3 / 18
着校(3)先輩からのアドバイス
しおりを挟む
部屋へ戻り、先輩達のおごりで冷たいジュースを飲んで、話をする。
「へえ。皆瀬は陸上部でハードルをしてたの」
「はい!だから体力はあるつもりですよ!」
春美はにこにことして言い、それに上級生たちもにこにことした笑顔を向けている。
「ピヨは?」
「あ、はい。吹奏楽部で、フルートを吹いてました」
ピヨはそう答える。
「フルートかあ。防大にも吹奏楽部があるよ」
「クラブに入る時期になったら、見学してみたらいい。入校式の後、校友会紹介行事もあるし」
にこにことして言われ、ピヨは楽しみになった。
「クラブ活動なんてあるんですか?」
「そう。校友会って言うんだけどね。1年生はどこかの運動部に所属しないといけない決まりでね。
ああ、運動部なんだけど、一部例外があってね。文化部の吹奏楽部と、委員会の短艇委員会、應援団リーダー部、儀仗隊は、運動部に含まれるの」
「へえ」
その意味を考えれば、運動部並みにきつい所なのだと察する事ができるのだが。
「あ、そうそう。これだけは言っておくからね。
この先、上級生がとんでもなくかっこよく見える日が必ず来るけど、恋愛感情なんて持ったらだめよ。それは一時の気の迷い、幻想だから」
「は?はい?」
「そのうちわかるわ、うん」
「ああ、明日も早いし、そろそろお開きにするよ」
「消灯時間だし、寝よう」
上級生たちに言われ、ピヨと春美は
「はあい」
と気の抜けた返事をし、全員がベッドに散る。
と、花守がピヨと春美に言った。
「ああ、そうだわ。寝る時もブラはしたままがいいわよ」
それにピヨも春美も首を傾けた。
「肩、凝りません?」
「ううんとね、朝起きたら素早く外に飛び出して、体操するのよ。短い時間に、ベッドメイクも着替えもってなかなかできないでしょ?時間がとにかくないの。
まあ、いいからここではそういう習慣にしときなさい」
ピヨは上級生を見たが、全員、生暖かいような目で薄く笑い、頷いている。
「はあ、じゃあ、そうします」
素直にそう言い、ピヨと春美は、ベッドに入った。
そのアドバイスのありがたさがわかるのは翌日ではあったが、心の底からわかる日は、まだ先である。
叩き起こす。その言葉がふさわしい朝だった。
「はい、起きて。おはよう。さあ、早くね」
言いながら、上級生たちは素早く起き、毛布をプロのホテルの人みたいにきっちりと畳んで行く。
朝には比較的強いピヨも、その、「目が覚めた瞬間に小テストができそう」という覚醒具合には驚いた。そして、教えられるまま、毛布をできるだけきっちりと角を揃えて畳む。
が、重箱の隅をつつくどころではない正確さで畳んで、ホッとする間もなく足早に外へと連れて行かれる。寝癖を気にしている暇もないが、短すぎて寝癖がほぼつかない。
びっしりと学生たちが並んでいる。それも、男子は上半身裸だ。女子は上半身にTシャツを着ている。
「乾布摩擦と体操よ。ここに並んで。はい、ここ」
言われたとおりに、列に入る。
新1年生の男子が、小声でボソリと言った。
「何だ。女は上、裸じゃないのか」
それに目を吊り上げる前に、その男子の隣の上級生が、笑って頭を軽く叩く。
「こーら。当然だろ?セクハラ親父か、まったく」
ピヨもしかたなく、あわせてはははと笑っておいた。
これが冬には、とんでもないアドバンテージになる事をまだピヨ達は知らない……。
ともかく、乾布摩擦と体操が始まる。
新1年生は、周囲のする事をちらちらと見ながら、どうにかこうにかついて行く。
しかし、これで終わりかと思えば、まだ続きがあった。
「腕立て、用意!」
ザッと音を立てて、一糸乱れぬ動きで素早く上級生たちが腕立て伏せの姿勢をとる。
「腕立て!?何かにつけてするものなの!?」
軽い悲鳴が上がる中、おたおたする新1年生に親切なアドバイスがかかる。
「できない者は、姿勢だけでも取るように」
それならと、新1年生達も急いで同じように腕立て伏せの姿勢をとった。
「いーち!」
「いち!」
「にーい!」
「に!」
軽々と、上級生たちが腕立て伏せを始める。肘を軽く曲げるとか、背中をたるませて誤魔化すとか、そんな人はいない。
そして、ほんの数回でほとんどの新1年生達が脱落していく。女子など、できない者すらいる。
ピヨは、
(昨日の歓迎の腕立て伏せの時に、嫌な予感はしてたんだった……)
と、肘を曲げたまま持ち上がらないでぐぬぬと唸りながら、膨らむ不安を感じていたのだった。
「へえ。皆瀬は陸上部でハードルをしてたの」
「はい!だから体力はあるつもりですよ!」
春美はにこにことして言い、それに上級生たちもにこにことした笑顔を向けている。
「ピヨは?」
「あ、はい。吹奏楽部で、フルートを吹いてました」
ピヨはそう答える。
「フルートかあ。防大にも吹奏楽部があるよ」
「クラブに入る時期になったら、見学してみたらいい。入校式の後、校友会紹介行事もあるし」
にこにことして言われ、ピヨは楽しみになった。
「クラブ活動なんてあるんですか?」
「そう。校友会って言うんだけどね。1年生はどこかの運動部に所属しないといけない決まりでね。
ああ、運動部なんだけど、一部例外があってね。文化部の吹奏楽部と、委員会の短艇委員会、應援団リーダー部、儀仗隊は、運動部に含まれるの」
「へえ」
その意味を考えれば、運動部並みにきつい所なのだと察する事ができるのだが。
「あ、そうそう。これだけは言っておくからね。
この先、上級生がとんでもなくかっこよく見える日が必ず来るけど、恋愛感情なんて持ったらだめよ。それは一時の気の迷い、幻想だから」
「は?はい?」
「そのうちわかるわ、うん」
「ああ、明日も早いし、そろそろお開きにするよ」
「消灯時間だし、寝よう」
上級生たちに言われ、ピヨと春美は
「はあい」
と気の抜けた返事をし、全員がベッドに散る。
と、花守がピヨと春美に言った。
「ああ、そうだわ。寝る時もブラはしたままがいいわよ」
それにピヨも春美も首を傾けた。
「肩、凝りません?」
「ううんとね、朝起きたら素早く外に飛び出して、体操するのよ。短い時間に、ベッドメイクも着替えもってなかなかできないでしょ?時間がとにかくないの。
まあ、いいからここではそういう習慣にしときなさい」
ピヨは上級生を見たが、全員、生暖かいような目で薄く笑い、頷いている。
「はあ、じゃあ、そうします」
素直にそう言い、ピヨと春美は、ベッドに入った。
そのアドバイスのありがたさがわかるのは翌日ではあったが、心の底からわかる日は、まだ先である。
叩き起こす。その言葉がふさわしい朝だった。
「はい、起きて。おはよう。さあ、早くね」
言いながら、上級生たちは素早く起き、毛布をプロのホテルの人みたいにきっちりと畳んで行く。
朝には比較的強いピヨも、その、「目が覚めた瞬間に小テストができそう」という覚醒具合には驚いた。そして、教えられるまま、毛布をできるだけきっちりと角を揃えて畳む。
が、重箱の隅をつつくどころではない正確さで畳んで、ホッとする間もなく足早に外へと連れて行かれる。寝癖を気にしている暇もないが、短すぎて寝癖がほぼつかない。
びっしりと学生たちが並んでいる。それも、男子は上半身裸だ。女子は上半身にTシャツを着ている。
「乾布摩擦と体操よ。ここに並んで。はい、ここ」
言われたとおりに、列に入る。
新1年生の男子が、小声でボソリと言った。
「何だ。女は上、裸じゃないのか」
それに目を吊り上げる前に、その男子の隣の上級生が、笑って頭を軽く叩く。
「こーら。当然だろ?セクハラ親父か、まったく」
ピヨもしかたなく、あわせてはははと笑っておいた。
これが冬には、とんでもないアドバンテージになる事をまだピヨ達は知らない……。
ともかく、乾布摩擦と体操が始まる。
新1年生は、周囲のする事をちらちらと見ながら、どうにかこうにかついて行く。
しかし、これで終わりかと思えば、まだ続きがあった。
「腕立て、用意!」
ザッと音を立てて、一糸乱れぬ動きで素早く上級生たちが腕立て伏せの姿勢をとる。
「腕立て!?何かにつけてするものなの!?」
軽い悲鳴が上がる中、おたおたする新1年生に親切なアドバイスがかかる。
「できない者は、姿勢だけでも取るように」
それならと、新1年生達も急いで同じように腕立て伏せの姿勢をとった。
「いーち!」
「いち!」
「にーい!」
「に!」
軽々と、上級生たちが腕立て伏せを始める。肘を軽く曲げるとか、背中をたるませて誤魔化すとか、そんな人はいない。
そして、ほんの数回でほとんどの新1年生達が脱落していく。女子など、できない者すらいる。
ピヨは、
(昨日の歓迎の腕立て伏せの時に、嫌な予感はしてたんだった……)
と、肘を曲げたまま持ち上がらないでぐぬぬと唸りながら、膨らむ不安を感じていたのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
山田がふりむくその前に。
おんきゅう
青春
花井美里 16歳 読書の好きな陰キャ、ごくありふれた田舎の高校に通う。今日も朝から私の前の席の山田がドカっと勢いよく席に座る。山田がコチラをふりむくその前に、私は覚悟を決める。
スカートなんて履きたくない
もちっぱち
青春
齋藤咲夜(さいとうさや)は、坂本翼(さかもとつばさ)と一緒に
高校の文化祭を楽しんでいた。
イケメン男子っぽい女子の同級生の悠(はるか)との関係が友達よりさらにどんどん近づくハラハラドキドキのストーリーになっています。
女友達との関係が主として描いてます。
百合小説です
ガールズラブが苦手な方は
ご遠慮ください
表紙イラスト:ノノメ様

読書のすすめ
たかまちゆう
青春
図書委員である宮本さんのところへ、ある日クラスメイトの吉見さんが頼み事をしにきた。
学年一の秀才、羽村君に好かれるため、賢くなれそうな本を教えてほしい、と。
苦手なタイプの子だなと思いつつ、吉見さんの熱意に押されて応援し始める宮本さんだったが――。


俺たちの共同学園生活
雪風 セツナ
青春
初めて執筆した作品ですので至らない点が多々あると思いますがよろしくお願いします。
2XXX年、日本では婚姻率の低下による出生率の低下が問題視されていた。そこで政府は、大人による婚姻をしなくなっていく風潮から若者の意識を改革しようとした。そこて、日本本島から離れたところに東京都所有の人工島を作り上げ高校生たちに対して特別な制度を用いた高校生活をおくらせることにした。
しかしその高校は一般的な高校のルールに当てはまることなく数々の難題を生徒たちに仕向けてくる。時には友人と協力し、時には敵対して競い合う。
そんな高校に入学することにした新庄 蒼雪。
蒼雪、相棒・友人は待ち受ける多くの試験を乗り越え、無事に学園生活を送ることができるのか!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる