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自覚(4)ひしゃげたケーキ
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簡単に事情を話し、無事に寮へ戻って来たピヨと皆瀬は、あった事を部屋長に報告した。
ケーキは大慌てで買いに戻ったが、指定の種類は売り切れていた。パンフレットは何とか真っすぐに伸ばし、セロハンテープで補修するか買い直すしかなさそうだが、買い直す場合、この近辺の映画館では上映は今日までなので、再び指令外出になるのだろうか。
香田は黙って報告を聞くと、怒るでもなく、静かに口を開いた。
「で、どうだったの」
ピヨは、少し考えてから答えた。
「はい。これまで、似合わない髪形と制服で外出するのが恥ずかしかったんですけど、この制服を見て安心してくれる人がいるという事に気づきました。この制服を着ている事の、自衛官としての自覚を、もっとしっかりと持つべきだったと思いました」
「そう。
皆瀬は」
「はい。夢中で何とかなったとはいえ、先輩達だったらもっとスマートに抑えられたと思います。これから一層、どんな課業にも努力します」
神妙にそう答えた。
「そう。まあいいでしょう」
ホッとしながらも、一応確認はしておく。
「それで、パンフレットとケーキなんですけど……」
「これはかわいい部屋っ子の記念に取っておくことにするかな」
香田はそう言ってパンフレットをベッドに置き、ケーキの箱を開ける。
「見事に横倒しかあ」
笑い、
「さあ、皆で食べよう」
と言うと、テーブルに部屋の皆が集まって来る。
「見事にへしゃげて」
「このくらいはまあありでしょ」
「柔剣道も、しっかりしごかれて来なさいよね」
「座学も寝ちゃだめよ」
「あ、そのいちごはここのでしょ。こっちに載ってない」
などと言いながら、テーブルを囲み、ジュースを用意する。
「じゃあ、ピヨと皆瀬の初の指令外出に」
「かんぱーい」
ピヨは、この潰れたケーキを、一生忘れないだろうと思った。
ケーキは大慌てで買いに戻ったが、指定の種類は売り切れていた。パンフレットは何とか真っすぐに伸ばし、セロハンテープで補修するか買い直すしかなさそうだが、買い直す場合、この近辺の映画館では上映は今日までなので、再び指令外出になるのだろうか。
香田は黙って報告を聞くと、怒るでもなく、静かに口を開いた。
「で、どうだったの」
ピヨは、少し考えてから答えた。
「はい。これまで、似合わない髪形と制服で外出するのが恥ずかしかったんですけど、この制服を見て安心してくれる人がいるという事に気づきました。この制服を着ている事の、自衛官としての自覚を、もっとしっかりと持つべきだったと思いました」
「そう。
皆瀬は」
「はい。夢中で何とかなったとはいえ、先輩達だったらもっとスマートに抑えられたと思います。これから一層、どんな課業にも努力します」
神妙にそう答えた。
「そう。まあいいでしょう」
ホッとしながらも、一応確認はしておく。
「それで、パンフレットとケーキなんですけど……」
「これはかわいい部屋っ子の記念に取っておくことにするかな」
香田はそう言ってパンフレットをベッドに置き、ケーキの箱を開ける。
「見事に横倒しかあ」
笑い、
「さあ、皆で食べよう」
と言うと、テーブルに部屋の皆が集まって来る。
「見事にへしゃげて」
「このくらいはまあありでしょ」
「柔剣道も、しっかりしごかれて来なさいよね」
「座学も寝ちゃだめよ」
「あ、そのいちごはここのでしょ。こっちに載ってない」
などと言いながら、テーブルを囲み、ジュースを用意する。
「じゃあ、ピヨと皆瀬の初の指令外出に」
「かんぱーい」
ピヨは、この潰れたケーキを、一生忘れないだろうと思った。
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