雨宿り

JUN

文字の大きさ
上 下
3 / 4

雨が連れて来た記憶

しおりを挟む
「当時ぼくは10歳でした」
 マスターが喋り始め、青年は気遣うようにしながらも、黙って座っていた。

 ぼくは両親と住んでおり、家も高級住宅街の中にあり、いわゆる資産家だった。
 その日は台風が接近していたせいで、朝から暴風雨となっており、家族3人、ひっそりと家の中でトランプをしたりして過ごし、夕食の後は、雨と風の音にドキドキしながらベッドに入った。
 時間はよくわからないが、夜中で、怖いくらいの音を立てて雨が降っていた。その中で、いきなり母親が部屋に飛び込んで来て、ぼくは目を覚ました。
 何事かと訊く前に、後から追いかけるように飛び込んで来た覆面の男がナイフを持っていたのが雷の稲光に浮き上がり、小学生のぼくですら、とんでもないことが起こっているとわかった。
 脅されて、ぼくと母がリビングへ行くと、父はリビングで額から血を流して座っていた。
 親子3人でかたまって座りながらぼくは犯人達を見た。
 犯人は6人。おそらく全員男で、マスクと目深にかぶった帽子とで顔は良く見えない。
 その中でもリーダーらしい男が、ナイフでまずぼくの足を刺して、父に金庫を開けろと命令した。
 父は仕方なくそれに従ったが、リーダーは次に、母に目を付けた。
 襲おうとしたのだ。
 母は抵抗し、父は止めようとする。
 悲鳴と怒号が響き渡るが、雨の音と雷の音の方が大きくて、ややもすると声をかき消した。
「やめろ!」
 犯人の1人がリーダーを止めようとしたが、リーダーは、
「邪魔をするな!」
とその犯人を振り払い、突き飛ばした。
 突き飛ばされた犯人はソファに倒れ込み、弾みで帽子が取れた。
 リーダーは構わず父を殴り、父は棒立ちになってからその場に倒れた。
「やめろ!」
 もう1度犯人が止めに入ると、リーダーはその犯人と取っ組み合いになったが、弾みで止めに入った方の犯人は着ていたシャツが破れ、鼻血を出しながらダイニングに転がった。
「ああ。顔を見られたし、殺すしかないな」
 リーダーがそう言って、無造作に母を刺した。
 それをぼくは、唖然として見ているしかなかった。

「ぼくもその後刺されたんですけど、急所を外していましてね。助かったんです。足はその時以来、この通り、引きずる事になったんですけど」
 マスターはそう静かに言った。
 俺は予想外のマスターの話に動転し、震える手でコーヒーを一口飲んだが、まるで味はわからなかった。
「俺は従兄で、やっぱりその事件がショックでね。そういう事件が憎くて、それに犯人も捕まえたくて、警察官になったんですよ」
 俺は、はにかむように笑う青年と寂し気に笑うマスターを見ながら、ゴクリと唾を飲み込んだ。


しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

傷心中の女性のホラーAI話

月歌(ツキウタ)
ホラー
傷心中の女性のホラー話を500文字以内で。AIが考える傷心とは。 ☆月歌ってどんな人?こんな人↓↓☆ 『嫌われ悪役令息は王子のベッドで前世を思い出す』が、アルファポリスの第9回BL小説大賞にて奨励賞を受賞(#^.^#) その後、幸運な事に書籍化の話が進み、2023年3月13日に無事に刊行される運びとなりました。49歳で商業BL作家としてデビューさせていただく機会を得ました。 ☆表紙絵、挿絵は全てAIイラスです

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

沈黙の夜、聖なる夜

蓮實長治
ホラー
どうやら、12月のあの恒例行事は、かなりギリギリの状態で続けられているらしい……。 「なろう」「カクヨム」「アルファポリス」「pixiv」「Novel Days」「GALLERIA」「Novelism」に同じモノを投稿しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

シカガネ神社

家紋武範
ホラー
F大生の過去に起こったホラースポットでの行方不明事件。 それのたった一人の生き残りがその惨劇を百物語の百話目に語りだす。 その一夜の出来事。 恐怖の一夜の話を……。 ※表紙の画像は 菁 犬兎さまに頂戴しました!

セキュリティ・フッテージ

三枝七星
ホラー
閉店した商業施設で、工学メーカーが開発した警備ロボットの実証実験が行なわれることになった。契約を結んでいた警備会社も手伝いを頼まれ、浅見という警備員が派遣される。メーカーの技術者・森澤とともにロボットを見守るが、ある日からロボットのカメラに女が映るようになり……。 (※実際の警備・工学について明るくない人間が書いております) (※現実的な法律、道徳、倫理、人権、衛生の面で「誤り」「加害的」「差別的」であることも描写されますが、これらを「是」とするものではありません) (※算用数字と漢数字については、データは算用数字、熟語は漢数字という基準で書き分けているつもりです) (※随時修正する可能性はあります)

teikaoのオカルト広場

teikao
ホラー
オカルト短編集です。 ゾッとする話、不思議な話、恐怖の実話。 人工知能、オカルトちゃん(表紙の子)作成の怖い話、そしてまさかの、現実的「オカルト否定」も!? 有権者様からのホラーも掲載!真新しい恐怖があなたをお待ちしております_:(´ཀ`」 ∠): まぁまぁ、せっかく来てくださったんですから、 ゆっくりしていってくださいな(^^)

【実話】お祓いで除霊しに行ったら死にそうになった話

あけぼし
ホラー
今まで頼まれた除霊の中で、危険度が高く怖かったものについて綴ります。

処理中です...