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自由の代償
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ジャーナリストコンビがひしゃげた金属塊に近付いた時、クラリとした眩暈を感じた。
「うわ。これ、もしかして」
「次元震とかいうやつかな。
しめた。出て来るぞ、異世界生物が」
カメラマンは、カメラを向けながら慌てた声を出した。
「まずいんじゃないですか。逃げないと」
「出て来てから走れば大丈夫だって。しっかり撮れよ。
国民は知る権利があるんだよ。俺達は、それを報道する義務がある。言論の自由を守るぞ」
「いや、確かにそうだろうけど、規制してるのは危険だからでしょ」
「いいんだよ。陰謀とか隠匿とか言えば受けるから」
言いながら見ている前で、次元交差ポイントが揺らぎ、亀のようなものとにわとりのようなものが姿を現した。
「見ろ、亀とにわとりだ。余裕で逃げられるだろ」
「亀とにわとりだもんな」
亀がそろりとトンネルに出て来、にわとりが2人を見付けて羽をばたつかせた。
2人は知らなかった。亀はのろいものと決めてかかっており、すっぽんなどはとても早く動くという事を。
何より、地球人が知っている動植物と似ていても、全く別物であると考えなくてはいけないという事をわかっていなかったのだった。
亀がこちらを向いたと思った次の瞬間、目の前に亀がいて、しゃがんで膝に乗せていた指に食いついていた。
「ギャアア!!痛い!!痛い、離せ!!」
手を振り回すと、亀が飛んで行く。
が、口には噛み千切った指がくわえられていた。
「うわああ!!」
そして、にわとりがふくらはぎにかぶりついた。
「何でにわとりが食いつくんだよお!!」
「だ、誰かあ!!」
ニワトリが豪快に肉を食いちぎって、鵜が鮎を飲み込むような感じでそれを飲み込む。
「ヒッ」
そしてそいつは2口目を狙い、ほかのにわとりや亀が、じりじりとこちらに近寄って来る。
「も、もうだめだ……!」
半泣きでカメラマンが言った時、前列にいたにわとりが急に大きく膨れ上がり、そして弾けた。
「――!?」
わからない言葉で喋りながら、大男が槍を振り回し、若い男が銃をしまってスティックに持ち替え、それを一振りした。シャッと金属の刀身が出る。
「今のうちに避難しますよ」
若い女と猫耳に言われ、ジャーナリストコンビは涙を流しながらガクガクと頷いた。
トンネルに入ってすぐのプラットホームから特殊次元庁の部屋に跳ぶと、ドルメとパセも来たところだった。それで、装備をつけて一緒に飛び出す。
『どうも日本側のジャーナリストらしい。警報機の線を切って侵入し、次元震に行き会ったようだ』
セレエが言う。
「自業自得よねえ」
パセが呆れたように言った。
『全くだ。でも、放って置くわけにもいかない』
セレエが肩を竦めているのが、見なくても想像できる。
「俺とドルメで対処、紗希が彼らを避難、できそうもなければ、檻で囲う。パセは彼らの警護を」
走りながら打ち合わせ、現場に飛び出す。
まさに、亀と鳥が食いつくところだった。その最前列のやつを撃ち、やつらの注意を引く。
「ドルメ、引き剥がすぞ」
「おうである!」
篁文とドルメが突っ込んで行き、そちらへ亀と鳥の注意がむいたところで、紗希とパセがジャーナリストコンビに近付いた。
「立てますか?」
「む、無理です。痛い」
記者は座り込んだままそう言い、カメラマンは泣きながらもカメラを戦いに向けていた。
「パセ、立てないって」
「わかった。じゃあ、ここに柵を張ろうよ。あたしはその間ガードしてるから」
紗希はパセに背を向けて、ジャーナリストコンビの周りに柵を張った。
向こうでは、篁文とドルメが亀と鳥を切りまくっている。
次元が落ち着き、敵性生物も全部片付いたのは、間もなくの事だった。
『怪我人は大丈夫か?』
セレエが訊いて来る。
「右手人差し指が食いちぎられてるのと、左ふくらはぎを大きく食いちぎられてるな。意識はあるし、毒とかは無いかな。
カメラマンの方は取り敢えず無傷みたいだ。
どうする?手当と事情聴取」
『救急車をトンネル出口に呼んだから、日本の病院に搬送しよう。今キャリーベッドをそっちにやった。
無傷の方はパトカーに乗せてくれ。警察には事情を知らせておいたから。
それと、現場検証の警官を入れるから、万が一のために待機を続けてくれ』
日本側の現場責任者として赴任して来た沢松がそう言う。
沢松は陸上自衛隊の幹部だが、こちらに出向して来た男だ。あっさりとしていて、篁文達にとっては兄貴のような感じで、ドルメとは年も近いし気も合うらしく、すぐに友人になった。
それを篁文は、皆にアクシル語で伝えた。
泣きわめくジャーナリストコンビは、外の報道陣とパトカーを見て、更に喚き出した。
「言論の自由を奪うつもりか!?知る権利を阻害している!」
ドルメとパセには、紗希が通訳してやっているので、篁文は溜め息をついて言った。
「自由は結構だが、かなりの危険を伴うのはわかってますか?俺達の到着が20秒遅かったら、あなた、指とふくらはぎどころじゃなく、命を落としてましたよ。
それに、警報機を壊していますよね。そのせいで敵性生物が街中に出ていたら、どう責任を取るつもりですか」
「そ、れは……」
「詳しくは警察で訊くからね」
警官に冷たく言われて、彼らは救急車とパトカーに分かれて乗った。
「現実がわかっていないであるな」
「一発で死ぬわね、ああいうやつって」
「迷惑よね。警報機も直さなくちゃ」
「あ。現場検証の間、次元震があったら困るから、このまま待機らしい。残業だな」
救急車とパトカーを見送って、中へ入る警官達と一緒に皆はトンネル内へ引き返した。
「うわ。これ、もしかして」
「次元震とかいうやつかな。
しめた。出て来るぞ、異世界生物が」
カメラマンは、カメラを向けながら慌てた声を出した。
「まずいんじゃないですか。逃げないと」
「出て来てから走れば大丈夫だって。しっかり撮れよ。
国民は知る権利があるんだよ。俺達は、それを報道する義務がある。言論の自由を守るぞ」
「いや、確かにそうだろうけど、規制してるのは危険だからでしょ」
「いいんだよ。陰謀とか隠匿とか言えば受けるから」
言いながら見ている前で、次元交差ポイントが揺らぎ、亀のようなものとにわとりのようなものが姿を現した。
「見ろ、亀とにわとりだ。余裕で逃げられるだろ」
「亀とにわとりだもんな」
亀がそろりとトンネルに出て来、にわとりが2人を見付けて羽をばたつかせた。
2人は知らなかった。亀はのろいものと決めてかかっており、すっぽんなどはとても早く動くという事を。
何より、地球人が知っている動植物と似ていても、全く別物であると考えなくてはいけないという事をわかっていなかったのだった。
亀がこちらを向いたと思った次の瞬間、目の前に亀がいて、しゃがんで膝に乗せていた指に食いついていた。
「ギャアア!!痛い!!痛い、離せ!!」
手を振り回すと、亀が飛んで行く。
が、口には噛み千切った指がくわえられていた。
「うわああ!!」
そして、にわとりがふくらはぎにかぶりついた。
「何でにわとりが食いつくんだよお!!」
「だ、誰かあ!!」
ニワトリが豪快に肉を食いちぎって、鵜が鮎を飲み込むような感じでそれを飲み込む。
「ヒッ」
そしてそいつは2口目を狙い、ほかのにわとりや亀が、じりじりとこちらに近寄って来る。
「も、もうだめだ……!」
半泣きでカメラマンが言った時、前列にいたにわとりが急に大きく膨れ上がり、そして弾けた。
「――!?」
わからない言葉で喋りながら、大男が槍を振り回し、若い男が銃をしまってスティックに持ち替え、それを一振りした。シャッと金属の刀身が出る。
「今のうちに避難しますよ」
若い女と猫耳に言われ、ジャーナリストコンビは涙を流しながらガクガクと頷いた。
トンネルに入ってすぐのプラットホームから特殊次元庁の部屋に跳ぶと、ドルメとパセも来たところだった。それで、装備をつけて一緒に飛び出す。
『どうも日本側のジャーナリストらしい。警報機の線を切って侵入し、次元震に行き会ったようだ』
セレエが言う。
「自業自得よねえ」
パセが呆れたように言った。
『全くだ。でも、放って置くわけにもいかない』
セレエが肩を竦めているのが、見なくても想像できる。
「俺とドルメで対処、紗希が彼らを避難、できそうもなければ、檻で囲う。パセは彼らの警護を」
走りながら打ち合わせ、現場に飛び出す。
まさに、亀と鳥が食いつくところだった。その最前列のやつを撃ち、やつらの注意を引く。
「ドルメ、引き剥がすぞ」
「おうである!」
篁文とドルメが突っ込んで行き、そちらへ亀と鳥の注意がむいたところで、紗希とパセがジャーナリストコンビに近付いた。
「立てますか?」
「む、無理です。痛い」
記者は座り込んだままそう言い、カメラマンは泣きながらもカメラを戦いに向けていた。
「パセ、立てないって」
「わかった。じゃあ、ここに柵を張ろうよ。あたしはその間ガードしてるから」
紗希はパセに背を向けて、ジャーナリストコンビの周りに柵を張った。
向こうでは、篁文とドルメが亀と鳥を切りまくっている。
次元が落ち着き、敵性生物も全部片付いたのは、間もなくの事だった。
『怪我人は大丈夫か?』
セレエが訊いて来る。
「右手人差し指が食いちぎられてるのと、左ふくらはぎを大きく食いちぎられてるな。意識はあるし、毒とかは無いかな。
カメラマンの方は取り敢えず無傷みたいだ。
どうする?手当と事情聴取」
『救急車をトンネル出口に呼んだから、日本の病院に搬送しよう。今キャリーベッドをそっちにやった。
無傷の方はパトカーに乗せてくれ。警察には事情を知らせておいたから。
それと、現場検証の警官を入れるから、万が一のために待機を続けてくれ』
日本側の現場責任者として赴任して来た沢松がそう言う。
沢松は陸上自衛隊の幹部だが、こちらに出向して来た男だ。あっさりとしていて、篁文達にとっては兄貴のような感じで、ドルメとは年も近いし気も合うらしく、すぐに友人になった。
それを篁文は、皆にアクシル語で伝えた。
泣きわめくジャーナリストコンビは、外の報道陣とパトカーを見て、更に喚き出した。
「言論の自由を奪うつもりか!?知る権利を阻害している!」
ドルメとパセには、紗希が通訳してやっているので、篁文は溜め息をついて言った。
「自由は結構だが、かなりの危険を伴うのはわかってますか?俺達の到着が20秒遅かったら、あなた、指とふくらはぎどころじゃなく、命を落としてましたよ。
それに、警報機を壊していますよね。そのせいで敵性生物が街中に出ていたら、どう責任を取るつもりですか」
「そ、れは……」
「詳しくは警察で訊くからね」
警官に冷たく言われて、彼らは救急車とパトカーに分かれて乗った。
「現実がわかっていないであるな」
「一発で死ぬわね、ああいうやつって」
「迷惑よね。警報機も直さなくちゃ」
「あ。現場検証の間、次元震があったら困るから、このまま待機らしい。残業だな」
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