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夕立
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ぽつりと大粒の雨が1滴頭に落ちたと思ったら、ほんの数秒で、滝のような大雨になった。
「ああ、さっきまでカンカン照りだったのに」
ブツブツと文句を言いながら、雨宿りのできそうな場所を素早く探す。
と、ちょうど少し先にある喫茶店が目に入ったので、これ幸いと、そこで雨宿りをする事にしようと店に飛び込んだ。
ドアを開けて店に飛び込むと、カランカランと、ドアにつけられたベルが音を立てる。
「いらっしゃいませ」
落ち着いた声がしてそちらへ目をやると、サラリーマン10年目の自分よりもずっと若い青年がいた。
どうやら店員は彼だけらしい。
店は小ぢんまりとしたシックな内装で、客もまた、俺以外にはいなかった。
座り放題のテーブルから、適当なところを選んで、ビジネスバッグを置き、椅子に座る。
すぐにマスター──だろう。流石にアルバイトが1人で店番をしているとも思えない──が、水をトレイに乗せて持って来る。
わずかに右足を引き摺っているのに気付いた。
「ホット」
「かしこまりました」
俺は反射的にそう注文すると、マスターは水を置いて、カウンターへと入って行く。
「ふわあ。参った。もう少しのところで夕立に間に合わなかった」
ベルを鳴らして、マスターより少し年上らしい青年が入って来る。
「あ、兄さん。お帰りなさい」
青年は俺に気付いてペコリと頭を下げると、雨水のしたたる買い物袋を持ってカウンターの中へ入り、袋の中身を冷蔵庫へ入れ始めたらしいのが物音からわかった。
「いきなりどしゃ降りですもんねえ」
俺は青年に苦笑を向けると、青年も苦笑して、肩を竦めた。
「全くですよ。まあ、これで少し涼しくなってくれると、よしとしてやるか」
その言い方に、俺は思わず笑い出した。
マスターも苦笑していたが、俺のところにコーヒーを運んで来ると、
「ごゆっくり。まだ雨は当分やみそうにないですから」
と、憂鬱そうな表情をドアの向こうに向けた。
営業でこの辺りへ来たのは偶然だし、夕立が降り出したのも偶然で、この喫茶店で雨宿りをしようと思ったのも偶然だ。
だがその偶然は、恐ろしい偶然をも引き寄せていたのだ。
「ああ、さっきまでカンカン照りだったのに」
ブツブツと文句を言いながら、雨宿りのできそうな場所を素早く探す。
と、ちょうど少し先にある喫茶店が目に入ったので、これ幸いと、そこで雨宿りをする事にしようと店に飛び込んだ。
ドアを開けて店に飛び込むと、カランカランと、ドアにつけられたベルが音を立てる。
「いらっしゃいませ」
落ち着いた声がしてそちらへ目をやると、サラリーマン10年目の自分よりもずっと若い青年がいた。
どうやら店員は彼だけらしい。
店は小ぢんまりとしたシックな内装で、客もまた、俺以外にはいなかった。
座り放題のテーブルから、適当なところを選んで、ビジネスバッグを置き、椅子に座る。
すぐにマスター──だろう。流石にアルバイトが1人で店番をしているとも思えない──が、水をトレイに乗せて持って来る。
わずかに右足を引き摺っているのに気付いた。
「ホット」
「かしこまりました」
俺は反射的にそう注文すると、マスターは水を置いて、カウンターへと入って行く。
「ふわあ。参った。もう少しのところで夕立に間に合わなかった」
ベルを鳴らして、マスターより少し年上らしい青年が入って来る。
「あ、兄さん。お帰りなさい」
青年は俺に気付いてペコリと頭を下げると、雨水のしたたる買い物袋を持ってカウンターの中へ入り、袋の中身を冷蔵庫へ入れ始めたらしいのが物音からわかった。
「いきなりどしゃ降りですもんねえ」
俺は青年に苦笑を向けると、青年も苦笑して、肩を竦めた。
「全くですよ。まあ、これで少し涼しくなってくれると、よしとしてやるか」
その言い方に、俺は思わず笑い出した。
マスターも苦笑していたが、俺のところにコーヒーを運んで来ると、
「ごゆっくり。まだ雨は当分やみそうにないですから」
と、憂鬱そうな表情をドアの向こうに向けた。
営業でこの辺りへ来たのは偶然だし、夕立が降り出したのも偶然で、この喫茶店で雨宿りをしようと思ったのも偶然だ。
だがその偶然は、恐ろしい偶然をも引き寄せていたのだ。
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