ディメンション・アクシデント

JUN

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檻の中

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 次元震の兆候が出たという現場に急ぐと、それはあった。
「あれか」
 避難誘導と並行して、出て来た生物を逃がさないために、周囲を特別な柵で覆うことになったのだ。一応、サル型の力に耐えうる強度で、虫型も這い出る事ができない大きさの網目らしい。
「狭いであるな」
「場合によっては、解除しないと危ないかもな。気を付けていこう」
 篁文、ドルメ、パセは、敵性生物と一緒に閉じ込められる、一種の檻に入る。
 既に揺れていた裂け目から、サル型と虫型が飛び出して来る。
 まずは銃で、出て来ようとするところで片付けて行く。そして、そんな仲間の死を乗り越え、或いは頓着しない敵性生物に、スティックで対峙する。
 これだけ3人が接近したフィールドでは、銃は危ない。
「グアアアアア!」
 雄叫びを上げるが、勿論効かない。ただの鳴き声だ。
 檻の中は、乱戦になってきた。
「あ」
 背中がパセに当たる。
「っと、すまんである」
 槍の柄の先が肘に当たる。
「ごめん」
 刃がかすりそうになる。
 どうにか片付けたものの、神経を使った。
「やり難いであるなあ……」
「狭いよな」
「もう少し、広くしてもらえないのかしら」
「広場ならともかく、住宅街とかだったら難しいんだろうけど……何とかできないなら、こっちが工夫するしかないな」
「狭い中で動く練習であるな。
 吾輩の武器を、替える必要があるやも知れんなあ」
「でも、慣れてて使いやすいものでないと危ないし、まあ、立ち位置とかを考えて誘導できるようにしてみよう。
 檻か。檻に閉じ込められているのは、俺達も同じかな」
 言いながら、課に戻るのだった。

 訓練を終え、対策課で待機しながら休憩する。
 パセはお気に入りになったワインレッドの帽子をとって、机にべったりと伏せていた。
「大丈夫か?」
「平気、平気」
 言うパセだが、最近元気がなく、ぐったりする事が多い。紗希がそばに行って、
「疲れた時は甘い物だよ」
と、アメ玉をパセに渡している。
 ドルメはそれを柔らかい表情で眺めていたが、首にかかった巾着袋を引っ張り出して、中から手のひらサイズの紙を取り出した。厚めのゴワゴワした感じのもので、絵が描いてある。家族で書いてもらった肖像画だ。写真のない世界らしい。
 そこには、ドルメとドルメの妻と、2人の女の子が並んでいた。
 ドルメはそれをじっと眺めていたが、また、そっと袋に戻して丁寧に服の内側に入れた。
 篁文は見ていないふりをして、資料に目を落とした。
 
 その日は幸いもう出動は無く、皆は寮に引き上げる事にした。
「帰るか」
「今日の夕食は何だろうね」
「僕、あっさりしたものが食べたい」
「吾輩は肉であるかな」
「あたし、ホットケーキがいい」
「それはご飯じゃないよう、パセ」
 立ち上がった時、ノックももどかし気に飛び込んで来た人がいた。
 何かあったのかと緊張するのに、彼女はほっとしたような顔で笑った。
「良かった、まだいた」
「どうかしたんですか」
 紗希が訊くと、彼女は苦笑して、カメラを掲げた。
「この前広報に乗せる写真を撮ったでしょう。目を閉じてたりしてたから、取り直したいと思って。今、いいかしら」
 ドルメとパセは目を輝かせた。
「おお、あのそっくりな絵であるか!」
「姿を写し取る魔法の箱!」
 2人は興味津々だ。
「そうだ。もし良かったら、記念にいただけませんか」
 篁文が訊いてみると、彼女は笑って了承した。
「いいわよ。1人1枚、焼き増しして来るわね。それから、大きいのを飾れるように1枚持って来るわね」
「おおお。そんなに分身して大丈夫なの?あたし本体が薄くなったりしない?」
「心配ないわよ」
 それで皆はカメラに向かって並んだ。

 パセの体調不良があって、全員の健康診断が行われた。
 セレエは
「原始的な検査方法だな、全く」
と言いながら色んな部屋に引っ張り回されていたし、パセはMRIに入るのに涙目になって怯え、ドルメは平気を装いながらも神に祈っていた。
 へとへとになりながらもどうにかこうにか検査を済ませたパセに、異常が告げられたのは数時間後の事だった。






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