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神々の狂宴(5)
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隠しておいた車に何とか乗り込み、宇宙港との連絡橋を封鎖している教団兵士のバリケードを内側から破り、宇宙港へひた走る。前しか警戒していないバリケードなど、反対側から見れば張りぼてと同じだ。
「お、怒られませんか」
「まあ、褒められはしないな」
氷室が幸子にあっさりと言った。
「気にしたら負けだよ、幸子」
伊丹の方が、既に慣れてしまっている。
「どいてどいてどいてー」
車を行けるところまで進め、事情を聴きに来ようとする警察を無視して、加賀の先導で宇宙船に駆け込む。
「これを一応読んでおいて。まあ、操縦方法そのものはそう変わりない筈だけど」
氷室は樹里にポイッとマニュアルを渡して、忙しく、管制官とやり取りを始める。
「だから、緊急なんですって。ミサイルをどうにかしないと。今どこもしてないから、離陸できるでしょう。許可下さい。地球が火の海になりますよ。
は?軍が?
止めるための専用コードがいるらしいんです。それをそっちにコピーして送ってる時間、ないだろうが」
言いながら、どんどん手順を進める。
「砂田、代わってくれ」
氷室に言われて砂田はそこに座り、氷室は樹里をまず更衣室に、次いで格納庫に連れて行った。
そこに、優美な鳥がいた。イシュタルだ。
マニュアルと現物とを突き合わせて読み込んでいく間に、氷室が、スターターをオンにし、電源コードを外す。
「どう」
「わかります」
「テスト飛行の為に来たから、大した武装はないんだ。避けて、辿り着く事に集中して。俺が降りて、入力する」
「わかりました」
振動が伝わり出し、氷室は、本来1人乗りのイシュタルに無理やり便乗し、離陸に備える。
どう離陸許可をもぎ取ったのか、宇宙船は離陸の手順に入る。指定されたターミナルへ進み、言わばバスケットのようなものに入る。それを港側が加速させて撃ち出し、バスケットから放り出された船がその勢いを利用して大気圏を離脱する。今では他のやり方もあるが、ここの宇宙港はこの方式である。
後ろに押し付けられるような加速の後、いきなり前方に放り出される感覚があり、次いで、自船の推進力で前進して行くのが分かる。
その内に重力がフワッと変わると、砂田から通信がつながる。
「いけそうですか」
「はい、そうですね」
「スピードとか反応はモビルコンバットの機体よりもシビアだから、そこだけ気を付けて」
加賀が割り込む。
「わかりました」
「キャンセルデータは、発射台に直接アクセスするところがあるはずですから」
今度は幸子が割り込み、氷室が答える。
「わかった」
エレベータが作動して機体が船側面に押し出される。向こうにミサイルをぶら下げたような衛星があった。
「これ以上近付くと無人機が出て来るらしいから、こいつはここまでだ。何の武装も無いんでな」
自機の武装をチェックすると、機関砲が300発使えるらしい他、人型形態で、その機関砲が共有される他、電磁ナイフが2本使えそうだ。
「いつでもどうぞ」
「では、行ってくれ。5、4、3、2、1、0」
加速され、前方に射出される。ミサイル台の防衛機能が反応して、ゾロゾロと、お掃除ロボのようなものを吐き出すのが見えた。
操縦桿をわずかに傾けると、機体が傾いた。これくらいで、こう、という感覚をつかむ。スラスター、ブレーキを同様にチェックし、クセを確認。
成程。これは、反応がいい。これでモビルコンバットをやれば、もっと面白い事になっただろうに。
「前方、敵機多数」
合成音が注意を促す。
「あの台座部分に取り付いてくれ」
氷室が言って、樹里は武装を機関砲にセット、フットバーを踏んで、レティクルにお掃除ロボを捉えた。
機関砲を、軽くタッチするようにして発射。軽くテールを振ってやれば、後続のお掃除ロボも一斉射でかなり減る。そこからパタンとロールをうって敵の攻撃をいなし、相手の機動を先読みして虚空に機関砲を撃ち、そこへお掃除ロボが吸い寄せられるように移動して行って、爆散。自分からやられに行っているようにしか見えないのが、先読みの上手さ故だ。
お掃除ロボを減らしつつミサイル発射台に辿り着くと、ピタリと発射台を真後ろに捉える位置で止まり、お掃除ロボの攻撃を牽制しつつ、キャノピーを開けて氷室を下ろす。
氷室は、配電盤のようにも見える所に取り付いて作業を始めた。
その時、広域通信が入った。合わせてみると教祖だ。
「なぜ、わからない。これが神の意志だと。戦闘機のパイロット、答えよ」
樹里は鼻で笑って、通信を返した。
「神様は間に合ってる。私は死神。仲間は、疫病神、貧乏神、破壊神がいる」
お掃除ロボが位置を変えて、攻撃を加えようとしてくる。ずっとミサイル発射台を背後にしていれば、発射台に当たる事を恐れて、向こうは攻撃してこられない。
こちらからは撃てるので、細かく機体の向きを変えてお掃除ロボを攻撃し、減らしていく。
だが、機関砲は軽くひと押ししても恐ろしく弾数を消費するものだ。残数が心もとない。
向こうもいい具合に減り、多方向から囲んで攻撃すればいいと学習したらしい。
「氷室さん、後で迎えに来ます」
言って、人型に変形とやらをしてみる。
結論としては、自分ではどうなったのかわからなかったので、誰かがしているところを見たいと思った。
体を捻る事で向きを変え、一気に接近してナイフで仕留める。
後は、もう、反応の良さを確かめるように、色々な機動を試し、落とす。いつの間にか、楽しくて笑っていた。そして気付いたら、敵がいなくなっていた。
「お待たせしました」
「おお、こっちも終わった。帰るか」
氷室を乗せて、船に戻る。
そのくらいでやっと、宇宙軍が到着する。
操縦室に戻りながら、氷室が思い出した。
「国際法上、一般人の戦闘行為は禁止だったな」
「じゃあ、トラストに現地採用されてた事にしておけばいいんじゃないですか」
「それでいいな」
加賀がのらりくらりと米軍相手に所属やら何やらを説明している間に、急いで、日付をさかのぼらせた契約書を全員分作成する。伊丹と幸子は保護した一般人扱いだ。
「全員の身分証を出せ」
「わかりました。
とは言え、新人の4人は、テロ騒ぎで大使館も閉鎖していたので、仮入社証しかありませんけど」
と、堂々とそう言い張る。
「事実関係を調べるためにも、事情をこっちで聞きたいのだがな」
「そう言われても」
じっくりと調べられたら、嘘がばれそうだ。偽の入社証なんて。
背中を冷や汗が流れる。
「戦闘行為かあ」
「思いっきりやりましたわね」
「それを見られてますね」
「ごまかせないな」
「やばいで」
コソコソと4人で話していると、もうひとつ、通信で割り込みがあった。
「トラストの本橋砂羽と申します。うちの社員に、何か」
氷室と加賀が、一気に肩の力を抜く。
小声で砂田が、
「これで大丈夫だよ。本橋部長ならうまく丸め込むから」
えらい信用をされている人だ、と、皆で、近付いて来るトラストの社章の入った船を見ていた。
それでそのまま入社、国籍も変更したのだが、その部分については、言うわけにはいかない。
「まあ、えらい採用試験になったんだな」
鳴海は騙された。
「何で自衛軍は嫌だったんだよ」
「米軍の下請けみたいだったからかな」
「じゃあ米軍は?話は来てただろう」
「もっといや」
「それで、トラストか」
「・・入ってみて、性に合ってる気がするし」
「そうか。日本人をこういう形でも守りたいと、俺は思ったし、お前も思ってると思ってたんだけどなあ」
「守り方は、ひとつじゃない」
「まあなあ」
コーヒーも無くなり、搭乗時間も近付いたらしい。
「また、会えるといいな。じゃ、元気で」
「そっちも」
一応アドレスは交換して席を立つ。
そのアドレスを使う事は無いだろうと、なんとなく思った。
「お、怒られませんか」
「まあ、褒められはしないな」
氷室が幸子にあっさりと言った。
「気にしたら負けだよ、幸子」
伊丹の方が、既に慣れてしまっている。
「どいてどいてどいてー」
車を行けるところまで進め、事情を聴きに来ようとする警察を無視して、加賀の先導で宇宙船に駆け込む。
「これを一応読んでおいて。まあ、操縦方法そのものはそう変わりない筈だけど」
氷室は樹里にポイッとマニュアルを渡して、忙しく、管制官とやり取りを始める。
「だから、緊急なんですって。ミサイルをどうにかしないと。今どこもしてないから、離陸できるでしょう。許可下さい。地球が火の海になりますよ。
は?軍が?
止めるための専用コードがいるらしいんです。それをそっちにコピーして送ってる時間、ないだろうが」
言いながら、どんどん手順を進める。
「砂田、代わってくれ」
氷室に言われて砂田はそこに座り、氷室は樹里をまず更衣室に、次いで格納庫に連れて行った。
そこに、優美な鳥がいた。イシュタルだ。
マニュアルと現物とを突き合わせて読み込んでいく間に、氷室が、スターターをオンにし、電源コードを外す。
「どう」
「わかります」
「テスト飛行の為に来たから、大した武装はないんだ。避けて、辿り着く事に集中して。俺が降りて、入力する」
「わかりました」
振動が伝わり出し、氷室は、本来1人乗りのイシュタルに無理やり便乗し、離陸に備える。
どう離陸許可をもぎ取ったのか、宇宙船は離陸の手順に入る。指定されたターミナルへ進み、言わばバスケットのようなものに入る。それを港側が加速させて撃ち出し、バスケットから放り出された船がその勢いを利用して大気圏を離脱する。今では他のやり方もあるが、ここの宇宙港はこの方式である。
後ろに押し付けられるような加速の後、いきなり前方に放り出される感覚があり、次いで、自船の推進力で前進して行くのが分かる。
その内に重力がフワッと変わると、砂田から通信がつながる。
「いけそうですか」
「はい、そうですね」
「スピードとか反応はモビルコンバットの機体よりもシビアだから、そこだけ気を付けて」
加賀が割り込む。
「わかりました」
「キャンセルデータは、発射台に直接アクセスするところがあるはずですから」
今度は幸子が割り込み、氷室が答える。
「わかった」
エレベータが作動して機体が船側面に押し出される。向こうにミサイルをぶら下げたような衛星があった。
「これ以上近付くと無人機が出て来るらしいから、こいつはここまでだ。何の武装も無いんでな」
自機の武装をチェックすると、機関砲が300発使えるらしい他、人型形態で、その機関砲が共有される他、電磁ナイフが2本使えそうだ。
「いつでもどうぞ」
「では、行ってくれ。5、4、3、2、1、0」
加速され、前方に射出される。ミサイル台の防衛機能が反応して、ゾロゾロと、お掃除ロボのようなものを吐き出すのが見えた。
操縦桿をわずかに傾けると、機体が傾いた。これくらいで、こう、という感覚をつかむ。スラスター、ブレーキを同様にチェックし、クセを確認。
成程。これは、反応がいい。これでモビルコンバットをやれば、もっと面白い事になっただろうに。
「前方、敵機多数」
合成音が注意を促す。
「あの台座部分に取り付いてくれ」
氷室が言って、樹里は武装を機関砲にセット、フットバーを踏んで、レティクルにお掃除ロボを捉えた。
機関砲を、軽くタッチするようにして発射。軽くテールを振ってやれば、後続のお掃除ロボも一斉射でかなり減る。そこからパタンとロールをうって敵の攻撃をいなし、相手の機動を先読みして虚空に機関砲を撃ち、そこへお掃除ロボが吸い寄せられるように移動して行って、爆散。自分からやられに行っているようにしか見えないのが、先読みの上手さ故だ。
お掃除ロボを減らしつつミサイル発射台に辿り着くと、ピタリと発射台を真後ろに捉える位置で止まり、お掃除ロボの攻撃を牽制しつつ、キャノピーを開けて氷室を下ろす。
氷室は、配電盤のようにも見える所に取り付いて作業を始めた。
その時、広域通信が入った。合わせてみると教祖だ。
「なぜ、わからない。これが神の意志だと。戦闘機のパイロット、答えよ」
樹里は鼻で笑って、通信を返した。
「神様は間に合ってる。私は死神。仲間は、疫病神、貧乏神、破壊神がいる」
お掃除ロボが位置を変えて、攻撃を加えようとしてくる。ずっとミサイル発射台を背後にしていれば、発射台に当たる事を恐れて、向こうは攻撃してこられない。
こちらからは撃てるので、細かく機体の向きを変えてお掃除ロボを攻撃し、減らしていく。
だが、機関砲は軽くひと押ししても恐ろしく弾数を消費するものだ。残数が心もとない。
向こうもいい具合に減り、多方向から囲んで攻撃すればいいと学習したらしい。
「氷室さん、後で迎えに来ます」
言って、人型に変形とやらをしてみる。
結論としては、自分ではどうなったのかわからなかったので、誰かがしているところを見たいと思った。
体を捻る事で向きを変え、一気に接近してナイフで仕留める。
後は、もう、反応の良さを確かめるように、色々な機動を試し、落とす。いつの間にか、楽しくて笑っていた。そして気付いたら、敵がいなくなっていた。
「お待たせしました」
「おお、こっちも終わった。帰るか」
氷室を乗せて、船に戻る。
そのくらいでやっと、宇宙軍が到着する。
操縦室に戻りながら、氷室が思い出した。
「国際法上、一般人の戦闘行為は禁止だったな」
「じゃあ、トラストに現地採用されてた事にしておけばいいんじゃないですか」
「それでいいな」
加賀がのらりくらりと米軍相手に所属やら何やらを説明している間に、急いで、日付をさかのぼらせた契約書を全員分作成する。伊丹と幸子は保護した一般人扱いだ。
「全員の身分証を出せ」
「わかりました。
とは言え、新人の4人は、テロ騒ぎで大使館も閉鎖していたので、仮入社証しかありませんけど」
と、堂々とそう言い張る。
「事実関係を調べるためにも、事情をこっちで聞きたいのだがな」
「そう言われても」
じっくりと調べられたら、嘘がばれそうだ。偽の入社証なんて。
背中を冷や汗が流れる。
「戦闘行為かあ」
「思いっきりやりましたわね」
「それを見られてますね」
「ごまかせないな」
「やばいで」
コソコソと4人で話していると、もうひとつ、通信で割り込みがあった。
「トラストの本橋砂羽と申します。うちの社員に、何か」
氷室と加賀が、一気に肩の力を抜く。
小声で砂田が、
「これで大丈夫だよ。本橋部長ならうまく丸め込むから」
えらい信用をされている人だ、と、皆で、近付いて来るトラストの社章の入った船を見ていた。
それでそのまま入社、国籍も変更したのだが、その部分については、言うわけにはいかない。
「まあ、えらい採用試験になったんだな」
鳴海は騙された。
「何で自衛軍は嫌だったんだよ」
「米軍の下請けみたいだったからかな」
「じゃあ米軍は?話は来てただろう」
「もっといや」
「それで、トラストか」
「・・入ってみて、性に合ってる気がするし」
「そうか。日本人をこういう形でも守りたいと、俺は思ったし、お前も思ってると思ってたんだけどなあ」
「守り方は、ひとつじゃない」
「まあなあ」
コーヒーも無くなり、搭乗時間も近付いたらしい。
「また、会えるといいな。じゃ、元気で」
「そっちも」
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