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交代
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フッと我に返ったら、同僚と話をしていた。霊田さんが入っていたみたいだ。
どういう状況だ、何の話をしていたんだと内心で軽く焦る。
「ソースがそんなに種類がたくさんあるんだ」
「それを分けて使うのかあ」
どうもソースの話をしていたらしいと当たりを付けて、俺は笑って言った。
「やっぱりちゃいますやん、味とかトロミとか。だから冷蔵庫に何種類か入ってましたし、俺も向こうから買って来ました」
それで同僚は笑ったり感心したりして、上手く入れ替われたと安堵した。
最近、疲れているだろうと気を遣って、霊田さんが行き帰りなどの間を俺に代わってくれている。俺は別に大丈夫だと言ったが、霊田さんが外で動いたり話をしたりしたいんだろうと、交代していた。
ふと下に目をやって、自分が缶コーヒーを持っていることに気付いた。いつも自分が買うものだったのはともかくとして、量が減っていることに驚いた。
霊田さんが飲食したのは初めてだった。
ああ、体は俺だし、問題はないのか。
チラリと霊田さんを見ると、俺をじっと見ていた霊田さんは小さく笑った。
とりあえず小さく笑い返しておいたが、内心俺は、怖いものを感じていた。
俺をじっと見ているのは、何のためだろう……。
得意先を回り、売れている物、あまり売れていない物などのチェックをし、少なくなっているものは、オンラインを使った定時の発注、納品とは別の直納、つまり直接納品という形で商品を補充して伝票を書く。
俺が我に返った時、その作業をしている最中だった。
何をどれだけ補充したのか慌てて確認してみると、まあ売れ筋から外れておらず、数もこの店に見合ったものでほっとしたが、少し、恐怖と焦りを覚えた。
最近、霊田さんが勝手に俺の体に入って行動していることがちょくちょくある。その内に何か失敗をしないだろうか。
いや、俺が恐れているのは、そんなことだけじゃない。
とりあえずサインをもらおうと榊原さんのところへ行く。
また、榊原さんのいる事務所の手前で霊田さんは足を止めた。
「そんなに馬が合わへんのか? ちょっと待っとって」
小声で言って、俺はひとりで事務所に入った。
どこか軽くなった気がした。最近いつも、霊田さんが貼り付いているからだろうか。寂しくはないが、あれはあれで気を遣うからな。
「どうも。補充してきましたんで、伝票にサインお願いします」
「お疲れ様です」
榊原さんはこちらの方を見て、少し笑った。
「影谷さん。最近、変な事はないですか」
伝票にサインを入れながらそう訊かれ、ドキッとした。
「え、そうですねえ……。ああ、ちょっと、夏バテかな。アカンなあ。気合いが足りませんわ」
榊原さんは目をすがめるように俺を少し見てから、
「記憶がなくなっている時があるとか」
どきっ。
「変に痩せるとか疲れるとか」
ぎくっ。
「誰もいないのに、声や気配がするとか」
視線が泳ぎかける。
「本当に危険ですのでね」
俺は少し迷って、それから更に事務所の入り口の方を振り返ってから、榊原さんに訊いた。
「榊原さんは、幽霊とか、そういうもんに詳しいんですか」
「そうですね。実は」
ごくりと喉が鳴った。
俺は霊田さんがいい人だと信じているが、霊田さんと榊原さん、どちらを信じるべきなんだろうか。
もう一度口を開きかけた時、別の会社の営業の人が現れて、話はここまでとなった。
「いつでも、連絡をくださっていいですから。いいですね」
榊原さんは真剣な目つきでそう言って、俺は事務所を後にした。
そのあと、霊田さんと目を合わすのが、何となく後ろめたいような気がした。
どういう状況だ、何の話をしていたんだと内心で軽く焦る。
「ソースがそんなに種類がたくさんあるんだ」
「それを分けて使うのかあ」
どうもソースの話をしていたらしいと当たりを付けて、俺は笑って言った。
「やっぱりちゃいますやん、味とかトロミとか。だから冷蔵庫に何種類か入ってましたし、俺も向こうから買って来ました」
それで同僚は笑ったり感心したりして、上手く入れ替われたと安堵した。
最近、疲れているだろうと気を遣って、霊田さんが行き帰りなどの間を俺に代わってくれている。俺は別に大丈夫だと言ったが、霊田さんが外で動いたり話をしたりしたいんだろうと、交代していた。
ふと下に目をやって、自分が缶コーヒーを持っていることに気付いた。いつも自分が買うものだったのはともかくとして、量が減っていることに驚いた。
霊田さんが飲食したのは初めてだった。
ああ、体は俺だし、問題はないのか。
チラリと霊田さんを見ると、俺をじっと見ていた霊田さんは小さく笑った。
とりあえず小さく笑い返しておいたが、内心俺は、怖いものを感じていた。
俺をじっと見ているのは、何のためだろう……。
得意先を回り、売れている物、あまり売れていない物などのチェックをし、少なくなっているものは、オンラインを使った定時の発注、納品とは別の直納、つまり直接納品という形で商品を補充して伝票を書く。
俺が我に返った時、その作業をしている最中だった。
何をどれだけ補充したのか慌てて確認してみると、まあ売れ筋から外れておらず、数もこの店に見合ったものでほっとしたが、少し、恐怖と焦りを覚えた。
最近、霊田さんが勝手に俺の体に入って行動していることがちょくちょくある。その内に何か失敗をしないだろうか。
いや、俺が恐れているのは、そんなことだけじゃない。
とりあえずサインをもらおうと榊原さんのところへ行く。
また、榊原さんのいる事務所の手前で霊田さんは足を止めた。
「そんなに馬が合わへんのか? ちょっと待っとって」
小声で言って、俺はひとりで事務所に入った。
どこか軽くなった気がした。最近いつも、霊田さんが貼り付いているからだろうか。寂しくはないが、あれはあれで気を遣うからな。
「どうも。補充してきましたんで、伝票にサインお願いします」
「お疲れ様です」
榊原さんはこちらの方を見て、少し笑った。
「影谷さん。最近、変な事はないですか」
伝票にサインを入れながらそう訊かれ、ドキッとした。
「え、そうですねえ……。ああ、ちょっと、夏バテかな。アカンなあ。気合いが足りませんわ」
榊原さんは目をすがめるように俺を少し見てから、
「記憶がなくなっている時があるとか」
どきっ。
「変に痩せるとか疲れるとか」
ぎくっ。
「誰もいないのに、声や気配がするとか」
視線が泳ぎかける。
「本当に危険ですのでね」
俺は少し迷って、それから更に事務所の入り口の方を振り返ってから、榊原さんに訊いた。
「榊原さんは、幽霊とか、そういうもんに詳しいんですか」
「そうですね。実は」
ごくりと喉が鳴った。
俺は霊田さんがいい人だと信じているが、霊田さんと榊原さん、どちらを信じるべきなんだろうか。
もう一度口を開きかけた時、別の会社の営業の人が現れて、話はここまでとなった。
「いつでも、連絡をくださっていいですから。いいですね」
榊原さんは真剣な目つきでそう言って、俺は事務所を後にした。
そのあと、霊田さんと目を合わすのが、何となく後ろめたいような気がした。
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