追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~

和成ソウイチ

文字の大きさ
上 下
62 / 77

第62話 信念はまるで勇者のように

しおりを挟む

 ――王城に客人として迎えられてから、数日が経過した。

 イリス姫が正式に『聖女』と認定されるまで、いろいろと準備が必要だという。その間、俺たちカリファ聖王国側の人間は至れり尽くせりの歓待を受けた。
 正直言うと、落ち着かない。
 あの勇者スカルなら、今の状況を手放しで喜ぶのだろうが。

 そういえば、王都に到着してからあいつの姿を見ていない。王城の人たちに聞いてみると、ここ最近は登城どころか街で見かけることも稀になっているという。
 いったい、どこで何をしているのか。

「なあ、アリア」
「なによ」

 王城の一画。王族の居室が並ぶ豪奢なフロア、その一室。
 俺は隣に座る大賢者に声をかけた。彼女はさっきからソワソワと扉の方を見ている。
 扉の向こうでは、イリス姫が儀式用の衣装を試着している。

 アリアいわく、「友達の晴れ姿なんだから期待して当然でしょ」とのことだ。前にも増して仲が良くなっている。
 王城に到着してから、彼女らは改めて話し合ったそうだ。
 方や元勇者パーティ、方やその勇者パーティに萎縮していた姫。
 そのわだかまりが完全に溶けたようで、俺としても喜ばしい。

 アリアのウキウキ気分に水を差す後ろめたさを感じながら、尋ねた。

「お前さ、今、スカルの奴がどこでなにをしているか、わかるか?」

 ……案の定、心底嫌な顔をされた。

 気持ちはわかる。
 だが、俺には尋ねずにはいられない理由があった。

「俺も、俺の中にいる女神アルマディアも、街の空気に違和感があるんだ。ここ数日、特に強く」
「その原因がスカルの馬鹿だって言うの?」
「実際、奴の姿を見た人間は、少なくとも王城の中にはいない」

 俺は窓から街の景色を見た。高所にあるこの部屋は、スクードの街並みを一望できる。
 一見、いつも通りの活気ある街。
 だが、目には見えないどろりとした『何か』が街全体を少しずつ浸食しているような、そんな嫌な予感がずっとついて回っている。

 イリス姫が衣装合わせをしている部屋を見る。

「姫さんが、決意を持って新しい責任を背負おうとしているこのときに、余計な邪魔はさせたくない。彼女には、安心して自分の道を進んで欲しい」
「ラクター、あんたさ。そういう台詞はちゃんとイリス本人に伝えてあげなよ。私じゃなくてさ」

 呆れた口調と表情。「お前を護りたいんだ、って直接伝えれば、あの子、きっと喜ぶわよ。というか、言え」とアリアは言った。
 こういう率直な意見をぶつけてくれる相手は貴重だ。アリアが仲間になってくれて本当に良かった。

 大賢者が表情を改める。

「私も正直、あんたの懸念は当たってると思う。リーニャたちを市中の警戒に当たらせたのも正しいと思うわ」

 王城に滞在することが決まってから、俺はリーニャや神鳥に、それとなく王都を見回るよう指示している。

「私が言うのもアレだけど……勇者パーティの中で危険度はあいつが一番高い。私は研究バカのひねくれ者で、エリスは陰謀好きの腹黒だったけど、は決まってた。けど、あいつは違う。キレたら何をするかわからないし、それを問答無用で押し通すくらいの力もある」

 なのに今、表に出てこないってことは――と続ける。

「キレ方が今までの比じゃない、ってことだと思う。私やエリスが企んでたことが可愛く思えるくらい、とんでもないことを計画しているのかも」
「……だよな」
「ま、あくまで推測だけど。どっかで飲んだくれてクズ野郎のままくすぶるだけなら害はないわね」

 肩をすくめるアリア。
 俺は言った。

「実は、ルヴァジ王と相談してるんだ。万が一、王都全体に被害が出るような事態になったら、住人をカリファ聖王国まで避難させて欲しいって」
「避難民を受け入れるってこと? 避難施設なんてあったっけ?」
「移住できるだけのスペースがあることは確認している。それに、俺には【楽園創造者】の能力がある」

 拳を握る。

「勇者の癇癪かんしゃくに、ただ毎日を一生懸命生きてるだけの、何の非もない人々が理不尽に振り回されるようなことがあれば……俺はそれを許せねえ」
「あんたの信念だったわよね。一生懸命生きる奴をリスペクトする――だっけ」

 大賢者が立ち上がる。

「いいんじゃない? 協力するわよ。この大賢者アリア・アート様が」
「その肩書き、また名乗るようになったんだな」
「仕方ないわよ。イリスにあれだけ熱心に勧められたら、ね」

 アリアは悪戯っぽく笑った。

「あんたもさ、試しに名乗ってみたら?」
「なにを?」
「勇者の称号」

 吹き出しそうになった。
 冗談じゃないという目をすると、アリアは「わかってる」とばかり手を振った。

 ――扉が開く。

「お待たせしました。あの……どう、でしょうか?」

 衣装合わせの終わったイリス姫が俺たちの前にやってくる。

 王城でまとっていた姫のドレスも似合っていたが、シスター服を基調とした『聖女衣装』も似合っている。おそらく姫本人の希望だったのだろう。全体的に色味が地味に抑えられているにもかかわらず、まるで荘厳なステンドグラスを背景にしているような雰囲気が伝わってくる。

 アリアが抱きつき、「似合ってる。さすがね」と褒めた。
 はにかむ姫が、恐る恐る俺を見た。

「ラクターさんは、どう、ですか?」
「ああ。似合ってる」

 俺がシンプルにうなずくと、姫はホッとしたような、でもどこか残念そうな表情をした。
 少し迷って、付け加える。

「だから胸を張ってくれ。姫の行く道は、俺が全力で護るから。約束する」

 真っ直ぐに目を見つめ、告げる。

 しばらく姫は直立不動になった。動くのはまぶただけ。
 呼吸すら止まったような様子に、俺は若干不安になった。まさか、ドン引きされた?

 アリアが軽く姫の背中を叩く。我に返ったイリス姫に、まるで姉のように言った。

「はい深呼吸」
「すー、はー……」
「次は表情ね。今の正直な気持ちを表現して。さん、はい!」
「えへへえ」

 相好を崩す聖女姫。
 ドヤ顔でこちらを見る大賢者。
 ついでに彼女らの後ろで鼻血に耐える仕草をする筆頭騎士。

 俺は微笑んだ。
 これが愛すべき仲間たち、ってヤツなのかな。

 それから姫とアリアが雑談に花を咲かせ始めたので、とりあえず邪魔者は退散しようと席を立つ。
 そこへ、筆頭騎士スティアに呼び止められる。

「ラクター陛下」
「なんだ変態騎士殿」
「お褒めいただき恐縮です。陛下には実に良いモノを見せていただいて、感謝の言葉しかありません」

 クソ真面目な表情で礼を言われた。相変わらず、凄まじいメンタルでいらっしゃる。
 呆れる俺に、スティアは続けて告げた。

「儀式長から協力要請です。聖女の儀式をより確実に執り行うため、勇者様の装備品を確保して欲しいと」

 ……あやうく聞き逃すところだった。

「なんだって? 勇者の……スカルの装備を?」
「はい。装備品の持つ聖なる力が必要なのだとか。ですので、勇者様の確保にぜひご協力を」

 スティアはどこまでも真面目な表情で、そう言った。


しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

ザコ魔法使いの僕がダンジョンで1人ぼっち!魔獣に襲われても石化した僕は無敵状態!経験値が溜まり続けて気づいた時には最強魔導士に!?

さかいおさむ
ファンタジー
戦士は【スキル】と呼ばれる能力を持っている。 僕はスキルレベル1のザコ魔法使いだ。 そんな僕がある日、ダンジョン攻略に向かう戦士団に入ることに…… パーティに置いていかれ僕は1人ダンジョンに取り残される。 全身ケガだらけでもう助からないだろう…… 諦めたその時、手に入れた宝を装備すると無敵の石化状態に!? 頑張って攻撃してくる魔獣には申し訳ないがダメージは皆無。経験値だけが溜まっていく。 気づけば全魔法がレベル100!? そろそろ反撃開始してもいいですか? 内気な最強魔法使いの僕が美女たちと冒険しながら人助け!

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります

内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品] 冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた! 物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。 職人ギルドから追放された美少女ソフィア。 逃亡中の魔法使いノエル。 騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。 彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。 カクヨムにて完結済み。 ( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

竜騎士の俺は勇者達によって無能者とされて王国から追放されました、俺にこんな事をしてきた勇者達はしっかりお返しをしてやります

しまうま弁当
ファンタジー
ホルキス王家に仕えていた竜騎士のジャンはある日大勇者クレシーと大賢者ラズバーによって追放を言い渡されたのだった。 納得できないジャンは必死に勇者クレシーに訴えたが、ジャンの意見は聞き入れられずにそのまま国外追放となってしまう。 ジャンは必ずクレシーとラズバーにこのお返しをすると誓ったのだった。 そしてジャンは国外にでるために国境の町カリーナに向かったのだが、国境の町カリーナが攻撃されてジャンも巻き込まれてしまったのだった。 竜騎士ジャンの無双活劇が今始まります。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

勇者PTを追放されたので獣娘たちに乗り換えて楽しく生きる

まったりー
ファンタジー
勇者を支援する為に召喚され、5年の間ユニークスキル【カードダス】で支援して来た主人公は、突然の冤罪を受け勇者PTを追放されてしまいました。 そんな主人公は、ギルドで出会った獣人のPTと仲良くなり、彼女たちの為にスキルを使う事を決め、獣人たちが暮らしやすい場所を作る為に奮闘する物語です。

S級パーティを追放された無能扱いの魔法戦士は気ままにギルド職員としてスローライフを送る

神谷ミコト
ファンタジー
【祝!4/6HOTランキング2位獲得】 元貴族の魔法剣士カイン=ポーンは、「誰よりも強くなる。」その決意から最上階と言われる100Fを目指していた。 ついにパーティ「イグニスの槍」は全人未達の90階に迫ろうとしていたが、 理不尽なパーティ追放を機に、思いがけずギルドの職員としての生活を送ることに。 今までのS級パーティとして牽引していた経験を活かし、ギルド業務。ダンジョン攻略。新人育成。そして、学園の臨時講師までそつなくこなす。 様々な経験を糧にカインはどう成長するのか。彼にとっての最強とはなんなのか。 カインが無自覚にモテながら冒険者ギルド職員としてスローライフを送るである。 ハーレム要素多め。 ※隔日更新予定です。10話前後での完結予定で構成していましたが、多くの方に見られているため10話以降も製作中です。 よければ、良いね。評価、コメントお願いします。励みになりますorz 他メディアでも掲載中。他サイトにて開始一週間でジャンル別ランキング15位。HOTランキング4位達成。応援ありがとうございます。 たくさんの誤字脱字報告ありがとうございます。すべて適応させていただきます。 物語を楽しむ邪魔をしてしまい申し訳ないですorz 今後とも応援よろしくお願い致します。

処理中です...