63 / 77
第63話 勇者の館
しおりを挟む筆頭騎士スティアが言うには、勇者スカルに与えられた装備品には強力な聖の魔力が込められており、儀式の効果をより高めることができるらしい。
この短期間で儀式を成功させるためには、勇者の協力がぜひとも必要なのだそうだ。
加えて。
「まさか儀式長ってひとも、俺と同じことを感じていたとはな」
「『王都全体を悪しき空気が覆い、儀式の進行に影響が出ている』……ってやつね。まったく、迷惑な話」
俺の隣でアリアが不機嫌そうに応える。
――俺たちは今、王都の一等地に向かっている。
有力貴族や商人たちが邸宅や別荘を構えるエリアだ。一般市民には縁の無い場所である。
この一画に、勇者スカルの邸宅はあるそうだ。
勇者パーティの一員だったときも、俺はヤツの家に行ったことがない。敷居をまたぐ資格がないって話だった。まあ今となってはどうでもいい。
スカルの家の場所を知り、かつ、奴とまともに話ができそうな唯一の人物として、アリアが同行を願い出てくれた。
他にも俺の側に居るのは、神獣少女のリーニャ、大精霊のルウ、それと王国側の使者として筆頭騎士のスティア。少し離れた場所には神鳥もいて、屋根の上から俺たちを見下ろしている。
現状、考え得る最も強力なパーティだろう。
俺たちに与えられた任務は、勇者スカルの装備品を確保すること。
本来なら勇者装備で武装したスカルに立ち会ってもらえば済む話だが、まあ無理だろう。あの男が、イリス姫の儀式を大人しく見ただけで終わるとは思えない。
第一、奴は俺と同じ空間にいることに耐えられないハズだ。もっとも、それはお互い様だが。
儀式の間だけ、装備一式を預からせてくれないかと、奴相手に面倒な交渉をしなければならない。
スティアが王国側の意図を伝え、アリアが説得する。俺たちは何かあったときのためのバックアップ。そういう手はずになっている。
「ラクター。いざとなったらあんたが前に出なさい。今のあんたなら、あいつと良い勝負でしょ。肩書き的にも、実力的にも」
「無茶言うな――ってツッコみたいところだが、まあ……そうせざるを得なくなるだろうなあ」
スカルには色々聞きたいこともある。
万が一、奴が暴れた場合にはストッパー役が必要だ。
「私、割とマジで楽しみにしてるんだからね。イリスの聖女就任。だからあんたも気張りなさいよ」
「ラクター陛下。私も賢者様と完全同意です。至高の天国をこの目で見るまで死ねません」
アリアと変態騎士がずいと迫ってくる。俺はうなずいた。
ふと。
俺はさっきからずっと大人しい神獣少女を振り返った。
「リーニャ。どうした。体調が悪いのか?」
「……うにゃあ。気持ち悪い、主様」
言葉通り、少し顔色が悪い。
そういえば、ここ数日、人混みによく酔うと話していた。
「回復魔法でしのげそうか? ルウ、手伝ってくれ――ルウ?」
シード系魔法を準備していた俺は、大精霊の表情がいつもよりも険しいことに気づく。珍しい。
「ラクター。この周囲、非常に濃いですね~……」
「……ああ。そうだな」
うなずく。
粘つくような違和感が、一歩進むごとにどんどん強くなっている。
こりゃあ、間違いなさそうだな。
王都全体を覆い、聖女の儀式すら妨げる負の魔力の原因。
勇者スカルが関係している。
――目的の屋敷が見えてきた。
さすが、勇者の館。周囲の貴族邸とまったく遜色ない外見だ。
だが、どうも人の気配を感じない。
こうして建物を前にすると、でかくて細部に凝った幽霊屋敷のようだ。
筆頭騎士のスティアが、門扉の前で来訪の意を告げる。
反応はない。
門扉に鍵はかかっていなかった。半開きのままだったそれを、俺たちはゆっくりとくぐる。
敷地内の中庭は荒れ放題だった。玄関までの道にすら雑草が生えている。
リーニャの唸り声が小さく聞こえてきた。
俺は歩きながら認識を改める。
玄関前に着いた。
スティアが再度、声をかける。やはり反応がない。
今一度ノックしようとした筆頭騎士を制し、俺は扉の前に立った。
この雰囲気、ただ事じゃない。もう様子見がどうこう言ってる場合ではない。
「スカル。いるのか、スカル・フェイス! 俺だ、ラクター・パディントンだ!」
大声で名乗った。
それでも、反応はなかった。スカルの声どころか、人一人動く気配すらない。
アリアがつぶやく。
「誰もいない……? おかしいわね。あいつ、この館を手に入れたときたくさんメイドを囲ってたけど」
「全員、逃げ出したか解雇したと聞きました。風の便りですが」
スティアが答える。
俺は玄関前の地面に耳を当てた。それからリーニャに『生き物』の気配を聞く。神獣少女はぶんぶんと勢いよく首を横に振った。
「……突入しよう。俺とリーニャで行く。他の奴らは外で待機。何かあったら神鳥に乗って王城まで急行しろ」
「私も行く。嫌な予感がするわ」
アリアが申し出る。
俺はリーニャ、アリアとともに屋敷に入った。
途端、重たい空気が肌を撫でた。
「くさい」
リーニャが鼻を押さえながら呻いた。
埃と……あとは酒か。玄関ホールからパッと見ただけでも転がる空瓶を何本も目にした。
俺はホールの中央で、「スカル!」と叫んだ。声は空しく反響した。
『ラクター様。あちらを』
女神アルマディアが何かを感じ取ったのか、短く進言してきた。
彼女の言う方向に向かう。すると、地下への石階段があった。
こういうデカイ屋敷には、備品を納める地下倉庫がつきものだ。
俺、アリア、リーニャ、そして女神アルマディアまでも、同時に同じ台詞をつぶやく。
――この先はヤバい。
体内の神力を目一杯高め、俺は先頭に立って石階段に足を置いた。
途端、鳥肌が立った。
音が、する。
木が折れる音。石が崩れる音。金属製の何かが雪崩を起こす音。
圧倒的な気配が、下から――。
「逃げろ、皆! 急げ!」
近づいてくる!
俺たちは踵を返し、全力で駆けた。
背後で、床が広範囲で吹き飛ぶ。
玄関扉を体当たりで破り、中庭に出る。外で待機していたルウとスティアも、異変に気づいていた。
敷地外まで待避させる。指示の声がかき消されるほど、凄まじい轟音が屋敷から立ち上った。
門扉まで出て、振り返る。
勇者の屋敷が、無残に瓦礫の山と化していた。
代わりに――ゆらりと『何かが』立ち上がる。
二本の足。
不気味な紫色に薄く光る、スライム状の軟体。
不定形の肉を包む、巨大でいびつな金属鎧。
人型にあるべき、頭部がない。
異形を見上げたアリアがつぶやいた。
「……不浄の騎士」
俺は口元を歪めた。どうしようもない笑いの衝動が溢れる。どうやらアリアも同じ気持ちになったようだ。
見覚えがある。
不浄の騎士を覆う鎧。歪んではいるが、意匠は見覚えがあるのだ。
「勇者装備のリビングアーマーとは、な! 最悪だよ、スカル・フェイス!」
3
お気に入りに追加
2,055
あなたにおすすめの小説

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います
しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?
さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。
僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。
そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに……
パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。
全身ケガだらけでもう助からないだろう……
諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!?
頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。
気づけば全魔法がレベル100!?
そろそろ反撃開始してもいいですか?
内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる
遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」
「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」
S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。
村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。
しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。
とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~
きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。
洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。
レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。
しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。
スキルを手にしてから早5年――。
「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」
突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。
森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。
それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。
「どうせならこの森で1番派手にしようか――」
そこから更に8年――。
18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。
「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」
最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。
そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる
まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。
そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる