ディメンション・アクシデント

JUN

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滅びゆく世界とかつて滅んだ世界

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 熱風が叩きつけるように吹き付け、地面からは陽炎がたつ。
 ロイナスは隠すように置いていたバイクに近付き、キヨを担いだまま飛び乗った。
「どこに行くつもりだ、クソ熱い中を」
 篁文は舌打ちをひとつして言った。
 それが分かったわけではないだろうが、ロイナスは、
「神聖な戦いの邪魔をする者は、谷の底に落とす決まりだ。恥知らずの重罪人だからな。いつもなら鳥にゆっくりとついばまれて死んでいくが、この女は楽だ。この熱で、すぐに焼け死ぬのだからな!」
と憎々し気にキヨを見て言い、
「その後で、貴様と続きをやり合う!」
と声を張り上げた。
「そうは行くか」
 崩れかけた無人の街を走って行くバイクを追って、篁文も走り出した。
 内乱でもあったのか、道はいたるところが瓦礫で塞がれ、バイクはスピードを出す事も、真っすぐに走る事もできないらしい。
 目的地と思われる断崖に向かって遠回りしながらバイクが走って行くのを、篁文は直線に、瓦礫を超え、建物に飛び乗り、塀の上を走り、追随して行く。
 キヨが目を覚ましたらしく、ギョッとしたようにした。
 篁文と目が合う。
 そこで篁文は、塀の上から飛び降りた。
 陰と気配に気づいて上を見上げたロイナスは、篁文を見てギョッとしたようだったが、バイクごと引き倒されて熱い地面に転がった。
 火傷をするんじゃないかと思うくらいに地面が熱い。
 すぐに起き上がると、ロイナスも起き上がってきたところだったが、足元がフラフラとおぼつかない。
「なんて、無茶をしやがる。楽しいやつだな!」
「お前、おかしいよ」
 笑うロイナスに、すぐに攻撃を仕掛けて行く。
「うおっ!?」
 ロイナスは、先程とは違うスピードとパターンの攻撃に、戸惑ったようだ。その中で、腕を跳ね上げて殴りかかると見せて、蹴りを放って来る。
 篁文は回り込んで軸足を蹴り飛ばし、地面に倒れ込んだロイナスを殴って失神させた。
「それはさっき見たから、俺には効かない」
 キヨは体を起こしてそれを見ていたが、ゴクリと唾を呑んだ。
「折れたりしていないか?」
「大丈夫。どうするの」
「こいつを穴の向こうに放り込もう。
 とは言っても、どうやって運ぼうか」
 見廻す。廃墟に色々ころがってはいるが、車は錆び、タイヤなどはかけていた。このバイクは、寄せ集めた部品と燃料でどうにか動かしていたなけなしの1台だったのだろう。
「あれは?」
 キヨがベビーカーのような物を引きずって来た。
 そこにロイナスをはめるように乗せると、そのビジュアルは冗談以外の何ものにも見えない。
「ぷっ。い、急ごう」
「くくく、そうだな」
 キヨがバイクを運転し、後部座席に後ろ向きに乗った篁文が、ベビーカーを引く。
 そうして次元トンネルに戻り、穴の向こうにとびこんで、バイクとベビーカーを転がすようにして乗り捨てる。
「ううっ……!」
 意識を取り戻したロイナスが起き上がる前に次元トンネルに戻る。
「待て!!貴様それでも戦士か!!」
「目的は殺す事じゃない」
「甘い!甘いな!」
「何とでも。しかし、奪いに来ると言うのなら、何度来ても俺達はお前達を追い返す!何度でもだ!」
「クウウッ!決着を付けろ!」
「お前はリーダーだろう。これからお前が必要なんじゃないのか」
「何を!?」
 篁文とキヨが穴の向こうに後退し、ロイナスが他のテグシナ人達に囲まれる。
 そこで、紗希とセレエの仕掛けた特殊な爆薬が炸裂し、次元移動のシステムがスタートする。
「待てェェェ!!」
 マヒしていた副官を含む数名に翻訳機をつけさせて穴の向こうの事をショウやドルメらが説明しておいたので、その提案を呑んだ彼らは、ロイナスを引き留めるように腕を掴んだ。
「離せェ!」
「だめだ!ここで生きて行こう。ここを新天地に、またテグシナを発展させて行こう!」
「負けじゃない!俺達の執念と祈りが引き寄せた奇蹟だ!」
 何か言いかけて口をつぐむロイナスとすがるように彼を見るテグシナ人達は、塞がって行く次元トンネルの向こうに隠れていき、やがて見えなくなった。
「行ったであるなあ」
 ドルメが溜め息をつくように言った。
「助かったぁ」
 セレエが座り込む。
「篁文!大丈夫!?」
 泣きそうになりながら走って来たのは紗希だ。
「ああ、大丈夫だ。かすり傷と打撲が少々だ。どうって事はない。
 それよりキヨは大丈夫か?走ってるバイクを引き倒したからな。肋骨とか本当に大丈夫か」
「ええ!?何があったの!?」
 パセが目を丸くして、耳をピンと立てる。
「やれやれ。戦闘種族の異世界人はこりごりだ」
 ショウが溜め息をついて、部屋に戻る事にした。



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