1 / 89
厄災の日
しおりを挟む
焼けるように胸が痛い。肋骨が折れているようだ。
そして、そこら中が熱い。それは家も研究室も、何もかもが燃えているせいだ。
「ニンゲンなんて弱いもんだなあ。チェッ、つまんない」
俺を蹴り飛ばしたそいつが、俺を覗き込んで言った。みかけは子供のようだし、表情も軽いのに、恐ろしく強いやつだ。
「そりゃあ、俺達魔人とは違って、魔力を持たないのが元々だというからな。体の強化だってできないだろう」
そう答えたのは、真面目な感じの男だ。とはいえ、襲って来た犯人の1人だが。
「もう帰ろうよ。このニンゲンを連れて行けばいいんだろ?」
おどおどしたように最後の1人が言う。
この3人がいきなりうちを襲い、辺り一帯が、大爆発を起こしたようにはじけ、天を真っ赤に染めて炎が燃え盛っていた。後に、『厄災の劫火』とも呼ばれるようになる。
「離……せ……」
俺の絞り出した声は、届いたらしい。
「あれえ?生きてたよ!ねえ、殺していい?どうせ連れて行っても死ぬでしょ?いいよね。あとどのくらい遊べるかな」
子供っぽいのが言うと、真面目そうなのが舌打ちし、父と母が絶望的な声を上げる。
「やめてくれ!大人しくついて行くから、息子は助けてくれ!」
「ふうん?人質として優良?」
「わ、私が行きます!だから十分でしょう!?」
俺はぼやける目で彼らを睨み、両親を見た。
「やめろ……!」
彼らは詰まらなさそうに俺を見、真面目そうなのが、
「これ以上いても仕方がない。行くぞ」
と言って仲間を急かし、両親を連れて、踵を返した。
「待て……!父さん、母さ……ん……!」
揺れる炎の向こうに彼らが消えていく。
俺は初めて、心からの絶望を知り、心から力を望んだ。
目の前に、薄汚れた天井があった。
俺は知らず入っていた力を抜いて、布団の上に起き上がり、溜め息をついた。
あの日の悪夢を見るのは珍しい事ではない。繰り返し、繰り返し、夢は罪を突きつけるかのように俺の脳裏に現れては、弱さをあざ笑う。
あの出来事は、父親の研究していた人工魔力実験の暴走事故とされている。そのせいで、多くに人が犠牲になり、両親は行方不明――と言いつつ、死体も残らないほどに焼き尽くされたとされている。
それまでは世界有数の魔導研究者だった父は、一夜にして、大災害の責任者、大罪人となったのだ。そして生き残った俺は養護施設に入る事になり、この5年間、大罪人の子として、たくさんの人に恨まれつつ生きて来た。
でも俺は諦めていない。いつか汚名をそそぎ、両親を取り戻してやる――!
そして、そこら中が熱い。それは家も研究室も、何もかもが燃えているせいだ。
「ニンゲンなんて弱いもんだなあ。チェッ、つまんない」
俺を蹴り飛ばしたそいつが、俺を覗き込んで言った。みかけは子供のようだし、表情も軽いのに、恐ろしく強いやつだ。
「そりゃあ、俺達魔人とは違って、魔力を持たないのが元々だというからな。体の強化だってできないだろう」
そう答えたのは、真面目な感じの男だ。とはいえ、襲って来た犯人の1人だが。
「もう帰ろうよ。このニンゲンを連れて行けばいいんだろ?」
おどおどしたように最後の1人が言う。
この3人がいきなりうちを襲い、辺り一帯が、大爆発を起こしたようにはじけ、天を真っ赤に染めて炎が燃え盛っていた。後に、『厄災の劫火』とも呼ばれるようになる。
「離……せ……」
俺の絞り出した声は、届いたらしい。
「あれえ?生きてたよ!ねえ、殺していい?どうせ連れて行っても死ぬでしょ?いいよね。あとどのくらい遊べるかな」
子供っぽいのが言うと、真面目そうなのが舌打ちし、父と母が絶望的な声を上げる。
「やめてくれ!大人しくついて行くから、息子は助けてくれ!」
「ふうん?人質として優良?」
「わ、私が行きます!だから十分でしょう!?」
俺はぼやける目で彼らを睨み、両親を見た。
「やめろ……!」
彼らは詰まらなさそうに俺を見、真面目そうなのが、
「これ以上いても仕方がない。行くぞ」
と言って仲間を急かし、両親を連れて、踵を返した。
「待て……!父さん、母さ……ん……!」
揺れる炎の向こうに彼らが消えていく。
俺は初めて、心からの絶望を知り、心から力を望んだ。
目の前に、薄汚れた天井があった。
俺は知らず入っていた力を抜いて、布団の上に起き上がり、溜め息をついた。
あの日の悪夢を見るのは珍しい事ではない。繰り返し、繰り返し、夢は罪を突きつけるかのように俺の脳裏に現れては、弱さをあざ笑う。
あの出来事は、父親の研究していた人工魔力実験の暴走事故とされている。そのせいで、多くに人が犠牲になり、両親は行方不明――と言いつつ、死体も残らないほどに焼き尽くされたとされている。
それまでは世界有数の魔導研究者だった父は、一夜にして、大災害の責任者、大罪人となったのだ。そして生き残った俺は養護施設に入る事になり、この5年間、大罪人の子として、たくさんの人に恨まれつつ生きて来た。
でも俺は諦めていない。いつか汚名をそそぎ、両親を取り戻してやる――!
1
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
ひっそり静かに生きていきたい 神様に同情されて異世界へ。頼みの綱はアイテムボックス
於田縫紀
ファンタジー
雨宿りで立ち寄った神社の神様に境遇を同情され、私は異世界へと転移。
場所は山の中で周囲に村等の気配はない。あるのは木と草と崖、土と空気だけ。でもこれでいい。私は他人が怖いから。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
後宮の棘
香月みまり
キャラ文芸
蔑ろにされ婚期をのがした25歳皇女がついに輿入り!相手は敵国の禁軍将軍。冷めた姫vs堅物男のチグハグな夫婦は帝国内の騒乱に巻き込まれていく。
☆完結しました☆
スピンオフ「孤児が皇后陛下と呼ばれるまで」の進捗と合わせて番外編を不定期に公開していきます。
第13回ファンタジー大賞特別賞受賞!
ありがとうございました!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です
sai
ファンタジー
公爵令嬢であるオレリア・アールグレーンは魔力が多く魔法が得意な者が多い公爵家に産まれたが、魔法が一切使えなかった。
そんな中婚約者である第二王子に婚約破棄をされた衝撃で、前世で公爵家を興した伝説の魔法使いだったということを思い出す。
冤罪で国外追放になったけど、もしかしてこれだけ魔法が使えれば楽勝じゃない?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~
土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。
しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。
そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。
両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。
女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
異世界薬剤師 ~緑の髪の子~
小狸日
ファンタジー
この世界では、緑の髪は災いを招く「呪いの子」と呼ばれていた。
緑の髪の子が生まれる時、災害が起きると言われている。
緑の髪の子は本当に災いを招くのだろうか・・・
緑の髪の子に隠された真実とは・・・
剣と魔法の世界で、拓は謎に立ち向かう。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる