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新たな日課
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早朝の人気の無い街路を走る。高いビルの立ち並ぶ中心部から、郊外の住宅街、そして公園へ。
自動販売機はこちらにも存在しており、飲み物、ちょっとしたお菓子、パン、新聞などが売られている。新聞はあるにはあるが、大抵の人は端末で読むらしく、新聞配達はないようだ。
学校は週休2日制、時間も9時から夕方までと、本当に日本と似ていて違和感がほとんどない。
この研究所のあった所が首都アレイで、特殊次元対策課もここに置かれる事になる。
次元が接触して敵性生物が出現すると思われる範囲はこのアレイにあり、篁文はランニングをしながら地理を把握しようとしていた。
研究所に戻って来ると、そのまま舗装された道から外れて庭に走って行く。そして、壁際のゴミ集積所の壁を蹴った勢いで2メートルの塀に飛び乗ると、そのまま走って、この前ベンチを置いて踏み荒らして以来道になった所へ飛び降りる。
研究施設から塀を隔てたこちら側に、寮があるのだ。
そして次は、物置として使われているらしい小さな建物の屋根に消火栓を踏み台にしてジャンプした後、隣の寮のある建物の非常階段の手すりに1メートルの隙間を飛び越えて飛び移る。この時、上の階の手すりに捕まって、足を曲げて2階の手すりを超えて非常階段に飛び込むようにする。
そしてそのまま屋上まで駆け上がり、中途半端な高さにあるパイプを潜り、階段で2段低くなっている屋上部分に飛び降りる。
よくわからないパイプを何本か飛び越えて中央付近へ行くと、やっと足を止めて、腕時計でタイムを確認する。
あとはしばらくここで、古武道の型をなぞり、部屋へ戻る途中で紗希の部屋のドアフォンを押してからシャワーを浴びる。
これが篁文の朝の日課だ。
この日も同じようにこなし、着替えて廊下に出る。すると、眠そうな顔で紗希が隣の部屋から出て来た。
「おはよ。ふあぁ。相変わらず早起きね。近所の鶏を起こして回ってるんじゃないの?」
「おはよう。寝ぐせが直ってないぞ」
「面倒臭いからいい」
「社会人だろう。ちゃんとしろ」
「やってぇ」
篁文は手櫛で紗希の髪を引き、すき、整えた。柔らかくてすぐに戻るのだ。
「まったく……」
「へへへ」
紗希は笑ってごまかし、篁文もいつもの事と肩を竦めて、並んで食堂へ向かう。
朝と夕の食事が出るのはありがたい。昼は適当に、店に入ったり屋台で何か買ったりしている。これもまた楽しい。
寮には特殊次元対策課の課員の他にも警察官や研究所員も入っており、食堂は既に半分くらい席が埋まっていた。
腕時計型の端末をセンサーにかざし、カウンターで食事の乗ったトレイを受け取る。
席は自由で、2人は空いたテーブルについた。
「いただきます。
今朝のは何だろうな。オムレツと、唐揚げ?」
「あ、白身の魚っぽいわよ」
「タラに似てるな。こっちはピーマンと人参みたいだし、白身魚のフライ野菜あんかけってところか」
「パンでなくご飯が欲しいところねえ、このメニュー」
「組み合わせに微妙に違和感を感じるな」
「そうね。まあ、この前のごはんにマカロニサラダの乗った丼も変だったけど」
「ああ。あれな」
2人で、頷き合いながらも、食べる。違和感を感じる事もあるが、味も見た目も不都合はない。薄い味を好むセレエは全体的に味が濃いと嘆いていたが、篁文と紗希は、地球にいるのと大差ない感じさえする。
ただお茶は、コーヒーと紅茶とハーブティーが主で、緑茶や抹茶はないようだ。紅茶があるなら緑茶もできると言いたいが、作り方の違いをそこまで覚えていないので、説明できない。なので、諦めるしかなかった。
デザートに付いていた小ぶりなプリンを食べる。
甘みと滑らかさと風味が違う。
これだけは、篁文は不満だった。
「さあ、今日はとうとう新しい武器を貰う日よ!」
ウキウキとする紗希に、不安しか感じない篁文だった。
自動販売機はこちらにも存在しており、飲み物、ちょっとしたお菓子、パン、新聞などが売られている。新聞はあるにはあるが、大抵の人は端末で読むらしく、新聞配達はないようだ。
学校は週休2日制、時間も9時から夕方までと、本当に日本と似ていて違和感がほとんどない。
この研究所のあった所が首都アレイで、特殊次元対策課もここに置かれる事になる。
次元が接触して敵性生物が出現すると思われる範囲はこのアレイにあり、篁文はランニングをしながら地理を把握しようとしていた。
研究所に戻って来ると、そのまま舗装された道から外れて庭に走って行く。そして、壁際のゴミ集積所の壁を蹴った勢いで2メートルの塀に飛び乗ると、そのまま走って、この前ベンチを置いて踏み荒らして以来道になった所へ飛び降りる。
研究施設から塀を隔てたこちら側に、寮があるのだ。
そして次は、物置として使われているらしい小さな建物の屋根に消火栓を踏み台にしてジャンプした後、隣の寮のある建物の非常階段の手すりに1メートルの隙間を飛び越えて飛び移る。この時、上の階の手すりに捕まって、足を曲げて2階の手すりを超えて非常階段に飛び込むようにする。
そしてそのまま屋上まで駆け上がり、中途半端な高さにあるパイプを潜り、階段で2段低くなっている屋上部分に飛び降りる。
よくわからないパイプを何本か飛び越えて中央付近へ行くと、やっと足を止めて、腕時計でタイムを確認する。
あとはしばらくここで、古武道の型をなぞり、部屋へ戻る途中で紗希の部屋のドアフォンを押してからシャワーを浴びる。
これが篁文の朝の日課だ。
この日も同じようにこなし、着替えて廊下に出る。すると、眠そうな顔で紗希が隣の部屋から出て来た。
「おはよ。ふあぁ。相変わらず早起きね。近所の鶏を起こして回ってるんじゃないの?」
「おはよう。寝ぐせが直ってないぞ」
「面倒臭いからいい」
「社会人だろう。ちゃんとしろ」
「やってぇ」
篁文は手櫛で紗希の髪を引き、すき、整えた。柔らかくてすぐに戻るのだ。
「まったく……」
「へへへ」
紗希は笑ってごまかし、篁文もいつもの事と肩を竦めて、並んで食堂へ向かう。
朝と夕の食事が出るのはありがたい。昼は適当に、店に入ったり屋台で何か買ったりしている。これもまた楽しい。
寮には特殊次元対策課の課員の他にも警察官や研究所員も入っており、食堂は既に半分くらい席が埋まっていた。
腕時計型の端末をセンサーにかざし、カウンターで食事の乗ったトレイを受け取る。
席は自由で、2人は空いたテーブルについた。
「いただきます。
今朝のは何だろうな。オムレツと、唐揚げ?」
「あ、白身の魚っぽいわよ」
「タラに似てるな。こっちはピーマンと人参みたいだし、白身魚のフライ野菜あんかけってところか」
「パンでなくご飯が欲しいところねえ、このメニュー」
「組み合わせに微妙に違和感を感じるな」
「そうね。まあ、この前のごはんにマカロニサラダの乗った丼も変だったけど」
「ああ。あれな」
2人で、頷き合いながらも、食べる。違和感を感じる事もあるが、味も見た目も不都合はない。薄い味を好むセレエは全体的に味が濃いと嘆いていたが、篁文と紗希は、地球にいるのと大差ない感じさえする。
ただお茶は、コーヒーと紅茶とハーブティーが主で、緑茶や抹茶はないようだ。紅茶があるなら緑茶もできると言いたいが、作り方の違いをそこまで覚えていないので、説明できない。なので、諦めるしかなかった。
デザートに付いていた小ぶりなプリンを食べる。
甘みと滑らかさと風味が違う。
これだけは、篁文は不満だった。
「さあ、今日はとうとう新しい武器を貰う日よ!」
ウキウキとする紗希に、不安しか感じない篁文だった。
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