同居人

JUN

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ルームシェア

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 風呂から上がると、乾いていた洗濯物がたたまれていた。乾燥できたものを洗濯機から出して、適当に放っておいたのだが。
 まさかと横を見ると、幽霊がこちらを見ていた。
「やってくれたん?」
 頷く。
「おおきに」
 それで幽霊はドアを通り抜けて廊下へ出て行った。
「ええやつやんか」
 俺は彼を見送ってそう言いながら、パンツを握りしめた。
 リビングに戻って話をしようとしたのだが、幽霊は姿を消していた。
「え。これも夢なんか。妄想?」
 俺はどうしたものかと頭を悩ませながら、布団に入った。
 お祓いしてくれそうな神社とかを総務で聞こうと思ったのを最後に、眠りに落ちたのだった。

「ああーっ! 寝坊した!」
 目が覚めると、目覚まし時計のセットを忘れていたらしく、寝坊していた。バタバタと顔を洗い、着替える。会社まで近いことがこういう時にはいいが、休日や急な呼び出しに対応できるだろうとあてにされるところがデメリットとなる。
 慌ただしく出て行こうとした俺の前に、カップスープが差し出された。
「え」
 見ると、幽霊がそれを差し出していた。
 テーブルの上には、昨日買ってきたインスタントスープの素がある。
「おおきに。
 おお、ちょうど飲めるええ温度や」
 やっぱり朝食は必要やもんな。
「ほな、行ってきます」
 俺は空になったカップを幽霊に返して、家を出た。
 それでじっくりと考えた。幽霊とはいえ、あれはいい人だ。こちらに害を与える気はなさそうだ。
 考えてみれば、向こうはここに住んでいたのに、ある日見ず知らずの人間が住み始めるのだ。追い出そうとしたり怒ったりしても当然だろう。なのに、そうはしない。うたた寝してカゼを引きそうなのを教えてくれたり、カップスープを淹れてくれたりするし、洗濯物もたたんでくれていた。
「ええ人やん」
 俺は決めた。

 幽霊は、話すことができないらしかった。ただ首を振って、はい、いいえ、を示すことはできる。
 夜、またも半額弁当を食べた後で、俺と幽霊は向かい合っていた。
「ここに住んではったん」
 はい。まあ、そうやろうな。
「ここにおりたいんですか」
 はい。
「それで、俺を殺したりとかは、せえへん?」
 はい。おお、良かった。
「じゃあ、一緒に住もか。ルームシェアや」
 はい。
「あ、名前があらへんと不便やな。名前、言えるんかな」
 いいえ。
「五十音表とかで、文字を指したら頷くとか」
 いいえ。
「もしかして、名前、覚えてはらへんの?」
 はい。
「ああ……それは気の毒やな……。
 じゃあ、名前付けよ。何がええかな」
 そう言えば、高校の時の担任に、霊田と書いてたまだと読む先生がいた。幽霊の霊だし、ちょうどいい。
「たまださんとかどうやろ」
 はい。それでわずかに、表情が緩んで微かに笑顔になった。
 ついでに俺も、にっこり。
「じゃあ、よろしくな。
 あ。夜中、布団の周り歩くんはなしな。俺が寝てる時は、こっちのリビングとかにいてもうてええかな。テレビとか見ててええから」
 はい。
 こうして俺に、同居人ができた。


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