ディメンション・アクシデント

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対人戦闘

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 警戒を続けながら、ヨウゼ、沢松、ショウは迷っていた。未成年者である篁文を、このままテグシナ人との戦いに参加させるべきか否か。
 特殊次元庁に関しては法律が整えられ、次元トンネル内、或いは敵性生物が日本に出て来た場合に限り、職員は武器を携帯、または使用する事ができる。
 しかし、倫理的には、大人として気が咎める。
「本人に訊きますか」
「篁文が、ここで投げ出して『降りる』とか言うわけがないですよ。何せ、地球に帰れる所を、1人残ったくらいですからねえ」
 ショウが言うのにヨウゼが苦笑を浮かべて答えると、沢松の顔にも苦笑が浮かんだ。
「やれやれ。
 あの戦闘種族には通常武器も通じるでしょう。自衛隊を当ててもいい。
 とは言え、狭いからな。最初にざっと減らすくらいしかやりようはないか」
 ううむと3人で考え込む。

 全員で、セレエの説明を聞いていた。
「原理はよくわからないけど、要するに、あの穴は塞げるのね?」
 パセの質問にセレエは頭をかきむしって、
「これだけ丁寧に説明を――ああ、まあいいや。その通りだよ。穴の所にこの起爆装置をセットして、次元移動の装置を使えば行けるよ。たぶん」
 たぶんのところにうっすらと不安を感じなくも無いが、セレエとルルカの言う事を、疑う者はいなかった。
「じゃあ、まずは大トカゲだけでも片付けようか」
 ショウが言うのに、篁文が待ったをかけた。
「穴の向こうは、一応生存可能なんですよね。水はあるが、食料はありそうですか」
「木とか草とかが生えている地域があったわ。あと、水の中に魚がいるみたい」
「だったら、テグシナ人に入植して貰えばいいんじゃないですか」
 それには、各々が微妙な顔をした。
「それはそうだけど、あの戦闘種族がそう大人しく、『ちょうどいいな、じゃあ』ってなる?」
 紗希が懐疑的な声を上げる。
「まあ、そう言ってくれればいいであるがなあ。無理に殺す事もないであるし」
「戦って死ぬなら本望!とか言いそうだわ」
 キヨも顔をしかめた。
「一応、交渉を1回だけでもしたらだめかな。向こうには、非戦闘員だっていたし。大トカゲの警戒を同時にしないといけないから、危険が増すけど。それでも、ひとつの惑星の生命が滅ぶというのは、とても大きい、取り返しのつかない事だと思うから」
 皆はしばらく考えた。
「大トカゲは吾輩に任せるである。穴の所に貼りついていれば、どうにかできるであるよ」
 ドルメが笑って請け負った。
「そうね。非戦闘員だけでも助けられたらいいわね」
 パセが耳をピンと立てた。
「皆の意見を聞いておきたいである」
 ショウは頷いた。
「俺は賛成だ」
「話してだめだったら、その時は殺し合うので構わないんですね」
 キヨが訊いて、沢松とヨウゼが頷く。
「このメンバー、我々の国の安全が優先です。篁文も、いいですね」
「はい」
「では、それで行こう」
 方針は決まった。
 しかし、言っておいてなんだが、ロイナスがこの提案を呑むとは考えにくいと、篁文も思っていた。

 キヨは篁文と紗希を呼び止め、更衣室に引き込んだ。ここくらいしか、3人になれる所が近場に思い浮かばなかったのだ。
 女子更衣室という事で躊躇した篁文も、キヨの真面目な表情に、黙って従った。
「篁文、私を覚えている?」
 真っ直ぐに自分を見てそういい切り出すキヨを、篁文はじっくりと見た。
「……どこかで会った事がありましたか?」
 紗希は、聞いていないフリをしなければいけないので、ううむと唸って腕を組んで眉を寄せる。
「私が中学生、篁文は小学生だったから、まあ、見た目も変わってるし、わからないとは思う。
 古武道の全国大会で当たった事があるのだけど」
「大会なら1度しか出た事がないな」
「そうなの!?」
「ああ。爺さんに何でも経験しておけと言われて1度は出た。そこで?」
 全く記憶がない。篁文はむしろその後の泊りがけの天体観測こそがメインだったのだ。
 キヨもそれがわかっているのか、苦笑した。
「当時私は天才武闘少女と持ち上げられてテングになっていた。それが、2回戦で篁文と当たって、あっさりと負けた。
 負けたのもショックだったけど、それ以上に、篁文が勝ちにこだわらず、その後の天体観測にこそ意識が向いているとわかった事こそがショックだった。こんな年下の天体観測の片手間にやってる子に自分は負けたのかと」
「ああ……それは……すみませんでした。その……」
 篁文は気まずそうに頭を掻いた。
「こんな才能の子を別の事に夢中にさせているのが紗希だと思って、イラッとしていた」
「ひえっ!?いや、私は」
「わかっているわ。駐車場での会話を聞いたから。
 篁文の才能に、私は嫉妬し、羨望し、負けが怖くなって逃げ出した自分に絶望した。その八つ当たりを篁文と紗希に思いがけなく会った事でぶつけてしまった。
 ごめんなさい」
 キヨが頭を下げ、慌てたのは篁文と紗希だ。
「あ、頭を上げて下さい」
「そうですよう!」
「俺はそんな大したもんじゃないです。むしろ、真面目に打ち込んでる人に申し訳ない」
 キヨは頭を上げた。
「なぜ大会に出ないの?」
 キヨはまっすぐに険の無い目で見、篁文は困った。
「古武道は祖父の影響で始めて、面白いし好きだけど、俺にとっては、体力作りとか趣味とかそういうものなんです。すみません」
「いや、謝る事はないわ。そうか。考え方や取り組み方はそれぞれだしね。
 とにかく済まなかったわ。話してスッキリした」
 キヨは初めて笑った。
「トレーニングに、時々付き合ってくれると嬉しい」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。自衛隊の体術も興味深い」
「紗希もよろしく頼みます」
「勿論、こちらこそ!組み手とかはできないけど、今度一緒にスイーツバイキングとか行きましょ!」
「いいわね。甘いものは私も大好きよ」
 スイーツ情報の交換を始める2人を見て、篁文はホッとしていた。

 ロイナス率いるテグシナ人達が、次元の向こうから姿を見せる。そしてその次元接触ポイントの向こうから、熱い、真夏の熱風どころではない空気が流れて来ていた。
 彼らテグシナ人達の最前列に、ロイナスは不敵な笑みを浮かべて立っている。
 他のテグシナ人達は、決意をみなぎらせてような顔付きで、手に手に槍や剣、ナイフ、石斧などを持っている。
「銃もあるんだな」
 小声でショウが言う通り、ロイナスは小銃を腰に巻いたホルスターに突っ込んでいる。
「銃の形は、どこもほぼ同じになるんですね」
 キヨがそう言う。
 手で握って相手に向けて撃つ。そういう使い方を考えると、自ずとデザインは似て来るのだろう。
「貴様らの国をいただく!」
 ロイナスが宣言する。そして、
「止めたければ戦え!力こそすべて!力なきものに語る資格なし!」
と、会話を拒んだ。
「戦士として、お相手いたすである」
 ドルメが言って、槍をキュッと握って構える。
 そして、戦端が開かれた。




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