9 / 20
交代
しおりを挟む
フッと我に返ったら、同僚と話をしていた。霊田さんが入っていたみたいだ。
どういう状況だ、何の話をしていたんだと内心で軽く焦る。
「ソースがそんなに種類がたくさんあるんだ」
「それを分けて使うのかあ」
どうもソースの話をしていたらしいと当たりを付けて、俺は笑って言った。
「やっぱりちゃいますやん、味とかトロミとか。だから冷蔵庫に何種類か入ってましたし、俺も向こうから買って来ました」
それで同僚は笑ったり感心したりして、上手く入れ替われたと安堵した。
最近、疲れているだろうと気を遣って、霊田さんが行き帰りなどの間を俺に代わってくれている。俺は別に大丈夫だと言ったが、霊田さんが外で動いたり話をしたりしたいんだろうと、交代していた。
ふと下に目をやって、自分が缶コーヒーを持っていることに気付いた。いつも自分が買うものだったのはともかくとして、量が減っていることに驚いた。
霊田さんが飲食したのは初めてだった。
ああ、体は俺だし、問題はないのか。
チラリと霊田さんを見ると、俺をじっと見ていた霊田さんは小さく笑った。
とりあえず小さく笑い返しておいたが、内心俺は、怖いものを感じていた。
俺をじっと見ているのは、何のためだろう……。
得意先を回り、売れている物、あまり売れていない物などのチェックをし、少なくなっているものは、オンラインを使った定時の発注、納品とは別の直納、つまり直接納品という形で商品を補充して伝票を書く。
俺が我に返った時、その作業をしている最中だった。
何をどれだけ補充したのか慌てて確認してみると、まあ売れ筋から外れておらず、数もこの店に見合ったものでほっとしたが、少し、恐怖と焦りを覚えた。
最近、霊田さんが勝手に俺の体に入って行動していることがちょくちょくある。その内に何か失敗をしないだろうか。
いや、俺が恐れているのは、そんなことだけじゃない。
とりあえずサインをもらおうと榊原さんのところへ行く。
また、榊原さんのいる事務所の手前で霊田さんは足を止めた。
「そんなに馬が合わへんのか? ちょっと待っとって」
小声で言って、俺はひとりで事務所に入った。
どこか軽くなった気がした。最近いつも、霊田さんが貼り付いているからだろうか。寂しくはないが、あれはあれで気を遣うからな。
「どうも。補充してきましたんで、伝票にサインお願いします」
「お疲れ様です」
榊原さんはこちらの方を見て、少し笑った。
「影谷さん。最近、変な事はないですか」
伝票にサインを入れながらそう訊かれ、ドキッとした。
「え、そうですねえ……。ああ、ちょっと、夏バテかな。アカンなあ。気合いが足りませんわ」
榊原さんは目をすがめるように俺を少し見てから、
「記憶がなくなっている時があるとか」
どきっ。
「変に痩せるとか疲れるとか」
ぎくっ。
「誰もいないのに、声や気配がするとか」
視線が泳ぎかける。
「本当に危険ですのでね」
俺は少し迷って、それから更に事務所の入り口の方を振り返ってから、榊原さんに訊いた。
「榊原さんは、幽霊とか、そういうもんに詳しいんですか」
「そうですね。実は」
ごくりと喉が鳴った。
俺は霊田さんがいい人だと信じているが、霊田さんと榊原さん、どちらを信じるべきなんだろうか。
もう一度口を開きかけた時、別の会社の営業の人が現れて、話はここまでとなった。
「いつでも、連絡をくださっていいですから。いいですね」
榊原さんは真剣な目つきでそう言って、俺は事務所を後にした。
そのあと、霊田さんと目を合わすのが、何となく後ろめたいような気がした。
どういう状況だ、何の話をしていたんだと内心で軽く焦る。
「ソースがそんなに種類がたくさんあるんだ」
「それを分けて使うのかあ」
どうもソースの話をしていたらしいと当たりを付けて、俺は笑って言った。
「やっぱりちゃいますやん、味とかトロミとか。だから冷蔵庫に何種類か入ってましたし、俺も向こうから買って来ました」
それで同僚は笑ったり感心したりして、上手く入れ替われたと安堵した。
最近、疲れているだろうと気を遣って、霊田さんが行き帰りなどの間を俺に代わってくれている。俺は別に大丈夫だと言ったが、霊田さんが外で動いたり話をしたりしたいんだろうと、交代していた。
ふと下に目をやって、自分が缶コーヒーを持っていることに気付いた。いつも自分が買うものだったのはともかくとして、量が減っていることに驚いた。
霊田さんが飲食したのは初めてだった。
ああ、体は俺だし、問題はないのか。
チラリと霊田さんを見ると、俺をじっと見ていた霊田さんは小さく笑った。
とりあえず小さく笑い返しておいたが、内心俺は、怖いものを感じていた。
俺をじっと見ているのは、何のためだろう……。
得意先を回り、売れている物、あまり売れていない物などのチェックをし、少なくなっているものは、オンラインを使った定時の発注、納品とは別の直納、つまり直接納品という形で商品を補充して伝票を書く。
俺が我に返った時、その作業をしている最中だった。
何をどれだけ補充したのか慌てて確認してみると、まあ売れ筋から外れておらず、数もこの店に見合ったものでほっとしたが、少し、恐怖と焦りを覚えた。
最近、霊田さんが勝手に俺の体に入って行動していることがちょくちょくある。その内に何か失敗をしないだろうか。
いや、俺が恐れているのは、そんなことだけじゃない。
とりあえずサインをもらおうと榊原さんのところへ行く。
また、榊原さんのいる事務所の手前で霊田さんは足を止めた。
「そんなに馬が合わへんのか? ちょっと待っとって」
小声で言って、俺はひとりで事務所に入った。
どこか軽くなった気がした。最近いつも、霊田さんが貼り付いているからだろうか。寂しくはないが、あれはあれで気を遣うからな。
「どうも。補充してきましたんで、伝票にサインお願いします」
「お疲れ様です」
榊原さんはこちらの方を見て、少し笑った。
「影谷さん。最近、変な事はないですか」
伝票にサインを入れながらそう訊かれ、ドキッとした。
「え、そうですねえ……。ああ、ちょっと、夏バテかな。アカンなあ。気合いが足りませんわ」
榊原さんは目をすがめるように俺を少し見てから、
「記憶がなくなっている時があるとか」
どきっ。
「変に痩せるとか疲れるとか」
ぎくっ。
「誰もいないのに、声や気配がするとか」
視線が泳ぎかける。
「本当に危険ですのでね」
俺は少し迷って、それから更に事務所の入り口の方を振り返ってから、榊原さんに訊いた。
「榊原さんは、幽霊とか、そういうもんに詳しいんですか」
「そうですね。実は」
ごくりと喉が鳴った。
俺は霊田さんがいい人だと信じているが、霊田さんと榊原さん、どちらを信じるべきなんだろうか。
もう一度口を開きかけた時、別の会社の営業の人が現れて、話はここまでとなった。
「いつでも、連絡をくださっていいですから。いいですね」
榊原さんは真剣な目つきでそう言って、俺は事務所を後にした。
そのあと、霊田さんと目を合わすのが、何となく後ろめたいような気がした。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
心霊捜査官の事件簿 依頼者と怪異たちの狂騒曲
幽刻ネオン
ホラー
心理心霊課、通称【サイキック・ファンタズマ】。
様々な心霊絡みの事件や出来事を解決してくれる特殊公務員。
主人公、黄昏リリカは、今日も依頼者の【怪談・怪異譚】を代償に捜査に明け暮れていた。
サポートしてくれる、ヴァンパイアロードの男、リベリオン・ファントム。
彼女のライバルでビジネス仲間である【影の心霊捜査官】と呼ばれる青年、白夜亨(ビャクヤ・リョウ)。
現在は、三人で仕事を引き受けている。
果たして依頼者たちの問題を無事に解決することができるのか?
「聞かせてほしいの、あなたの【怪談】を」
魂(たま)抜き地蔵
Hiroko
ホラー
遠い過去の記憶の中にある五体の地蔵。
暗く濡れた山の中、私はなぜ母親にそこに連れて行かれたのか。
このお話は私の考えたものですが、これは本当にある場所で、このお地蔵さまは実在します。写真はそのお地蔵さまです。あまりアップで見ない方がいいかもしれません。
短編ホラーです。
ああ、原稿用紙十枚くらいに収めるつもりだったのに……。
どんどん長くなってしまいました。
花嫁ゲーム
八木愛里
ホラー
ある日、探偵事務所を営む九条アカネに舞い込んできた依頼は、「花嫁ゲーム」で死んだ妹の無念を晴らしてほしいという依頼だった。
聞けば、そのゲームは花嫁選別のためのゲームで、花嫁として選ばれた場合は結婚支度金10億円を受け取ることができるらしい。
九条アカネが調査を進めると、そのゲームは過去にも行われており、生存者はゼロであることが判明した。
依頼人の恨みを晴らすため、九条アカネはゲームに潜入して真相を解き明かす決意をする。
ゲームの勝者と結婚できるとされるモナークさまとは一体どんな人なのか? 果たして、九条アカネはモナークさまの正体を突き止め、依頼人の無念を晴らすことができるのか?
生き残りを賭けた女性たちのデスゲームが始まる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
扉の向こうは黒い影
小野 夜
ホラー
古い校舎の3階、突き当たりの隅にある扉。それは「開かずの扉」と呼ばれ、生徒たちの間で恐れられていた。扉の向こう側には、かつて理科室として使われていた部屋があるはずだったが、今は誰も足を踏み入れない禁断の場所となっていた。
夏休みのある日、ユキは友達のケンジとタケシを誘って、学校に忍び込む。目的は、開かずの扉を開けること。好奇心と恐怖心が入り混じる中、3人はついに扉を開ける。
優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~
けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。
してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。
そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる…
ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。
有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。
美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。
真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。
家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。
こんな私でもやり直せるの?
幸せを願っても…いいの?
動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
植物人-しょくぶつびと-
一綿しろ
ホラー
植物の様に水と太陽光で必要な養分を作る機能を持った人間「植物人」を生み出す薬を作った男がいた。
男は病から人を救うと言う名目でその薬を使い続ける。
だが、薬を奪われない限り枯れない植物「植物化」になってしまう者、人から精気を喰らう化け物「植物妖」になり果てる者が大半だった。
男は結局は病で死んだ。多くの植物人、植物妖たちを残して。
これはその薬から生まれた植物化、植物妖たちを枯る「殺め」になった男の話。
※同タイトルの作品があった為、タイトルや造語を変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる