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討伐依頼
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卒業式を待たずに引っ越し、足りないものを買いそろえて行く。大した量も高価なものもないにも関わらず、やはり何かと出費はかさんだ。
しかし采真のお母さんが家にあった不用品をこれでもかと譲ってくれたのは、とてもありがたかった。台所用品やせっけん、洗剤、タオル類、使わない食器や缶詰やジュース。これがなければ、貯金はもっと無くなって、おいそれと風邪もひけないところだ。
「電気、ガス、水道は引き落としの手続きをしたし、住所変更もしたし、こんなものか」
俺は「引っ越したら」という案内用のメモを見てチェックを入れながら言った。
「お隣さんには挨拶した方がいいって、お袋が言ってたぜ」
「そうだな。ただでさえ俺を敵視してる柏木さんだしな。どんなご近所トラブルが発生するかわからないしな」
俺と采真は相談して、貰ったものの中からゼリーの詰め合わせを選び、包装し直して隣の柏木家を訪れた。
ドアチャイムを鳴らすと、応答があった。
なので隣に越して来たので挨拶に来た旨を告げると、ややあって、ドアが開く。
「初めまして。柏木理伊沙です」
現れたのは、俺達と同年代くらいの、車椅子の女の子だった。
協会に行くと、まずは依頼票を見る。これで何か依頼を受ける事もあるし、これといったものがなければ、ただ迷宮に潜って討伐をするだけだ。
今は引っ越しで貯金がかなり減ったので、割のいい依頼があれば引き受けたい。
「理伊沙ちゃん、明るい子だったな」
采真が言う。
「ああ。俺を恨んでると思ってたけどな。追い返されるかと思ってた」
理伊沙さんが元は陸上のマラソン選手で、厄災の劫火で足をケガしたのが原因で歩けなくなった事は、柏木がよくしゃべっているので誰でも知っている。それで柏木が俺を目の敵にしている事も。
俺達が手土産を差し出してよろしくと言うと、彼女はにこにことしてそれを受け取り、俺達に上がって行けと勧め、3人でお茶とクッキーのおやつをした後でババ抜きをしていたら柏木が帰宅し、鬼のような形相の柏木と4人で7並べをする羽目になった。
柏木が妹に弱い事と、ポーカーフェイスが苦手な事がわかった。
「これどうだ?」
「魔獣討伐か。交通費、食事、宿泊場所付き。船で半日の島か。依頼料も悪くないな!」
采真が喜色を浮かべる。
「ただ、魔獣の種類が書いてないな」
「夜の間に畑を荒らしたりだろ?単純に、目撃されてないだけだぜ、きっと」
「まあな。やるか?」
俺達は窓口に行って、その依頼を受けたいと申し出た。
その翌朝、俺達は島へ向かった。フェリーがあるにはあるが、利用客が少ないため、小型な上、1日1便のみ。しかも直通便はなく、幾つかの島をまわって行くらしい。
海上は風がまだ冷たく、早春というよりはまだ冬だった。
それでも暇なので、時々デッキに出て風に当たったり、途中の島で降りていく人を見ていた。
目指す終点の島へ向かうのは、俺と采真、おじさんの3人だけになっていた。
「少ないなあ」
「火山活動のせいで島民が島を出て、残っている人が少ないそうだからな」
言っているうちに、噴煙のたなびく島が見えて来る。
「農産物もあまり育たないらしいし、島の周りで獲れる魚くらいしかないらしい。名産はさつま芋、特産品は火山灰の洗顔せっけんだって」
「じゃあ、理伊沙ちゃんのお土産は芋けんぴと火山灰せっけんにしようぜ!」
采真が元気に言うと、同じようにデッキに出ていたおじさんが笑った。
「君達、探索者かい?」
「はい!おじさんは?」
采真は、人見知りとか人怖じとかいうものには全く縁がない。
「運び屋だよ。あの島の住民の1人に、遺骨と遺品をね」
何でもどこへでも届けるというのが運び屋で、宅配便の個人事業みたいなものだ。
と、その顔が引き締まる。
俺達も同時に、それを見付けていた。
「鳥?」
「いや、大きすぎないか?」
空にポツンと現れたそれは、取り敢えず飛行機などではない、生物だった。翼をはためかせたり、止めて滑空したりしている。
が、鳥にしては、どうも大きい。その大きさで見えるなら、もっと近くなければおかしい。近くなら、顔などがもっとはっきりと見えるはずだ。
思ったよりも遠いのに、大きい。つまり、鳥よりもずっと大きい生物だ。
「……思い当たる生物は、アレしかないんだがな、采真」
「奇遇だな、鳴海。俺もアレを思い浮かべてた所なんだけどさ」
シルエットが大きくなって来る。間違いない。
「キラー鳥!」
俺達は武器を構えた。
しかし采真のお母さんが家にあった不用品をこれでもかと譲ってくれたのは、とてもありがたかった。台所用品やせっけん、洗剤、タオル類、使わない食器や缶詰やジュース。これがなければ、貯金はもっと無くなって、おいそれと風邪もひけないところだ。
「電気、ガス、水道は引き落としの手続きをしたし、住所変更もしたし、こんなものか」
俺は「引っ越したら」という案内用のメモを見てチェックを入れながら言った。
「お隣さんには挨拶した方がいいって、お袋が言ってたぜ」
「そうだな。ただでさえ俺を敵視してる柏木さんだしな。どんなご近所トラブルが発生するかわからないしな」
俺と采真は相談して、貰ったものの中からゼリーの詰め合わせを選び、包装し直して隣の柏木家を訪れた。
ドアチャイムを鳴らすと、応答があった。
なので隣に越して来たので挨拶に来た旨を告げると、ややあって、ドアが開く。
「初めまして。柏木理伊沙です」
現れたのは、俺達と同年代くらいの、車椅子の女の子だった。
協会に行くと、まずは依頼票を見る。これで何か依頼を受ける事もあるし、これといったものがなければ、ただ迷宮に潜って討伐をするだけだ。
今は引っ越しで貯金がかなり減ったので、割のいい依頼があれば引き受けたい。
「理伊沙ちゃん、明るい子だったな」
采真が言う。
「ああ。俺を恨んでると思ってたけどな。追い返されるかと思ってた」
理伊沙さんが元は陸上のマラソン選手で、厄災の劫火で足をケガしたのが原因で歩けなくなった事は、柏木がよくしゃべっているので誰でも知っている。それで柏木が俺を目の敵にしている事も。
俺達が手土産を差し出してよろしくと言うと、彼女はにこにことしてそれを受け取り、俺達に上がって行けと勧め、3人でお茶とクッキーのおやつをした後でババ抜きをしていたら柏木が帰宅し、鬼のような形相の柏木と4人で7並べをする羽目になった。
柏木が妹に弱い事と、ポーカーフェイスが苦手な事がわかった。
「これどうだ?」
「魔獣討伐か。交通費、食事、宿泊場所付き。船で半日の島か。依頼料も悪くないな!」
采真が喜色を浮かべる。
「ただ、魔獣の種類が書いてないな」
「夜の間に畑を荒らしたりだろ?単純に、目撃されてないだけだぜ、きっと」
「まあな。やるか?」
俺達は窓口に行って、その依頼を受けたいと申し出た。
その翌朝、俺達は島へ向かった。フェリーがあるにはあるが、利用客が少ないため、小型な上、1日1便のみ。しかも直通便はなく、幾つかの島をまわって行くらしい。
海上は風がまだ冷たく、早春というよりはまだ冬だった。
それでも暇なので、時々デッキに出て風に当たったり、途中の島で降りていく人を見ていた。
目指す終点の島へ向かうのは、俺と采真、おじさんの3人だけになっていた。
「少ないなあ」
「火山活動のせいで島民が島を出て、残っている人が少ないそうだからな」
言っているうちに、噴煙のたなびく島が見えて来る。
「農産物もあまり育たないらしいし、島の周りで獲れる魚くらいしかないらしい。名産はさつま芋、特産品は火山灰の洗顔せっけんだって」
「じゃあ、理伊沙ちゃんのお土産は芋けんぴと火山灰せっけんにしようぜ!」
采真が元気に言うと、同じようにデッキに出ていたおじさんが笑った。
「君達、探索者かい?」
「はい!おじさんは?」
采真は、人見知りとか人怖じとかいうものには全く縁がない。
「運び屋だよ。あの島の住民の1人に、遺骨と遺品をね」
何でもどこへでも届けるというのが運び屋で、宅配便の個人事業みたいなものだ。
と、その顔が引き締まる。
俺達も同時に、それを見付けていた。
「鳥?」
「いや、大きすぎないか?」
空にポツンと現れたそれは、取り敢えず飛行機などではない、生物だった。翼をはためかせたり、止めて滑空したりしている。
が、鳥にしては、どうも大きい。その大きさで見えるなら、もっと近くなければおかしい。近くなら、顔などがもっとはっきりと見えるはずだ。
思ったよりも遠いのに、大きい。つまり、鳥よりもずっと大きい生物だ。
「……思い当たる生物は、アレしかないんだがな、采真」
「奇遇だな、鳴海。俺もアレを思い浮かべてた所なんだけどさ」
シルエットが大きくなって来る。間違いない。
「キラー鳥!」
俺達は武器を構えた。
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