ディメンション・アクシデント

JUN

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約束

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 朝からテレビでも端末でも、そのニュースでもちきりだった。宇宙ターミナルへの瞬間輸送の成功。地上の実験用プラットホームから衛星軌道上のプラットホームに向けて、物を送ったら、無事にそれが衛星軌道上のプラットホームに着いた事が確認されたそうだ。
 ロケットで打ち上げるのは、安全面ではクリアされていると言ってもいいらしいが、大掛かりで、資金はかかるらしい上、積載量が限られるという。その点、この方法だとプラットホームの大きさなのでかなりの量のものをタイムラグをほぼゼロで送れるらしい。費用については、打ち上げ1回よりも転移1回の方がコストダウンできるそうだ。
「ふうん。凄いな。この方法を使えば、資材を送って宇宙でどんどん衛星やシャトルを組み立てられて、宇宙進出が楽かもな」
 篁文は、思わず空を見上げた。
 青く晴れた空が広がっていたが、勿論宇宙のプラットホームは見えない。
「いいわねえ。そう言えば篁文、幼稚園の頃は宇宙飛行士になりたいって言ってたわよね」
 そう言う紗希の夢は新聞記者で、宇宙飛行のインタビューをしてあげるとよく言っていた。
「なのにいつの間にか進路希望では公務員になってたわよね。何で?」
「視力が落ちて来たから」
 視力回復を願って、サプリも飲んだし、テレビも見ないようにした。紫外線やブルーライトにも気を使った。それでも、無理だったのである。
 当時を思い出して、篁文は少しブルーになった。
「そういう紗希は、中学以来、ずっと内緒とか言ってたな。まさかアイドルとかモデルとかの途方もない夢か?それで言い難いのか?」
「ち、が、い、ま、す!」
 紗希はプッと頬を膨らませて、そっぽを向いた。
「……いいんだぞ。夢はな。でも、そろそろ現実を見て、進路をだな」
「違うって言ってるでしょうが!もっと普通の、今でも可能な希望ですよーだ」
「……フードファイターか?」
 紗希は無言で殴り掛かって、聞いていたセレエは噴き出すのをこらえていた。
「太陽の向こうまで行くのだろう?とんでもなくて、想像もつかないであるなあ」
「本当ねえ。そこには何の神がいるのかしらねえ」
 パセがドルメと並んで、空を見上げた。
 その時サイレンが鳴り響き、つかの間の休憩は終わった。

 出て来た異世界生物を見る。
「牛か」
 それも、敵意に溢れた闘牛という感じの牛で、敵性生物と認定された。
「じゃあ、やるか。パセは銃で待機しててくれ。俺とドルメでやろう」
「食えるであるか?」
「どうだろう。硬そうだぞ」
「あたし、パス」
 それでドメルと篁文は柵の中に入った。
「ブモオオオ!!」
 こいつの泣き声も、マヒの効果があるらしい。離れた所で警戒していた警官が、膝をついた。
 ダッと地面を蹴りたてて、牛が突進してくる。
「早い!」
 身を翻して避けるのがギリギリだった。
 そして、柵にぶち当たって止まったが、サル型以上の衝撃らしい。柵の支柱の役割をする自走式ロボットが、倒れそうになった。
「まずいな。さっさとカタを付けよう」
 まずはこちらに出て来ていた2頭を撃つ。後は、次元の裂け目から来ようとしているもの、来かかっているものを撃つ。
 それで牛も、うかつにこの裂け目を通っては危険だとわかったのか、向こう側で鳴きながら足で地面を苛立たし気に引っ掻く。
 その間に次元の裂け目は狭く小さくなり、やがて消えた。
「よし。終わりであるな」
 皆は車に戻って行った。
「あの雲よりも遠いんだね。メルベレは」
 パセが空を見上げて足を止め、何となく皆も、つられて空を見上げた。
 と、難しい顔の篁文に、紗希が気付く。
「どうしたの」
「成功した瞬間移送だが、あれ、次元移送だよな。概要をニュースで読んだ限り」
 皆の顔が真剣になり、セレエが頷いた。
「篁文も気付いたか。宇宙のプラットホームとやり取りするのを失敗して、僕達がここに引き込まれて、ザイネでは半径10キロが蒸発して、未だに他の次元の異世界生物が時々入り込むってことだろ。
 別の次元につながれば次元の重なり、宇宙につながれば移送ってわけだ」
「同じ地上では、殺戮兵器になり得るな」
「や、やめてよう、篁文」
 紗希が怖がって抗議する。
「でもひとつだけ。
 次元が不安定だって言ってただろう?現に、重なり続けるサル型と虫型の次元だけじゃなく、他の次元と接触している。
 という事は、俺達の元いた次元とまた接触する可能性はゼロじゃない。
 もし、自分の次元が接触して来たら、どうする?」
 全員、ゴクリと唾を呑んで沈黙した。
「そんな、偶然がまたもう1度なんて……」
「だから、もし、だ」
 真剣に考えていると、何事かと職員が呼びに来た。
「どうかしましたかあ?」
 それではっと、表情をゆるめる。
「ああ、別に。ちょっと宇宙の話をしてたんだよ」
 セレエが言って、皆は車に乗り込んで行った。
 と、パセが倒れる。
「え、パセ!?」
 紗希が慌ててゆすり、全員振り返った。
「パセ!?」
「救急車!いや、これで帰れば早いか。サイレン鳴らして急いでくれ!」
「はい!」
「パセを寝かせるである!」
 あたふたと皆でパセを椅子に寝かせ、急いで戻る。
 そしてその後、パセとドルメの体の問題を皆が知る事になったのだった。

 その日の勤務が終わり、パセも薬で調子を取り戻して寮に戻って来たので、一緒に夕食を摂る。
 そして、食べ終えると真剣な顔で篁文が皆の足を止めた。
「朝の話だが」
「朝……ああ、もし、であるか?」
「ああ。もしそうなったら、飛び込め」
 皆息を呑んだ。
「篁文」
 セレエは、
「ああ。僕はそうさせてもらう」
「パセもドルメもだ。パセはここが体に合わないのに、いるだけで危険だ。ドルメも、重力が低くなって血栓ができやすくなってるんだ。骨も折れやすくなるかも知れない。危険なことだ。そうしてくれ」
「篁文と紗希も、そうするの?」
「……ああ。紗希は危なっかしいからな」
「むっ」
「わかった。では吾輩もそうしよう」
「わかった。あたしもそうする」
「よし。約束だぞ」
 皆は頷き合い、そして、部屋に戻って行った。

 


 
 
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