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新たな一歩
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「何でです!?」
悲鳴のような声が上がった。
西條は穏やかな顔で、彼らを前にして言った。
「他人の目で自分の価値をはかって来たけど、もうやめにするよ。その必要はないという事に気付いたんだ。ましてや、今の俺は芸能人でもないしね。
俺を応援してくれた皆にはありがたいと思ってるよ。でもこれからは、同じ特技校の仲間として、よろしく頼む」
西條を囲んでいた取り巻き達は、全身で西條の言葉を聴いていたが、
「ファンクラブ解散ですかぁ」
「ああ、残念だけど、でも、同窓生として、これからも一緒にがんばれるんだし」
と、各々騒いでいる。
それらを何という事もない顔で見ながら、花園は奥歯を噛み締めた。
(敷島悠理のせいか?栗栖様は悠理を特別視している!栗栖様を知らないようなやつなのに!
あいつらも失敗したみたいだな。使えない奴ら)
そう思い、ほかの皆が、「ファンではなく友人に」と言われて舞い上がっているのを見ながら、次の嫌がらせの手を考え始めた。
1年生は、ようやく武器を貸与されるとあって、浮かれていた。
この日の為に、各々色んな武器を試してみて、自分に合ったものを考えていたのだ。
「悠理は何にするんだ?」
均が訊くのに、悠理はううむと唸った。
「どれが合うのかなんてわからないしなあ。安全そうな奴って何だろう。弓や銃とかの飛び道具は武器にできないって言うしなあ。盾はなしって言われたし」
均は悠理に苦笑した。
「鬼束も黒岩も剣道の全国大会でメダルを取るような腕前だから、剣にするらしいよ。三橋は槍がいいってさ。俺はバットが振り慣れてるんだけど、バットはないし、槌とかは重いし何か違うから、無難な所で剣にするよ」
普通の日本人にとって、武器は縁がない。ただ、剣道に親しんだ者はそこそこいるので、そういう者は剣を選ぶ事になる。それに時代劇でよく見るのは刀だ。そしてゲームでも剣はポピュラーだ。なので、決めかねた者は一番近い剣を選ぶ者も多い。
そういうわけで、全体の9割が剣になり、ナイフや槍などは少数となる傾向が去年はあったし、今年の1年生も、事前の調査でそういう回答が多かった。
「槍とか薙刀ってどうかな」
「それ、敵との距離だけを問題にしてる、悠理?」
均に訊き返され、悠理はそっと視線を外した。
武器の形や大きさのイメージが固まっている者から、順番に制作にかかる。
CTの機械を縦にしたような機械があり、その床部分にゼルカが入れられ、その中心に柄となる部分が立てられている。そこに、イメージしながら滅力を流すと、それに従ってゼルカが集まり、形を作り上げていく。そこに特殊な加工を施せば、個人に合わせた武器が出来上がる。
滅力を持った人間が多くはない割に、この機械の開発費は高い。
万が一失敗したり破損したりした時も、ゼルカを戻す方法があるので、そこまでガチガチに緊張しなくてもいいのだが、そう言って、遊んだり何度もやり直す生徒が出ると困るので、服部も原田も「慎重に」と言っていた。
鬼束は剣しか考えられなかったので、いの一番に制作にかかった。
筒のような部分がゆっくりとせり上がり、またゆっくりと下りて来る。そうすると、真ん中に立てた柄の上に、日本刀のような形の白銀の刃が付いた武器ができていた。
「おおお……!」
見ていた生徒達が、一斉に声を上げた。
鬼束はそれを手に取り、軽く2、3回振って、嬉しそうに笑った。
「凄え!オレの理想のまんまだ!」
それを聞いて、様子見していた他の生徒達も、列に並んだ。
黒岩の制作したのも剣だ。それも、日本人に多い、日本刀を思わせる剣だ。
しかし鬼束のものよりも幾分長く、細く、反りが入っている。
(凄い。初めて持つのに、しっかりと手に馴染む)
黒岩は軽く興奮しながら、それを振ってみた。
(いける――!これなら、鬼束にも勝てるかも知れない)
そんな事を考えた。
次々と制作にかかる生徒達を尻目に、悠理はまだ決めかねていた。
アドバイスのためにと2年生も何人か来ているが、重さや大きさ、長さのアドバイスをする者ばかりで、この期に及んで武器を何にしようと悩む者は少ない。
そこまで日本人には刀というものが手持ち武器としては多いのだ。
「戦国時代に戦に駆り出された農民が持たされたのが刀だったらしい。槍や薙刀はそれなりに取り回しにコツがいるが、素人でもどうにかなるのが刀だとか。
まあ、それ以上になるにはやっぱりコツも修練も必要だけどな」
そう言う沖川の助言に従って、悠理も日本刀にする事にした。
機械の外にある、コードにつながれた柄を握り、滅力を流しながらイメージする。竹刀より反りがあり、長く。持たせてもらったサンプルの日本刀より軽く、細く。
そうして出来上がった自分の武器を手にする。
「今年も9割以上が剣――日本刀か西洋剣か」
服部が生徒達を見回して言う。
「お前ら!その重さを自覚しろ」
はしゃいでいた鬼束らは、冷や水を浴びせられたように、顔を引き締めた。
黒岩も、「これで鬼束に勝てる」と思った事を反省した。
(そうだった。敵は鬼束じゃない。悪魔だ)
その日、2期生は、新しい第一歩を踏み出した。
悲鳴のような声が上がった。
西條は穏やかな顔で、彼らを前にして言った。
「他人の目で自分の価値をはかって来たけど、もうやめにするよ。その必要はないという事に気付いたんだ。ましてや、今の俺は芸能人でもないしね。
俺を応援してくれた皆にはありがたいと思ってるよ。でもこれからは、同じ特技校の仲間として、よろしく頼む」
西條を囲んでいた取り巻き達は、全身で西條の言葉を聴いていたが、
「ファンクラブ解散ですかぁ」
「ああ、残念だけど、でも、同窓生として、これからも一緒にがんばれるんだし」
と、各々騒いでいる。
それらを何という事もない顔で見ながら、花園は奥歯を噛み締めた。
(敷島悠理のせいか?栗栖様は悠理を特別視している!栗栖様を知らないようなやつなのに!
あいつらも失敗したみたいだな。使えない奴ら)
そう思い、ほかの皆が、「ファンではなく友人に」と言われて舞い上がっているのを見ながら、次の嫌がらせの手を考え始めた。
1年生は、ようやく武器を貸与されるとあって、浮かれていた。
この日の為に、各々色んな武器を試してみて、自分に合ったものを考えていたのだ。
「悠理は何にするんだ?」
均が訊くのに、悠理はううむと唸った。
「どれが合うのかなんてわからないしなあ。安全そうな奴って何だろう。弓や銃とかの飛び道具は武器にできないって言うしなあ。盾はなしって言われたし」
均は悠理に苦笑した。
「鬼束も黒岩も剣道の全国大会でメダルを取るような腕前だから、剣にするらしいよ。三橋は槍がいいってさ。俺はバットが振り慣れてるんだけど、バットはないし、槌とかは重いし何か違うから、無難な所で剣にするよ」
普通の日本人にとって、武器は縁がない。ただ、剣道に親しんだ者はそこそこいるので、そういう者は剣を選ぶ事になる。それに時代劇でよく見るのは刀だ。そしてゲームでも剣はポピュラーだ。なので、決めかねた者は一番近い剣を選ぶ者も多い。
そういうわけで、全体の9割が剣になり、ナイフや槍などは少数となる傾向が去年はあったし、今年の1年生も、事前の調査でそういう回答が多かった。
「槍とか薙刀ってどうかな」
「それ、敵との距離だけを問題にしてる、悠理?」
均に訊き返され、悠理はそっと視線を外した。
武器の形や大きさのイメージが固まっている者から、順番に制作にかかる。
CTの機械を縦にしたような機械があり、その床部分にゼルカが入れられ、その中心に柄となる部分が立てられている。そこに、イメージしながら滅力を流すと、それに従ってゼルカが集まり、形を作り上げていく。そこに特殊な加工を施せば、個人に合わせた武器が出来上がる。
滅力を持った人間が多くはない割に、この機械の開発費は高い。
万が一失敗したり破損したりした時も、ゼルカを戻す方法があるので、そこまでガチガチに緊張しなくてもいいのだが、そう言って、遊んだり何度もやり直す生徒が出ると困るので、服部も原田も「慎重に」と言っていた。
鬼束は剣しか考えられなかったので、いの一番に制作にかかった。
筒のような部分がゆっくりとせり上がり、またゆっくりと下りて来る。そうすると、真ん中に立てた柄の上に、日本刀のような形の白銀の刃が付いた武器ができていた。
「おおお……!」
見ていた生徒達が、一斉に声を上げた。
鬼束はそれを手に取り、軽く2、3回振って、嬉しそうに笑った。
「凄え!オレの理想のまんまだ!」
それを聞いて、様子見していた他の生徒達も、列に並んだ。
黒岩の制作したのも剣だ。それも、日本人に多い、日本刀を思わせる剣だ。
しかし鬼束のものよりも幾分長く、細く、反りが入っている。
(凄い。初めて持つのに、しっかりと手に馴染む)
黒岩は軽く興奮しながら、それを振ってみた。
(いける――!これなら、鬼束にも勝てるかも知れない)
そんな事を考えた。
次々と制作にかかる生徒達を尻目に、悠理はまだ決めかねていた。
アドバイスのためにと2年生も何人か来ているが、重さや大きさ、長さのアドバイスをする者ばかりで、この期に及んで武器を何にしようと悩む者は少ない。
そこまで日本人には刀というものが手持ち武器としては多いのだ。
「戦国時代に戦に駆り出された農民が持たされたのが刀だったらしい。槍や薙刀はそれなりに取り回しにコツがいるが、素人でもどうにかなるのが刀だとか。
まあ、それ以上になるにはやっぱりコツも修練も必要だけどな」
そう言う沖川の助言に従って、悠理も日本刀にする事にした。
機械の外にある、コードにつながれた柄を握り、滅力を流しながらイメージする。竹刀より反りがあり、長く。持たせてもらったサンプルの日本刀より軽く、細く。
そうして出来上がった自分の武器を手にする。
「今年も9割以上が剣――日本刀か西洋剣か」
服部が生徒達を見回して言う。
「お前ら!その重さを自覚しろ」
はしゃいでいた鬼束らは、冷や水を浴びせられたように、顔を引き締めた。
黒岩も、「これで鬼束に勝てる」と思った事を反省した。
(そうだった。敵は鬼束じゃない。悪魔だ)
その日、2期生は、新しい第一歩を踏み出した。
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