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お隣さん
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門のすぐ近くにそれはあった。右隣は一軒家で、左隣は駐車場、裏は門の壁だ。道路を挟んだ向かい側は武器屋や防具屋が並んでおり、海棠アームズからもそう遠くなかった。
1階が店舗とキッチンと風呂場とトイレ、2階に3部屋という造りで、キッチンにあった勝手口が使えないので、ドアは店舗があった所についているのを使う事になるようだ。
入ると、教室半分くらいの店舗スペースで、テーブルや椅子はなく、カウンターキッチンだけが店舗としての名残をとどめていた。
そのカウンター脇にドアがあり、開けると1畳程の靴脱ぎ場になっていて、その左手にはトイレ。靴脱ぎ場から上へ上がった右手には階段。正面には短い廊下があって、左手は洗面所と風呂場だった。右手が問題のキッチン。
なるほど、横にスライドするタイプのドアだが、開かない。力の強い采真が試しても、ドアの模様の壁の如く、ピクリともしなかった。
2階の部屋は全部和室で、広めのベランダ共々日当たりがいい。
全体に古くはあるが、水回りはリフォームされているし、問題は感じない。
例の瑕疵3点を除けば。
「どうですか」
俺達は店舗部分に戻って来ていた。
待ち合わせたオーナーは、ここで喫茶店を経営していた老夫婦の孫らしいが、思い入れも何も無く、厄介な遺産としか思っていないらしい。腕時計をチラッとみている。
「お願いします」
「買い取りしてくれるなら、20万でいいですよ」
「20万!?」
采真が素っ頓狂な声を上げる。1年住むなら買った方が安い。よほど、持て余しているようだ。
「借り手も付かないし、こうして出張のついででもない限り来ないし、それでも固定資産税はかかるし。今回借り手が付いても、そのうち寄付でもして手放す事になるでしょうからね。20万でもましです」
俺は、通帳に記載された額を思い出した。
「買います」
高校生で、家を買ってしまった。
書類を作り、俺はその場で20万円下ろして来て払い、それでオーナーはホッとしたのだろう。
「近くにあの『厄災の劫火の爆心地』があって、昔はそこらの人にもここの常連客がいたんだろうなあ。それでここのおかしな事はその人達のせいってことで、ネットの事故物件サイトに載ってるよ」
後から言い出した。
そして、上機嫌で帰って行った。
不動産屋も帰り、俺と采真が残された。
「まじか、鳴海」
「ああ。キッチンが無くとも困らない。店舗にもついてるしな。声も別に我慢できるだろ。布団に入って来られたり、ヒットマンに襲われる事に比べたら、どうって事はない」
俺は言いながら、何を揃えなくてはならないのか考えていた。
采真は考えていたが、ニカッと笑って言った。
「俺もここに住みたい!家賃払うぞ!」
「え?安いからいいよ。光熱費とかだけ折半で」
「OK!」
俺達はああでもないこうでもないとインテリアについて言いながら、外に出て鍵をかけた。
その時、声が聞こえた。
「え。何でお前らが」
揃ってそちらを見ると、隣の家に入ろうとしている男がいた。
柏木伊織だった。
「え。柏木伊織――さん」
俺達3人はしばらく黙ってお互いを見ていた。
「……今度この家に越して来る事になりました、霜村です。よろしくお願いします」
「音無です。よろしくお願いします」
「マジか……はあ。柏木です。
妹がいるが、手を出すなよ」
そう言って柏木は俺達を睨むと、中へ入って行った。
「隣が柏木さんか。ご近所付き合い、大丈夫かな」
「引っ越しそば配らないとな、鳴海」
ワクワクしていたのにいきなり不安になりながらも、とにかく俺は、退所後の寝床を確保してホッとしていた。
1階が店舗とキッチンと風呂場とトイレ、2階に3部屋という造りで、キッチンにあった勝手口が使えないので、ドアは店舗があった所についているのを使う事になるようだ。
入ると、教室半分くらいの店舗スペースで、テーブルや椅子はなく、カウンターキッチンだけが店舗としての名残をとどめていた。
そのカウンター脇にドアがあり、開けると1畳程の靴脱ぎ場になっていて、その左手にはトイレ。靴脱ぎ場から上へ上がった右手には階段。正面には短い廊下があって、左手は洗面所と風呂場だった。右手が問題のキッチン。
なるほど、横にスライドするタイプのドアだが、開かない。力の強い采真が試しても、ドアの模様の壁の如く、ピクリともしなかった。
2階の部屋は全部和室で、広めのベランダ共々日当たりがいい。
全体に古くはあるが、水回りはリフォームされているし、問題は感じない。
例の瑕疵3点を除けば。
「どうですか」
俺達は店舗部分に戻って来ていた。
待ち合わせたオーナーは、ここで喫茶店を経営していた老夫婦の孫らしいが、思い入れも何も無く、厄介な遺産としか思っていないらしい。腕時計をチラッとみている。
「お願いします」
「買い取りしてくれるなら、20万でいいですよ」
「20万!?」
采真が素っ頓狂な声を上げる。1年住むなら買った方が安い。よほど、持て余しているようだ。
「借り手も付かないし、こうして出張のついででもない限り来ないし、それでも固定資産税はかかるし。今回借り手が付いても、そのうち寄付でもして手放す事になるでしょうからね。20万でもましです」
俺は、通帳に記載された額を思い出した。
「買います」
高校生で、家を買ってしまった。
書類を作り、俺はその場で20万円下ろして来て払い、それでオーナーはホッとしたのだろう。
「近くにあの『厄災の劫火の爆心地』があって、昔はそこらの人にもここの常連客がいたんだろうなあ。それでここのおかしな事はその人達のせいってことで、ネットの事故物件サイトに載ってるよ」
後から言い出した。
そして、上機嫌で帰って行った。
不動産屋も帰り、俺と采真が残された。
「まじか、鳴海」
「ああ。キッチンが無くとも困らない。店舗にもついてるしな。声も別に我慢できるだろ。布団に入って来られたり、ヒットマンに襲われる事に比べたら、どうって事はない」
俺は言いながら、何を揃えなくてはならないのか考えていた。
采真は考えていたが、ニカッと笑って言った。
「俺もここに住みたい!家賃払うぞ!」
「え?安いからいいよ。光熱費とかだけ折半で」
「OK!」
俺達はああでもないこうでもないとインテリアについて言いながら、外に出て鍵をかけた。
その時、声が聞こえた。
「え。何でお前らが」
揃ってそちらを見ると、隣の家に入ろうとしている男がいた。
柏木伊織だった。
「え。柏木伊織――さん」
俺達3人はしばらく黙ってお互いを見ていた。
「……今度この家に越して来る事になりました、霜村です。よろしくお願いします」
「音無です。よろしくお願いします」
「マジか……はあ。柏木です。
妹がいるが、手を出すなよ」
そう言って柏木は俺達を睨むと、中へ入って行った。
「隣が柏木さんか。ご近所付き合い、大丈夫かな」
「引っ越しそば配らないとな、鳴海」
ワクワクしていたのにいきなり不安になりながらも、とにかく俺は、退所後の寝床を確保してホッとしていた。
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