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星空は人を感傷的にさせる

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 真矢と菜子は、夜空を見上げていた。
「よう、死んだら『お星さまになる』言うやん。あれ、何でやろなあ、真矢」
「さあ。でも昔の庶民とかにしたら、空の星やったら、どこにおっても祈れるやん。仏壇とかなくても」
「太陽とかはあかんの?」
「太陽は神さんみたいで恐れ多いやろ。それに眩しいし。雲は形が変わり過ぎるし、まあ、星が手頃やったんちゃうかな」
「成程なあ」
 しばし、2人で星を眺める。
「そう言えば、葬式、終わったんやろな」
「そやなあ。こっち来て、そこそこなるしな」
「どんなんやったんやろ。泣いた人、おるかな」
「どうやろ。あの職場の人って、遺体は見慣れてるしな」
「まあな。でも、雰囲気に流されて泣く人っておるやん」
「おるおる。卒業式とかやろ」
「中学校の時とか、大方同じ高校行くし、引っ越すわけでもないねんから問題ないやん」
「手紙でも電話でも連絡取れるしな」
「おまけに、2日後には映画行く約束もしてるねんで」
「思い出とかを思い出して、感傷的になるんかな」
「真矢はならんな」
「菜子もならんやろ」
「ならんわ。多少なっても、泣くほどやないわ。
 あれ、雰囲気に酔ってるんやで。可愛い女の子アピールやで」
「それは言い過ぎかとも思うけど、まあ、さりげなく男子のおるとこで泣いとったな、確かに」
「そやろ。だから、それができん私らはもてへんかってん」
「まあそれだけやないやろけどな。そういう可愛げのなさは、確かにな」
 反省するように、溜め息をついて、ずずずーっと飲み物を啜った。
「中学の思い出かあ。
 そう言えば、1年の時の調理実習で、卵を入れたケースを全部倒して割った業者がおってん。そのせいで、オムライス、卵抜きやった。がっかりや」
「それ、ただのチキンライスやん。
 ああ、そうや。集会で、もの凄い教頭先生が怒ってはった時、かつらがずれていくんが気になって、全校生徒が緊張して注目や」
「それは、ププッ、笑うな。泣かれへん」
「な、笑うやろ」
「私らの葬式かあ」
「まあ、真面目に仕事はしとったで」
「したした。
 あ、思い出した。最後の仕事。週明けに結果をまとめて提出するつもりで、内容をまとめとったんやけど、自分にだけわかるような書き方でメモしとったわ。あれ、完全に暗号やな。ダイイングメッセージか。誰か、分析やり直しや」
「私も思い出してもうた。借りたまんまの辞書とか本とか、机に入れてんねん。食べかけのチョコレートも一緒やから、早よう出さな、えらい事になってるで」
「まずいやん」
「あかんわ」
「私らの葬式って、同僚、泣かへんな」
「怒ってるわ」
 真矢と菜子は確信し、大きな溜め息をついた。
「どうしたの」
 通りかかったロレインが声をかける。
「いや、大したことないねん」
「星空って、人を感傷的にするよなあ」
「お、詩人だねえ」
 3人で、夜空を見上げたのだった。





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