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ココア
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風の音が、相変わらず酷い。
赤ワイン煮、ステーキ、ハンバーグ、肉団子入りスープ。鹿肉も食べきり、また、食料がなくなった。救助も来ないし、天気も回復しない。それで、黒川先輩と草津先輩のイライラが、酷くなってきたのだ。
「クソッ」
草津先輩が薪を投げつけるようにストーブに入れ、火の粉がパッと舞い上がった。
それに僕と翔子はビクッと体を縮める。
僕の熱もようやく下がり、起きられるようになった。これで僕も何か手伝いを、と思ったのだが、不器用で、あまり役には立てそうにない。
明るいムードメーカーである草津先輩がイライラとした様子を隠さず、いつも理知的でクールな黒川先輩もそれを咎めもせずに不機嫌な空気を醸し出し、空気は最悪である。
ただただ、僕と翔子は、小さくなっているだけだった。
「何とかしないと、な」
「ああ。まずいよな」
黒川先輩と草津先輩は低い声で言い、翔子はブルッと体を震わせた。
薪までもが、少なくなってきた。
「いつまでこの寒波は続くんだよ!せめて吹雪さえやんでくれれば……!」
草津先輩はぎらついた目でテーブルを蹴り、ソファのクッションを投げた。
「暴れても仕方ないだろう。カロリーを消費するだけだぞ」
黒川先輩は冷静にそう言うが、窪んだ目は狂気を孕んだようにぎらつき、インテリ然とした雰囲気は消し飛んでいる。
「おい、黒川。狩猟に出るしかないんじゃないか」
草津先輩が言うと、翔子は体をビクリと強張らせ、黒川先輩は考え込んだ。そして、窓の外を見、溜め息をついて、口を開いた。
「そうだな。天候の回復は、まだ望めそうもないしな」
そして、2人揃ってこちらを向く。
「そう思わないか」
「……」
気圧されて、何も言えない。
「あ、あの……狩猟も、危ないんじゃ……」
何とか僕が言うと、草津先輩は瞬きをしないでじっと僕を見ながら、
「大丈夫。罠とか、手はあるし」
と、口元だけで笑って見せた。
ストーブの炎が作り出す影が独特の陰影を作り出して、草津先輩を恐ろしいもののように見せる。
「そうですね」
翔子が、僕の隣で決然と言った。
「翔子?」
「健太君、心配しないで」
翔子は僕に笑いかけ、立ち上がった。
「ココアか何か飲みませんか。私、淹れて来ます」
「手伝うよ」
「いいから、座ってて。このくらい、1人で十分よ」
そう言って、1人でキッチンに立つ。
何の会話も無く3人で待っていると、トレイにココアを4つ乗せて、翔子が戻って来た。
「さあ、どうぞ」
差し出されたトレイから、1つずつカップを取る。
そして、同時に口を付けた。
どのくらいしたのだろう。いつの間にか僕は寝ていたらしい。
「痛つ……」
「どうした、山代」
「黒川先輩。何か、頭がちょっと痛くて」
「風邪が治り切っていないんだろう。ゆっくりしておけ」
黒川先輩は、心なしか、穏やかに見えた。
「はい。すみません。
草津先輩は?狩猟に行ったんですか?」
「ああ」
「そうですか。僕がお手伝いする事はありませんか」
「ん、今のところはいいよ。無理するな」
「はい」
そこで、姿の見えない翔子が、いつまでも帰って来ない事に気付いた。
「あの」
「ああ、有馬か?有馬なら、さっき出て行ったよ。自分が様子を見に行くって」
「翔子が!?」
「ああ。別府は部長という責任感からだったが、有馬は本来、一番スキーも上手いしな」
「まあ、そう、ですけど……」
僕は、言い知れぬ不安を感じていた。
吹雪という怪物が、恐ろしかった。
赤ワイン煮、ステーキ、ハンバーグ、肉団子入りスープ。鹿肉も食べきり、また、食料がなくなった。救助も来ないし、天気も回復しない。それで、黒川先輩と草津先輩のイライラが、酷くなってきたのだ。
「クソッ」
草津先輩が薪を投げつけるようにストーブに入れ、火の粉がパッと舞い上がった。
それに僕と翔子はビクッと体を縮める。
僕の熱もようやく下がり、起きられるようになった。これで僕も何か手伝いを、と思ったのだが、不器用で、あまり役には立てそうにない。
明るいムードメーカーである草津先輩がイライラとした様子を隠さず、いつも理知的でクールな黒川先輩もそれを咎めもせずに不機嫌な空気を醸し出し、空気は最悪である。
ただただ、僕と翔子は、小さくなっているだけだった。
「何とかしないと、な」
「ああ。まずいよな」
黒川先輩と草津先輩は低い声で言い、翔子はブルッと体を震わせた。
薪までもが、少なくなってきた。
「いつまでこの寒波は続くんだよ!せめて吹雪さえやんでくれれば……!」
草津先輩はぎらついた目でテーブルを蹴り、ソファのクッションを投げた。
「暴れても仕方ないだろう。カロリーを消費するだけだぞ」
黒川先輩は冷静にそう言うが、窪んだ目は狂気を孕んだようにぎらつき、インテリ然とした雰囲気は消し飛んでいる。
「おい、黒川。狩猟に出るしかないんじゃないか」
草津先輩が言うと、翔子は体をビクリと強張らせ、黒川先輩は考え込んだ。そして、窓の外を見、溜め息をついて、口を開いた。
「そうだな。天候の回復は、まだ望めそうもないしな」
そして、2人揃ってこちらを向く。
「そう思わないか」
「……」
気圧されて、何も言えない。
「あ、あの……狩猟も、危ないんじゃ……」
何とか僕が言うと、草津先輩は瞬きをしないでじっと僕を見ながら、
「大丈夫。罠とか、手はあるし」
と、口元だけで笑って見せた。
ストーブの炎が作り出す影が独特の陰影を作り出して、草津先輩を恐ろしいもののように見せる。
「そうですね」
翔子が、僕の隣で決然と言った。
「翔子?」
「健太君、心配しないで」
翔子は僕に笑いかけ、立ち上がった。
「ココアか何か飲みませんか。私、淹れて来ます」
「手伝うよ」
「いいから、座ってて。このくらい、1人で十分よ」
そう言って、1人でキッチンに立つ。
何の会話も無く3人で待っていると、トレイにココアを4つ乗せて、翔子が戻って来た。
「さあ、どうぞ」
差し出されたトレイから、1つずつカップを取る。
そして、同時に口を付けた。
どのくらいしたのだろう。いつの間にか僕は寝ていたらしい。
「痛つ……」
「どうした、山代」
「黒川先輩。何か、頭がちょっと痛くて」
「風邪が治り切っていないんだろう。ゆっくりしておけ」
黒川先輩は、心なしか、穏やかに見えた。
「はい。すみません。
草津先輩は?狩猟に行ったんですか?」
「ああ」
「そうですか。僕がお手伝いする事はありませんか」
「ん、今のところはいいよ。無理するな」
「はい」
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「翔子が!?」
「ああ。別府は部長という責任感からだったが、有馬は本来、一番スキーも上手いしな」
「まあ、そう、ですけど……」
僕は、言い知れぬ不安を感じていた。
吹雪という怪物が、恐ろしかった。
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