ディメンション・アクシデント

JUN

文字の大きさ
上 下
19 / 48

つながる次元とタコパニック

しおりを挟む
 出動回数が増え、次元のつながっている時間も数分から数十分と幅が出るようになった。
 それにつれて特殊次元対策課のメンバーは忙しくなり、対策課か寮にいつもいるようになった。
「人数を増やせる見込みが無いからな。それが問題だ」
「こんな時こそ、ケガに注意であるぞ」
「気を付けようね」
 各々昼食を摂りながらの会話だ。
 紗希のプリンも流石に、おむすびにしてくれと篁文は頼んだ。
 これが、評判がいい。さっと食べられるし、何だったら持ち運んでも食べられる。中に入れる具でバリエーションも豊かになるし、冷めても大丈夫。
 帰りついた途端の出動が立て続けに4回あって、流石にウンザリしていたが、おむすびとスープか味噌汁の簡単な昼食で、どうにか元気を吹き返した。
「しかし日本という国は、美味いものがあるのだなあ」
「うふふ」
 食べ終えた後のお茶が紅茶でなく緑茶だったらもっといいのに、と篁文は思った。
「何か、次元が色々接触するのね。こんなにたくさん次元があるなんてね」
「小説ではあっても、現実には、自分の生きている次元ただひとつだと思ってたな」
「可能性はあっても、どこか現実味がなかったからね」
「吾輩には、世界が広すぎて何が何やらであるなあ」
「私もそうよ。
 でも、発見ね。必要に迫られると、本当に言葉って覚えられるのね」
「確かに。いつの間にか、翻訳機も使ってないものね」
 久々にゆっくりとした気分でくつろいでいたが、長くは続かない。サイレンが鳴り響き、皆は弾かれた様に飛び出して行ったのだった。

 ゆらゆらと揺れる裂け目の向こう側に、今まで見た事のない光景があった。
「何、あれ?」
「船とタコ、であるか?」
「船にしては小さすぎるだろ?」
「いや、タコが大きいのかも」
「あれ、もしかして出て来るの?」
 全員、押し黙った。
 嵐のような水面に、船が浮かんでいるのだが、その船に、大きくて太いタコの足が何本も巻き付いていた。船の上からは矢か何かがタコに向かって射かけられているし、巻き付いた足に斧か何かを振り下ろしている人もいるが、どの攻撃も、効いている様子はない。
 やがて、船が変形したかと思うと、次の瞬間、タコの足に締め付けられ、圧壊していた。
「ひええっ」
 船の残骸と人が、バラバラと落ちて行く。
「おいおい」
「あの生物はなんであるか!?吾輩の故郷には存在しなかったものであるぞ!?」
「あれは、大きすぎる事を無視すれば、タコという生物だ。軟体動物で、嫌がる民族も多いが、食べると美味しいんだ。たこ焼き、刺身、酢の物、天ぷら――」
「篁文、料理の説明をしてる場合じゃない!倒し方だ!」
「ひょ、表面はぬめっているから塩で揉んで、頭をひっくり返してスミ袋を取るんだが……」
「頭をひっくり返す?」
「想像できないわあ」
 見ている篁文達は、軽くパニックだ。
「篁文ぃ」
 紗希が心細そうな声を上げる。
 篁文も、あれが普通サイズの大タコならどうということもない。料理だってする。
 しかし、あのヒトが小人でないなら、あのタコは尋常なサイズではない。いつもの料理の下拵えのやり方が通用するとは思えない。
 しかし、しかし、だ。
「まず、足を斬り落とし、頭を水平に横に刃を入れて切り落としたら、死ぬと思う」
「し、信じるであるぞ、篁文」
 悲愴な声、へっぴり腰で、皆、その時に備えた。
「あ……」
 向こう側の光景が薄くなって、裂け目が小さくなっていく。
「重ならない?」
 見ている前で、どんどん小さくなり、やがて消える。
 しばらくは、警戒してそのまま待った。
「……大丈夫?」
「で、あるな?」
『大丈夫みたいよ』
「良かったあ。あたし、無理!」
「ちょっとだけ惜しいわね。足1本あれば、たこ焼き、タコ飯、天ぷら、刺身、ステーキ、色々できたのに」
「食べるのは恐ろしく硬いんじゃないか。大根で叩くにも、どれだけ叩くんだよ」
「無駄足がこんなに嬉しかった事はないね」
「世界は、恐ろしく広いであるなあ」
 しみじみと言うドルメに、皆が頷いたのだった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】可愛くない私に価値はない、でしたよね。なのに今さらなんですか?

りんりん
恋愛
公爵令嬢のオリビアは婚約者の王太子ヒョイから、突然婚約破棄を告げられる。 オリビアの妹マリーが身ごもったので、婚約者をいれかえるためにだ。 前代未聞の非常識な出来事なのに妹の肩をもつ両親にあきれて、オリビアは愛犬のシロと共に邸をでてゆく。 「勝手にしろ! 可愛くないオマエにはなんの価値もないからな」 「頼まれても引きとめるもんですか!」 両親の酷い言葉を背中に浴びながら。  行くあてもなく町をさまようオリビアは異国の王子と遭遇する。  王子に誘われ邸へいくと、そこには神秘的な美少女ルネがいてオリビアを歓迎してくれた。  話を聞けばルネは学園でマリーに虐められているという。  それを知ったオリビアは「ミスキャンパスコンテスト」で優勝候補のマリーでなく、ルネを優勝さそうと 奮闘する。      

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

182年の人生

山碕田鶴
ホラー
1913年。軍の諜報活動を支援する貿易商シキは暗殺されたはずだった。他人の肉体を乗っ取り魂を存続させる能力に目覚めたシキは、死神に追われながら永遠を生き始める。 人間としてこの世に生まれ来る死神カイと、アンドロイド・イオンを「魂の器」とすべく開発するシキ。 二人の幾度もの人生が交差する、シキ182年の記録。 (表紙絵/山碕田鶴) ※2024年11月〜 加筆修正の改稿工事中です。ご了承下さい。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

僕を拾ってくれたのはイケメン社長さんでした

なの
BL
社長になって1年、父の葬儀でその少年に出会った。 「あんたのせいよ。あんたさえいなかったら、あの人は死なずに済んだのに…」 高校にも通わせてもらえず、実母の恋人にいいように身体を弄ばれていたことを知った。 そんな理不尽なことがあっていいのか、人は誰でも幸せになる権利があるのに… その少年は昔、誰よりも可愛がってた犬に似ていた。 ついその犬を思い出してしまい、その少年を幸せにしたいと思うようになった。 かわいそうな人生を送ってきた少年とイケメン社長が出会い、恋に落ちるまで… ハッピーエンドです。 R18の場面には※をつけます。

処理中です...