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内恋禁止(1)ときめきは制御不能
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「上級生に会ったら立ち止まって挨拶!」
「はい!おはようございます!」
ゾンビのような1年生が、注意力を散漫にしていて、挨拶を忘れて叱られていた。
学内の規則は色々とあるが、上級生にあったら必ず立ち止まってきちんと上体を折って挨拶しなければならない。
疲れ果ててゾンビのようになった1年生を苦しめる規則だ。
「ああ。授業中、眠い。起きていられない」
皆瀬がフラフラしながら言うのに、ピヨも嘆息した。
「私は何とか腹筋と腕立て伏せをと思ってるのに、筋肉痛が酷いばかりよ。挨拶で礼をするのも痛い」
そして2人で溜め息をつく。
後ろの席の大坂は大きく溜め息をついて眉を寄せる。
「まだいいじゃない。私なんて、方言禁止や、よ。標準語のみって、しんどい──しんどいはええんか?いや、いいのか、ん?。なんか、胡散臭い話し方になってしまう」
こうして聞いていても、胡散臭いし、気持ち悪い。
作戦中、方言で喋っていては、聞き違いや誤解が生じる事がある。なので、標準語を喋られければいけないのだ。
最近の者はテレビもあるせいで、大体はどうにかそれらしくできる。多少アクセントがおかしくても、別にアナウンサーばりの標準語を求められているわけでもない。
しかし、これに苦戦するのが関西人だ。関西の人はどこに行っても関西弁で通すことがなぜか多い。反対に、よその地方の人が関西に来ると、知らず知らずのうちに関西弁を喋るようになっていく。
関西弁最強説である。
しかしそれは、自衛隊のこの規則の前では、最悪だった。
かくして大阪出身の大坂は、雑談すらも気を使い、気が休まる時は寝言だけという毎日を送っている。
「大坂は、なあ」
「うん。慣れるしかないよね」
「嫌でも、なるべく話するとか」
「テレビの女優さん気分になったらどうかな、ピヨ」
「あかん──いや、だめ。脳内でドラマを再現したら、そもそも全部大阪弁になってまう──しまう、の」
言って自分でも気持ち悪いのか、首筋をガリガリと掻いた。
眠気と戦いながらも授業を受け、ドッと教室を出て行く。
昼食だ。
早く食べなければいけないので食べた気がしないでもないが、それでも、数少ない楽しみである。
片付けて食堂に走り込んで行くと、上級生の食器にはきれいにいいところを選んで盛り付けて配膳し、どうにかこうにかテーブルに着く。
揃っていただきますと挨拶し、とにかく急いで食べると、今度は急いで午後の準備だ。
1年生同志、ヒイヒイ言いながら廊下に飛び出したはいいが、神田の右足が左足に蹴躓いて体が泳いだ。
「わっ!?」
「神田!?」
「ギャアア!」
もうだめだ、顔面からいく。神田はそう思ったが、なぜかその時が一向に訪れない。
「ん?あ!?」
おかしいと思ったら、上級生の男子学生が、ウルトラマンの如きポーズで転びそうになっていた神田を、支えてくれていた。
「あああ、ありがとうございました!」
その学生は爽やかに笑うと、
「いや、大丈夫か?急ぐのも分かるし、覚えもあるけど、気を付けて。ヒトは生身では飛べないからね」
と冗談めかして言った。
「は、はい!気を付けます!ありがとうございました!」
神田と、一緒に走っていた同期も、並んで頭を下げた。
そしてその学生が去ると、途端にキャアと黄色い声をあげる。
「何あれ、カッコいい!羨ましい!」
「そうよね、うん、びっくりしたあ」
神田はまだドキドキする胸を押さえ、頬を染める。
「やだ。見てただけなのにドキドキする!」
「見た?こう、スッと。反射神経もさることながら、逞しい!」
ピヨも、
「恭司君には悪いけど、カッコよかったよねえ」
と言う。
が、そこに部屋の上級生たちの声が割り込んだ。
「それは単なる吊り橋効果よ。目を覚ましなさい」
「へ、部屋長!」
ピヨ達はおののいた。
「言ったでしょ。カッコよく見えても気の迷いだって」
松下が苦笑する。
「神田。そのドキドキは転びかけた事に対しての動悸でしかないから。忘れなさい」
香田がそう神田に言う。
「内恋禁止かあ。規則でも感情は自由にならないもんだから、大丈夫かなあ」
ピヨは不服そうな神田を横目に呟いた。
「はい!おはようございます!」
ゾンビのような1年生が、注意力を散漫にしていて、挨拶を忘れて叱られていた。
学内の規則は色々とあるが、上級生にあったら必ず立ち止まってきちんと上体を折って挨拶しなければならない。
疲れ果ててゾンビのようになった1年生を苦しめる規則だ。
「ああ。授業中、眠い。起きていられない」
皆瀬がフラフラしながら言うのに、ピヨも嘆息した。
「私は何とか腹筋と腕立て伏せをと思ってるのに、筋肉痛が酷いばかりよ。挨拶で礼をするのも痛い」
そして2人で溜め息をつく。
後ろの席の大坂は大きく溜め息をついて眉を寄せる。
「まだいいじゃない。私なんて、方言禁止や、よ。標準語のみって、しんどい──しんどいはええんか?いや、いいのか、ん?。なんか、胡散臭い話し方になってしまう」
こうして聞いていても、胡散臭いし、気持ち悪い。
作戦中、方言で喋っていては、聞き違いや誤解が生じる事がある。なので、標準語を喋られければいけないのだ。
最近の者はテレビもあるせいで、大体はどうにかそれらしくできる。多少アクセントがおかしくても、別にアナウンサーばりの標準語を求められているわけでもない。
しかし、これに苦戦するのが関西人だ。関西の人はどこに行っても関西弁で通すことがなぜか多い。反対に、よその地方の人が関西に来ると、知らず知らずのうちに関西弁を喋るようになっていく。
関西弁最強説である。
しかしそれは、自衛隊のこの規則の前では、最悪だった。
かくして大阪出身の大坂は、雑談すらも気を使い、気が休まる時は寝言だけという毎日を送っている。
「大坂は、なあ」
「うん。慣れるしかないよね」
「嫌でも、なるべく話するとか」
「テレビの女優さん気分になったらどうかな、ピヨ」
「あかん──いや、だめ。脳内でドラマを再現したら、そもそも全部大阪弁になってまう──しまう、の」
言って自分でも気持ち悪いのか、首筋をガリガリと掻いた。
眠気と戦いながらも授業を受け、ドッと教室を出て行く。
昼食だ。
早く食べなければいけないので食べた気がしないでもないが、それでも、数少ない楽しみである。
片付けて食堂に走り込んで行くと、上級生の食器にはきれいにいいところを選んで盛り付けて配膳し、どうにかこうにかテーブルに着く。
揃っていただきますと挨拶し、とにかく急いで食べると、今度は急いで午後の準備だ。
1年生同志、ヒイヒイ言いながら廊下に飛び出したはいいが、神田の右足が左足に蹴躓いて体が泳いだ。
「わっ!?」
「神田!?」
「ギャアア!」
もうだめだ、顔面からいく。神田はそう思ったが、なぜかその時が一向に訪れない。
「ん?あ!?」
おかしいと思ったら、上級生の男子学生が、ウルトラマンの如きポーズで転びそうになっていた神田を、支えてくれていた。
「あああ、ありがとうございました!」
その学生は爽やかに笑うと、
「いや、大丈夫か?急ぐのも分かるし、覚えもあるけど、気を付けて。ヒトは生身では飛べないからね」
と冗談めかして言った。
「は、はい!気を付けます!ありがとうございました!」
神田と、一緒に走っていた同期も、並んで頭を下げた。
そしてその学生が去ると、途端にキャアと黄色い声をあげる。
「何あれ、カッコいい!羨ましい!」
「そうよね、うん、びっくりしたあ」
神田はまだドキドキする胸を押さえ、頬を染める。
「やだ。見てただけなのにドキドキする!」
「見た?こう、スッと。反射神経もさることながら、逞しい!」
ピヨも、
「恭司君には悪いけど、カッコよかったよねえ」
と言う。
が、そこに部屋の上級生たちの声が割り込んだ。
「それは単なる吊り橋効果よ。目を覚ましなさい」
「へ、部屋長!」
ピヨ達はおののいた。
「言ったでしょ。カッコよく見えても気の迷いだって」
松下が苦笑する。
「神田。そのドキドキは転びかけた事に対しての動悸でしかないから。忘れなさい」
香田がそう神田に言う。
「内恋禁止かあ。規則でも感情は自由にならないもんだから、大丈夫かなあ」
ピヨは不服そうな神田を横目に呟いた。
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