1 / 48
敵
しおりを挟む
まったりと浮遊するかのような意識に、何か、異質なものが入り込む。それで篁文は目を醒ました。
体を横たえているのは硬い地面で、狂ったようなサイレンの音が大音量で流れ込んで来た。それで、一気に覚醒し、体を起こす。
工場かどこかのような場所だが、爆発か何かが起こったように、床や天井や机らしきものが壊れていた。そこに倒れている人、同じように起き上がってキョロキョロしている人、こちらを見ながら怯えている人、人に食いついている何か動物、人に貼りついて体液を吸い上げているらしきドッジボールくらいの虫、ビチビチと動く大きな魚というか、人魚のようなもの。それらが、辺りを見回した一瞬で目に入って来た。
ハッとしてそばに目を向けると、同じ高校の制服を着た女子学生が目をこすりながら体を起こすところだった。
「紗希、大丈夫か!?」
「篁文?ええっと、ここは?」
「わからん。だが、取り敢えず、できれば距離を取っていろ」
目の合った化け物がこちらに体を向けるのを見て、篁文はそう言いながら、転がっていた警棒らしき物を化け物から目を離さないまま拾い上げた。
「え。あれ、何?化け物?」
「知らん。ただ、間違いなく敵だ」
言ったと同時に、それが甲高い声を上げた。獲物を襲う前の咆哮だろうか。それで、周囲の人達が呻く。
襲い掛かって来る前に、化け物の近くに飛び込んで、側頭部を警棒で強打する。硬い物を殴ったような手ごたえの無さに、こちらの手の方が痺れる。
僅かに体を揺らした化け物は、怒ったように、距離を置いた篁文に正対して両腕を構えた。
目の端に、紗希が倒れた人達の方へ走って逃げるのが見えた。
そちらへ、化け物が目を向けかける。
その後頭部を強打し、体が泳いだところで首にもう1打を加える。それで化け物は、完全に紗希を忘れて篁文に意識を集中させたらしい。
殴りつけて来るような腕を避け、肩や膝や頭部に打撃を加えるのだが、化け物があまりにも頑丈で、決定打が打てない。
その化け物の背後で、猫耳の女が次々と虫をトレイか何かで叩き落とし、斧を振り回す大男が何度も斧をそれに叩きつけて虫を殺すのが見えた。
虫を叩き潰し終えた大男が斧を頭上に構える。
それを見て、篁文は化け物の真ん前から横にずれて人なら脾臓があるあたりに強打を加える。それで体が泳いだところで、大男が斧を化け物の首に振り下ろした。
「グギャアアアア!!」
傷はできたものの、それだけだ。痛いじゃないかと文句を言いたげな顔を、化け物は大男に向ける。
大男は、ハッと笑って、何か聞き取れない言葉を呟いた。
猫耳女が、やはり何かわからない言葉を喋りながら、倒れた人達のポケットに差さっていたペンを両手に握る。
篁文は言葉によるコミュニケーションは諦めた。猫耳女に向かって、両目を指さし、次に化け物を指す。それで猫耳女はわかったのか、頷いた。
次に、背中を向ける化け物の向こうにいる大男に、首に手刀を当てるしぐさを見せると、大男は、笑って頷いて来た。
化け物が、両手を掲げて大男に飛び掛かろうとする。
その後頭部を思い切り殴りつけ、膝裏を蹴り、カックンと体勢を倒した所で更に側頭部を強打して床に這わせる事に成功する。
猫耳女が飛び掛かって、ペンを化け物の両目に突き立てた。
「グギャア!!ギャアアアア!!」
そして痛みに転がる化け物の首、先程の傷に斧が振り下ろされる。1回、2回、3回。
血が飛び、サイレンも叫び声も大音量で鼓膜を震わせる。
やがて頭部が転がり、化け物は動かなくなった。
「篁文ぃ!!」
転がるように紗希が走り寄って来、それで篁文は、吐きそうになるのをこらえた。
「ケガはない!?何なのこれ!?」
「さあ」
倒れていた人達がようやく起き上がって来ると、何かわからない事を言いながら、武器らしきものをこちらに向けつつ近付いて来る。
「何!?どうしよう、篁文!」
中の1人が、紗希の肩に手を伸ばした。
「え。きゃああああ!!」
「紗希!?」
肩を掴もうとするその手を跳ね上げ、紗希を背中に庇う。その瞬間、小さな破裂音と共に胸に小さな衝撃を受けた。
撃たれた。そうわかったが、急激に体が動かなくなり、クタリと体の力が抜けて床に倒れ込んでいく。
「篁文!?篁文!!」
泣きそうな顔で叫ぶ紗希の声が、閉じて行くまぶたの向こうに消えて行った。
ああ。何がどうしてこうなった?それが篁文の、最後の思考だった。
体を横たえているのは硬い地面で、狂ったようなサイレンの音が大音量で流れ込んで来た。それで、一気に覚醒し、体を起こす。
工場かどこかのような場所だが、爆発か何かが起こったように、床や天井や机らしきものが壊れていた。そこに倒れている人、同じように起き上がってキョロキョロしている人、こちらを見ながら怯えている人、人に食いついている何か動物、人に貼りついて体液を吸い上げているらしきドッジボールくらいの虫、ビチビチと動く大きな魚というか、人魚のようなもの。それらが、辺りを見回した一瞬で目に入って来た。
ハッとしてそばに目を向けると、同じ高校の制服を着た女子学生が目をこすりながら体を起こすところだった。
「紗希、大丈夫か!?」
「篁文?ええっと、ここは?」
「わからん。だが、取り敢えず、できれば距離を取っていろ」
目の合った化け物がこちらに体を向けるのを見て、篁文はそう言いながら、転がっていた警棒らしき物を化け物から目を離さないまま拾い上げた。
「え。あれ、何?化け物?」
「知らん。ただ、間違いなく敵だ」
言ったと同時に、それが甲高い声を上げた。獲物を襲う前の咆哮だろうか。それで、周囲の人達が呻く。
襲い掛かって来る前に、化け物の近くに飛び込んで、側頭部を警棒で強打する。硬い物を殴ったような手ごたえの無さに、こちらの手の方が痺れる。
僅かに体を揺らした化け物は、怒ったように、距離を置いた篁文に正対して両腕を構えた。
目の端に、紗希が倒れた人達の方へ走って逃げるのが見えた。
そちらへ、化け物が目を向けかける。
その後頭部を強打し、体が泳いだところで首にもう1打を加える。それで化け物は、完全に紗希を忘れて篁文に意識を集中させたらしい。
殴りつけて来るような腕を避け、肩や膝や頭部に打撃を加えるのだが、化け物があまりにも頑丈で、決定打が打てない。
その化け物の背後で、猫耳の女が次々と虫をトレイか何かで叩き落とし、斧を振り回す大男が何度も斧をそれに叩きつけて虫を殺すのが見えた。
虫を叩き潰し終えた大男が斧を頭上に構える。
それを見て、篁文は化け物の真ん前から横にずれて人なら脾臓があるあたりに強打を加える。それで体が泳いだところで、大男が斧を化け物の首に振り下ろした。
「グギャアアアア!!」
傷はできたものの、それだけだ。痛いじゃないかと文句を言いたげな顔を、化け物は大男に向ける。
大男は、ハッと笑って、何か聞き取れない言葉を呟いた。
猫耳女が、やはり何かわからない言葉を喋りながら、倒れた人達のポケットに差さっていたペンを両手に握る。
篁文は言葉によるコミュニケーションは諦めた。猫耳女に向かって、両目を指さし、次に化け物を指す。それで猫耳女はわかったのか、頷いた。
次に、背中を向ける化け物の向こうにいる大男に、首に手刀を当てるしぐさを見せると、大男は、笑って頷いて来た。
化け物が、両手を掲げて大男に飛び掛かろうとする。
その後頭部を思い切り殴りつけ、膝裏を蹴り、カックンと体勢を倒した所で更に側頭部を強打して床に這わせる事に成功する。
猫耳女が飛び掛かって、ペンを化け物の両目に突き立てた。
「グギャア!!ギャアアアア!!」
そして痛みに転がる化け物の首、先程の傷に斧が振り下ろされる。1回、2回、3回。
血が飛び、サイレンも叫び声も大音量で鼓膜を震わせる。
やがて頭部が転がり、化け物は動かなくなった。
「篁文ぃ!!」
転がるように紗希が走り寄って来、それで篁文は、吐きそうになるのをこらえた。
「ケガはない!?何なのこれ!?」
「さあ」
倒れていた人達がようやく起き上がって来ると、何かわからない事を言いながら、武器らしきものをこちらに向けつつ近付いて来る。
「何!?どうしよう、篁文!」
中の1人が、紗希の肩に手を伸ばした。
「え。きゃああああ!!」
「紗希!?」
肩を掴もうとするその手を跳ね上げ、紗希を背中に庇う。その瞬間、小さな破裂音と共に胸に小さな衝撃を受けた。
撃たれた。そうわかったが、急激に体が動かなくなり、クタリと体の力が抜けて床に倒れ込んでいく。
「篁文!?篁文!!」
泣きそうな顔で叫ぶ紗希の声が、閉じて行くまぶたの向こうに消えて行った。
ああ。何がどうしてこうなった?それが篁文の、最後の思考だった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
絶世のディプロマット
一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。
レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。
レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。
※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
No One's Glory -もうひとりの物語-
はっくまん2XL
SF
異世界転生も転移もしない異世界物語……(. . `)
よろしくお願い申し上げます
男は過眠症で日々の生活に空白を持っていた。
医師の診断では、睡眠無呼吸から来る睡眠障害とのことであったが、男には疑いがあった。
男は常に、同じ世界、同じ人物の夢を見ていたのだ。それも、非常に生々しく……
手触り感すらあるその世界で、男は別人格として、「採掘師」という仕事を生業としていた。
採掘師とは、遺跡に眠るストレージから、マップや暗号鍵、設計図などの有用な情報を発掘し、マーケットに流す仕事である。
各地に点在する遺跡を巡り、時折マーケットのある都市、集落に訪れる生活の中で、時折感じる自身の中の他者の魂が幻でないと気づいた時、彼らの旅は混迷を増した……
申し訳ございませんm(_ _)m
不定期投稿になります。
本業多忙のため、しばらく連載休止します。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる