13 / 18
重さ(2)伝説の射手
しおりを挟む
授業では、銃の分解・結合が始まった。
毛布を机の上に広げ、分解していった部品を順番通りに並べる。
「何の工具も無しに分解も結合もできる構造なんだぜ。凄いよな」
男子学生がワクワクした顔で言っている。
「慣れた者は分解・結合に10分もかからないぞ」
教官が言って、全員が
「ええーっ!?」
と驚愕の声をあげた。
ピヨも、分解するのだけで30分だ。
おまけに、細かい部品も多く、どうにも難しい。プラモデルに挑戦した事もあったが、きちんと出来上がらず、二度とするものかと決意した。
(クッ。まさかここで、プラモデル以上の緊張を強いられるとは……!)
プルプルと震える指で一番小さい部品を摘まみ上げ、決まった位置に……位置に……。
「何でちゃんとはまらないのぉ!」
泣き言が出た。
待望の射撃訓練も始まった。数人ずつ的に向かい、指導員がつきっきりで見てくれる。
まずは伏射という基本姿勢だが、上官が手本を見せる。
25メートル先の目標に対して立つところから、何度も命令を復唱しながら安全を確認して、ようやく撃つ。
テレビとは違う大きな音が、厚いコンクリートに覆われた射撃場に響き渡り、僅かにこだまする。
思わず耳を押さえたり、肩をびくりと揺らす者もいた。
虫取り網を持つ人がいてなんだろうと思っていたが、その網で、排出される薬きょうをキャッチするのだった。
何だかそれも、ピヨにとっては音と同じくらいにショックだった。
そうして改めて説明を受け、いよいよ本番だ。
数人ずつ、まずは的を前に横1列に並ぶ。1人につき、指導員の上官が2人つく。1人は右側で虫取り網を持ち、1人は後ろで赤い旗を持っている。
「射手、銃を置け」「射手、銃をとれ」「目標正面の敵」「伏射」「姿勢点検始め」
それらにいちいち復唱しながら進めていくが、手順が進むごとに緊張が増す。
伏射の姿勢になる。が、どうにもしっくりこない気がする。足の幅はこれくらいか?肘の位置は?微調整して、位置を決め、構える。それを、指導員がつきっきりで確認する。
「補助者弾倉準備」
それに復唱して弾倉をセットするが、モタモタとして、先程の手本のようには程遠い。
「射手安全装置、弾倉弾込め」
チェンバーに弾薬を装填し、構えた。
「零点規制、時間制限なし」に復唱すると、いよいよ動悸が激しくなる。
「右方用意」「左用意」で左右の安全を指導員が確認する。
「射撃用意」
これを復唱する声は、上ずりそうだ。肩はガチガチで、指も引き攣りそうになっている。
「撃て」
淡々と上官が言うのに復唱し、更によく狙って、引き金を引いた。
ドーンという音も大きいが、衝撃が伝わり、体中に響いた気がした。
が、ここで不思議な事が起きた。
「あれ?今確かに撃ったのに?」
ピヨは思わず、目の前の的を見る目を凝らしながら言った。
と、隣の学生についていた指導員が言った。
「ん?何で2発?」
皆が反射的にそこを見た。25メートル先の的の中心に、キチンと当たった者はいないが、まず、白い余白のどこかに弾痕がある。
しかし、ピヨのものはまっさらで、隣のものには2つも穴があった。真ん中と端っこだ。
「まさか……」
誰かが呟き、ピヨを見た。
「へ?わ。はわわ。私、ですか?」
「だろうな」
信じがたい外れ具合に、突っ込みにくいという顔付きで誰もが余計な事を言わない。
その後、修正に入るのだが。
「ええっと、クリック修正してみようか」
ピヨ以外の者につく指導員が言う。照門を回し、微調整するのだ。左へ修正する時は手前に回す。これで除き窓の位置を変えて合わせるのだ。
「ああ、ピヨはもう一度。引き金を引くときに力を入れ過ぎてるのかも」
「あ、はい!」
一射ごとに当たった所に印をつけた紙を見ながら指導を受けるのだが、ピヨは当たりどころ以前の酷さだ。
「呼吸は深すぎても止め過ぎてもだめだぞ」
「はい」
「あ」
反対隣の的の真ん中に命中した。
「まさか、照準の合わせ方を間違っては……」
指導員が言うのに、ピヨは憤然と答える。
「流石にわかっていますよ」
「何で隣の的の真ん中に当たるんだろうな。それはそれで器用なんだけど」
困り果てたように指導員が唸るが、ピヨは泣きたくなった。
もう一度と言われて、よく、じっくりと狙う。そして引き金にかけた指を絞ると。
ガアン、という音に続いて、隣の的に着弾した。
「ある意味すげえな、ピヨ」
背後がざわつき、指導員が溜め息をついた。
「ピヨ。引き金を引く瞬間、目をつぶってるぞ」
「え!?まさか!?」
ピヨはそう言いながらよく思い出してみた。
「そう言えば、目をつぶってるかも……」
「ゴーグルをしてみるか?とにかく、目を開けてろ。危ないだろう」
「はい」
語り草になる、伝説の初射撃だった。
毛布を机の上に広げ、分解していった部品を順番通りに並べる。
「何の工具も無しに分解も結合もできる構造なんだぜ。凄いよな」
男子学生がワクワクした顔で言っている。
「慣れた者は分解・結合に10分もかからないぞ」
教官が言って、全員が
「ええーっ!?」
と驚愕の声をあげた。
ピヨも、分解するのだけで30分だ。
おまけに、細かい部品も多く、どうにも難しい。プラモデルに挑戦した事もあったが、きちんと出来上がらず、二度とするものかと決意した。
(クッ。まさかここで、プラモデル以上の緊張を強いられるとは……!)
プルプルと震える指で一番小さい部品を摘まみ上げ、決まった位置に……位置に……。
「何でちゃんとはまらないのぉ!」
泣き言が出た。
待望の射撃訓練も始まった。数人ずつ的に向かい、指導員がつきっきりで見てくれる。
まずは伏射という基本姿勢だが、上官が手本を見せる。
25メートル先の目標に対して立つところから、何度も命令を復唱しながら安全を確認して、ようやく撃つ。
テレビとは違う大きな音が、厚いコンクリートに覆われた射撃場に響き渡り、僅かにこだまする。
思わず耳を押さえたり、肩をびくりと揺らす者もいた。
虫取り網を持つ人がいてなんだろうと思っていたが、その網で、排出される薬きょうをキャッチするのだった。
何だかそれも、ピヨにとっては音と同じくらいにショックだった。
そうして改めて説明を受け、いよいよ本番だ。
数人ずつ、まずは的を前に横1列に並ぶ。1人につき、指導員の上官が2人つく。1人は右側で虫取り網を持ち、1人は後ろで赤い旗を持っている。
「射手、銃を置け」「射手、銃をとれ」「目標正面の敵」「伏射」「姿勢点検始め」
それらにいちいち復唱しながら進めていくが、手順が進むごとに緊張が増す。
伏射の姿勢になる。が、どうにもしっくりこない気がする。足の幅はこれくらいか?肘の位置は?微調整して、位置を決め、構える。それを、指導員がつきっきりで確認する。
「補助者弾倉準備」
それに復唱して弾倉をセットするが、モタモタとして、先程の手本のようには程遠い。
「射手安全装置、弾倉弾込め」
チェンバーに弾薬を装填し、構えた。
「零点規制、時間制限なし」に復唱すると、いよいよ動悸が激しくなる。
「右方用意」「左用意」で左右の安全を指導員が確認する。
「射撃用意」
これを復唱する声は、上ずりそうだ。肩はガチガチで、指も引き攣りそうになっている。
「撃て」
淡々と上官が言うのに復唱し、更によく狙って、引き金を引いた。
ドーンという音も大きいが、衝撃が伝わり、体中に響いた気がした。
が、ここで不思議な事が起きた。
「あれ?今確かに撃ったのに?」
ピヨは思わず、目の前の的を見る目を凝らしながら言った。
と、隣の学生についていた指導員が言った。
「ん?何で2発?」
皆が反射的にそこを見た。25メートル先の的の中心に、キチンと当たった者はいないが、まず、白い余白のどこかに弾痕がある。
しかし、ピヨのものはまっさらで、隣のものには2つも穴があった。真ん中と端っこだ。
「まさか……」
誰かが呟き、ピヨを見た。
「へ?わ。はわわ。私、ですか?」
「だろうな」
信じがたい外れ具合に、突っ込みにくいという顔付きで誰もが余計な事を言わない。
その後、修正に入るのだが。
「ええっと、クリック修正してみようか」
ピヨ以外の者につく指導員が言う。照門を回し、微調整するのだ。左へ修正する時は手前に回す。これで除き窓の位置を変えて合わせるのだ。
「ああ、ピヨはもう一度。引き金を引くときに力を入れ過ぎてるのかも」
「あ、はい!」
一射ごとに当たった所に印をつけた紙を見ながら指導を受けるのだが、ピヨは当たりどころ以前の酷さだ。
「呼吸は深すぎても止め過ぎてもだめだぞ」
「はい」
「あ」
反対隣の的の真ん中に命中した。
「まさか、照準の合わせ方を間違っては……」
指導員が言うのに、ピヨは憤然と答える。
「流石にわかっていますよ」
「何で隣の的の真ん中に当たるんだろうな。それはそれで器用なんだけど」
困り果てたように指導員が唸るが、ピヨは泣きたくなった。
もう一度と言われて、よく、じっくりと狙う。そして引き金にかけた指を絞ると。
ガアン、という音に続いて、隣の的に着弾した。
「ある意味すげえな、ピヨ」
背後がざわつき、指導員が溜め息をついた。
「ピヨ。引き金を引く瞬間、目をつぶってるぞ」
「え!?まさか!?」
ピヨはそう言いながらよく思い出してみた。
「そう言えば、目をつぶってるかも……」
「ゴーグルをしてみるか?とにかく、目を開けてろ。危ないだろう」
「はい」
語り草になる、伝説の初射撃だった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説

山田がふりむくその前に。
おんきゅう
青春
花井美里 16歳 読書の好きな陰キャ、ごくありふれた田舎の高校に通う。今日も朝から私の前の席の山田がドカっと勢いよく席に座る。山田がコチラをふりむくその前に、私は覚悟を決める。
スカートなんて履きたくない
もちっぱち
青春
齋藤咲夜(さいとうさや)は、坂本翼(さかもとつばさ)と一緒に
高校の文化祭を楽しんでいた。
イケメン男子っぽい女子の同級生の悠(はるか)との関係が友達よりさらにどんどん近づくハラハラドキドキのストーリーになっています。
女友達との関係が主として描いてます。
百合小説です
ガールズラブが苦手な方は
ご遠慮ください
表紙イラスト:ノノメ様

読書のすすめ
たかまちゆう
青春
図書委員である宮本さんのところへ、ある日クラスメイトの吉見さんが頼み事をしにきた。
学年一の秀才、羽村君に好かれるため、賢くなれそうな本を教えてほしい、と。
苦手なタイプの子だなと思いつつ、吉見さんの熱意に押されて応援し始める宮本さんだったが――。


俺たちの共同学園生活
雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。
2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。
しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。
そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。
蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる