ディメンション・アクシデント

JUN

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大激震

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 アクシルも戦争と無関係ではいられない。確実な次元移送のノウハウを奪取する事を狙ってか、その手段を叩き潰しておこうというつもりか、特殊次元対策課と研究所は攻撃目標になった。
 いつかの朝、トレーニング帰りにトラックで押しかけて来た集団は見かけたが、今度は堂々とザイネの軍服を着ていた。
 アクシルの軍人達が応戦しているが、その間にも次元震は確認される。
 篁文は1人で脱出し、走って近くのパトカーに合流して、現場に向かった。
 接触次元から出て来たのは敵意満々のイノシシのような敵性生物で、撃ち、切る。辺りは、血と飛び散った肉片、転がった原型のわかる死体、中途半端に体が無くなっている死体でいっぱいだ。
 しかもそこへザイネの小隊が現れ、武器を奪取しようと攻撃してくる。
 こういう時こそ雄叫びを上げてマヒさせるサル型がいればいいのに、上手く行かないものだ。
 ザイネの攻撃が檻を作るロボットを直撃し、檻が切れた。
「うわ、何だ!?」
「撃て、撃て!」
 イノシシはザイネの兵士に向かって行った。
 ザイネ兵は自動小銃を撃つが、それで仕留められるなら特殊次元対策課はできていない。篁文はウンザリする思いで片っ端から銃で撃って行った。
 イノシシが膨張し、破裂する。
 それを近くにいたザイネ兵はもろに浴びる事になる。
「う……うわああ!」
 腰を抜かす者もいれば、吐く者もいるし、失神する者もいた。
 残った者は気圧されたように篁文を見た。
「し、死神……」
 篁文は無表情の下で、殺し屋から死神になったか、と呑気に考えていた。
「う、殺せ!撃て!」
 指揮官が裏返った声を張り上げるのに、銃を向ける。
 全員が蒼白になった。
 が、勿論スタンモードだ。発射音の後、爆散するでもなく痙攣して倒れる指揮官を凝視する兵達を、なるべく古参と思われる者から倒していく。
 指揮できる者がいなくなったところでアクシルの軍が連絡を受けて現れ、彼らは全員捕縛されて行った。
「俺も人に銃を向けてしまったな」
 篁文は小さく嘆息して、対策課に戻って行った。

 ヨウゼはいつも通りに戻って来た篁文に安堵の息をついて、それから腹立たし気に言った。
「この行いは、戦後問題になりますよ。いえ、します」
「大丈夫?」
「俺は平気ですよ。でも、今後も邪魔をされるのは困りますね。取り敢えず、ロボットの修理はできますか」
「問題ないわ。予備もあるしね」
 やれやれとコーヒーを啜った時、視界がぶれるほどの何かが起こった。
 次元震の検出を感知して狂ったように警報機が鳴り響く。
「何だ、一体」
 覚えのある独特の眩暈だ。
「これは、地球からアクシルへ来た時の眩暈に似ています」
 篁文もヨウゼもルルカも膝をついている。この対策課に起こっている事なのかと思ったが、廊下でも悲鳴がしていた。
「大変だわ!」
 端末をいじっていたルルカが、血相を変えている。
「ダイガに次元移送の次元震が見られたのでミンサも報復のために次元移送で爆弾を発射――でいいのかしらね。そう、速報が出ているわ。
 それがもしかしたら、どこかでぶつかるか何かしたのかしら。それに、次元接触も起こっていたら?」
 3人はお互いに黙っ考えた。
「途中でぶつかるものなのかね?」
「わからないわ。わかっている事の方が少ないのが次元よ」
「よくわからないまま使うのは良くないですよ。取扱説明書はよく読んでから」
「面倒じゃないの。よっぽどじゃないとわかるもの」
「ルルカ、勘で使うと思わぬ事故が起こりますよ」
「い、今はそういう事を言ってる場合じゃないでしょ!」
 そう文句を言うルルカとヨウゼは、篁文よりも顔色が悪い。副脳のあるラクシー人の方が、こういうものに弱いのかも知れないと篁文は思った。
「とにかく、次元震の現場に行きます」
 篁文が立ち上がると、ヨウゼとルルカは止めた。
「何もわからなくて危険すぎるわ!」
「これ以上の危険を、篁文に背負わせることは反対だ。やめなさい」
「ありがとうございます。でも、このままだと、気になるじゃないですか」
 篁文は部屋を出て分析室に行くと、倒れた職員の間から次元震の中心地点を表す地図を見て取る。どうも、この研究所の至近距離らしい。
 装備一式を着けて、とりあえず外へ出た。



 
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