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共犯者
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ドルメを見舞ってから、特殊次元対策課に出勤する。無事な顔を見せないと、無理矢理対策課に来てしまうのだ。
そして、着いたら着いたで、今度はパセと紗希が待ち構えている。
「今日の廃病院、お化けは出なかった?」
「変な声がしたとか」
物凄く期待を込めた目で訊いて来る。
「……異常無しだ」
「つまんない」
「もしかしたら見落としかもよ、紗希」
「そうね。次からはウェアラブルカメラを着けて行ってよ、篁文」
「……お前ら、熱心だな」
篁文は呆れて嘆息して言った。
まあ、体力的にも辛くなっていっているパセが元気になり、紗希も笑うならそれでもいいかと、篁文は、カメラをルルカに言って貸してもらおうと決め、早速分析室に向かった。
ルルカは理由を聞いて、笑い出しながらも、カメラを棚から出して来た。
「どこも、怖い物見たさっていうのは同じねえ」
「ありがとうございます」
「ああ、ちょっと待って、篁文」
ルルカは篁文を呼び止め、言った。
「今日はドルメの調子がいいから、昼から復帰させるわ。だから、昼一の出動に連れて行って」
「そう、ですか?わかりました。じゃあ、念の為、檻の外で――」
「中にお願い」
「いや、でも……」
「お願いだから」
いやに真剣な顔をしてルルカが重ねて言う。
篁文はその推測に目を一瞬見開いて、それから、静かに答えた。
「わかりました」
紗希とパセには何も言わず、ただ昼からドルメを迎えた。
ドルメ自身も何も聞いていないようで、しきりに負担をかけたと詫び、無事な退院を紗希とパセと喜び合っていた。
そして、推測の通りにサイレンが鳴り、いつものように飛び出して行く。
今回は同時に2つだ。
現場は檻に覆われていて、まだ景色が揺らいでいるところで、安定化していなかった。
「吾輩も、腕が鳴るである!」
「無茶しないでよ、ドルメ」
「そうよ。病み上がりなんだからね」
「紗希もパセも、ありがとうである。しかし、もう大丈夫。寝ていて溜まった鬱憤を晴らすであるよ!」
ドルメはガハハハと笑い、両腕をグルグルと回す。
篁文は、ルルカの言う通りにドルメを中、パセと紗希を外に配置した。
「気を付けて」
「おう!」
そう上手く、ルルカの言う通りになればいいが、わからない。
「来たであるな」
景色が安定してきた。まばらに大きな岩の転がった平野だというのはわかった。
チラリと横目でドルメを見ると、ドルメは目を凝らしてその奥まで覗き込もうとするかのように、目をこらしている。
そしてもう1つの方も、すぐ隣で安定化した。こちらは木が生い茂っている中から、何かがこちらを窺うように見ていた。
よく見ると手が4本あるゴリラで、上の1対の手に、血の滴る何か動物を持っている。
「ドルメ。どうだ?」
ドルメも気付いたらしい。鋭くした目を篁文に向け、岩の方の次元に向け、ゴリラに向けた。
「い、いや、しかし」
それで確信した。
「行け」
「あれは危なそうであるし」
「檻があるし、銃も通用しそうだ。行ってくれ。ルルカの覚悟だ」
それでもドルメは迷っている風だったが、やがて、そちらから聞き慣れない言葉が聞こえて来た。
それでドメルが、背中を揺らす。
それと同時に、ゴリラが2頭飛び出して来て、こちらに喰いかけの動物を投げつけて吠えた。
「ウオオオオオオ!!」
警官が倒れるのが見えた。
1頭は檻の外の紗希とパセに涎を垂らしながら飛び掛かって行き、檻にぶつかって倒れると、立ち上がって檻を掴んで揺さぶり始めた。
「え!?ちょっと!?」
紗希とパセが、焦ったような声を上げる。
もう1頭は、篁文とドルメをエサと決めたらしい。歯を剥き出し、涎を垂らして、4本の手を掲げながらジリジリと近寄って来る。
「ドルメ、気を付けろ」
「うむ!」
銃を向けて撃つと、ちょうど飛び上がったゴリラの右足に当たり、右足が膨張して爆ぜた。
しかしゴリラは一声上げただけで、2本の手と残った足で地面を蹴って飛び掛かって来た。
「何という!」
大した生命力だ。
ドルメは銃を放り出すと、ゴリラと取っ組み合うという行動に出た。
「ドルメェ!?」
「ムウウン!!」
「ゴッ、ホッホッ」
もう1頭は檻をガタガタ揺すり、檻が危ない。
篁文は先に、背中を見せる檻に貼りついたゴリラに銃を向けた。
「撃て!」
篁文は横から、紗希とパセは前から銃を向けて撃つ。
4発を体幹にくらい、頭を爆ぜて、それでようやくそのゴリラは死んだ。
「何て凄いやつ」
震撼したようにパセが呟き、紗希は震えて頷いていた。
「ドルメは――」
振り返ると、ドルメはゴリラと組み合っていた。
ドルメに当てないように、スティックを振り上げ、腕を落とす。
「グオオオオ!?」
ゴリラは叫び、怨嗟の目を向けて来る。
構わず、もう1本落とす。
あとはしっかりと組み合っていて、攻撃が難しい。
と、岩場の方の次元の向こうに、いつの間にか人が集まって来ていた。最初に会った時のドルメに似た格好をしている。
「篁文」
「やれ」
銃を抜いて、ゴリラの横っ腹に向ける。
「うりゃあああ!!」
ドルメが声を上げてその次元の向こうに倒れ込むようにしていく。それに合わせて、大きくさらされた体幹に2発撃ち込む。
ゴリラが膨張するのと、ワッと向こうの人達がゴリラとドルメを囲むのが見え、次元が閉じて行く寸前に、ゴリラが破裂するのと、顔を上げてこちらを見るドルメが見えた。
ほんの1秒未満、目と目が合う。それで、次元の裂け目は閉ざされた。
紗希とパセが、呆然とそれを見ていた。
「え、ドルメ……」
「あれって……」
転がったドルメの銃を拾い上げ、篁文は小さく笑った。
「偶然だったな。
さあ、帰るか」
ルルカは難しい顔で天井を見上げた。
セレエに続いてドルメまで、そんな偶然があるのかと問い詰められたところだ。
のらりくらりと言い逃れ、もともと次元が近かったから接触したんでしょうと言うと、ルルカのした事の証拠もないせいか、どうにか放免されたのである。
ただし、監視の目は覚悟しなければいけないだろう。
「困ったわね」
あと1回やれば、間違いなくバレる。そういう法律がないからどういう罪でどういう処分が下るかは不明だが、メルベレか地球のどちらかしか接触させられないかも知れない。
「ホント、困ったものね」
溜め息をついて、タバコの煙を天井に吹きかけた。
篁文と紗希とパセは、ドルメが向こうに行った時の事を詳しく何度も個別に訊かれ、やっと放免されたのは夜になってからだった。
「あのゴリラ共々倒れ込んだんだもんね」
「そうよねえ。それがどこの次元だったかなんて、あたしは覚えてもいないわ」
「まあ、たまたま故郷だったんならいいじゃない。ね、篁文」
「そうだな」
「奥さんとかわいい子供に再会できたかしら」
「向こうでは何年も経ってたとか?」
「やめてよう、紗希」
笑って、グラスを3つぶつけ合う。
「ドメルに」
「ドメルに」
「ドメルに」
そして食後、ランニングに出た篁文は、ルルカのいる分析室に滑り込んだ。
ルルカは一瞬驚いたものの、来る事自体には驚いた様子はなかった。
「次で最後になるかも知れないわ」
「でしょうね。疑わない方がおかしいし、そうなったらルルカは別の部署に異動になるだろうな。
頼む。次は――」
ルルカはそれを聞いて、沈黙の後訊いた。
「後悔しない?」
「ああ」
「紗希が泣くかもよ」
「全力で謝る」
「わかった」
「すみません」
篁文は頭を下げ、窓から出て行った。
「全く。窓は出入りするところじゃないのよ、坊や」
クスッと笑ったルルカが窓辺に立つと、篁文の監視役がヘロヘロになりながら篁文を探し、見つけたらしく走って行くのが窓の下に見えた。
そして、着いたら着いたで、今度はパセと紗希が待ち構えている。
「今日の廃病院、お化けは出なかった?」
「変な声がしたとか」
物凄く期待を込めた目で訊いて来る。
「……異常無しだ」
「つまんない」
「もしかしたら見落としかもよ、紗希」
「そうね。次からはウェアラブルカメラを着けて行ってよ、篁文」
「……お前ら、熱心だな」
篁文は呆れて嘆息して言った。
まあ、体力的にも辛くなっていっているパセが元気になり、紗希も笑うならそれでもいいかと、篁文は、カメラをルルカに言って貸してもらおうと決め、早速分析室に向かった。
ルルカは理由を聞いて、笑い出しながらも、カメラを棚から出して来た。
「どこも、怖い物見たさっていうのは同じねえ」
「ありがとうございます」
「ああ、ちょっと待って、篁文」
ルルカは篁文を呼び止め、言った。
「今日はドルメの調子がいいから、昼から復帰させるわ。だから、昼一の出動に連れて行って」
「そう、ですか?わかりました。じゃあ、念の為、檻の外で――」
「中にお願い」
「いや、でも……」
「お願いだから」
いやに真剣な顔をしてルルカが重ねて言う。
篁文はその推測に目を一瞬見開いて、それから、静かに答えた。
「わかりました」
紗希とパセには何も言わず、ただ昼からドルメを迎えた。
ドルメ自身も何も聞いていないようで、しきりに負担をかけたと詫び、無事な退院を紗希とパセと喜び合っていた。
そして、推測の通りにサイレンが鳴り、いつものように飛び出して行く。
今回は同時に2つだ。
現場は檻に覆われていて、まだ景色が揺らいでいるところで、安定化していなかった。
「吾輩も、腕が鳴るである!」
「無茶しないでよ、ドルメ」
「そうよ。病み上がりなんだからね」
「紗希もパセも、ありがとうである。しかし、もう大丈夫。寝ていて溜まった鬱憤を晴らすであるよ!」
ドルメはガハハハと笑い、両腕をグルグルと回す。
篁文は、ルルカの言う通りにドルメを中、パセと紗希を外に配置した。
「気を付けて」
「おう!」
そう上手く、ルルカの言う通りになればいいが、わからない。
「来たであるな」
景色が安定してきた。まばらに大きな岩の転がった平野だというのはわかった。
チラリと横目でドルメを見ると、ドルメは目を凝らしてその奥まで覗き込もうとするかのように、目をこらしている。
そしてもう1つの方も、すぐ隣で安定化した。こちらは木が生い茂っている中から、何かがこちらを窺うように見ていた。
よく見ると手が4本あるゴリラで、上の1対の手に、血の滴る何か動物を持っている。
「ドルメ。どうだ?」
ドルメも気付いたらしい。鋭くした目を篁文に向け、岩の方の次元に向け、ゴリラに向けた。
「い、いや、しかし」
それで確信した。
「行け」
「あれは危なそうであるし」
「檻があるし、銃も通用しそうだ。行ってくれ。ルルカの覚悟だ」
それでもドルメは迷っている風だったが、やがて、そちらから聞き慣れない言葉が聞こえて来た。
それでドメルが、背中を揺らす。
それと同時に、ゴリラが2頭飛び出して来て、こちらに喰いかけの動物を投げつけて吠えた。
「ウオオオオオオ!!」
警官が倒れるのが見えた。
1頭は檻の外の紗希とパセに涎を垂らしながら飛び掛かって行き、檻にぶつかって倒れると、立ち上がって檻を掴んで揺さぶり始めた。
「え!?ちょっと!?」
紗希とパセが、焦ったような声を上げる。
もう1頭は、篁文とドルメをエサと決めたらしい。歯を剥き出し、涎を垂らして、4本の手を掲げながらジリジリと近寄って来る。
「ドルメ、気を付けろ」
「うむ!」
銃を向けて撃つと、ちょうど飛び上がったゴリラの右足に当たり、右足が膨張して爆ぜた。
しかしゴリラは一声上げただけで、2本の手と残った足で地面を蹴って飛び掛かって来た。
「何という!」
大した生命力だ。
ドルメは銃を放り出すと、ゴリラと取っ組み合うという行動に出た。
「ドルメェ!?」
「ムウウン!!」
「ゴッ、ホッホッ」
もう1頭は檻をガタガタ揺すり、檻が危ない。
篁文は先に、背中を見せる檻に貼りついたゴリラに銃を向けた。
「撃て!」
篁文は横から、紗希とパセは前から銃を向けて撃つ。
4発を体幹にくらい、頭を爆ぜて、それでようやくそのゴリラは死んだ。
「何て凄いやつ」
震撼したようにパセが呟き、紗希は震えて頷いていた。
「ドルメは――」
振り返ると、ドルメはゴリラと組み合っていた。
ドルメに当てないように、スティックを振り上げ、腕を落とす。
「グオオオオ!?」
ゴリラは叫び、怨嗟の目を向けて来る。
構わず、もう1本落とす。
あとはしっかりと組み合っていて、攻撃が難しい。
と、岩場の方の次元の向こうに、いつの間にか人が集まって来ていた。最初に会った時のドルメに似た格好をしている。
「篁文」
「やれ」
銃を抜いて、ゴリラの横っ腹に向ける。
「うりゃあああ!!」
ドルメが声を上げてその次元の向こうに倒れ込むようにしていく。それに合わせて、大きくさらされた体幹に2発撃ち込む。
ゴリラが膨張するのと、ワッと向こうの人達がゴリラとドルメを囲むのが見え、次元が閉じて行く寸前に、ゴリラが破裂するのと、顔を上げてこちらを見るドルメが見えた。
ほんの1秒未満、目と目が合う。それで、次元の裂け目は閉ざされた。
紗希とパセが、呆然とそれを見ていた。
「え、ドルメ……」
「あれって……」
転がったドルメの銃を拾い上げ、篁文は小さく笑った。
「偶然だったな。
さあ、帰るか」
ルルカは難しい顔で天井を見上げた。
セレエに続いてドルメまで、そんな偶然があるのかと問い詰められたところだ。
のらりくらりと言い逃れ、もともと次元が近かったから接触したんでしょうと言うと、ルルカのした事の証拠もないせいか、どうにか放免されたのである。
ただし、監視の目は覚悟しなければいけないだろう。
「困ったわね」
あと1回やれば、間違いなくバレる。そういう法律がないからどういう罪でどういう処分が下るかは不明だが、メルベレか地球のどちらかしか接触させられないかも知れない。
「ホント、困ったものね」
溜め息をついて、タバコの煙を天井に吹きかけた。
篁文と紗希とパセは、ドルメが向こうに行った時の事を詳しく何度も個別に訊かれ、やっと放免されたのは夜になってからだった。
「あのゴリラ共々倒れ込んだんだもんね」
「そうよねえ。それがどこの次元だったかなんて、あたしは覚えてもいないわ」
「まあ、たまたま故郷だったんならいいじゃない。ね、篁文」
「そうだな」
「奥さんとかわいい子供に再会できたかしら」
「向こうでは何年も経ってたとか?」
「やめてよう、紗希」
笑って、グラスを3つぶつけ合う。
「ドメルに」
「ドメルに」
「ドメルに」
そして食後、ランニングに出た篁文は、ルルカのいる分析室に滑り込んだ。
ルルカは一瞬驚いたものの、来る事自体には驚いた様子はなかった。
「次で最後になるかも知れないわ」
「でしょうね。疑わない方がおかしいし、そうなったらルルカは別の部署に異動になるだろうな。
頼む。次は――」
ルルカはそれを聞いて、沈黙の後訊いた。
「後悔しない?」
「ああ」
「紗希が泣くかもよ」
「全力で謝る」
「わかった」
「すみません」
篁文は頭を下げ、窓から出て行った。
「全く。窓は出入りするところじゃないのよ、坊や」
クスッと笑ったルルカが窓辺に立つと、篁文の監視役がヘロヘロになりながら篁文を探し、見つけたらしく走って行くのが窓の下に見えた。
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