スパイラルダンス

JUN

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対G限界

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 携帯端末で、ニュースを漁る。
 学兵の志願制度は、野党や一部の識者から反対されていたが、本当に通った。志願も一度だけでなく、可能なら見学後再度確認をするというやり方で、また、十分な技量が無ければ、いくら本人にやる気があっても通さないという厳しい基準を設けて、どうにか納得させたらしい。
 おかげで、志願者は出たものの、前線の現実に考え直したり、技量不足で却下されたりが多く、実質俺達3人の為の制度みたいなものだった。
 俺達は志願するという書類を書き、日付を変えてもう1回サインを入れ、任務中に危険な事に遭遇しても殉職しても文句は言わないという誓約書を書いた。
 面倒臭い。
「学兵を前線には中々出せないよな。いくら誓約書があっても」
 俺が言うと、真理が頷く。
「ダイレクトリンクに適合しなかったら、ボク達だって無理だったよねえ」
「何たって、落ちこぼれのゴミ班だもんな!」
 明彦が明るく笑う。
 海外でもほとんどの国が今は徴兵を行っているので、学兵がいるのは同じだ。
 ただ、多くの国では、学兵だからと後方へやられるのではなく、能力によって、色んな部署に配置されているらしい。それで今までは、日本が学兵に過保護だと言われていたという。
 とある政党に言わせると、「だから海外からは、日本の学兵が羨ましがられている」という事になるようだが。
「お、中国でも機動性の向上した新型機か。まさに開発合戦だな」
「中国かあ。次に通るゲートの管理者が中国だよね」
「新型機、いるかな」
 明彦が興味津々といった様子で目を輝かせる中、あすかは次の任務地に行く為に、ゲートをくぐった。
 亜空間をショートカットして、中国軍の駐留するゲートからワープアウトする。
 ドキドキしながら外を見る。
「あ、あれ中国軍の新型じゃねえ!?」
「ん?ゲッ、戦闘中!?」
 ゲートを奪取しに来たと思われるルナリアンと、まさに、交戦している最中だった。
 サイレンが鳴り響き、俺達は駐機スポット脇の待機所から飛び出す。そして慌ただしく出撃準備をした。
 が、ここで待ったがかかる。中国軍から、手出し無用と言われたのである。
 そこで俺達は、一応出撃はしたものの、あすかに近付くものがあればそれだけを相手にするという事で、戦闘の見学をする事になった。
 だが地球側の戦力が増えた事で、ルナリアン機には撤退命令が出たらしい。戦闘機は、引いて行く様子を見せている。それを、中国軍機が追撃して行く。
 振り切ろうとするルナリアン機の後を、中国の新型機が追う。お馴染みの、急制動だ。
『ちょっと遅れ気味だけど、付いて行ってるな!』
『だけど何か、危なっかしいなあ。あ?』
 明彦の言葉に真理が返した時、追っていた中国軍機が、急にそのまますっ飛んで、別の中国軍機に捕まえられていた。
 パイロットが失神したか、視力低下でも起こしたか?
 そう思ってコクピットハッチを開けるのを見ていると、中が一面、真っ赤なのが見えた。
「え?」
 よく見えない。
 と、真理が呻き声を上げた。
『ウゲッ。パイロット、中で潰れて破裂してるよぉ』
 スコープで見たらしい。
「Gに負けたのか」
『あ』
 ユウが声を上げ、それを探す。
 また一機が軌道を外れて飛んで行き、仲間の中国軍機が追っていく。
「中国の対Gって、どんなのだ?」
『知らん。でも冗談で、漢方薬って聞いたで』
 それが本当なら、そりゃあ無理だ。
『テストの時は、これより大人しい機動でやってたんだろうな』
 明彦が同情するように言う中、ルナリアン機は撤退して行き、中国軍機は、回収されて行った。それで俺達も、あすかに戻る。
 何とも、テンション低めな気分だ。
「嫌なもの見たなぁ」
 真理が言い、揃って溜め息をついた。

 操艦室へ行くと、やはりここも、それを見たらしくて盛り下がっていた。
「やろうと思えば、機械的にはルナリアン機に追随できる機体は作れる。問題は、パイロットだな」
「人間の体はあまりにも脆弱ですからね」
 隊長とヒデが、しみじみと言う。
「ああ。だから無人機なのか、アメリカは。てっきり、21世紀からの流れで無人機なのかと思ってたぜ」
「ウィークポイントである人間、パイロットを排除すれば、その点はクリアできるからな。
 ただ、21世紀の無人機の時は誤爆とかの問題があったけど、それはどうなんだろうな」
「市街地でやるわけじゃないから、却って、大雑把でもOKなんじゃないのぉ」
「・・・なかなか皮肉の効いた答えだな」
「まあ、こっちも気を付けていくぞ」
 隊長が締めて、あすかは任務地へ向かうべく、動き出した。

 春原先生が、注射器片手に笑う。
「改めて、DNAの解析をするそうでね。以前のものは残ってるから、今の血液と比較するそうだよ」
「採血はいいけど、何でですか」
「Gに強い訳とか、ダイレクトリンクへの高い適合率の訳とかが、DNAにあるんじゃないかという事らしいね」
「単に、体質と慣れだと思いますけどね」
 腕を差し出しながら言う。
 明彦は、針が俺の腕に入って行くのを、何とも言えない顔で見ている。
 この後明彦もだぞ。大丈夫か。
「DNAで何か出たら、天然ルナリアン?」
「面白い事言うなあ、真理」
「えへへ」
 春原先生は手早く俺達から採血すると、それをケースに収めながら、
「まあ、天然ルナリアンと呼称するかどうかはともかく、自然と宇宙に適応した進化種とか言われかねないね」
と言う。
「ああ、あれ?キリンの首はなぜ長い、の」
 明彦が生物で習った知識を披露した。
「ええっと、メンデル?」
 が、残念ながら不正解だ。
「それは赤い花と青い花のやつ。進化論はダーウィン」
「ああ、それそれ。そのおっさん」
 おっさん扱いに、春原先生がガクーッと肩を落とす。
「冗談抜きで、もし万が一そんな事にでもなったら、どこかの宗教団体がうるさく抗議してきそうだな」
「爆弾で特攻してきそうなところもあるよねえ」
「それより、人体実験とか解剖とかされたりしないよな」
「まさかあ・・・まさか、なあ?」
 俺も自信が無い。
「まあ、解剖は流石にないよねえ?」
 真理の目が泳いでいる。
「人体実験はあるかもね・・・。まあ、今も半分そんなもんだけど」
 春原先生が恐ろしい事を笑顔で言う。
 俺達は引き攣り笑いをしながら、医務室を出た。



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