ディメンション・アクシデント

JUN

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監視

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 篁文は、ヨウゼの前で、何を言っているのかわからないという風に首を傾けた。
「ジョギングもパルクールも古武術も、趣味であり、敵性生物排除のためのトレーニングでもあります」
 ヨウゼは困ったように笑って、チラリと部屋の隅に立っている監視役の軍人を見やった。
「ジョギングの途中で見失うと監視にならないそうでねえ」
「遅く走れと?」
「ううん。困ったねえ」
 ヨウゼが皮肉な目を彼らに向けると、彼らは歯ぎしりしそうな顔で、無表情を装おうとしていた。
 それに、篁文とヨウゼの横に立って2人の顔を等分に見ている軍服の男は、温度の無い声で言った。
「では、こうしよう。すぐそばに軍の訓練施設がある。ここなら都市を模した区画も、ジムも、陸上トラックもある。好きに使っていいし、なんなら、組み手の相手を特殊部隊員にでもさせよう」
 篁文はその男を正面から見返した。
 口元は笑っているが、目は相手の奥底まで見てやろうと言う感じだ。
 たかが未成年の小僧が。そう思っているのが、ありありと察せられる。
 篁文は、口元を少しだけ引き上げ、殺し屋と呼ばれた表情を向けた。
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
 彼らが部屋を出て行くと、ヨウゼと紗希とパセは、心配そうな顔を浮かべた。
「思い切ってケンカを吹っかけたねえ」
 篁文はケロリとしていた。
「すみません。でも、プロの体術は、いい訓練相手になります」
「特殊部隊員と組み手って大丈夫なの?」
「ここぞとばかりにうっぷん晴らしにされない?」
「強い相手でないと、訓練にならないだろう」
 紗希とパセは、顔を見合わせて肩を竦めた。
「それはそうと、これで3人になった。基本的に紗希とパセにも、中へ入ってもらう事になるが、いいだろうか」
 篁文が真面目な顔で2人に言う。
 紗希は動揺に目が泳ぎ、パセはフニャリと笑った。
「ただし、パセはとにかくケガに注意して、紗希は……まずは焦るな。危ないと思ったら距離を取って逃げろ。そうならないように、俺が何とか頑張ってみるつもりだが」
 パセは笑って、
「わかったわ。あたしを重病人扱いしないでよねえ」
と言う。
「やる時はやるのよ!ふふふ。華麗な銃裁きを見せてあげるわ」
 紗希が言うのに、篁文とパセが声を揃える。
「それが怖い」
 ヨウゼが向こうを向いて、肩を震わせていた。

 サイレンが鳴り、現場に向かう。ご苦労な事に、監視役の彼らも現場に一緒に車に乗り込んだ。
 車の中で何か相談でもしているのではという疑いのせいだ。
 いつも通り、装備を付け、椅子に座り、前の画面に映った地図で現場の位置を聞き、車が止まった所で降りる。
 檻は展開されており、その中で、不安定な景色が揺れていた。
「いいな。焦るな。前に出過ぎるな。攻撃するのも逃げるのも、常に他のメンバーの位置を把握しておけ」
「わかったわよう、もう!」
 紗希はむくれながらも、そう返事した。
 今回の接触次元は4つ。
 そこにルルカの恣意がはいっているかどうかは、今のところはわからない。続けさまと言うのはあからさまに過ぎるし、流石に監視の目は強いだろう。
 しかし、急がないと異動が先になるという事もありうる。
 こればかりは、ルルカ任せだ。
「必ず、日本へ帰す」
 小さく日本語で呟いて、篁文は檻の向こうに意識を集中させた。
 
 まず現れたのはいつものサル型と虫型で、銃でできるだけ片付けて行く。
 こちらに溢れるかどうかで片付けていると、犬のようなものが飛び出して来た。
 これはすばしこい。
「紗希はサル型、パセは虫型を担当してくれ」
 言いながら、ジャンプして来る犬を銃で撃っていく。接近されたものは、スティックに持ち替える。
「サルと虫は片付いたわよ、篁文」
「こいつは任せて」
 裂け目の向こうで窺う犬をパセが撃って、その死に方に怯んだのか、もうこちらに来る犬はいなくなった。
「ちょ、篁文!噛まれたの!?」
 紗希が目の色を変える。
「少し爪が当たっただけだ。
 それより紗希とパセは大丈夫か」
「大丈夫」
「ええ。ありがとう」
 揺らぐ景色が、次のものに変わって行く。
「変なのが出ませんように」
 紗希が言い、パセは白い顔で小さく笑った。




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