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新たな噂の誕生
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何か重大事故でもあれば、すぐにわかる。暴発事故でも起これば間違いなく大騒ぎになるだろう。
しかし何事もなく授業は進み、休み時間になった。
ザワザワとする教室を出た花園は、足早にならないようにしながら、階段を下りた。もうすぐ射撃場を出た1年生達がこの階段を上がってくるはずだ。
階段脇にトイレがあるので人の話し声はするし、人通りもある。
少し待つと、1年生達が階段を上がって来た。
(いた!)
ぞろぞろと連なって上がって来る1年生達の中に、悠理を見付けた。
「ゲームだともっと当たるんだけどなあ」
「ゲームの銃は反動もないしな」
「俺もゲームしようかなあ、携帯のゲームじゃなく」
「テレビゲームだとテレビもいるぞ?それとコードでつないで使えるゲーム用のシューティングガンも買うと、バカにならん出費だし」
「その前に、寮の自室にテレビの持ち込みは禁止だろ」
言いながらゾロゾロと歩いている。
その後ろの方に黒岩がいるのを見付けた花園は、そっと近づいて黒岩の袖を引いた。
「ん?ああ……」
黒岩はいつも通りの仏頂面を袖を引く人物に向け、それが花園とわかるや、面倒臭そうな顔をした。
花園は、イラッとした。
「黒岩君。テスト、どうだったの。上手く行かなかったの?」
にっこりと笑って言うと、近くにいた1年生は先に歩いて行った。
「花園先輩、黒岩と親しいのか?」
「1つ上だけど、かわいいよな」
「ちょっとあざといトコがアイドルみたいな」
そんな事を言いながら上へ上がって行くのを見送り、花園は、
(舐めた事言ってるな、あいつら)
と思いながらも、黒岩に視線を戻した。
かわいいと言われており、自分でもそう思う笑顔を浮べ、黒岩をジッと見る。
それでもよく見れば、花園の笑顔は、目は笑っていないのがよくわかるのだが。
「黒岩君」
黒岩は軽くフッと笑った。
「上手く行きましたよ。俺もあいつも最長をクリアしましたしね」
「意味わかってるよね。ちゃんとメンテナンスしたのかって訊いてるんだよ」
黒岩は花園の目を覗き込むようにした。
「何だよ」
花園は、反射的に狼狽えて視線を揺らした。
「俺はそんな事をするつもりはない。俺は俺の努力であいつを越える。
あんたも、言いたい事があるなら自分で言えよ。他人をそそのかして使おうとするな」
黒岩は押し殺した声でそう言って、花園から離れて階段を上がって教室へ向かって行った。
それを花園は呆然と見送り、姿が見えなくなってから、体が震え出すのを感じた。怒りなのか羞恥なのか。怒りだとすれば、それは悠理へなのか、黒岩へなのか。
自分でもよくわからないまま、上の1年生の教室の階を見上げ、フンと鼻を鳴らすと踵を返した。
それを、柱の陰から沖川と西條が見ていた。
以前の西條はいつも人に囲まれていたが、最近は1人で気軽に動く事も増えた。しかし演じているかのようなよそよそしさがなくなり、話しかけやすくなったと、影では相変わらず秘密ファンクラブは存在していた。
そんな西條は、花園の動向に感じる所があり、沖川と相談して、何かするのではないかと注視していたのだ。
「黒岩と?」
「そう仲が良さそうにも見えないがな。黒岩に何かを吹き込んだとか?あの4人みたいに」
沖川が言い、西條は下を向いた。
「俺のせいだ」
「アホ。お前に何の責任がある。
事実、黒岩は花園に言われた事をはねつけたみたいだぞ。そそのかすのもそれにのるのも、本人の責任でしかない。正しく状況を理解しろ、西條」
西條は苦笑した。
「沖川は、人を慰めるのも会長なんだなあ」
沖川は耳の先を赤くして、
「慰めてない。フン、バカが。
黒岩に何を言われたのか後で訊くか」
2人はこそこそと言い合いながら教室へ戻った。
それを見ていた生徒が誤解して、「意外過ぎるカップル誕生」という噂が流れるのだが、それはまた、別の話である。
しかし何事もなく授業は進み、休み時間になった。
ザワザワとする教室を出た花園は、足早にならないようにしながら、階段を下りた。もうすぐ射撃場を出た1年生達がこの階段を上がってくるはずだ。
階段脇にトイレがあるので人の話し声はするし、人通りもある。
少し待つと、1年生達が階段を上がって来た。
(いた!)
ぞろぞろと連なって上がって来る1年生達の中に、悠理を見付けた。
「ゲームだともっと当たるんだけどなあ」
「ゲームの銃は反動もないしな」
「俺もゲームしようかなあ、携帯のゲームじゃなく」
「テレビゲームだとテレビもいるぞ?それとコードでつないで使えるゲーム用のシューティングガンも買うと、バカにならん出費だし」
「その前に、寮の自室にテレビの持ち込みは禁止だろ」
言いながらゾロゾロと歩いている。
その後ろの方に黒岩がいるのを見付けた花園は、そっと近づいて黒岩の袖を引いた。
「ん?ああ……」
黒岩はいつも通りの仏頂面を袖を引く人物に向け、それが花園とわかるや、面倒臭そうな顔をした。
花園は、イラッとした。
「黒岩君。テスト、どうだったの。上手く行かなかったの?」
にっこりと笑って言うと、近くにいた1年生は先に歩いて行った。
「花園先輩、黒岩と親しいのか?」
「1つ上だけど、かわいいよな」
「ちょっとあざといトコがアイドルみたいな」
そんな事を言いながら上へ上がって行くのを見送り、花園は、
(舐めた事言ってるな、あいつら)
と思いながらも、黒岩に視線を戻した。
かわいいと言われており、自分でもそう思う笑顔を浮べ、黒岩をジッと見る。
それでもよく見れば、花園の笑顔は、目は笑っていないのがよくわかるのだが。
「黒岩君」
黒岩は軽くフッと笑った。
「上手く行きましたよ。俺もあいつも最長をクリアしましたしね」
「意味わかってるよね。ちゃんとメンテナンスしたのかって訊いてるんだよ」
黒岩は花園の目を覗き込むようにした。
「何だよ」
花園は、反射的に狼狽えて視線を揺らした。
「俺はそんな事をするつもりはない。俺は俺の努力であいつを越える。
あんたも、言いたい事があるなら自分で言えよ。他人をそそのかして使おうとするな」
黒岩は押し殺した声でそう言って、花園から離れて階段を上がって教室へ向かって行った。
それを花園は呆然と見送り、姿が見えなくなってから、体が震え出すのを感じた。怒りなのか羞恥なのか。怒りだとすれば、それは悠理へなのか、黒岩へなのか。
自分でもよくわからないまま、上の1年生の教室の階を見上げ、フンと鼻を鳴らすと踵を返した。
それを、柱の陰から沖川と西條が見ていた。
以前の西條はいつも人に囲まれていたが、最近は1人で気軽に動く事も増えた。しかし演じているかのようなよそよそしさがなくなり、話しかけやすくなったと、影では相変わらず秘密ファンクラブは存在していた。
そんな西條は、花園の動向に感じる所があり、沖川と相談して、何かするのではないかと注視していたのだ。
「黒岩と?」
「そう仲が良さそうにも見えないがな。黒岩に何かを吹き込んだとか?あの4人みたいに」
沖川が言い、西條は下を向いた。
「俺のせいだ」
「アホ。お前に何の責任がある。
事実、黒岩は花園に言われた事をはねつけたみたいだぞ。そそのかすのもそれにのるのも、本人の責任でしかない。正しく状況を理解しろ、西條」
西條は苦笑した。
「沖川は、人を慰めるのも会長なんだなあ」
沖川は耳の先を赤くして、
「慰めてない。フン、バカが。
黒岩に何を言われたのか後で訊くか」
2人はこそこそと言い合いながら教室へ戻った。
それを見ていた生徒が誤解して、「意外過ぎるカップル誕生」という噂が流れるのだが、それはまた、別の話である。
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