26 / 48
監視
しおりを挟む
篁文は、ヨウゼの前で、何を言っているのかわからないという風に首を傾けた。
「ジョギングもパルクールも古武術も、趣味であり、敵性生物排除のためのトレーニングでもあります」
ヨウゼは困ったように笑って、チラリと部屋の隅に立っている監視役の軍人を見やった。
「ジョギングの途中で見失うと監視にならないそうでねえ」
「遅く走れと?」
「ううん。困ったねえ」
ヨウゼが皮肉な目を彼らに向けると、彼らは歯ぎしりしそうな顔で、無表情を装おうとしていた。
それに、篁文とヨウゼの横に立って2人の顔を等分に見ている軍服の男は、温度の無い声で言った。
「では、こうしよう。すぐそばに軍の訓練施設がある。ここなら都市を模した区画も、ジムも、陸上トラックもある。好きに使っていいし、なんなら、組み手の相手を特殊部隊員にでもさせよう」
篁文はその男を正面から見返した。
口元は笑っているが、目は相手の奥底まで見てやろうと言う感じだ。
たかが未成年の小僧が。そう思っているのが、ありありと察せられる。
篁文は、口元を少しだけ引き上げ、殺し屋と呼ばれた表情を向けた。
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
彼らが部屋を出て行くと、ヨウゼと紗希とパセは、心配そうな顔を浮かべた。
「思い切ってケンカを吹っかけたねえ」
篁文はケロリとしていた。
「すみません。でも、プロの体術は、いい訓練相手になります」
「特殊部隊員と組み手って大丈夫なの?」
「ここぞとばかりにうっぷん晴らしにされない?」
「強い相手でないと、訓練にならないだろう」
紗希とパセは、顔を見合わせて肩を竦めた。
「それはそうと、これで3人になった。基本的に紗希とパセにも、中へ入ってもらう事になるが、いいだろうか」
篁文が真面目な顔で2人に言う。
紗希は動揺に目が泳ぎ、パセはフニャリと笑った。
「ただし、パセはとにかくケガに注意して、紗希は……まずは焦るな。危ないと思ったら距離を取って逃げろ。そうならないように、俺が何とか頑張ってみるつもりだが」
パセは笑って、
「わかったわ。あたしを重病人扱いしないでよねえ」
と言う。
「やる時はやるのよ!ふふふ。華麗な銃裁きを見せてあげるわ」
紗希が言うのに、篁文とパセが声を揃える。
「それが怖い」
ヨウゼが向こうを向いて、肩を震わせていた。
サイレンが鳴り、現場に向かう。ご苦労な事に、監視役の彼らも現場に一緒に車に乗り込んだ。
車の中で何か相談でもしているのではという疑いのせいだ。
いつも通り、装備を付け、椅子に座り、前の画面に映った地図で現場の位置を聞き、車が止まった所で降りる。
檻は展開されており、その中で、不安定な景色が揺れていた。
「いいな。焦るな。前に出過ぎるな。攻撃するのも逃げるのも、常に他のメンバーの位置を把握しておけ」
「わかったわよう、もう!」
紗希はむくれながらも、そう返事した。
今回の接触次元は4つ。
そこにルルカの恣意がはいっているかどうかは、今のところはわからない。続けさまと言うのはあからさまに過ぎるし、流石に監視の目は強いだろう。
しかし、急がないと異動が先になるという事もありうる。
こればかりは、ルルカ任せだ。
「必ず、日本へ帰す」
小さく日本語で呟いて、篁文は檻の向こうに意識を集中させた。
まず現れたのはいつものサル型と虫型で、銃でできるだけ片付けて行く。
こちらに溢れるかどうかで片付けていると、犬のようなものが飛び出して来た。
これはすばしこい。
「紗希はサル型、パセは虫型を担当してくれ」
言いながら、ジャンプして来る犬を銃で撃っていく。接近されたものは、スティックに持ち替える。
「サルと虫は片付いたわよ、篁文」
「こいつは任せて」
裂け目の向こうで窺う犬をパセが撃って、その死に方に怯んだのか、もうこちらに来る犬はいなくなった。
「ちょ、篁文!噛まれたの!?」
紗希が目の色を変える。
「少し爪が当たっただけだ。
それより紗希とパセは大丈夫か」
「大丈夫」
「ええ。ありがとう」
揺らぐ景色が、次のものに変わって行く。
「変なのが出ませんように」
紗希が言い、パセは白い顔で小さく笑った。
「ジョギングもパルクールも古武術も、趣味であり、敵性生物排除のためのトレーニングでもあります」
ヨウゼは困ったように笑って、チラリと部屋の隅に立っている監視役の軍人を見やった。
「ジョギングの途中で見失うと監視にならないそうでねえ」
「遅く走れと?」
「ううん。困ったねえ」
ヨウゼが皮肉な目を彼らに向けると、彼らは歯ぎしりしそうな顔で、無表情を装おうとしていた。
それに、篁文とヨウゼの横に立って2人の顔を等分に見ている軍服の男は、温度の無い声で言った。
「では、こうしよう。すぐそばに軍の訓練施設がある。ここなら都市を模した区画も、ジムも、陸上トラックもある。好きに使っていいし、なんなら、組み手の相手を特殊部隊員にでもさせよう」
篁文はその男を正面から見返した。
口元は笑っているが、目は相手の奥底まで見てやろうと言う感じだ。
たかが未成年の小僧が。そう思っているのが、ありありと察せられる。
篁文は、口元を少しだけ引き上げ、殺し屋と呼ばれた表情を向けた。
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
彼らが部屋を出て行くと、ヨウゼと紗希とパセは、心配そうな顔を浮かべた。
「思い切ってケンカを吹っかけたねえ」
篁文はケロリとしていた。
「すみません。でも、プロの体術は、いい訓練相手になります」
「特殊部隊員と組み手って大丈夫なの?」
「ここぞとばかりにうっぷん晴らしにされない?」
「強い相手でないと、訓練にならないだろう」
紗希とパセは、顔を見合わせて肩を竦めた。
「それはそうと、これで3人になった。基本的に紗希とパセにも、中へ入ってもらう事になるが、いいだろうか」
篁文が真面目な顔で2人に言う。
紗希は動揺に目が泳ぎ、パセはフニャリと笑った。
「ただし、パセはとにかくケガに注意して、紗希は……まずは焦るな。危ないと思ったら距離を取って逃げろ。そうならないように、俺が何とか頑張ってみるつもりだが」
パセは笑って、
「わかったわ。あたしを重病人扱いしないでよねえ」
と言う。
「やる時はやるのよ!ふふふ。華麗な銃裁きを見せてあげるわ」
紗希が言うのに、篁文とパセが声を揃える。
「それが怖い」
ヨウゼが向こうを向いて、肩を震わせていた。
サイレンが鳴り、現場に向かう。ご苦労な事に、監視役の彼らも現場に一緒に車に乗り込んだ。
車の中で何か相談でもしているのではという疑いのせいだ。
いつも通り、装備を付け、椅子に座り、前の画面に映った地図で現場の位置を聞き、車が止まった所で降りる。
檻は展開されており、その中で、不安定な景色が揺れていた。
「いいな。焦るな。前に出過ぎるな。攻撃するのも逃げるのも、常に他のメンバーの位置を把握しておけ」
「わかったわよう、もう!」
紗希はむくれながらも、そう返事した。
今回の接触次元は4つ。
そこにルルカの恣意がはいっているかどうかは、今のところはわからない。続けさまと言うのはあからさまに過ぎるし、流石に監視の目は強いだろう。
しかし、急がないと異動が先になるという事もありうる。
こればかりは、ルルカ任せだ。
「必ず、日本へ帰す」
小さく日本語で呟いて、篁文は檻の向こうに意識を集中させた。
まず現れたのはいつものサル型と虫型で、銃でできるだけ片付けて行く。
こちらに溢れるかどうかで片付けていると、犬のようなものが飛び出して来た。
これはすばしこい。
「紗希はサル型、パセは虫型を担当してくれ」
言いながら、ジャンプして来る犬を銃で撃っていく。接近されたものは、スティックに持ち替える。
「サルと虫は片付いたわよ、篁文」
「こいつは任せて」
裂け目の向こうで窺う犬をパセが撃って、その死に方に怯んだのか、もうこちらに来る犬はいなくなった。
「ちょ、篁文!噛まれたの!?」
紗希が目の色を変える。
「少し爪が当たっただけだ。
それより紗希とパセは大丈夫か」
「大丈夫」
「ええ。ありがとう」
揺らぐ景色が、次のものに変わって行く。
「変なのが出ませんように」
紗希が言い、パセは白い顔で小さく笑った。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
わたしは夫のことを、愛していないのかもしれない
鈴宮(すずみや)
恋愛
孤児院出身のアルマは、一年前、幼馴染のヴェルナーと夫婦になった。明るくて優しいヴェルナーは、日々アルマに愛を囁き、彼女のことをとても大事にしている。
しかしアルマは、ある日を境に、ヴェルナーから甘ったるい香りが漂うことに気づく。
その香りは、彼女が勤める診療所の、とある患者と同じもので――――?
【完結】バグった俺と、依存的な引きこもり少女。 ~幼馴染は俺以外のセカイを知りたがらない~
山須ぶじん
SF
異性に関心はありながらも初恋がまだという高校二年生の少年、赤土正人(あかつちまさと)。
彼は毎日放課後に、一つ年下の引きこもりな幼馴染、伊武翠華(いぶすいか)という名の少女の家に通っていた。毎日訪れた正人のニオイを、密着し顔を埋めてくんくん嗅ぐという変わったクセのある女の子である。
そんな彼女は中学時代イジメを受けて引きこもりになり、さらには両親にも見捨てられて、今や正人だけが世界のすべて。彼に見捨てられないためなら、「なんでもする」と言ってしまうほどだった。
ある日、正人は来栖(くるす)という名のクラスメイトの女子に、愛の告白をされる。しかし告白するだけして彼女は逃げるように去ってしまい、正人は仕方なく返事を明日にしようと思うのだった。
だが翌日――。来栖は姿を消してしまう。しかも誰も彼女のことを覚えていないのだ。
それはまるで、最初から存在しなかったかのように――。
※第18回講談社ラノベ文庫新人賞の第2次選考通過、最終選考落選作品。
※『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しています。

復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。


乾坤一擲
響 恭也
SF
織田信長には片腕と頼む弟がいた。喜六郎秀隆である。事故死したはずの弟が目覚めたとき、この世にありえぬ知識も同時によみがえっていたのである。
これは兄弟二人が手を取り合って戦国の世を綱渡りのように歩いてゆく物語である。
思い付きのため不定期連載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる