オーバーゲート

JUN

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鉢合わせ

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 倒れていても、うめき声を上げている人はまだ生きている。しかし、亡くなっている人もいた。
「イレギュラー個体は!?ああ、鳴海と采真か。じゃあ、片付いたんだな」
 職員がホッとした顔をする。
「はい。8階下の熊の亜種でした」
 言いながら、生きている人、いない人を分けて行く。
「西村?」
 采真の声がしてそちらを見ると、ケガをした探索者の中に西村がいた。軽傷らしく、仲間の重傷っぽい女と男のそばにいる。
「何で、霜村と音無が……え?探索者なのか?」
 采真はヘヘヘと笑った。
「剣道部は探索禁止だったからなあ。引退した後も言えなくて」
 西村はワナワナと震えるように、俺達を見ていた。
「ええっと、西村の仲間は?柏木さんのチームって言ってたけど」
 采真に訊かれ、半ば上の空で答えた。
「ある程度基礎ができたから、新人は低階層に潜って、柏木さん達はもっと奥に……」
「ふうん。この2人か。お仲間さんはちょっと酷いケガしちゃったな」
 それで我に返ったらしい。
「何でお前があれを倒せたんだ?おかしいだろ」
 それに、ベテランの探索者が吹き出すように笑った。
「おかしいも何も、強いんだから」
「だって、魔術を使ってたじゃないか。魔術士はあんな風に戦えないだろ!?おかしいじゃないか!何か汚い事をしてるんだろ!」
「努力とアイデア?」
 俺も、全てを明かす気はない。
 ベテラン探索者は溜め息をついた。
「ああ、お前、柏木の所の若い奴か。だったら色眼鏡で見るか。
 あのな。汚い事ってのは、誰かを盾にして逃げるとかそういう事を言うんだぜ」
 ギクリとしたように、西村の顔が強張った。
「じゃあな」
 采真があっさりと言って、俺達はそこを離れる事にした。
 探索者の多くは、強いか弱いか、信用できるかできないかだ。俺が誰か知っても、親は親として切り離してくれる人が比較的多い。
 柏木伊織は特別で、俺を目の敵にしている。
 西村が柏木教信者なら、何を言っても無駄だ。
「お前は悪魔だって聞いた。それで、わざとイレギュラー個体をこんな所に出して、被害を出したんだ。
 それか、そうだ。魔獣化したんだ。そうに決まってる。魔獣なら討伐しないと」
 背後で西村がブツブツ言っている。
「大丈夫か、あいつ」
 采真が薄気味悪そうに言う。
「あいつも突然の事で混乱してるんだろ。放っておこう、面倒臭いから」
「面倒臭いが本音だろ、鳴海」
 俺達はそこを離れようとして、気が付いた。西村が静かになっている事に。
 そして、何となく振り返った。
「ん?」
「死ねぇ!!」
「ええっ!?」
 西村が渾身の魔術を放って来た。
 周囲も全員が凍り付く。
 俺はすぐに魔銃剣を西村に向け、撃った。
 盾が展開され、それに西村の放った雷が阻まれ、バチバチと火花を散らす。
「詠唱してやがった!」
 采真が驚いた声を上げ、周囲の新人達が悲鳴を上げる。そしてベテランは、西村を即抑え込んだ。
「殺人未遂だぞ、わかってるんだろうな!?」
 ベテランと協会職員が厳しい声をかけるが、西村は抑え込まれてもなお、叫んでいる。
「魔獣に違いない!俺は悪くない!」
「いい加減にしろ!ヒトが魔獣化した話は聞いてない!」
 そして、今度は震えて泣き出した。
「警察に連絡しよう。未成年でも、人に魔術をぶっ放して殺そうとするなんて」
 俺は嘆息して、西村を見た。
「混乱してるんでしょうし、今回だけは」
 采真も他の皆も、俺を見る。
「いいのか?殺されかけたんだぞ?」
「柏木さんに報告して、洗脳じみた悪評のせいだと抗議しておいてください」
 協会職員は頷いた。
「わかった。柏木さんは私怨をどうにかするべきだな。伝えておこう」
 それで俺と采真は、今度こそそこを後にした。
「で、本音は?」
「面倒臭いだろ。普段の関係から何から調べられて。それに未成年探索者が未成年探索者を魔術で殺しかけて、その片方が俺って、マスコミが喜ぶだけだろ」
「ああ、まあなあ」
「だったら、柏木さんがこれで少しは洗脳みたいに俺の悪口をチームのメンバーに言うの、やめてくれればいいなあ、と」
 俺は言って、苦笑した。
 期待するほどじゃあないだろうがな。
 采真は笑って俺の肩を叩いた。
「苦労するな、お前も!」
 俺は黙って肩を竦め、迷宮の外に出た。



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