やっぱりねこになりたい

JUN

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夏休みの始まり

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「節度ある態度を厳守し、特技校の生徒としての自覚を持って過ごすように」
 服部が教壇でどうでも良さそうに言う間にも、多くの生徒達は、そわそわとしていた。ほとんど上の空である事は服部にもお見通しではあるが、どうせここで言う内容など、誰にでも想像できるものだ。
「ま、ケガすんな」
 その言葉と溜め息で締めくくり、1年生は夏休みに突入した。

 ほとんどの1年生は実家へ帰省し、専用の船で島から出て行った。残っているのは、家族が悪魔の襲来などによってもういなくなっているとか、海外や遠い所にいるなどで行きにくいか、そういう者ばかりだ。
 均は帰省組で、
「お土産買って来るからな」
と手を振って出て行った。
 悠理は図書室へ行こうと部屋を出て、西條に会った。
「よ、悠理。ああ、鈴木は帰省か」
「そうなんですよねえ。食事にオクラとレバーが出た時に困る」
 悠理が言うと、西條はプッと吹き出した。
「何だったら俺が引き取ってやるよ。
 1人で寂しいだろ。部屋に行ってやろうか?一晩中、喋ったりゲームしたりしようぜ」
 西條が言うのに、背後から来た沖川が西條の頭を軽くはたいた。
「お前は休みじゃないだろ。
 それと敷島。好き嫌いは直せ。子供じゃないんだから」
 キリッとしながらも、目元は笑いをにじませて言う。
「大人でも嫌いなものは嫌いですぅ」
「大きくなれないぜ」
 西條が言い、
「いや、あんまりデカくもゴツくもならないかな」
と言い直し、沖川も、
「まあ、それには同意するか」
と言うので、悠理は内心で、
(高3で背は伸びるからな!今に見てろ!)
と叫んだ。
「それより、鈴木という見張りがいないと、キチンと食って寝るのかが心配だな。これは見回りに行くか」
 真剣に沖川が言い出す。
「そ、それより、沖川さんも西條さんも、夏休みはいつ?実家に帰るんですか?」
 それに、西條は明るく笑った。
「俺の夏休みは、ちょうど市内のお祭りの頃だ。家には帰らないな」
 沖川も、
「俺の休みも同じだ。俺もここに残る」
と言う。
「じゃあ、お祭りの日、外出しないか?港の近くの神社で夜店が出るぞ」
「外出はいいが、門限は7時だぞ。夜店は無理だっただろ」
「ああ、そうだった。去年行ったやつがそう言ってたっけ」
 西條と沖川はそう言い合う。
 3人で喋りながら校舎へ入ると、服部と会った。
 服部は悠理を見て複雑そうな顔をし、
「休みでもそうやって学校へ来るのは、勤勉というのか?いや、お前のはなんか違う。良からぬことをしでかしそうで、気が抜けない」
とぶつぶつ言い出す。
「失礼な。せっかくのまとまった自由時間だから、ちょっと調べものをするだけですよ。
 で、分析器と顕微鏡とレベル4の密閉実験箱の使用許可を下さい。あと、ゼルカの安定化前の物がいいんですけど、だめなら安定化したやつでいいので、100グラムほど下さい」
 服部だけでなく、沖川も西條も目を見開き、そして嘆息した。
「安定化前のゼルカ……ダメに決まってるだろ。何をやろうとしているんだ」
 沖川は頭を振り、
「これだから悠理は面白くて好きなんだよな!」
と西條は笑い、服部は、
「担任になってみろ。俺の苦労の一端がわかる」
と溜め息をついた。
 夏休みは、始まったばかりだ。



 
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