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挫折
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紗希は、撮った写真を見ながら口を尖らせた。
「私、そんなにだめかなあ」
篁文は一緒にパソコンで写真を見ながら、チラッと紗希を見た。
「何か言われたのか」
「キヨが……」
心の中で、やっぱり、と呟く。
「広報ならプロに任せた方がもっと上手くホームページも作れるだろうし、日本人を立ち入らせないにしても、アクシル人にプロはいるでしょって」
言って、今度は落ち込むと、篁文を見上げる。
「篁文はどう思う?」
篁文は困った。
戦闘では役に立たない。オペレーターとしてはセレエやルルカがいるし、処理班も無理そうだ。そう思って広報を言い出したのだが……。
改めてパソコンを見る。
「アクシルの紹介を時々入れたホームページは、評判がいいらしいな」
「そんなの、アクシル人の人が観光ガイドを書いたら同じだもん」
「そうか?地球人、日本人の感じる興味や違和感、懐かしさや共通点。そういうのがわかるのは、どちらも知る紗希だからだろう。紗希だからこの記事が書けたんだと思うが」
篁文が言うと、紗希は画面を見て、篁文を見て、相好を崩した。
「へへへ。そうかなあ。そうだよねえ。ありがとう!」
「いや」
言いながら、こういうのを、キヨは甘いと怒るんだろうな、と篁文はチラッと思った。
ショウはすっかり馴染んだが、キヨはどことなく刺々しい。特に篁文と紗希に当たりがキツイのには、篁文でなくとも気付いていた。
「キヨは気にするな。バイトで、気に入らないんだろう。心配してくれているのかもしれないしな」
「ええー」
「紗希はいつも通りにしてろ」
紗希は渋々納得して、篁文の差し出すシュークリームにかぶりついた。
ウリ坊。イノシシの子供だ。今回出て来たのは、見た目はこのウリ坊にとてもよく似ていた。
「煮たら美味いであるかな」
「こっちにもあるよ。牡丹鍋と言って、味噌味の鍋物」
「ほう。試してみるであるかな?」
「血が赤ければ味も似てるかもな」
ドルメと篁文が、揺らぐ次元の向こうからこちらを覗き込んでいる異世界生物を見ながら話すのを、キヨは苦々しく聞いていた。
最近、ショウや沢松まで同じような腑抜け具合だと、キヨは面白くない。
訓練で射撃や近接戦をすれば、ショウや沢松はともかく、高校生の筈の篁文が互角の成績を出して、キヨはイライラしていた。ドルメは近接戦では強く、パセは射撃が得意で、こちらなら互角の成績を出して来る。
しかし、この2人はまあいい。故郷では戦士と警備員らしいので、プロだ。負ければ悔しいとは言え、納得はできる。
キヨは篁文をジロリと横目で見た。こいつに負けるのは嫌だ、そう思う。
「まずは距離のあるうちに銃で減らして――」
「この程度!」
キヨは出て来たウリ坊にスティックを振り回しながら突撃して行った。
「おい!?」
ショウがギョッとしたように声をかけるが、もう遅い。
「では、接近戦で」
篁文が言って、ドルメははははと笑った。
「元気でいいであるな!」
そして、最初から乱戦が始まった。
キョは、1匹でも多く、少しでも大きいものをと、前へ進んで行く。
「キヨ!突出して囲まれてるぞ!」
篁文が言うのも耳に入らない。夢中だった。
目の前に直進して走って来たウリ坊を槍で突こうとしたが、そのウリ坊がいきなり消えた。
「え?」
棒立ちになったところに、横、後ろから気配が肉薄した。そして、頭上に影を感じる。
「跳んだ!?」
ウリ坊はほぼ予備動作なしでかなりのジャンプができるらしいが、こんなのは、地球のウリ坊には無理だ。
逃げるにも、周囲はウリ坊だらけで逃げ場がない。
キヨが青ざめた時、頭上のウリ坊が膨張して破裂し、近付いていたウリ坊が爆ぜ、切り殺される。
「バカ者が!!」
ショウが怒鳴り、篁文、ドルメ、パセがせっせと周囲のウリ坊を排除していく。
「あ……」
「話は後だ!」
「とにかく排除が先である!」
キヨは唇を噛んで、戦闘に復帰した。
次元が離れ、ウリ坊も全てを片付けると、シャワーを浴びてから部屋に集まる。
「緑の血だったな」
「うむ。食うのはやめた方がいいであるかな」
「どうして緑なんだろうな。どういう血液なんだろう」
「篁文はそういうのに意外と興味を示すよな」
ショウ、ドルメ、篁文、セレエが言い合っているのが見えて、キヨは胃の辺りが重くなるのを感じた。
そのキヨの肩を、ポンと叩いてパセが笑う。
「男は早いねえ、シャワー」
それで、パセとキヨに気付いて彼らが顔を向ける。
「傷はないか?感染症の恐れもあるから、見逃すなよ」
ショウが声をかけるのに、
「はい、大丈夫です」
とキヨは答えるのが精一杯だ。
「集まりましたね」
ヨウゼと沢松が、飲み物を乗せたトレイを持った紗希と一緒に入って来る。
「今回も無事に、敵性生物を排除できました。お疲れ様でした」
紗希が飲み物を配る中、ヨウゼがまずそう言う。
「しかし、今回は危なかった」
沢松が言い、キヨは身が縮む思いがした。
「戦闘に酔って突出するなんて、新人かお前は。その行為が全体に危険を及ぼす事を知っているだろう。訓練で何をして来た」
ショウはかなり怒っていた。
「まあまあ。聞けば、自衛隊は長く実戦は無いのであろう?ルーキーみたいなものであるよ」
「異世界生物は、見た目は地球にいる動物に似ているくせに別物だから、だまされるんだ。これも慣れてきたら、違うものって意識が出て来るから」
「そうそう。まあ、ケガがなくて何よりよね。びっくり体験が洗礼みたいな?」
ドルメ、篁文、パセがそうとりなし、紗希が、
「疲れたら甘い物よ。
これ、向こうでよく食べてたの。美味しいのよ」
と、小さなタルトを配り歩く。
「あ!新商品!?」
「そう!ジャムの他にもカスタードが出たんだって!」
この店の常連だったパセと紗希が盛り上がる。
「今度も気を付けてくださいね、皆さん」
ヨウゼがニコニコとして言い、話は終わった。
キヨはタルトを齧ったが、甘い筈のそれは、どこか苦い味がした。
「私、そんなにだめかなあ」
篁文は一緒にパソコンで写真を見ながら、チラッと紗希を見た。
「何か言われたのか」
「キヨが……」
心の中で、やっぱり、と呟く。
「広報ならプロに任せた方がもっと上手くホームページも作れるだろうし、日本人を立ち入らせないにしても、アクシル人にプロはいるでしょって」
言って、今度は落ち込むと、篁文を見上げる。
「篁文はどう思う?」
篁文は困った。
戦闘では役に立たない。オペレーターとしてはセレエやルルカがいるし、処理班も無理そうだ。そう思って広報を言い出したのだが……。
改めてパソコンを見る。
「アクシルの紹介を時々入れたホームページは、評判がいいらしいな」
「そんなの、アクシル人の人が観光ガイドを書いたら同じだもん」
「そうか?地球人、日本人の感じる興味や違和感、懐かしさや共通点。そういうのがわかるのは、どちらも知る紗希だからだろう。紗希だからこの記事が書けたんだと思うが」
篁文が言うと、紗希は画面を見て、篁文を見て、相好を崩した。
「へへへ。そうかなあ。そうだよねえ。ありがとう!」
「いや」
言いながら、こういうのを、キヨは甘いと怒るんだろうな、と篁文はチラッと思った。
ショウはすっかり馴染んだが、キヨはどことなく刺々しい。特に篁文と紗希に当たりがキツイのには、篁文でなくとも気付いていた。
「キヨは気にするな。バイトで、気に入らないんだろう。心配してくれているのかもしれないしな」
「ええー」
「紗希はいつも通りにしてろ」
紗希は渋々納得して、篁文の差し出すシュークリームにかぶりついた。
ウリ坊。イノシシの子供だ。今回出て来たのは、見た目はこのウリ坊にとてもよく似ていた。
「煮たら美味いであるかな」
「こっちにもあるよ。牡丹鍋と言って、味噌味の鍋物」
「ほう。試してみるであるかな?」
「血が赤ければ味も似てるかもな」
ドルメと篁文が、揺らぐ次元の向こうからこちらを覗き込んでいる異世界生物を見ながら話すのを、キヨは苦々しく聞いていた。
最近、ショウや沢松まで同じような腑抜け具合だと、キヨは面白くない。
訓練で射撃や近接戦をすれば、ショウや沢松はともかく、高校生の筈の篁文が互角の成績を出して、キヨはイライラしていた。ドルメは近接戦では強く、パセは射撃が得意で、こちらなら互角の成績を出して来る。
しかし、この2人はまあいい。故郷では戦士と警備員らしいので、プロだ。負ければ悔しいとは言え、納得はできる。
キヨは篁文をジロリと横目で見た。こいつに負けるのは嫌だ、そう思う。
「まずは距離のあるうちに銃で減らして――」
「この程度!」
キヨは出て来たウリ坊にスティックを振り回しながら突撃して行った。
「おい!?」
ショウがギョッとしたように声をかけるが、もう遅い。
「では、接近戦で」
篁文が言って、ドルメははははと笑った。
「元気でいいであるな!」
そして、最初から乱戦が始まった。
キョは、1匹でも多く、少しでも大きいものをと、前へ進んで行く。
「キヨ!突出して囲まれてるぞ!」
篁文が言うのも耳に入らない。夢中だった。
目の前に直進して走って来たウリ坊を槍で突こうとしたが、そのウリ坊がいきなり消えた。
「え?」
棒立ちになったところに、横、後ろから気配が肉薄した。そして、頭上に影を感じる。
「跳んだ!?」
ウリ坊はほぼ予備動作なしでかなりのジャンプができるらしいが、こんなのは、地球のウリ坊には無理だ。
逃げるにも、周囲はウリ坊だらけで逃げ場がない。
キヨが青ざめた時、頭上のウリ坊が膨張して破裂し、近付いていたウリ坊が爆ぜ、切り殺される。
「バカ者が!!」
ショウが怒鳴り、篁文、ドルメ、パセがせっせと周囲のウリ坊を排除していく。
「あ……」
「話は後だ!」
「とにかく排除が先である!」
キヨは唇を噛んで、戦闘に復帰した。
次元が離れ、ウリ坊も全てを片付けると、シャワーを浴びてから部屋に集まる。
「緑の血だったな」
「うむ。食うのはやめた方がいいであるかな」
「どうして緑なんだろうな。どういう血液なんだろう」
「篁文はそういうのに意外と興味を示すよな」
ショウ、ドルメ、篁文、セレエが言い合っているのが見えて、キヨは胃の辺りが重くなるのを感じた。
そのキヨの肩を、ポンと叩いてパセが笑う。
「男は早いねえ、シャワー」
それで、パセとキヨに気付いて彼らが顔を向ける。
「傷はないか?感染症の恐れもあるから、見逃すなよ」
ショウが声をかけるのに、
「はい、大丈夫です」
とキヨは答えるのが精一杯だ。
「集まりましたね」
ヨウゼと沢松が、飲み物を乗せたトレイを持った紗希と一緒に入って来る。
「今回も無事に、敵性生物を排除できました。お疲れ様でした」
紗希が飲み物を配る中、ヨウゼがまずそう言う。
「しかし、今回は危なかった」
沢松が言い、キヨは身が縮む思いがした。
「戦闘に酔って突出するなんて、新人かお前は。その行為が全体に危険を及ぼす事を知っているだろう。訓練で何をして来た」
ショウはかなり怒っていた。
「まあまあ。聞けば、自衛隊は長く実戦は無いのであろう?ルーキーみたいなものであるよ」
「異世界生物は、見た目は地球にいる動物に似ているくせに別物だから、だまされるんだ。これも慣れてきたら、違うものって意識が出て来るから」
「そうそう。まあ、ケガがなくて何よりよね。びっくり体験が洗礼みたいな?」
ドルメ、篁文、パセがそうとりなし、紗希が、
「疲れたら甘い物よ。
これ、向こうでよく食べてたの。美味しいのよ」
と、小さなタルトを配り歩く。
「あ!新商品!?」
「そう!ジャムの他にもカスタードが出たんだって!」
この店の常連だったパセと紗希が盛り上がる。
「今度も気を付けてくださいね、皆さん」
ヨウゼがニコニコとして言い、話は終わった。
キヨはタルトを齧ったが、甘い筈のそれは、どこか苦い味がした。
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