4 / 20
ルームシェア
しおりを挟む
風呂から上がると、乾いていた洗濯物がたたまれていた。乾燥できたものを洗濯機から出して、適当に放っておいたのだが。
まさかと横を見ると、幽霊がこちらを見ていた。
「やってくれたん?」
頷く。
「おおきに」
それで幽霊はドアを通り抜けて廊下へ出て行った。
「ええやつやんか」
俺は彼を見送ってそう言いながら、パンツを握りしめた。
リビングに戻って話をしようとしたのだが、幽霊は姿を消していた。
「え。これも夢なんか。妄想?」
俺はどうしたものかと頭を悩ませながら、布団に入った。
お祓いしてくれそうな神社とかを総務で聞こうと思ったのを最後に、眠りに落ちたのだった。
「ああーっ! 寝坊した!」
目が覚めると、目覚まし時計のセットを忘れていたらしく、寝坊していた。バタバタと顔を洗い、着替える。会社まで近いことがこういう時にはいいが、休日や急な呼び出しに対応できるだろうとあてにされるところがデメリットとなる。
慌ただしく出て行こうとした俺の前に、カップスープが差し出された。
「え」
見ると、幽霊がそれを差し出していた。
テーブルの上には、昨日買ってきたインスタントスープの素がある。
「おおきに。
おお、ちょうど飲めるええ温度や」
やっぱり朝食は必要やもんな。
「ほな、行ってきます」
俺は空になったカップを幽霊に返して、家を出た。
それでじっくりと考えた。幽霊とはいえ、あれはいい人だ。こちらに害を与える気はなさそうだ。
考えてみれば、向こうはここに住んでいたのに、ある日見ず知らずの人間が住み始めるのだ。追い出そうとしたり怒ったりしても当然だろう。なのに、そうはしない。うたた寝してカゼを引きそうなのを教えてくれたり、カップスープを淹れてくれたりするし、洗濯物もたたんでくれていた。
「ええ人やん」
俺は決めた。
幽霊は、話すことができないらしかった。ただ首を振って、はい、いいえ、を示すことはできる。
夜、またも半額弁当を食べた後で、俺と幽霊は向かい合っていた。
「ここに住んではったん」
はい。まあ、そうやろうな。
「ここにおりたいんですか」
はい。
「それで、俺を殺したりとかは、せえへん?」
はい。おお、良かった。
「じゃあ、一緒に住もか。ルームシェアや」
はい。
「あ、名前があらへんと不便やな。名前、言えるんかな」
いいえ。
「五十音表とかで、文字を指したら頷くとか」
いいえ。
「もしかして、名前、覚えてはらへんの?」
はい。
「ああ……それは気の毒やな……。
じゃあ、名前付けよ。何がええかな」
そう言えば、高校の時の担任に、霊田と書いてたまだと読む先生がいた。幽霊の霊だし、ちょうどいい。
「たまださんとかどうやろ」
はい。それでわずかに、表情が緩んで微かに笑顔になった。
ついでに俺も、にっこり。
「じゃあ、よろしくな。
あ。夜中、布団の周り歩くんはなしな。俺が寝てる時は、こっちのリビングとかにいてもうてええかな。テレビとか見ててええから」
はい。
こうして俺に、同居人ができた。
まさかと横を見ると、幽霊がこちらを見ていた。
「やってくれたん?」
頷く。
「おおきに」
それで幽霊はドアを通り抜けて廊下へ出て行った。
「ええやつやんか」
俺は彼を見送ってそう言いながら、パンツを握りしめた。
リビングに戻って話をしようとしたのだが、幽霊は姿を消していた。
「え。これも夢なんか。妄想?」
俺はどうしたものかと頭を悩ませながら、布団に入った。
お祓いしてくれそうな神社とかを総務で聞こうと思ったのを最後に、眠りに落ちたのだった。
「ああーっ! 寝坊した!」
目が覚めると、目覚まし時計のセットを忘れていたらしく、寝坊していた。バタバタと顔を洗い、着替える。会社まで近いことがこういう時にはいいが、休日や急な呼び出しに対応できるだろうとあてにされるところがデメリットとなる。
慌ただしく出て行こうとした俺の前に、カップスープが差し出された。
「え」
見ると、幽霊がそれを差し出していた。
テーブルの上には、昨日買ってきたインスタントスープの素がある。
「おおきに。
おお、ちょうど飲めるええ温度や」
やっぱり朝食は必要やもんな。
「ほな、行ってきます」
俺は空になったカップを幽霊に返して、家を出た。
それでじっくりと考えた。幽霊とはいえ、あれはいい人だ。こちらに害を与える気はなさそうだ。
考えてみれば、向こうはここに住んでいたのに、ある日見ず知らずの人間が住み始めるのだ。追い出そうとしたり怒ったりしても当然だろう。なのに、そうはしない。うたた寝してカゼを引きそうなのを教えてくれたり、カップスープを淹れてくれたりするし、洗濯物もたたんでくれていた。
「ええ人やん」
俺は決めた。
幽霊は、話すことができないらしかった。ただ首を振って、はい、いいえ、を示すことはできる。
夜、またも半額弁当を食べた後で、俺と幽霊は向かい合っていた。
「ここに住んではったん」
はい。まあ、そうやろうな。
「ここにおりたいんですか」
はい。
「それで、俺を殺したりとかは、せえへん?」
はい。おお、良かった。
「じゃあ、一緒に住もか。ルームシェアや」
はい。
「あ、名前があらへんと不便やな。名前、言えるんかな」
いいえ。
「五十音表とかで、文字を指したら頷くとか」
いいえ。
「もしかして、名前、覚えてはらへんの?」
はい。
「ああ……それは気の毒やな……。
じゃあ、名前付けよ。何がええかな」
そう言えば、高校の時の担任に、霊田と書いてたまだと読む先生がいた。幽霊の霊だし、ちょうどいい。
「たまださんとかどうやろ」
はい。それでわずかに、表情が緩んで微かに笑顔になった。
ついでに俺も、にっこり。
「じゃあ、よろしくな。
あ。夜中、布団の周り歩くんはなしな。俺が寝てる時は、こっちのリビングとかにいてもうてええかな。テレビとか見ててええから」
はい。
こうして俺に、同居人ができた。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
心霊捜査官の事件簿 依頼者と怪異たちの狂騒曲
幽刻ネオン
ホラー
心理心霊課、通称【サイキック・ファンタズマ】。
様々な心霊絡みの事件や出来事を解決してくれる特殊公務員。
主人公、黄昏リリカは、今日も依頼者の【怪談・怪異譚】を代償に捜査に明け暮れていた。
サポートしてくれる、ヴァンパイアロードの男、リベリオン・ファントム。
彼女のライバルでビジネス仲間である【影の心霊捜査官】と呼ばれる青年、白夜亨(ビャクヤ・リョウ)。
現在は、三人で仕事を引き受けている。
果たして依頼者たちの問題を無事に解決することができるのか?
「聞かせてほしいの、あなたの【怪談】を」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
エリス
伏織
ホラー
9月 新学期。
ふとした噂から、酷いイジメが始まった。
主人公の親友が、万引きの噂が流れているクラスメートに対するイジメを始める。
イジメが続いていく中、ある日教室の真ん中でイジメに加担していた生徒が首吊り死体で発見され、物語は徐々に暗闇へと向かっていきます。
優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~
けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。
してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。
そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる…
ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。
有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。
美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。
真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。
家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。
こんな私でもやり直せるの?
幸せを願っても…いいの?
動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
扉の向こうは黒い影
小野 夜
ホラー
古い校舎の3階、突き当たりの隅にある扉。それは「開かずの扉」と呼ばれ、生徒たちの間で恐れられていた。扉の向こう側には、かつて理科室として使われていた部屋があるはずだったが、今は誰も足を踏み入れない禁断の場所となっていた。
夏休みのある日、ユキは友達のケンジとタケシを誘って、学校に忍び込む。目的は、開かずの扉を開けること。好奇心と恐怖心が入り混じる中、3人はついに扉を開ける。
不労の家
千年砂漠
ホラー
高校を卒業したばかりの隆志は母を急な病で亡くした数日後、訳も分からず母に連れられて夜逃げして以来八年間全く会わなかった父も亡くし、父の実家の世久家を継ぐことになった。
世久家はかなりの資産家で、古くから続く名家だったが、当主には絶対守らなければならない奇妙なしきたりがあった。
それは「一生働かないこと」。
世久の家には富をもたらす神が住んでおり、その神との約束で代々の世久家の当主は働かずに暮らしていた。
初めは戸惑っていた隆志も裕福に暮らせる楽しさを覚え、昔一年だけこの土地に住んでいたときの同級生と遊び回っていたが、やがて恐ろしい出来事が隆志の周りで起こり始める。
経済的に豊かであっても、心まで満たされるとは限らない。
望んでもいないのに生まれたときから背負わされた宿命に、流されるか。抗うか。
彼の最後の選択を見て欲しい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
幸せの島
土偶の友
ホラー
夏休み、母に連れられて訪れたのは母の故郷であるとある島。
初めて会ったといってもいい祖父母や現代とは思えないような遊びをする子供たち。
そんな中に今年10歳になる大地は入っていく。
彼はそこでどんな結末を迎えるのか。
完結しましたが、不明な点があれば感想などで聞いてください。
エブリスタ様、カクヨム様、小説家になろう様、ノベルアップ+様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
【失言ホラー 一言目】褒めたつもりだったのに【なずみのホラー便 第161弾】
なずみ智子
ホラー
本作は「カクヨム」「アルファポリス」「エブリスタ」の3サイトで公開中です。
【なずみのホラー便】のネタバレ倉庫も用意しています。
⇒ https://www.alphapolis.co.jp/novel/599153088/606224994
★リアルタイムでのネタバレ反映ではなく、ちまちま更新予定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
植物人-しょくぶつびと-
一綿しろ
ホラー
植物の様に水と太陽光で必要な養分を作る機能を持った人間「植物人」を生み出す薬を作った男がいた。
男は病から人を救うと言う名目でその薬を使い続ける。
だが、薬を奪われない限り枯れない植物「植物化」になってしまう者、人から精気を喰らう化け物「植物妖」になり果てる者が大半だった。
男は結局は病で死んだ。多くの植物人、植物妖たちを残して。
これはその薬から生まれた植物化、植物妖たちを枯る「殺め」になった男の話。
※同タイトルの作品があった為、タイトルや造語を変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる