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つながる次元とタコパニック
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出動回数が増え、次元のつながっている時間も数分から数十分と幅が出るようになった。
それにつれて特殊次元対策課のメンバーは忙しくなり、対策課か寮にいつもいるようになった。
「人数を増やせる見込みが無いからな。それが問題だ」
「こんな時こそ、ケガに注意であるぞ」
「気を付けようね」
各々昼食を摂りながらの会話だ。
紗希のプリンも流石に、おむすびにしてくれと篁文は頼んだ。
これが、評判がいい。さっと食べられるし、何だったら持ち運んでも食べられる。中に入れる具でバリエーションも豊かになるし、冷めても大丈夫。
帰りついた途端の出動が立て続けに4回あって、流石にウンザリしていたが、おむすびとスープか味噌汁の簡単な昼食で、どうにか元気を吹き返した。
「しかし日本という国は、美味いものがあるのだなあ」
「うふふ」
食べ終えた後のお茶が紅茶でなく緑茶だったらもっといいのに、と篁文は思った。
「何か、次元が色々接触するのね。こんなにたくさん次元があるなんてね」
「小説ではあっても、現実には、自分の生きている次元ただひとつだと思ってたな」
「可能性はあっても、どこか現実味がなかったからね」
「吾輩には、世界が広すぎて何が何やらであるなあ」
「私もそうよ。
でも、発見ね。必要に迫られると、本当に言葉って覚えられるのね」
「確かに。いつの間にか、翻訳機も使ってないものね」
久々にゆっくりとした気分でくつろいでいたが、長くは続かない。サイレンが鳴り響き、皆は弾かれた様に飛び出して行ったのだった。
ゆらゆらと揺れる裂け目の向こう側に、今まで見た事のない光景があった。
「何、あれ?」
「船とタコ、であるか?」
「船にしては小さすぎるだろ?」
「いや、タコが大きいのかも」
「あれ、もしかして出て来るの?」
全員、押し黙った。
嵐のような水面に、船が浮かんでいるのだが、その船に、大きくて太いタコの足が何本も巻き付いていた。船の上からは矢か何かがタコに向かって射かけられているし、巻き付いた足に斧か何かを振り下ろしている人もいるが、どの攻撃も、効いている様子はない。
やがて、船が変形したかと思うと、次の瞬間、タコの足に締め付けられ、圧壊していた。
「ひええっ」
船の残骸と人が、バラバラと落ちて行く。
「おいおい」
「あの生物はなんであるか!?吾輩の故郷には存在しなかったものであるぞ!?」
「あれは、大きすぎる事を無視すれば、タコという生物だ。軟体動物で、嫌がる民族も多いが、食べると美味しいんだ。たこ焼き、刺身、酢の物、天ぷら――」
「篁文、料理の説明をしてる場合じゃない!倒し方だ!」
「ひょ、表面はぬめっているから塩で揉んで、頭をひっくり返してスミ袋を取るんだが……」
「頭をひっくり返す?」
「想像できないわあ」
見ている篁文達は、軽くパニックだ。
「篁文ぃ」
紗希が心細そうな声を上げる。
篁文も、あれが普通サイズの大タコならどうということもない。料理だってする。
しかし、あのヒトが小人でないなら、あのタコは尋常なサイズではない。いつもの料理の下拵えのやり方が通用するとは思えない。
しかし、しかし、だ。
「まず、足を斬り落とし、頭を水平に横に刃を入れて切り落としたら、死ぬと思う」
「し、信じるであるぞ、篁文」
悲愴な声、へっぴり腰で、皆、その時に備えた。
「あ……」
向こう側の光景が薄くなって、裂け目が小さくなっていく。
「重ならない?」
見ている前で、どんどん小さくなり、やがて消える。
しばらくは、警戒してそのまま待った。
「……大丈夫?」
「で、あるな?」
『大丈夫みたいよ』
「良かったあ。あたし、無理!」
「ちょっとだけ惜しいわね。足1本あれば、たこ焼き、タコ飯、天ぷら、刺身、ステーキ、色々できたのに」
「食べるのは恐ろしく硬いんじゃないか。大根で叩くにも、どれだけ叩くんだよ」
「無駄足がこんなに嬉しかった事はないね」
「世界は、恐ろしく広いであるなあ」
しみじみと言うドルメに、皆が頷いたのだった。
それにつれて特殊次元対策課のメンバーは忙しくなり、対策課か寮にいつもいるようになった。
「人数を増やせる見込みが無いからな。それが問題だ」
「こんな時こそ、ケガに注意であるぞ」
「気を付けようね」
各々昼食を摂りながらの会話だ。
紗希のプリンも流石に、おむすびにしてくれと篁文は頼んだ。
これが、評判がいい。さっと食べられるし、何だったら持ち運んでも食べられる。中に入れる具でバリエーションも豊かになるし、冷めても大丈夫。
帰りついた途端の出動が立て続けに4回あって、流石にウンザリしていたが、おむすびとスープか味噌汁の簡単な昼食で、どうにか元気を吹き返した。
「しかし日本という国は、美味いものがあるのだなあ」
「うふふ」
食べ終えた後のお茶が紅茶でなく緑茶だったらもっといいのに、と篁文は思った。
「何か、次元が色々接触するのね。こんなにたくさん次元があるなんてね」
「小説ではあっても、現実には、自分の生きている次元ただひとつだと思ってたな」
「可能性はあっても、どこか現実味がなかったからね」
「吾輩には、世界が広すぎて何が何やらであるなあ」
「私もそうよ。
でも、発見ね。必要に迫られると、本当に言葉って覚えられるのね」
「確かに。いつの間にか、翻訳機も使ってないものね」
久々にゆっくりとした気分でくつろいでいたが、長くは続かない。サイレンが鳴り響き、皆は弾かれた様に飛び出して行ったのだった。
ゆらゆらと揺れる裂け目の向こう側に、今まで見た事のない光景があった。
「何、あれ?」
「船とタコ、であるか?」
「船にしては小さすぎるだろ?」
「いや、タコが大きいのかも」
「あれ、もしかして出て来るの?」
全員、押し黙った。
嵐のような水面に、船が浮かんでいるのだが、その船に、大きくて太いタコの足が何本も巻き付いていた。船の上からは矢か何かがタコに向かって射かけられているし、巻き付いた足に斧か何かを振り下ろしている人もいるが、どの攻撃も、効いている様子はない。
やがて、船が変形したかと思うと、次の瞬間、タコの足に締め付けられ、圧壊していた。
「ひええっ」
船の残骸と人が、バラバラと落ちて行く。
「おいおい」
「あの生物はなんであるか!?吾輩の故郷には存在しなかったものであるぞ!?」
「あれは、大きすぎる事を無視すれば、タコという生物だ。軟体動物で、嫌がる民族も多いが、食べると美味しいんだ。たこ焼き、刺身、酢の物、天ぷら――」
「篁文、料理の説明をしてる場合じゃない!倒し方だ!」
「ひょ、表面はぬめっているから塩で揉んで、頭をひっくり返してスミ袋を取るんだが……」
「頭をひっくり返す?」
「想像できないわあ」
見ている篁文達は、軽くパニックだ。
「篁文ぃ」
紗希が心細そうな声を上げる。
篁文も、あれが普通サイズの大タコならどうということもない。料理だってする。
しかし、あのヒトが小人でないなら、あのタコは尋常なサイズではない。いつもの料理の下拵えのやり方が通用するとは思えない。
しかし、しかし、だ。
「まず、足を斬り落とし、頭を水平に横に刃を入れて切り落としたら、死ぬと思う」
「し、信じるであるぞ、篁文」
悲愴な声、へっぴり腰で、皆、その時に備えた。
「あ……」
向こう側の光景が薄くなって、裂け目が小さくなっていく。
「重ならない?」
見ている前で、どんどん小さくなり、やがて消える。
しばらくは、警戒してそのまま待った。
「……大丈夫?」
「で、あるな?」
『大丈夫みたいよ』
「良かったあ。あたし、無理!」
「ちょっとだけ惜しいわね。足1本あれば、たこ焼き、タコ飯、天ぷら、刺身、ステーキ、色々できたのに」
「食べるのは恐ろしく硬いんじゃないか。大根で叩くにも、どれだけ叩くんだよ」
「無駄足がこんなに嬉しかった事はないね」
「世界は、恐ろしく広いであるなあ」
しみじみと言うドルメに、皆が頷いたのだった。
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