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内恋禁止(3)外出
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「でも、やっぱり内恋って起きないんですか?」
皆瀬が訊くと、長谷川が本当に不機嫌そうに眉を寄せた。
「確かにね。隠してこそこそ付き合ってるのもいるし、バレて肩身の狭い思いをしてるのも、それで別れるのもいるわね。
でもね。バレて肩身の狭い思いをするのは女子学生だけだからね」
それにピヨも皆瀬も、同時に首を傾けた。
「は?」
「女は責められるの。何しに来てるんだとか言われて。
それで男は、女子学生にたぶらかされたってなるのね。全く。
だから、女子は気を付けないといけないの。わかった?」
花守が、困ったように笑いながらも、そう言い聞かせるように言う。
「はい」
「でも、なんか、あれですね。子供ができて狼狽えた男が逃げて、女だけが困り果てるっていうの、マンガとかであるじゃないですか。男って現実でもそういうの?」
「み、皆瀬?」
ギョッとするピヨだったが、長谷川は我が意を得たりとばかりに皆瀬の肩に手を置いた。
「情けないでしょう?男なんてね、昔から地位に胡坐をかいて来ただけの生き物なのよ。顔とかに騙されちゃだめなのよ、いい?特に今は、辛い毎日だからそう錯覚するの。わかった?」
「は、長谷川も、ちょっと」
花守もどうしようかと狼狽えているが、
「はい、先輩!」
と皆瀬がいい笑顔で返事をしたので、ピヨ共々、
「まあ、いいか」
と放っておく事にした。
「ああ、でもね。もし内恋してる子をみたら、まあ、放っておいてあげなさいね。武士の情け?」
花守がそう言い、ピヨと皆瀬は、
「はい」
と素直に頷いておいた。
週に1度はある休養日だが、外に出掛けられるわけでもなく、また、その元気もない。
しかしようやく、その日がやって来た。
「次の休養日は、外出ね」
「やったー!」
ピヨよ皆瀬も万歳をした。
「でも、制服だからね。キチンと身なりが整わないと外出許可、おりないからね」
にっこりと笑って松下に言われ、背中がすっと冷えた。
そして、初めての外出日が来た。
念入りにアイロンをかけ、ベッドメイクも完璧にし、制服に糸くずも付いていない事を確認し、ベルトや徽章、半長靴も磨かれている事を確認する。
そしてそれをお互いに確認し合って、週番のチェックを受け、許可を貰った。
飛び出したいのを我慢し、外へ向かう。
まだ「不備」が見付かってやり直しさせられている1年生達が、横目でこちらを見るが、心の中で
「おーほほほ。お先にぃ」
と笑って外へ出た。
そこには部屋長達がいて、最後の注意を行う。
「いい?防大生としての自覚を持ち、恥ずかしい行動はとらない事。歩きながらスマホや飲食はしない事。あと、何が何でも門限までに戻って来る事。もし何かあったらすぐに連絡しなさい。質問は?」
「ありません!」
「よろしい」
それで私達は揃ってバスに乗り、駅前に向けて出発した。
駅前に着いて降りる。
制服の防大生がぞろぞろと降りると目立ちそうなものだが、この付近の人は、見慣れている。
そこからは何人かに分かれて、下調べして来た店などを回る予定だ。ピヨは数人のグループで、まずはケーキバイキングに行く事にしていた。
「何か、前よりもいっぱい食べられそう」
「そうよね。ご飯、明らかにこれまでより多いもんね」
ワイワイと言いながら歩くのは楽しい。制服とあまり似合わないベリーショートの髪で外を歩くのは恥ずかしいと思っていたのにと、ピヨは意外に思った。
同じ店に行く先輩と一列になってシャキシャキと歩くのに、それを何もおかしいと思わない事に気付き、ピヨは密かに愕然とした。
日曜日とあって、どこも混みあっている。
通りを歩く友人グループやカップルを見て、楽しそうだと思うし、なんてお洒落にキラキラしているんだろうと思う。
そして、防大の男子と比べて、何か頼りないと感じてもしまうのにショックだった。
「あんた達のショックはわかるわよ。通って来た道だからねえ」
香田達は苦笑した。
「今はこういう格好での外出だけど、2年生の短艇訓練が終われば、ある程度髪を伸ばしてもいいし、外に部屋を借りて私服に着替えて外出してもいいから。まあ、それまでのがまんね」
それを聞いて、1年生達はテンションをあげる。
「ふおおお!先輩達は髪が長い人もいるのにって思ってました!」
「部屋を借りるんですか?」
「大抵共同で借りて、着替え部屋にしてるわよ」
「やろう!絶対にやろう!」
楽しい初外出の第一歩となった。
散歩したり、映画を見たり、小物を見たりして過ごし、そろそろ帰ろうかとバス停に向けて歩いていた時、その男女を見付けた。
「あ」
部屋の先輩本条が、腕を組んで歩いている。相手の男は背が高く、短髪で、よく鍛えた体をしていて、歩き方がどうにもそれっぽい。間違いなく防大生だとピヨは確信した。
「内恋してんのよ。あのバカ」
小さな声で忌々しそうに松下が言う。
「女に当たりがきつい子でちょっと孤立してるんだけど、これが原因でね。悪循環。
まあ、忌々しいけど、見て見ぬふりしてやって、ピヨ」
それにピヨも小声で、
「はい」
と応える。
確かにいつもはどこか冷たいような、見下すような目をしている事が多い本条は、女の顔をしており、ピヨは見なければよかったと思った。
皆瀬が訊くと、長谷川が本当に不機嫌そうに眉を寄せた。
「確かにね。隠してこそこそ付き合ってるのもいるし、バレて肩身の狭い思いをしてるのも、それで別れるのもいるわね。
でもね。バレて肩身の狭い思いをするのは女子学生だけだからね」
それにピヨも皆瀬も、同時に首を傾けた。
「は?」
「女は責められるの。何しに来てるんだとか言われて。
それで男は、女子学生にたぶらかされたってなるのね。全く。
だから、女子は気を付けないといけないの。わかった?」
花守が、困ったように笑いながらも、そう言い聞かせるように言う。
「はい」
「でも、なんか、あれですね。子供ができて狼狽えた男が逃げて、女だけが困り果てるっていうの、マンガとかであるじゃないですか。男って現実でもそういうの?」
「み、皆瀬?」
ギョッとするピヨだったが、長谷川は我が意を得たりとばかりに皆瀬の肩に手を置いた。
「情けないでしょう?男なんてね、昔から地位に胡坐をかいて来ただけの生き物なのよ。顔とかに騙されちゃだめなのよ、いい?特に今は、辛い毎日だからそう錯覚するの。わかった?」
「は、長谷川も、ちょっと」
花守もどうしようかと狼狽えているが、
「はい、先輩!」
と皆瀬がいい笑顔で返事をしたので、ピヨ共々、
「まあ、いいか」
と放っておく事にした。
「ああ、でもね。もし内恋してる子をみたら、まあ、放っておいてあげなさいね。武士の情け?」
花守がそう言い、ピヨと皆瀬は、
「はい」
と素直に頷いておいた。
週に1度はある休養日だが、外に出掛けられるわけでもなく、また、その元気もない。
しかしようやく、その日がやって来た。
「次の休養日は、外出ね」
「やったー!」
ピヨよ皆瀬も万歳をした。
「でも、制服だからね。キチンと身なりが整わないと外出許可、おりないからね」
にっこりと笑って松下に言われ、背中がすっと冷えた。
そして、初めての外出日が来た。
念入りにアイロンをかけ、ベッドメイクも完璧にし、制服に糸くずも付いていない事を確認し、ベルトや徽章、半長靴も磨かれている事を確認する。
そしてそれをお互いに確認し合って、週番のチェックを受け、許可を貰った。
飛び出したいのを我慢し、外へ向かう。
まだ「不備」が見付かってやり直しさせられている1年生達が、横目でこちらを見るが、心の中で
「おーほほほ。お先にぃ」
と笑って外へ出た。
そこには部屋長達がいて、最後の注意を行う。
「いい?防大生としての自覚を持ち、恥ずかしい行動はとらない事。歩きながらスマホや飲食はしない事。あと、何が何でも門限までに戻って来る事。もし何かあったらすぐに連絡しなさい。質問は?」
「ありません!」
「よろしい」
それで私達は揃ってバスに乗り、駅前に向けて出発した。
駅前に着いて降りる。
制服の防大生がぞろぞろと降りると目立ちそうなものだが、この付近の人は、見慣れている。
そこからは何人かに分かれて、下調べして来た店などを回る予定だ。ピヨは数人のグループで、まずはケーキバイキングに行く事にしていた。
「何か、前よりもいっぱい食べられそう」
「そうよね。ご飯、明らかにこれまでより多いもんね」
ワイワイと言いながら歩くのは楽しい。制服とあまり似合わないベリーショートの髪で外を歩くのは恥ずかしいと思っていたのにと、ピヨは意外に思った。
同じ店に行く先輩と一列になってシャキシャキと歩くのに、それを何もおかしいと思わない事に気付き、ピヨは密かに愕然とした。
日曜日とあって、どこも混みあっている。
通りを歩く友人グループやカップルを見て、楽しそうだと思うし、なんてお洒落にキラキラしているんだろうと思う。
そして、防大の男子と比べて、何か頼りないと感じてもしまうのにショックだった。
「あんた達のショックはわかるわよ。通って来た道だからねえ」
香田達は苦笑した。
「今はこういう格好での外出だけど、2年生の短艇訓練が終われば、ある程度髪を伸ばしてもいいし、外に部屋を借りて私服に着替えて外出してもいいから。まあ、それまでのがまんね」
それを聞いて、1年生達はテンションをあげる。
「ふおおお!先輩達は髪が長い人もいるのにって思ってました!」
「部屋を借りるんですか?」
「大抵共同で借りて、着替え部屋にしてるわよ」
「やろう!絶対にやろう!」
楽しい初外出の第一歩となった。
散歩したり、映画を見たり、小物を見たりして過ごし、そろそろ帰ろうかとバス停に向けて歩いていた時、その男女を見付けた。
「あ」
部屋の先輩本条が、腕を組んで歩いている。相手の男は背が高く、短髪で、よく鍛えた体をしていて、歩き方がどうにもそれっぽい。間違いなく防大生だとピヨは確信した。
「内恋してんのよ。あのバカ」
小さな声で忌々しそうに松下が言う。
「女に当たりがきつい子でちょっと孤立してるんだけど、これが原因でね。悪循環。
まあ、忌々しいけど、見て見ぬふりしてやって、ピヨ」
それにピヨも小声で、
「はい」
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確かにいつもはどこか冷たいような、見下すような目をしている事が多い本条は、女の顔をしており、ピヨは見なければよかったと思った。
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