キュルキュルキュル
という音がした。
俺達は顔を見合わせた。
「今のキュルキュルって……」
「車椅子か?」
隣の柏木家で、理伊沙さんが泣いていたって事か?それがこの家に伝わって来て、「女のすすり泣き」という幽霊話になったのだろうか。
拍子抜けすると同時に、その原因に心当たりがあって、俺は気が重くなった。
今日、近所でマラソン大会があったのは知っている。きっと、ケガさえなければ、理伊沙さんだって……。
柏木家のある方の壁を見る俺に、采真が言う。
「お前のせいじゃねえよ。
はあ、寝ようぜ。明日は卒業式だぜ」
「ああ、そうだな」
俺はこの事を頭から追い出して、寝る事にした。
が、眠りが浅かったのか、明け方に目が醒めた。
もう寝られる気がしなくて、起き上がり、下に降りた。そして、洗面所へ行き、動きが止まった。
フッ ウッ ウウッ
俺は外に出た。
そして、そのまま表に出て、柏木家を覗く。
「あ……」
「フッ、ウッ、フウウ」
柏木が、庭で筋トレをしていた。
俺はそっと見つからないように家へ戻り、ドアを閉め、天井を見上げると、笑いがこみ上げて来た。
「プッ、ククク、苦しむ男のうめき声って」
爆笑したくなるのを堪えていると、采真が起きて来た。
そして、洗面所へ行ったかと思えば、飛び出して来る。
「采真、そうっと、柏木家の庭を覗いてみろ」
采真は変な顔をしながら外へ出て行き、それとは違う変な顔をしながら戻って来ると、ドアを閉め、笑い出した。
「幽霊の正体?うめき声をあげる男?」
「筋トレって、確かに苦しいけどな!」
「これにビビってたのか、今までの借主は?」
「わはははは!」
朝から大笑いだった。
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