34 / 42
初陣の洗礼
しおりを挟む
何度も訓練したし、記録映像も見た。それでもリアルには遠く及ばなかった。
「うわわっ、こっち来る!?」
「あ、当たれ!当たれえええ!」
トラックで運ばれた先は山間部の市街地だったが、田畑も道路も埋め尽くすように、そこら中に眷属がうろうろしていた。
少しずつ掃討しながら広がって行くが、不意に建物の陰や中から飛び出して来たり、かなりの数で襲って来たりするのに、一部の1年生がパニックになった。
「落ち着け!慌てるな!」
グループに付いている自衛官がそう声をかけ、何とかなるのが大方だが、中にはその声も耳に入らず、敵に向かって銃を乱射し、仲間を撃ちそうになったり、座り込んで震えるだけで仲間を危険に晒す者も出た。
出席番号順に班分けされており、1番の鬼束、2番の黒岩、3番の悠理、4番の均は同じ班だった。もう2人も鈴木で、英二と慎司だ。
しかし余談ながら鈴木は13人いる。次の班は全員鈴木で「チーム鈴木」と呼ばれているし、その次の班は悠理達の班と同じく半分が鈴木だった。
2年生からは「鈴木の呪い」と笑われている。
しかしチーム鈴木は、鈴木という同じ苗字の連帯感のなせる業か、ひとつの生き物の如く動く事ができている優秀な班だ。
反対に悠理達の班は、気を付けないと、黒岩と鬼束が突っ込んで行きかねない危険があった。しょっちゅう自衛官や悠理、均が声をかけないといけない、要注意班のひとつになっていた。
もうひとつの要注意班は、高揚して銃を乱射しがちな生徒と恐怖で震えて動けなくなる生徒がいる班で、どちらも訓練では上手くできていたのが、戦場に出てこうなった。
それでなくとも、隠れる所のある市街地では、訓練とは違う恐怖がある。
班長こと班付きの自衛官が応援を要請するのを無線機で聞き、
「ああ、山田か。あいつ、血に弱いんだよな。血に酔って変なスイッチが入ったんだよ、きっと」
と均がぼやくように言うと、悠理も
「涌井は上手くできてると思ったのにな。本番に弱いタイプだったのか」
と嘆息した。
黒岩と鬼束は、よその班のトラブルを聞くと冷静さを取り戻したようで、大人しくなり、班長を安堵させた。
「よし。受け持ち区域はクリーンになったな。移動するぞ」
班長が言い、悠理達はまだ眷属が残っている地域を横から突く形になるように移動し始めた。
「ああ。この辺りは遮蔽物が多いな」
忌々しそうに黒岩が言うと、鬼束は腰のゼルカに手をやり、嬉しそうに訊く。
「それじゃあ、斬りに行った方がいいんじゃないか?弾も減らないし」
班長は一瞬考えたが、
「接近戦がいきなり乱戦じゃあな。少し心配だ。見通しのいい所でやってからがいいな」
と言い、鬼束は渋々剣から手を離した。
だが、飛び込んで来た声に全員ギョッとした。
『山田!左!』
『山田、伏せろ!』
『沖川会長が!?』
『うわあああ!!』
『山田、動くな!!撃つな!!涌井、そこにいろ!!』
混乱しきった声が飛び込んで来る。
「あそこだ!」
民家の向こうに、その班がいた。涌井はほかの班員に抑えられており、山田は沖川に抑え込まれてジタバタともがきながら銃を眷属に向けて撃っており、班長がその沖川と山田に接近し、山田を殴って銃を取り上げた。そのそばで、残る班員はおろおろとしていた。
その彼らに、眷属が接近し、爪を飛ばそうとしている。
「あれを狙え!援護に向かう!」
悠理のところの班長が言った時には、悠理達は発砲しながら彼らに向かって走っていた。
「うわああああ!!」
やってはいけないと言われていたが、引き金を引きっぱなしにし、体を起こしていた。
沖川の下のアスファルトが濡れている。しかもそれは、だんだんと大きく広がっていく。それを見て、悠理は完全に冷静さを失った。
過剰なほどに悠理達は発砲し、眷属達に弾を浴びせかけた。
眷属が倒れる。このまま放っておけばやがて消える。
「沖川さん!」
悠理は沖川を見た。
向こうの班長が山田を抑えつけており、悠理達の班長が沖川に大股で近寄り、かがみこんでいた。
「生徒2名が負傷。受け入れ準備を頼む」
班長が無線で言うそばで、悠理は沖川に飛びついた。
沖川の左肩がザックリと切れているが、沖川は
「大丈夫だ、俺は平気だ」
と言う。
それでやや冷静さを取り戻し、沖川の下になっていた山田を見た。
山田の腿が深く切れ、驚くほどの勢いで出血していた。
その山田の傷に、班長2人で手早く応急処置を行う。
沖川はそれを真っ青な顔で凝視していた。
「うわわっ、こっち来る!?」
「あ、当たれ!当たれえええ!」
トラックで運ばれた先は山間部の市街地だったが、田畑も道路も埋め尽くすように、そこら中に眷属がうろうろしていた。
少しずつ掃討しながら広がって行くが、不意に建物の陰や中から飛び出して来たり、かなりの数で襲って来たりするのに、一部の1年生がパニックになった。
「落ち着け!慌てるな!」
グループに付いている自衛官がそう声をかけ、何とかなるのが大方だが、中にはその声も耳に入らず、敵に向かって銃を乱射し、仲間を撃ちそうになったり、座り込んで震えるだけで仲間を危険に晒す者も出た。
出席番号順に班分けされており、1番の鬼束、2番の黒岩、3番の悠理、4番の均は同じ班だった。もう2人も鈴木で、英二と慎司だ。
しかし余談ながら鈴木は13人いる。次の班は全員鈴木で「チーム鈴木」と呼ばれているし、その次の班は悠理達の班と同じく半分が鈴木だった。
2年生からは「鈴木の呪い」と笑われている。
しかしチーム鈴木は、鈴木という同じ苗字の連帯感のなせる業か、ひとつの生き物の如く動く事ができている優秀な班だ。
反対に悠理達の班は、気を付けないと、黒岩と鬼束が突っ込んで行きかねない危険があった。しょっちゅう自衛官や悠理、均が声をかけないといけない、要注意班のひとつになっていた。
もうひとつの要注意班は、高揚して銃を乱射しがちな生徒と恐怖で震えて動けなくなる生徒がいる班で、どちらも訓練では上手くできていたのが、戦場に出てこうなった。
それでなくとも、隠れる所のある市街地では、訓練とは違う恐怖がある。
班長こと班付きの自衛官が応援を要請するのを無線機で聞き、
「ああ、山田か。あいつ、血に弱いんだよな。血に酔って変なスイッチが入ったんだよ、きっと」
と均がぼやくように言うと、悠理も
「涌井は上手くできてると思ったのにな。本番に弱いタイプだったのか」
と嘆息した。
黒岩と鬼束は、よその班のトラブルを聞くと冷静さを取り戻したようで、大人しくなり、班長を安堵させた。
「よし。受け持ち区域はクリーンになったな。移動するぞ」
班長が言い、悠理達はまだ眷属が残っている地域を横から突く形になるように移動し始めた。
「ああ。この辺りは遮蔽物が多いな」
忌々しそうに黒岩が言うと、鬼束は腰のゼルカに手をやり、嬉しそうに訊く。
「それじゃあ、斬りに行った方がいいんじゃないか?弾も減らないし」
班長は一瞬考えたが、
「接近戦がいきなり乱戦じゃあな。少し心配だ。見通しのいい所でやってからがいいな」
と言い、鬼束は渋々剣から手を離した。
だが、飛び込んで来た声に全員ギョッとした。
『山田!左!』
『山田、伏せろ!』
『沖川会長が!?』
『うわあああ!!』
『山田、動くな!!撃つな!!涌井、そこにいろ!!』
混乱しきった声が飛び込んで来る。
「あそこだ!」
民家の向こうに、その班がいた。涌井はほかの班員に抑えられており、山田は沖川に抑え込まれてジタバタともがきながら銃を眷属に向けて撃っており、班長がその沖川と山田に接近し、山田を殴って銃を取り上げた。そのそばで、残る班員はおろおろとしていた。
その彼らに、眷属が接近し、爪を飛ばそうとしている。
「あれを狙え!援護に向かう!」
悠理のところの班長が言った時には、悠理達は発砲しながら彼らに向かって走っていた。
「うわああああ!!」
やってはいけないと言われていたが、引き金を引きっぱなしにし、体を起こしていた。
沖川の下のアスファルトが濡れている。しかもそれは、だんだんと大きく広がっていく。それを見て、悠理は完全に冷静さを失った。
過剰なほどに悠理達は発砲し、眷属達に弾を浴びせかけた。
眷属が倒れる。このまま放っておけばやがて消える。
「沖川さん!」
悠理は沖川を見た。
向こうの班長が山田を抑えつけており、悠理達の班長が沖川に大股で近寄り、かがみこんでいた。
「生徒2名が負傷。受け入れ準備を頼む」
班長が無線で言うそばで、悠理は沖川に飛びついた。
沖川の左肩がザックリと切れているが、沖川は
「大丈夫だ、俺は平気だ」
と言う。
それでやや冷静さを取り戻し、沖川の下になっていた山田を見た。
山田の腿が深く切れ、驚くほどの勢いで出血していた。
その山田の傷に、班長2人で手早く応急処置を行う。
沖川はそれを真っ青な顔で凝視していた。
0
お気に入りに追加
17
あなたにおすすめの小説


僕はお別れしたつもりでした
まと
BL
遠距離恋愛中だった恋人との関係が自然消滅した。どこか心にぽっかりと穴が空いたまま毎日を過ごしていた藍(あい)。大晦日の夜、寂しがり屋の親友と二人で年越しを楽しむことになり、ハメを外して酔いつぶれてしまう。目が覚めたら「ここどこ」状態!!
親友と仲良すぎな主人公と、別れたはずの恋人とのお話。
⚠️趣味で書いておりますので、誤字脱字のご報告や、世界観に対する批判コメントはご遠慮します。そういったコメントにはお返しできませんので宜しくお願いします。
大晦日あたりに出そうと思ったお話です。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿

そんなの真実じゃない
イヌノカニ
BL
引きこもって四年、生きていてもしょうがないと感じた主人公は身の周りの整理し始める。自分の部屋に溢れる幼馴染との思い出を見て、どんなパソコンやスマホよりも自分の事を知っているのは幼馴染だと気付く。どうにかして彼から自分に関する記憶を消したいと思った主人公は偶然見た広告の人を意のままに操れるというお香を手に幼馴染に会いに行くが———?
彼は本当に俺の知っている彼なのだろうか。
==============
人の証言と記憶の曖昧さをテーマに書いたので、ハッキリとせずに終わります。


王様の恋
うりぼう
BL
「惚れ薬は手に入るか?」
突然王に言われた一言。
王は惚れ薬を使ってでも手に入れたい人間がいるらしい。
ずっと王を見つめてきた幼馴染の側近と王の話。
※エセ王国
※エセファンタジー
※惚れ薬
※異世界トリップ表現が少しあります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる