青い石

JUN

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クジ

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「教会へ?」
 集められた子供達とその家族は、村長の説明を待った。
「そうだ。各村から、13歳から15歳の子供を1人、教会の奉仕員に差し出すようにというお触れだ」
 それに村人たちは顔を見合わせた。
「奉仕員?何をするのかしら」
「神に一生お仕えするらしい」
 村長の答えに、別の村人が訊く。
「お仕えって、修道士とかじゃないのか?」
 それに村長は、どこかぎこちない笑みを浮かべた。
「特別な係らしくて、俗世には戻れないとか聞いた」
 それで、子供達も親達も顔を曇らせた。
「志願者はいないか」
 この村には該当する子供は5人いるが、誰も手を挙げる者はいない。
 村長もそれがわかっていたようで、5本の麦わらを差し出した。
「この中の1本に赤い糸を付けてある。それを引いたものが、行くという事にしよう」
 ごくりと皆が、唾を飲む。
「まあ、仕方ないな」
「それが公平だよな」
 言いながら、親達は我が子の肩をギュッと掴んで、それを引かないようにと願う。
 スレイの姉も、スレイの肩を痛いほどに掴んだ。
「じゃあ、順番に」
 村長の言葉に、スッと村長の息子が腕を上げ、村人が待ったをかけた。
「待った。
 村長さんを疑うわけじゃねえけど、やっぱり、村長さんの息子は最後だろ」
 強張った顔で言うのに、村長とその息子は、視線を揺らした。それで皆、村長は息子に、「当たり」の麦わらの特徴を教え込んでいたのだと察した。
「いや、それは――」
「もしくは、全く関係ない人間に作ってもらうか、じゃんけんで決めるとか」
 親も必死だ。
「……わかった」
 村長も折れないわけにはいかなくなった。
 それに、考えもある。
(うちが引くとは限らないし、引いたとしても、金でも村八分でもチラつかせて、どうにかして押し付けりゃあいい)
 そして、運命のくじ引きが始まった。
 1人ずつ、握りこまれた麦藁の端をつまむ。
「いくぞ」
 村長は言って、掌を開く。
 誰もが、自分の、自分の子供の引いた麦藁の先を確認する。
「ない!」
「ないよ!」
「よかったぁ」
「なかった」
「……」
 真っ青になっているのは、村長親子だった。

 その夜、スレイは家で、家族と食事を摂っていた。
 去年村に熊が出て、スレイの父親は襲われて大ケガをしてしまった。なので今は、母親と姉とスレイで農作業をどうにかこうにかやっている。
「奉仕員?聞いた事がないわね」
 母親も首を傾げた。
「しかも、俗世に戻れないなんて……。厳しい修行中の修道士でも、手紙は出せるし、届けを受理して貰えれば家に戻れるっていうのに」
 父親もそう言って考え込む。
「でしょう?何なのかしら」
 姉も首を傾げるのに、スレイが具の少ないスープをすくいながら言う。
「それって、何かの秘密を知ったらもう帰れないとかそういう事かな」
 両親も姉も顔色を悪くし、そして、
「スレイが当たらなくてよかった」
「村長さんのところには気の毒だったが、まあ、公平なクジだしね」
と、ほっとしながらも、気の毒そうな顔になった。

 翌朝、スレイは畑で雑草取りをしていた。
(あんまり出来は良くないな。今年の税、どうしよう)
 スレイは14なので、成人は来年だ。だから税金は、両親と姉の3人分という事になる。しかしこれでは、1人分がせいぜいだ。
(父さんが作った木彫りの置物やコースター、母さんのレース編みが目いっぱい売れたとしても、きついな。
 でも、僕が森に入っても、獲物を獲れるとは思えないし)
 溜め息が出る。
 そんなスレイに、控えめに声がかけられた。
「スレイ。ちょっといいか」
 村長だった。
「あ、村長さん」
「スレイに頼みがあってな」
 スレイは、村長の頼みがわかるような気がした。




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