やっぱりねこになりたい

JUN

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約束

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 生徒達はいつも通りの空気を表面上は取り戻し、いつものように動き出した。
 そしていつものように入浴し、本を読んだりして過ごしてから、ふと、窓の下を見た。
「あ、ちょっと出て来る」
 均に言いおいて、悠理は外に出た。
 暗がりで1人、竹刀を振る人影があった。
「沖川さん」
 竹刀を下ろしたタイミングで声をかける。
「なんだ、敷島か。どうした」
「いえ。自主練しているのが見えたので。
 はい、どうぞ」
 スポーツドリンクを手渡すと、沖川は礼を言って受け取り、それを一気に半分くらい飲んだ。
「流石。食堂では見事に納めましたね」
「敷島のボケも見事だったな」
 沖川が返し、お互いに笑う。そして、悠理は訊いた。
「沖川さんも、唐揚げとビールの為に、戻って来るんですよ?」
 沖川は少し笑って、悠理を見た。
「何だ、心配か」
 問われて、悠理は内心で動揺した。なぜ動揺したのかは、その瞬間にはわからなかったが。
「ええ。ビールに合うのは唐揚げだけじゃないし、ビール以外にも美味しいのはあるんです。
 ええっと、そういう噂です。噂」
 悠理は付け加えて、沖川を見た。
「沖川さんは、いつも誰かの為に動いてるから。誰かを守るために俺達は確かにここにいる。でも、沖川さんだって、誰かに守られていいんですよ」
 沖川は悠理をじっと見返し、フッと視線を外した。
「敷島は不思議だな。時々、本当に何歳かわからない時がある」
「老けてるとかそういう意味ですかね」
 沖川はくすっと笑った。
「俺だって怖くない事は無い。お見通しだろ、どうせ」
 悠理は肩を竦めた。
「誰だってそうでしょう」
「あれは半分、自分に言ったようなもんだ。
 わかってはいたし、覚悟はしていたつもりだったんだけどなあ」
 沖川は空を見上げた。
 星がきれいに見え、波の音が聞こえる。
「子供にそんな覚悟をさせるとは、申し訳ない」
「敷島だってその子供だろうが」
 沖川が吹き出すのに、悠理も笑って返す。
「ああ……若年寄的に言ってみた?」
「へんなやつだな」
「はは。申し訳ない」
 視線が合い、悠理は念を押した。
「取り敢えずは実習。戻れよ。戻らなかったら、怒る」
「じゃあ戻ったら?」
「褒める?」
 沖川はふわりと笑うと、悠理の頭をくしゃりと撫でた。
「悠理」
「はい?」
「いや。皆そう呼ぶと思ってな。
 悠理は何か秘密を抱えているように見える」
 悠理は内心でギクリとした。
「まあ、秘密のひとつやふたつやみっつやよっつ、誰でもありますよ」
「多いな?まあ、そういう事にしておくか」
 沖川はそう言うと、笑って、
「もう寝ろ。夜中になるぞ」
と、悠理を促して寮の玄関へ向かって歩き出した。

 その2日後。校区内に眷属が出現し、2年生は実戦に出た。




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