オーバーゲート

JUN

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イレギュラー

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 放課後、俺と采真は迷宮にいた。そう。俺達はコンビを組んで、探索者をしていた。采真がクラブ活動をしている間、顧問が探索禁止の方針を取っていた事から、俺達は周りに知られないように活動してきた。今はもうクラブを引退しているが、わざわざ言う程の事でもないので、相変わらず周囲には言っていない。
「今日も快調だな!鳴海!」
 剣でイノシシのような魔獣を一刀両断にして、采真が笑う。
「ああ。明日はそろそろ、もう1階下へ進むか」
 俺も魔銃剣で首を落としてそう答える。
 采真の武器は剣だ。剣道部員には使い慣れたものだ。
 そして俺のは、魔銃剣だ。
 形としては、細長い銃剣と言えばわかりやすいか。
 そもそも魔術というものは、魔素に魔式を付与したものである。そして地球人は元から魔術を使用していたわけでも、全てのヒトが使用できるものでもない。その個体差によって、魔素をためて任意に出せる人とためられない人がいるらしい。その、ためて出せる人が魔術師だ。
 そして魔術を行使するには、2つのやり方がある。
 詠唱という決まり切った手順で、決まり切った結果を出すというやり方。これのメリットは、詠唱さえ間違わず、そして魔素が不足していなければ、間違いなく発現できると言う事だろう。しかしデメリットは、時間がかかる事と、何をしようとしているか相手にも丸わかりになるという事だろう。
 もうひとつは、イメージだ。強くイメージして魔素に刻み込めばいい。これのメリットは、相手に手の内を晒さずにいられるという事だろう。しかしデメリットは、途中で何かに気を取られたりすると失敗して不発になるという事だ。
 どっちもどっち。そのせいで、魔術は気配を探る時や最初の一発といった風に使われるだけで、魔獣との戦闘に使うのは難しいとされている。
 俺の魔銃剣はそれを解決できる代物だ。
 銃身には切り替えレバーがついていて、いくつかの魔式をここに登録しておき、魔素を送り込んで引き金を引くだけで、その魔式が刻み込まれ、発現するというものだ。俺は、火、風、水、氷、盾、治癒、光を登録している。フリーのスロットを使えば、登録外の魔式もその場で刻める。
 そして、魔素を普段から溜めて銃弾のように溜めておけば、魔素切れも防げる。
 俺は随分前から、父の研究に協力して魔素を出す、魔術を行使するという事を繰り返して来たので、魔素切れを数限りなく起こし、おかげで、人よりも魔素量の多い体質になっている。それでも万が一に備え、魔素を籠めた弾を携帯している。
 そして先には刃が付いているので、魔術を使わない時は、槍として使用するのだ。
 魔獣は死ぬと魔石を残して消えるので、その魔石を探索者協会に提出して買い取ってもらう。その買取金額と依頼を受けた時の金額から、探索者はランクを付けられている。
 俺達は魔石を拾い集め、戻る事にした。
「西村、子牛くらいの魔獣なら平気だって言ってたなあ」
 采真が辺りを警戒しながらもそう言った。
「ああ。という事は、Dくらいか?」
「だろうな」
 俺達はSからEまでのランクの、Bだ。18歳の誕生日からこっちでここまで上がったのはなかなか優秀だと、以前窓口で言われた。

 5階まで戻って来た時だった。殺気立った探索者、悲鳴を上げている探索者でごった返していた。
「何だ?」
 何事かと辺りを見回すと、近くにいた若い探索者が腕を掴んで来た。
「下から来たって事は高位探索者ですよね!?助けてください!」
「どうしたんです?」
「何かもっと強い魔獣が出て、手に追えなくて、どんどんやられていくんです!救助要請はしに行ったんですけど、間に合わない!」
 俺と采真は顔を合わせた。
 迷宮に出る魔獣は、大体どのくらいのものがどの階層に出るのか決まっていて、それでランクによっての立ち入り制限が設けられている。
「何が出たんだ?」
 采真が言いながら、2人で廊下の向こうを覗いてみた。
 ここよりも8階層程度は下の熊に似た魔獣の亜種がいた。硬く、ちょこまかと素早くて、攻撃力が大きい、そんな奴だ。
 この辺りまでしか無理な、新人より多少慣れた程度の探索者では敵わないのは確実だ。現に、バタバタと探索者達がそこかしこに倒れていた。
「鳴海!」
「仕方ないな。引き離しつつ倒す。俺が気を引くから、首を狙え」
「了解!」
 采真は嬉しそうに笑い、俺は魔銃剣を構えた。
 そして、倒れた探索者に食らいつこうとしているそれの顔面に火の魔術を叩き込んだ。
「ギャウ!?」
 それは鬱陶しそうに鳴いて辺りを見回し、俺は采真と反対方向に回りながら、その胸元にもう1発叩き込む。
「ほら、こっちだぞ」
 言いながら下がり、その俺をヤツが追って来る。単純なヤツらしい。
 横殴りに腕を振る予兆が見えたので、接近して鼻っ面を銃剣で傷つける。
「ウオオオオオ!!」
 怒り狂うとはこの事だろう。目を充血させて、もう俺以外は目に入らない様子で、鼻息も荒く追って来る。
 その低く下げられた頭に采真が死角から接近し、首に剣の連撃を叩き込んだ。
「ギャアア!?」
「こっちがお留守だな」
 俺は采真の方を向いたヤツの横顔に火を叩き込む。それでヤツは今度は俺の方へ注意を向ける。
 その隙に、采真が首を再度狙う。
「ギャアア!ギャウ!」
 そしてその傷口を、風の魔術で広げる。
 ヤツは棒立ちになると、恨めしそうな目を俺達に向け、ドオンと横倒しになった。そのはずみで頭部が千切れ飛び、大きめの魔石を残してヤツは消えた。
「イレギュラーか」
「まあ、荷が重いよな」
 言いながら魔石を拾った時、知らせを受けて、職員と、その場にいたベテラン探索者が駆けつけて来た。





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