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不安
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戦争は、確実に世界に広まりつつあった。各々の友好国が支持や非難を表明し、多国籍軍が組織される。そしてどこの国も、戦争に無関係ではいられないでいた。
国によっては、次元移送の技術開発はいつの間にか次元兵器の開発と名を変え、実験を繰り返すしわ寄せがアレン市に集中する。
そんな中、ドルメが軽い心筋梗塞で倒れて入院した。
「パセも動けない以上、吾輩が行かなくては篁文だけになってしまうである。休んでいるわけには――」
そう言って起き上がろうとするドルメに、檻があるから大丈夫。順に片付けて行けばいいだけだと言って、どうにかこうにか寝かせておくのも苦労した。
しかし、笑って部屋を出たルルカは、笑顔を消して溜め息をついた。
「そうとうまずいんですか」
「……病状という意味では、軽いわよ。投薬で大丈夫。
でも、またいつどこで詰まるかわからないわ。
パセにしても、ケガなんてもってのほかよ。カゼの流行する季節だったら、外に出せないところよ」
パセは隣の部屋で点滴を受けていて、紗希がついていた。
「パセは檻の外から銃で狙うだけにしてもらいます」
「大丈夫なの?紗希も、やり合える感じじゃないわよ。
まあ、ダメって言われても、対策の取りようがないんだけど……」
篁文は微苦笑を浮かべた。
「何とかします。檻が頼りですよ」
「ごめんなさいね」
ルルカは静かに目を伏せた。
早朝、日課のランニングとパルクールのトレーニングに出る。そしてお馴染みのコースを辿って戻り、戻って来た所でそれに気付いた。
こちらに来てからよく見かける食料品の輸送トラックが、近くにとまっていた。
よく見かけるが、この付近にとまっているのは見た事が無い。
しかも、運転席にいる男は、やけに真面目な顔で緊張し、視線を動かしている。
「何だ?」
窺っているのは、どうも研究所か特殊次元対策課らしい。
篁文はすぐに携帯端末でヨウゼと警備詰め所に電話をかけた。
トラックの荷台が開いて降りて来たのは武装した他国の男で、対策課に向けて敷地内に侵入した。
それを警備の警官と警察署から来た警官とで囲う。
トラックの運転手が逃げようとしたので、篁文は運転席の上に乗り込んで、腕を伸ばしてキーを引き抜いてやった。あっけに取られていたような顔で呆然としていたが、上手く行った。
銃撃戦の末、自殺を阻止した者は黙秘を貫いているそうだが、ダイガの兵士らしい。狙いはどうも対策課の銃とスティックで、それが対人武器として役に立つと思われたらしい。
「あれを人に使うって、酷いわ」
「えぐ過ぎるわ」
パセと紗希は話を聞いてそう言った。
「人に使うものじゃないよな」
篁文は言い、敵性生物に初めて使った時ですら、ショックで棒立ちになりかけたと思い出した。ましてやサル型はヒトと同じ二足歩行で、抵抗感はもっと強かった。
「警備を厳重にすることになりました。出動の時も、警備が付きます。
あと、篁文。塀を乗り越えて帰って来るのは紛らわしいので禁止です」
「……はい」
ヨウゼの言葉は、尤もではある。
「その代わり、近くの取り壊し予定の廃業した病院を使ってもいいですよ」
「ありがとうございます!」
「……幽霊が出そうね、パセ」
「やだ、面白い。肝試しに行かない?紗希」
受け取り方は色々だと、篁文もヨウゼも思った。
ルルカは、これまでの全ての実験、次元震の記録を見直していた。
そして、椅子の背もたれにもたれかかると、足を組んでタバコを深々と吸いこんだ。
「そういう事?」
ある推測を小声で呟く。
そして、バレれば間違いなく何らかの罪になるであろう計画を頭の中で立て始めた。
国によっては、次元移送の技術開発はいつの間にか次元兵器の開発と名を変え、実験を繰り返すしわ寄せがアレン市に集中する。
そんな中、ドルメが軽い心筋梗塞で倒れて入院した。
「パセも動けない以上、吾輩が行かなくては篁文だけになってしまうである。休んでいるわけには――」
そう言って起き上がろうとするドルメに、檻があるから大丈夫。順に片付けて行けばいいだけだと言って、どうにかこうにか寝かせておくのも苦労した。
しかし、笑って部屋を出たルルカは、笑顔を消して溜め息をついた。
「そうとうまずいんですか」
「……病状という意味では、軽いわよ。投薬で大丈夫。
でも、またいつどこで詰まるかわからないわ。
パセにしても、ケガなんてもってのほかよ。カゼの流行する季節だったら、外に出せないところよ」
パセは隣の部屋で点滴を受けていて、紗希がついていた。
「パセは檻の外から銃で狙うだけにしてもらいます」
「大丈夫なの?紗希も、やり合える感じじゃないわよ。
まあ、ダメって言われても、対策の取りようがないんだけど……」
篁文は微苦笑を浮かべた。
「何とかします。檻が頼りですよ」
「ごめんなさいね」
ルルカは静かに目を伏せた。
早朝、日課のランニングとパルクールのトレーニングに出る。そしてお馴染みのコースを辿って戻り、戻って来た所でそれに気付いた。
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よく見かけるが、この付近にとまっているのは見た事が無い。
しかも、運転席にいる男は、やけに真面目な顔で緊張し、視線を動かしている。
「何だ?」
窺っているのは、どうも研究所か特殊次元対策課らしい。
篁文はすぐに携帯端末でヨウゼと警備詰め所に電話をかけた。
トラックの荷台が開いて降りて来たのは武装した他国の男で、対策課に向けて敷地内に侵入した。
それを警備の警官と警察署から来た警官とで囲う。
トラックの運転手が逃げようとしたので、篁文は運転席の上に乗り込んで、腕を伸ばしてキーを引き抜いてやった。あっけに取られていたような顔で呆然としていたが、上手く行った。
銃撃戦の末、自殺を阻止した者は黙秘を貫いているそうだが、ダイガの兵士らしい。狙いはどうも対策課の銃とスティックで、それが対人武器として役に立つと思われたらしい。
「あれを人に使うって、酷いわ」
「えぐ過ぎるわ」
パセと紗希は話を聞いてそう言った。
「人に使うものじゃないよな」
篁文は言い、敵性生物に初めて使った時ですら、ショックで棒立ちになりかけたと思い出した。ましてやサル型はヒトと同じ二足歩行で、抵抗感はもっと強かった。
「警備を厳重にすることになりました。出動の時も、警備が付きます。
あと、篁文。塀を乗り越えて帰って来るのは紛らわしいので禁止です」
「……はい」
ヨウゼの言葉は、尤もではある。
「その代わり、近くの取り壊し予定の廃業した病院を使ってもいいですよ」
「ありがとうございます!」
「……幽霊が出そうね、パセ」
「やだ、面白い。肝試しに行かない?紗希」
受け取り方は色々だと、篁文もヨウゼも思った。
ルルカは、これまでの全ての実験、次元震の記録を見直していた。
そして、椅子の背もたれにもたれかかると、足を組んでタバコを深々と吸いこんだ。
「そういう事?」
ある推測を小声で呟く。
そして、バレれば間違いなく何らかの罪になるであろう計画を頭の中で立て始めた。
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