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務所仲間
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篁文とヨウゼとルルカは、軍の隣り合った反省房に入っていた。
「どうするんですか、これから」
「さあ。どうするか決めるのは俺達じゃなくて向こうですよ」
「それもそうですね」
篁文の返事に、ヨウゼもその通りだと納得したらしい。ルルカだけが、
「呑気というか、ああ、もう」
と言い、頭を掻いた。
「でも、どうして残ったんです。ただでさえ次元接触が多発して、篁文1人にかかって来るのは目に見えてるでしょうに。それに、戦争がいよいよ本格化するのは時間の問題です。そうなれば、どうなるかわかったものじゃない」
「課長がそれを言っちゃあだめでしょう」
篁文は肩を竦めた。
「やっぱり、責任、ですか。ドルメもパセも、ここが体に合わなくて危険だったから仕方ない。あいつらを向こうに蹴り帰したのは正しかったと思ってます。紗希も無事に帰したかったし、セレエも、後悔はしてませんよ。
でも、それでもやっぱり、ここの一般人が危ない目に遭うのを関係ないとするのは、無責任な気がして」
「バカねえ。あんた達は巻き込まれた被害者なのに。
殺し屋みたいな威圧感でいて、とんだお人好しね」
「え。俺、こっちでも殺し屋って言われてるんですか?」
「知らなかったの?」
「まあ、でも、殺し屋みたいでかっこいい、キャー、みたいな?」
ヨウゼが必死で慰めようとする。
「はああ。今更ですので、もういいですよ。
お人好しと言うなら、課長とルルカもでしょう」
「大人の義務です」
「科学者の責任よ」
「何だかんだ言って、皆似たもの同志だねえ」
「ムショ仲間ですから」
「臭い飯を食った臭い仲?」
3人でゲラゲラと笑った。
「でも、お家の方は心配してませんか。紗希から聞いて余計に」
ヨウゼが気づかわし気に言い、篁文は微かに笑った。
「さあ、どうでしょう。父も忙しくて顔を合わせる事も少ないし。うちは両親と俺、あんまり話もしないので」
「どういうお仕事を?」
「サラリーマンです。出張が多くて」
「へえ。お母様は」
「秘密なんですが、小説家なんです。いつも締め切りとか取材旅行とかで、忙しそうですよ」
「篁文の未成年にしては大人びたところというか、変に鈍感というか、クールなようでいてお人好しなところとか、そういう家庭環境のせいかしらね」
「鈍感は別でしょう、ルルカ」
「そうかしら」
ヨウゼとルルカはああだこうだと話しだし、篁文も入ってルルカの女度がどうの、胸の大きさの好みはこうのと言い合い、看守に
「うるさい!夜中なんだから、寝て下さい!あなた達は修学旅行の中学生ですか!」
と怒られるまで喋り続けた。
朝が来ると、簡単な朝食が出され、しばらくすると反省房から出されて、軍人と政府の偉い人が集まる場に連れて行かれた。
そこで、今度はお願いではなく命令で、以後は監視付きで敵性生物への対処を続ける事と言い渡された。GPS発信機の付いた首輪付きである。
「篁文……」
「うわお。ファッショナブルですよ」
「……そうですねえ。お揃いですねえ。イエーイ」
3人はふてぶてしく笑って、特殊次元対策課に出勤した。
仕事は確かに忙しい。1人になったというのは当然小さくないが、次元接触が頻発して起こるのが主な原因だ。
そしてその原因は、戦争である。
ルルカはガンとして偶然と祈りの結果だと主張して任意の次元接触を不可能だと言うが、地球人ならここの風土に合うし呼べないかとまで言い出す政治家がいたそうだ。ルルカがわざと解析できないようにしておかなかったら、新たな異世界人として地球人が呼ばれていたかもしれないと、ルルカもヨウゼも憤慨した。
そしてこの発言は、流石に世論でも受け入れられなくてバッシングを受けたが、戦争が長引き、次元接触が拡大でもすれば、どうなるかわからないと篁文は思う。
車を下りると、次元の裂け目を覆った檻が見えた。
「さあ、行くか」
篁文は、檻の中に入った。
「どうするんですか、これから」
「さあ。どうするか決めるのは俺達じゃなくて向こうですよ」
「それもそうですね」
篁文の返事に、ヨウゼもその通りだと納得したらしい。ルルカだけが、
「呑気というか、ああ、もう」
と言い、頭を掻いた。
「でも、どうして残ったんです。ただでさえ次元接触が多発して、篁文1人にかかって来るのは目に見えてるでしょうに。それに、戦争がいよいよ本格化するのは時間の問題です。そうなれば、どうなるかわかったものじゃない」
「課長がそれを言っちゃあだめでしょう」
篁文は肩を竦めた。
「やっぱり、責任、ですか。ドルメもパセも、ここが体に合わなくて危険だったから仕方ない。あいつらを向こうに蹴り帰したのは正しかったと思ってます。紗希も無事に帰したかったし、セレエも、後悔はしてませんよ。
でも、それでもやっぱり、ここの一般人が危ない目に遭うのを関係ないとするのは、無責任な気がして」
「バカねえ。あんた達は巻き込まれた被害者なのに。
殺し屋みたいな威圧感でいて、とんだお人好しね」
「え。俺、こっちでも殺し屋って言われてるんですか?」
「知らなかったの?」
「まあ、でも、殺し屋みたいでかっこいい、キャー、みたいな?」
ヨウゼが必死で慰めようとする。
「はああ。今更ですので、もういいですよ。
お人好しと言うなら、課長とルルカもでしょう」
「大人の義務です」
「科学者の責任よ」
「何だかんだ言って、皆似たもの同志だねえ」
「ムショ仲間ですから」
「臭い飯を食った臭い仲?」
3人でゲラゲラと笑った。
「でも、お家の方は心配してませんか。紗希から聞いて余計に」
ヨウゼが気づかわし気に言い、篁文は微かに笑った。
「さあ、どうでしょう。父も忙しくて顔を合わせる事も少ないし。うちは両親と俺、あんまり話もしないので」
「どういうお仕事を?」
「サラリーマンです。出張が多くて」
「へえ。お母様は」
「秘密なんですが、小説家なんです。いつも締め切りとか取材旅行とかで、忙しそうですよ」
「篁文の未成年にしては大人びたところというか、変に鈍感というか、クールなようでいてお人好しなところとか、そういう家庭環境のせいかしらね」
「鈍感は別でしょう、ルルカ」
「そうかしら」
ヨウゼとルルカはああだこうだと話しだし、篁文も入ってルルカの女度がどうの、胸の大きさの好みはこうのと言い合い、看守に
「うるさい!夜中なんだから、寝て下さい!あなた達は修学旅行の中学生ですか!」
と怒られるまで喋り続けた。
朝が来ると、簡単な朝食が出され、しばらくすると反省房から出されて、軍人と政府の偉い人が集まる場に連れて行かれた。
そこで、今度はお願いではなく命令で、以後は監視付きで敵性生物への対処を続ける事と言い渡された。GPS発信機の付いた首輪付きである。
「篁文……」
「うわお。ファッショナブルですよ」
「……そうですねえ。お揃いですねえ。イエーイ」
3人はふてぶてしく笑って、特殊次元対策課に出勤した。
仕事は確かに忙しい。1人になったというのは当然小さくないが、次元接触が頻発して起こるのが主な原因だ。
そしてその原因は、戦争である。
ルルカはガンとして偶然と祈りの結果だと主張して任意の次元接触を不可能だと言うが、地球人ならここの風土に合うし呼べないかとまで言い出す政治家がいたそうだ。ルルカがわざと解析できないようにしておかなかったら、新たな異世界人として地球人が呼ばれていたかもしれないと、ルルカもヨウゼも憤慨した。
そしてこの発言は、流石に世論でも受け入れられなくてバッシングを受けたが、戦争が長引き、次元接触が拡大でもすれば、どうなるかわからないと篁文は思う。
車を下りると、次元の裂け目を覆った檻が見えた。
「さあ、行くか」
篁文は、檻の中に入った。
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