防大女子!前へ進め!

JUN

文字の大きさ
上 下
17 / 18

自覚(3)立ち回り

しおりを挟む
 防大の制服に、似合っているとも言い切れないベリーショートの2人は、目立つ。やや気恥ずかしい気はするが、皆瀬と走り回っているうちにピヨも気にならなくなってきた。
 映画を見てパンフレットを買い、移動。この1ヶ月ですっかり早食いの大食らいに慣れて来ているので、昼食も素早い。そそくさと済ませて次へ向かう。
「指令外出というのを実際にするのは初めてだけど、楽しくなってきたね!」
 皆瀬が笑い、ピヨも笑って頷いた。
「そうね。部屋長のお金で遊ばせてもらってるようなもんだしね」
 呑気ではあるが、背筋も伸びている。
 指定の場所を回り、写真を撮ったり買い物をしたりと忙しいが、どうにか指定の店で書いてあるケーキを手に入れた時には、これであとは帰るだけというのが、惜しい気がしたほどだ。
 まあ、もっと無茶な指令外出が存在するという話は聞くが、この調子だと眉唾だと2人は思っている。真実を知るのは、まだ先の話である。
「美味しそうね、これ」
「流石に高かったのに、部屋の人数分で本当に良かったのかな?」
 ピヨはビクビクしていた。
「いいんじゃないの?そう言ってたし、部屋長が」
「そうねえ。値段も知ってるしね」
 高校生のお小遣いの感覚が抜けきれない1年生は、ビクビクするか、反対に散財しようとするかだ。
 急いで駅に向かっていると、その騒ぎに気付いた。何人かが、もめているらしい男女の様子を窺って、足を止めていた。
「どうかしたのかな?」
 首を傾げながら近付いて行くと、2人の声が聞こえて来た。
「来いって言ってるだろ」
 男が言うのに、怯えながら女が言う。
「い、嫌。もう、別れたじゃない。関係ないじゃない!」
「黙れ!認めないって言ってんだろ!?」
「ヒッ!」
 素早く目を見交わす。
(警察を呼んだ方がいいんじゃない?)
(交番は──)
 ターミナルの周囲を目で探す。
 が、悲鳴が聞こえて、男女に目を戻した。男がナイフを抜いていた。
「言う事を大人しく聴いてればいいって言ってんだろ。何でわからないんだ?ああ?話し合いをしよう。来い」
 女は助けを求めるような目を周囲に向けた。
 周囲の野次馬も、「誰が行く?」という目を向ける。
 それらの目が、ピヨと皆瀬で止まった。
「駅員さん?警備員さん?」
 防大の制服だとは知らない人も少なくはないが、対抗できそうな何かの人だとはわかるものらしい。
 助けてという声にならない声が、ピヨと皆瀬に届く。
(ど、どうしょう!?そんな訓練はしてないけど!?)
(でも、ここで逃げるわけにはいかないでしょ、皆瀬!)
(だからってどうすんのよピヨ!?)
 ピヨと皆瀬は、勢いだけで飛び出した。
「おお、おとなしくしなさい!」
 男はギョッとしたようにピヨと皆瀬を見た。何かわからないが、ヤバイのではないかと思ったようだ。
 が、若い女の子2人だという事に気付くと、冷静になった。
「関係ない人間は引っ込んでてくださいよね。あんたたち何。警察でもないでしょ」
「ぼ、防大女子よ!」
「助けを求めている人を守るのが仕事です!」
 一応は、体術の授業も受けてはいる。
「てやああ!」
 皆瀬がパンフレットを丸めたもので攻撃にかかった。ピヨは女を背後に庇うように前に立とうと動く。
「女が!」
 男はナイフを振りかぶった。それをパンフレットで奇蹟的に弾く。
 それが今の自分達では精一杯だと、皆瀬にもピヨにも自覚はあった。
 が、ピヨは加勢しようとし、ずるりと足元が滑った。
「あ」
 が、奇蹟が起こる。男のむこうずねにピヨのキックが入る形になったのだ。
「ぎゃ!」
 上体が無防備に泳ぐのを見て、皆瀬はすかさず攻撃に転じた。ナイフを叩き落し、ピヨと2人で、圧し掛かるようにして抑えつける。
「け、警察を呼んでください!早く!」
 言った時には、誰かが交番に知らせたらしく、制服警官が走って来るのが見えた。
 警官にまだ喚く男を引き渡し、ホッとすると、周囲から拍手が起こった。
「ありがとうございました!」
 女が泣きながら頭を下げるのに、
「い、いえ!そんな!」
「ケガがなくてよかったです!」
と言いつつ、今の無様な立ち回りが恥ずかしくなる。
「防大の学生さんですね」
 警官が言うのに、反射的に気を付けで敬礼し、所属と名前を述べる。
「制服を見て、助かったって。ありがとうございました。本当に」
 女はしゃくりあげながら笑う。
 ピヨは笑い、
「いえ。無事で何よりでし……無事?あ!?」
「ケーキ!」
 ケーキの入った箱は足元で横倒しになり、パンフレットはざっくりと切れ目が入っていた。
「指令外出のケーキ!パンフレット!」
「部屋長に怒られる!?」
 ピヨと皆瀬の声が上がる。
 これを上級生に見られていたら、「防大生は常に紳士、淑女たれ。常に恥ずかしくない行動を」という理念に反したとして、腕立て伏せを命じられるに違いなかった。





 
しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

山田がふりむくその前に。

おんきゅう
青春
花井美里 16歳 読書の好きな陰キャ、ごくありふれた田舎の高校に通う。今日も朝から私の前の席の山田がドカっと勢いよく席に座る。山田がコチラをふりむくその前に、私は覚悟を決める。

スカートなんて履きたくない

もちっぱち
青春
齋藤咲夜(さいとうさや)は、坂本翼(さかもとつばさ)と一緒に 高校の文化祭を楽しんでいた。 イケメン男子っぽい女子の同級生の悠(はるか)との関係が友達よりさらにどんどん近づくハラハラドキドキのストーリーになっています。 女友達との関係が主として描いてます。 百合小説です ガールズラブが苦手な方は ご遠慮ください 表紙イラスト:ノノメ様

読書のすすめ

たかまちゆう
青春
図書委員である宮本さんのところへ、ある日クラスメイトの吉見さんが頼み事をしにきた。 学年一の秀才、羽村君に好かれるため、賢くなれそうな本を教えてほしい、と。 苦手なタイプの子だなと思いつつ、吉見さんの熱意に押されて応援し始める宮本さんだったが――。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

坊主女子:友情短編集

S.H.L
青春
短編集です

俺たちの共同学園生活

雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。 2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。 しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。 そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。 蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

処理中です...