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敵
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まったりと浮遊するかのような意識に、何か、異質なものが入り込む。それで篁文は目を醒ました。
体を横たえているのは硬い地面で、狂ったようなサイレンの音が大音量で流れ込んで来た。それで、一気に覚醒し、体を起こす。
工場かどこかのような場所だが、爆発か何かが起こったように、床や天井や机らしきものが壊れていた。そこに倒れている人、同じように起き上がってキョロキョロしている人、こちらを見ながら怯えている人、人に食いついている何か動物、人に貼りついて体液を吸い上げているらしきドッジボールくらいの虫、ビチビチと動く大きな魚というか、人魚のようなもの。それらが、辺りを見回した一瞬で目に入って来た。
ハッとしてそばに目を向けると、同じ高校の制服を着た女子学生が目をこすりながら体を起こすところだった。
「紗希、大丈夫か!?」
「篁文?ええっと、ここは?」
「わからん。だが、取り敢えず、できれば距離を取っていろ」
目の合った化け物がこちらに体を向けるのを見て、篁文はそう言いながら、転がっていた警棒らしき物を化け物から目を離さないまま拾い上げた。
「え。あれ、何?化け物?」
「知らん。ただ、間違いなく敵だ」
言ったと同時に、それが甲高い声を上げた。獲物を襲う前の咆哮だろうか。それで、周囲の人達が呻く。
襲い掛かって来る前に、化け物の近くに飛び込んで、側頭部を警棒で強打する。硬い物を殴ったような手ごたえの無さに、こちらの手の方が痺れる。
僅かに体を揺らした化け物は、怒ったように、距離を置いた篁文に正対して両腕を構えた。
目の端に、紗希が倒れた人達の方へ走って逃げるのが見えた。
そちらへ、化け物が目を向けかける。
その後頭部を強打し、体が泳いだところで首にもう1打を加える。それで化け物は、完全に紗希を忘れて篁文に意識を集中させたらしい。
殴りつけて来るような腕を避け、肩や膝や頭部に打撃を加えるのだが、化け物があまりにも頑丈で、決定打が打てない。
その化け物の背後で、猫耳の女が次々と虫をトレイか何かで叩き落とし、斧を振り回す大男が何度も斧をそれに叩きつけて虫を殺すのが見えた。
虫を叩き潰し終えた大男が斧を頭上に構える。
それを見て、篁文は化け物の真ん前から横にずれて人なら脾臓があるあたりに強打を加える。それで体が泳いだところで、大男が斧を化け物の首に振り下ろした。
「グギャアアアア!!」
傷はできたものの、それだけだ。痛いじゃないかと文句を言いたげな顔を、化け物は大男に向ける。
大男は、ハッと笑って、何か聞き取れない言葉を呟いた。
猫耳女が、やはり何かわからない言葉を喋りながら、倒れた人達のポケットに差さっていたペンを両手に握る。
篁文は言葉によるコミュニケーションは諦めた。猫耳女に向かって、両目を指さし、次に化け物を指す。それで猫耳女はわかったのか、頷いた。
次に、背中を向ける化け物の向こうにいる大男に、首に手刀を当てるしぐさを見せると、大男は、笑って頷いて来た。
化け物が、両手を掲げて大男に飛び掛かろうとする。
その後頭部を思い切り殴りつけ、膝裏を蹴り、カックンと体勢を倒した所で更に側頭部を強打して床に這わせる事に成功する。
猫耳女が飛び掛かって、ペンを化け物の両目に突き立てた。
「グギャア!!ギャアアアア!!」
そして痛みに転がる化け物の首、先程の傷に斧が振り下ろされる。1回、2回、3回。
血が飛び、サイレンも叫び声も大音量で鼓膜を震わせる。
やがて頭部が転がり、化け物は動かなくなった。
「篁文ぃ!!」
転がるように紗希が走り寄って来、それで篁文は、吐きそうになるのをこらえた。
「ケガはない!?何なのこれ!?」
「さあ」
倒れていた人達がようやく起き上がって来ると、何かわからない事を言いながら、武器らしきものをこちらに向けつつ近付いて来る。
「何!?どうしよう、篁文!」
中の1人が、紗希の肩に手を伸ばした。
「え。きゃああああ!!」
「紗希!?」
肩を掴もうとするその手を跳ね上げ、紗希を背中に庇う。その瞬間、小さな破裂音と共に胸に小さな衝撃を受けた。
撃たれた。そうわかったが、急激に体が動かなくなり、クタリと体の力が抜けて床に倒れ込んでいく。
「篁文!?篁文!!」
泣きそうな顔で叫ぶ紗希の声が、閉じて行くまぶたの向こうに消えて行った。
ああ。何がどうしてこうなった?それが篁文の、最後の思考だった。
体を横たえているのは硬い地面で、狂ったようなサイレンの音が大音量で流れ込んで来た。それで、一気に覚醒し、体を起こす。
工場かどこかのような場所だが、爆発か何かが起こったように、床や天井や机らしきものが壊れていた。そこに倒れている人、同じように起き上がってキョロキョロしている人、こちらを見ながら怯えている人、人に食いついている何か動物、人に貼りついて体液を吸い上げているらしきドッジボールくらいの虫、ビチビチと動く大きな魚というか、人魚のようなもの。それらが、辺りを見回した一瞬で目に入って来た。
ハッとしてそばに目を向けると、同じ高校の制服を着た女子学生が目をこすりながら体を起こすところだった。
「紗希、大丈夫か!?」
「篁文?ええっと、ここは?」
「わからん。だが、取り敢えず、できれば距離を取っていろ」
目の合った化け物がこちらに体を向けるのを見て、篁文はそう言いながら、転がっていた警棒らしき物を化け物から目を離さないまま拾い上げた。
「え。あれ、何?化け物?」
「知らん。ただ、間違いなく敵だ」
言ったと同時に、それが甲高い声を上げた。獲物を襲う前の咆哮だろうか。それで、周囲の人達が呻く。
襲い掛かって来る前に、化け物の近くに飛び込んで、側頭部を警棒で強打する。硬い物を殴ったような手ごたえの無さに、こちらの手の方が痺れる。
僅かに体を揺らした化け物は、怒ったように、距離を置いた篁文に正対して両腕を構えた。
目の端に、紗希が倒れた人達の方へ走って逃げるのが見えた。
そちらへ、化け物が目を向けかける。
その後頭部を強打し、体が泳いだところで首にもう1打を加える。それで化け物は、完全に紗希を忘れて篁文に意識を集中させたらしい。
殴りつけて来るような腕を避け、肩や膝や頭部に打撃を加えるのだが、化け物があまりにも頑丈で、決定打が打てない。
その化け物の背後で、猫耳の女が次々と虫をトレイか何かで叩き落とし、斧を振り回す大男が何度も斧をそれに叩きつけて虫を殺すのが見えた。
虫を叩き潰し終えた大男が斧を頭上に構える。
それを見て、篁文は化け物の真ん前から横にずれて人なら脾臓があるあたりに強打を加える。それで体が泳いだところで、大男が斧を化け物の首に振り下ろした。
「グギャアアアア!!」
傷はできたものの、それだけだ。痛いじゃないかと文句を言いたげな顔を、化け物は大男に向ける。
大男は、ハッと笑って、何か聞き取れない言葉を呟いた。
猫耳女が、やはり何かわからない言葉を喋りながら、倒れた人達のポケットに差さっていたペンを両手に握る。
篁文は言葉によるコミュニケーションは諦めた。猫耳女に向かって、両目を指さし、次に化け物を指す。それで猫耳女はわかったのか、頷いた。
次に、背中を向ける化け物の向こうにいる大男に、首に手刀を当てるしぐさを見せると、大男は、笑って頷いて来た。
化け物が、両手を掲げて大男に飛び掛かろうとする。
その後頭部を思い切り殴りつけ、膝裏を蹴り、カックンと体勢を倒した所で更に側頭部を強打して床に這わせる事に成功する。
猫耳女が飛び掛かって、ペンを化け物の両目に突き立てた。
「グギャア!!ギャアアアア!!」
そして痛みに転がる化け物の首、先程の傷に斧が振り下ろされる。1回、2回、3回。
血が飛び、サイレンも叫び声も大音量で鼓膜を震わせる。
やがて頭部が転がり、化け物は動かなくなった。
「篁文ぃ!!」
転がるように紗希が走り寄って来、それで篁文は、吐きそうになるのをこらえた。
「ケガはない!?何なのこれ!?」
「さあ」
倒れていた人達がようやく起き上がって来ると、何かわからない事を言いながら、武器らしきものをこちらに向けつつ近付いて来る。
「何!?どうしよう、篁文!」
中の1人が、紗希の肩に手を伸ばした。
「え。きゃああああ!!」
「紗希!?」
肩を掴もうとするその手を跳ね上げ、紗希を背中に庇う。その瞬間、小さな破裂音と共に胸に小さな衝撃を受けた。
撃たれた。そうわかったが、急激に体が動かなくなり、クタリと体の力が抜けて床に倒れ込んでいく。
「篁文!?篁文!!」
泣きそうな顔で叫ぶ紗希の声が、閉じて行くまぶたの向こうに消えて行った。
ああ。何がどうしてこうなった?それが篁文の、最後の思考だった。
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