スパイラルダンス

JUN

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広域戦術兵器

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 エンジンを停止すると、体を固定していた特殊ゲルが柔らかくなって、シート下に流れて行く。
 特殊な繊維でできたパイロットスーツは、濡れてもいないしベタつきもしていない。本当に、いい加減慣れてはきたものの、不思議な感覚だ。
 フェアリーから降り、整備員に問題は無かったと告げ、真理と明彦と合流して更衣室へ向かう。
「ルナリアンも、新型が多くなって来たねえ」
「ああ。お互いに終わりがないな」
「同じ地球内でも、張り合いと出し抜き合いだしな」
 戦争を終わらせる気が本当にあるのかと訊きたいものだ。
「でも、パペットシステムは大したもんだぜ」
 しみじみと明彦が言った。
「それよりもこのゲルだよ。ただ単に体を固定するだけじゃあ体への負担はそう変わらないけど、あの特殊ゲルはそうじゃなくて、負担を軽減するんだからな。どういう理屈なんだろうな」
 俺は何度も考えてみたが、よくわからない。
 そこについては秘密らしく、教えてももらえない。
 それでも実際に、これまでなら不可能だった機動でも可能とし、対G限界を上げている。その結果、俺達自衛軍パイロットはルナリアンの曲芸じみた機動に追随する事を可能とし、これが全ての機体に採用されれば、かなりの戦力アップが見込める。
「頭のいいやつは、色々考えつくもんだぜ」
「確かにねえ」
 ま、高校生ではわからない理論なんだろうという事だけはわかった。

 ゲートには相変わらず、ルナリアンが調査、奪取の為に近付く。
 そして活動域が広がったせいなのか、ノリブとの接触も増えている。特に、ゲートを乗り継いで遠くへ跳ぶと、ノリブと遭遇する回数が上がるだけでなく、群れの規模が大きくなるようだ。
 俺達は今、最も外側のゲートからワープアウトした。一応辺りは今の所静かだ。
 そこで、新たな無人のゲート組み立て機を放つ。凄い速さで遠ざかって行く無人機を見送ると、一緒にワープアウトして来たアメリカ軍と別れ、別々の宙域を警戒する事になっている。
 ノリブのワープゲートが無いか、チェックだ。
 岩でできているので、アステロイド帯の近くなどでは機械での発見は難しい。根気よく、目視で探す事になる。
 空間を区切り、少しずつ手分けしながら、チェックをする。
 小さく区切った範囲内を虱潰しにチェックし、クリアにしていく。
『この辺りは大丈夫そうだな』
 ユウが安心したように言う。
『そうやな。ここらまでクリアってことで良さそうや』
『よし。今日の予定分は済んだし、ここまでにしよう。帰るぞ』
 それで俺達はあすかに帰ろうとしたのだが、隊長から連絡が入った。
『アメリカ軍が当たりを引いた。向こうにルナリアンが潜んでいたらしい。あっちは心配無用という事らしいが、ゲートで待機するぞ』
『無人機は攻略済みだし、広域兵器を使うのかなあ』
 真理のセリフに、皆、思わず黙り込む。
『まあ、とにかく帰艦して来い』
 あれは、宇宙時代の核兵器だ。環境への影響も不明だ。
「そんなに、なりふり構わず一番でいたいかね」
 俺はあすかへ向かいながら、苦いものを噛み締めた。

 俺達飛行隊を収容したあすかは、ゲートに戻り、万が一ルナリアンがアメリカ軍を突破して来た時に備えて待機する。
 俺達は格納庫脇の待機所で、壁にかかったモニターに映るメインカメラの映像を見ていた。
 超望遠のカメラで捉えた映像で、戦場は小さくしか見えない。それでも、両軍がぶつかり合うのが見えた。
「アメリカ軍も、対策はして来たみたいだねえ」
 ルナリアンと無人機は、まあまあ、互角に見える。
 でも、何だろう。
「何か、不自然?」
「ああ?何がや?」
 思わず出た呟きを、タカが聞きとがめる。
「いや、何とは言えないけど、ルナリアンの位置とか変じゃないですか?それにいつもは、もっと派手に、こう、散らばるっていうか」
 それに即同意したのはユウだった。
「そうだな。あれじゃあまるで、ルナリアンの艦が、スナイピングを狙っているような位置取り・・・まさか、そうか?」
 緊張したような顔つきになる。
「何や?」
「広域戦術兵器を開発したのは、アメリカだけとは限らないという事だよ」
「まさかぁ」
 半信半疑の明彦に、ヒデが言う。
「軍事に、想定外、もし、まさかは無い」
 俄かに緊張した空気が満ちる中、ヒデが艦内電話をかける。
 その時、画面が真っ白になった。
「何だ!?」
 思わず腰を浮かせて画面の回復を待つ。
 やがて回復した映像を見て、何があったのか、大雑把に理解した。
 両軍共、艦の装甲が解けたようになっていて、小さくは無い損傷を受けている。そして、ルナリアンの戦闘機もアメリカの無人機も数を減らしているが、その割には辺りに残骸が少ない。
 そして、アメリカ軍の後方にあった小惑星がごっそりと質量を減らしていた。
「やりあいやがった。どっちも、喰らったらおしまいやな」
 タカが唸る。
「核もどきを、両方が使ったのか?」
 明彦が狼狽えるように言った。
「多分な。アメリカ軍艦は艦側面が融解してるし、後ろの小惑星がえぐられてる。言わば・・・超大型の超強力なビーム兵器をルナリアンは使ったんだろう。
 ルナリアンの艦は前部に損傷が固まってるし、前方の戦闘機が撃ち合ってた辺りがすっかりなくなってる。アメリカの広域戦術兵器の実験映像が、こんな風に完全に蒸発させてただろ」
 俺が言うと、ユウが頷いて続ける。
「ルナリアンの兵器は直線に攻撃が通るらしいし、艦の位置をチェックし続けていれば、発射の兆候は読み取れるだろう。アメリカの方は・・・まあ、今の所は友好国だしな。幸い」
「ええーっ。今のところはって」
「まあ、向こうの機体が少ないところがやばい、くらいかな。
 あ、でも、無人機なら犠牲にしてくるかもなあ」
「そんなあ、砌ぃ」
「仕方ないだろ。形状とかも知らないんだし」
 言っていると、ヒデが受話器を置いて振り返った。
「このまま待機だ」
 両軍は睨み合っていたが、すぐにお互いの艦はに距離を開け始め、戦闘機を収容してそのまま戦闘を終了させる。
 それを見て、ホッと息をつく。
「いや、次は俺達があれの相手をするかも知れないのか」
 安心など、していられない。戦場で安心できる場所なんて、どこにある?
 

 
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