追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~

和成ソウイチ

文字の大きさ
上 下
74 / 77

第74話 王 VS 勇者 ⑩

しおりを挟む

 王城を踏みつけ、仁王立ちする巨大リビングアーマー。
 いや――一体化した今となっては、『スカル・アーマー』とでも呼んだほうがいいだろう。

 全身を無骨で不気味な漆黒鎧で包み、奴が動くたびにボコボコと表面が煮え立つ。明らかに金属じゃない。鎧の形に擬態したスライムみたいだ。確かめる気は起きない。
 身につけているのは鎧だけ。素手だ。スカルは聖剣を持っていたはずだ。どこにやったのか、返って気味が悪い。
 大きさは、どのくらいか。少なくとも、空中にいる俺より目線が高い。
 スカル・アーマーの巨大な頭部は、ここからでもよく見える。間違いなく奴の顔だ。だが、頭部までも真っ黒に染まっているせいで、人間味は皆無だ。

 神獣化したリーニャが、全身の毛を逆立てて唸る。

『主様。あいつ、ひどい臭いがする。魔物よりもくさい』
「魔物というより~、魔王そのものですね~」

 ルウもうなずいた。彼女にしては珍しく、口元に微笑みがない。
 俺も、彼女らと同感だった。
 こうして立っているだけでもビンビン感じる。スカル・アーマーから漂ってくるヤバい気配、魔力。
 そんじょそこらの魔物じゃ太刀打ちできないほどの、邪悪な力。

 そこまで堕ちたか、スカル・フェイス……!

《ラ ク ター ァ ァ ァ》

 再び、奴が吠えた。

《お 前 は 追 放 だ ぁ》

 俺は眉をひそめる。

《た い し て 強 く も ぉ 魔 法 も ぉ 頭 も ぉ 無 能 ぉ ぉ》

『主様、あいつ……なにを言ってるの?』
「……」

 リーニャが気持ち悪そうにたずねてくる。俺は答えなかった。
 だが……わかる。
 奴が何を言っているか、俺にはわかる。

 あいつの頭の中では、数か月前のやり取りが繰り返されているのだ。
 スカルが勇者で。
 俺がただのスカウトで。
 力ある者と、力ない者の関係だった頃。
 スカルの奴が上機嫌に、俺へ追放を言い渡したあの日のことだ。
 みっともない姿を見せて、俺たちを喜ばせろ――言外にそう要求された。

 俺は天を仰ぎ、眉間に深い皺を刻んだ。

「その姿になってまで、そんなくだらない思い出にすがらなければならないのか。お前は」

 そこまで……そこまで! 堕ちたか! スカル・フェイス!

『ラクター様。終わらせましょう』

 アルマディアが厳かに告げた。

『あの執念こそが、巨大なリビングアーマーを生み出し、そして引き寄せた原動力だったのでしょう。まるで魔王が、自らの配下を生み出すように』

 終わらせましょう、と女神は繰り返した。
 俺は神力を高めた。

「リーニャ。ルウ。手加減は無用だ。全力で奴を――スカル・アーマーをぶっ飛ばす」
《ラ ク ター ァ ァ ァ》

 耳に響く。まるで奴の声そのものが破壊力を持っているかのように、叩きつけられる。
 俺たちは、それに正面から抗った。

 リーニャが駆ける。【楽園創造者】の力によって生み出された大地を踏みしめるごとに、彼女の身体に神力が蓄えられていく。

 楽園の大地外縁から、跳んだ。
 神獣少女の突進が、スカル・アーマーの額に直撃する。
 彼我ひがの体積の差は明らか。
 それでも、スカル・アーマーはよろめいた。
 紫電が四方に乱れ飛ぶ。神力を全身にみなぎらせる彼女は、その身が強力な弾丸だ。

「ルウ」
「はい~」

 俺たちは再び、黄金樹に神力を送った。
 雑魚の群れを一掃した黄金の枝が、今度はスカル・アーマーに襲いかかる。
 漆黒の鎧を易々と貫いた。

 だが――雑魚のようにはやはり、いかない。

《ラ ク ター ァ ァ》

 スカル・アーマーは叫びながら、自らに突き刺さった黄金樹の枝を引っ掴んだ。
 そのまま、無造作に剥ぎ取る。
 奴の手の中で枝はひしゃげ、黒く変色し、すぐに霧散した。

 リーニャが俺たちの元まで戻る。

『乗って主様』

 ルウとともに飛び乗る。
 その直後だった。
 身をひねったスカル・アーマーが、右腕を突き出してきた。
 シンプルな右ストレート。
 さっきまで俺たちが立っていた場所に黒い拳が刺さる。

 ――楽園の大地が、悲鳴を上げて砕けた。
 拳の形に、大穴が空く。

 アリアの大魔法でも、エリスの呪詛でも貫けなかった【楽園創造者】の力。
 それがコイツの前では決して優位とはならない。
 スカル・アーマーの反撃である。

 奴の拳は、それから数度、俺たちを襲った。
 もはや人としての正気を失ったスカル・アーマーの攻撃は、強力だが単調である。
 回避をリーニャに任せ、俺はシード系魔法で応戦する。
 こちらの攻撃がヒットするたび、目もくらむような閃光が弾ける。奴はひるみ、攻撃の手が鈍くなり、そしてすぐに攻勢を取り戻す。

 穴の空いた楽園の大地を修繕するだけの余裕が、俺の方にはある。
 ルウには黄金樹の活性化を指示した。大神木の精霊は、この神力で生み出された大樹に自らの力を同調させ、さらに苛烈な攻撃を天から振りまく。

《ラ ク ター ァ ァ ァ》

 スカル・アーマーの声に揺らぎは感じられない。
 奴の外見に変化があれば、まだ手応えもあっただろう。鎧が壊れる、雑魚リビングアーマーのように色が変わる、身体のどこかが欠損する――そうした見た目にわかりやすいダメージが、スカル・アーマーにはない。
 もしかして、効いていないのか?
 そんな悪い予感が脳裏をよぎった。精神力で不安をねじ伏せる。

「リーニャ、ルウ。この調子だ。俺たちは戦えている。攻めろ、攻めろ、攻めろ!」

 仲間たちに動揺を与えてはいけない。
 俺たちに『生きている者』としての矜持がある限り、鼓舞は力となり自信は力を引き出す。
 単なるゲームのパラメーターじゃない。
 一生懸命生きている者の、これが強さだ。
 俺はそれを最大限リスペクトするし、信じている。

 一瞬も気が抜けない。

 ――事態が、動いた。

 これまで地に足を付け、殴って俺たちを攻撃してきたスカル・アーマーが、突然、のだ。
 俺たちの頭上を飛び越える。
 俺の魔法をその身体に受けながら、移動をやめない。

 奴の狙いは、黄金樹。

「うっ!? ぐ、ぎ……っ!」

 初めて聞くような、ルウの呻き。
 スカル・アーマーは信じられない行動を取っていた。

「なんて奴だ……黄金樹を……!?」

 太い幹をがっしりとつかみ、漆黒に染まった人形のような口で貪り食っている。
 ルウは黄金樹と同調している。喰われた苦痛が、彼女にもダイレクトに伝わっているのだ。

 好きにさせるか。

「――シード・ウェイブドラム!! ――グロース・メイスエア!!」

 立て続けに、神力魔法をぶっ放す。
 衝撃派と風圧で、スカル・アーマーを大きくのけぞらせる。黄金樹の樹皮から汚い口を引き剥がす。

 スカル・アーマーは黄金樹を蹴った。再び、王城の位置までさがる。

「大丈夫か、ルウ」
「……ええ~、なんとか~」

 理不尽な暴力にも強い大精霊に、「なんとか」と言わしめる。

 ――互いの攻撃の手が止まった。
 風の音だけが恐る恐る聞こえるような、奇妙な沈黙が降りた。

 首筋がざわりとあわ立つ。仲間たちにも緊張が走るのがわかった。

《ラ ク ター ァ ァ ァ !》

 スカル・アーマーが一際大きな声をとどろかせて、右手を高々と掲げる。
 その手に、巨大な漆黒大剣が出現していく。

 おぞましい――その一言に尽きる見た目だった。

 柄から鍔から刀身から。まるでスカルの頭部を叩いて延ばして貼り付けたように、無数の目鼻口が浮かび上がる大剣。
 ただただおぞましい、魔剣だ。
 アレを、黄金樹を喰らって得た力で創りだしたのか。

《ラ ク ター ァ ァ ァ ァ ァ ッ !!》

 やはり腐っても勇者。
 一筋縄では、いかない。




しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる

まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。 そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

処理中です...