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第56話 王都からの報告
しおりを挟む――『元』聖女エリス・ティタースを撃退してから、十日が経過した。
俺は仲間たちとともにカリファ聖森林を隅々まで捜索したが、エリスの取り巻きは見つからなかった。
こうなると、王都スクードに向かった可能性が非常に高い。
俺は正直、げんなりしていた。
いまさら王都に行くのもなあ……。
幸い、王都の方は書記官キリオや姫様の従者たちが調べてくれている。彼らの報告を待とうと思っている。
まあ……ろくでもないことが起こるだろうってのだけは、覚悟している。
なんせ、王都にはまだ『勇者サマ』がいるのだ。
ちなみに。
麗しのイリス・シス・ルマトゥーラ姫はまだカリファ聖王国にいる。
「姫さんよ」
「はい? なんですかラクターさん」
「いや、あのさ。エリスの件でこっちができることは一区切りつけたわけだ。そろそろ王宮に戻らなくていいのか?」
「すみません……もしかして、お邪魔ですか?」
「邪魔っつーより、いつまで視察を続ける気かとツッコみたい」
俺が言うと、すかさずお付きの女騎士スティアが進み出た。大真面目に告げる。
「無論、死ぬまで」
「わりと暴言ほざいてる自覚を持て脳筋騎士」
「私……死ぬまで視察を続けないといけないのですか……?」
「ほらみろ。姫が真に受けたじゃないか」
「姫様、どうか心を強くお持ちください。ラクター陛下のもとで一生を過ごすか否かの分岐路です」
「……………………」
「姫さん。姫さん。そこで悩むな。心を強く持て。踊らされている」
――俺たちは今、とある湖のほとりに来ている。
取り巻き探索がてら、未踏の地ばかりのカリファ聖王国を見て回っていた。危険な場所はないか。水源は。人の住める平坦な土地はどのくらい存在しているのか――などなど。
もし将来、入植者を迎え入れることになったら、どのくらいの人数が暮らせるか把握しておく必要がある。
今居る湖は、入植予定地のひとつと考えている場所だ。
……まあ、女神アルマディアに言わせれば『ラクター様ならそう遠くないうちに、国ひとつ分どーんと【楽園創造者】で創れますよ』ということらしいが。
俺がこの力を使って手を差し伸べたいのは『今を精一杯頑張ってる奴』であって、誰でも彼でもウェルカムってわけじゃないんだけどな。
面倒ごとは勘弁してほしい。
『力を持つ者の宿命でしょう。どうか潔く、最強の王としての責務を果たしましょう』
勝手に肩書きを増やすな女神。誰が最強だ、誰が。
――と、まあ。こんな風に。
ここ数日、比較的のんびりと俺たちは過ごしていた。
湖畔での『視察』を終えた俺たちは、王樹に戻る。
すると、見慣れた連中が滞在施設の前に集まっているのを見た。
「キリオ。レオンさんたちも一緒か」
「ただいま戻りました。ラクター陛下。遅くなって申し訳ありません」
書記官キリオが会釈する。
俺はレオンさんを見た。エリスの取り巻きに暴行を受け王都で治療を受けたという話だったが、もうすっかり回復したようだ。俺は彼と握手を交わし、アンともども危険な目に遭わせてしまったことを改めて詫びた。
彼らがここにいるということは、王都での調査結果を報告するためだろう。
俺は皆を集め、王樹でキリオたちと相対した。
「エリス・ティタースの配下二名を、王都スクード内で発見しました。騎士団の協力の下、取り調べを行っております。ただ……相手が『元』聖女様の部下ですので、取り調べ内容は王宮内のみの管理文書扱いに。ここでは口頭報告のみとなります」
なるほど。イリス姫の伝令鳥を使わなかったのはそういう理由か。
まあ、慎重になるのは理解できる。
「で? その配下は何のためにスクードへ?」
「逃げてきた、とのことです」
「逃げた? 誰から?」
「エリス様から」
俺は仲間たちと顔を見合わせた。
キリオは報告を続ける。
「配下捜しに関して、自分はレオン氏に協力を依頼しました。直接顔を見ているのは彼でしたので。調査が進んだのは、ひとえにレオン氏の尽力があってこそ。その点、この場で付言いたします」
また無茶なことを。怪我の治療が終わったらすぐ動いたってことだろ。
俺の呆れた視線を受けたレオンさんは、「聖王国の一員として当然のことをしたまでですよ」ときっぱり言った。まいったな。
「我々は配下のうち一名を彼の者の自宅で保護し、もう一名を路上で回収しました」
「……待った。どういう意味だ、それ」
「路上で発見した者は、すでに死亡していました。目撃者の話だと、狂ったように自傷行為を行い、事切れたと。変死です。もう一名は、恐怖で錯乱状態になり、自宅に引きこもっていたところを連れ出しました。こちらは現在、落ち着いております」
眼鏡のブリッジに手をかけつつ、淡々と告げる書記官。
「生き残った方の証言によると、『エリス・ティタースへの恐怖から逃げ出した』と。これは自分の推測ですが、エリス様の呪詛により自我まで支配されていた状態から無理矢理覚めた反動ではないか、と考えます。元聖女が無限の悪夢に囚われたとき、彼女の呪詛の力も一気に弱まったのでしょう」
視界の端でアリアが自分の手を見ていた。エリス戦以来、身体の黒い染みが薄くなっているのも、同じ原因なのかもしれない。
キリオの声には若干の疲れがにじんでいた。
「問題は、どうして王都まで戻ってきたのか彼ら自身が把握していなかった点です。記憶や認知能力に大きな障害が起きたようで、エリス様からどんな指示を受けたのか、王都で何をしようとしたのか、いまだよくわかっていません。ただ――」
嫌な間があった。
「変死した配下が、不気味な瓶を抱えていた、と。もうひとりの配下が、その瓶をエリス・ティタースの呪いと感じて強い拒否反応を起こした、そう証言しています」
「……その瓶は?」
「所在不明です。裏ルートに流れた可能性もあります」
俺は天を仰いだ。アリアは頭を抱えていた。イリス姫は祈るような姿勢を取っていた。
――真っ先に思い浮かぶのは、成れ果て召喚獣を封印した黒い瓶。
エリスの奴は、それを使ってイリス姫を陥れようとしていた。
もし、オルランシアの聖地での自信満々な態度が、『すでに別の手を打っているぞ』という意味だったなら。
重苦しい沈黙が場を支配した。
書記官がわざとらしく咳払いをする。
「それではラクター陛下。ここで鬱々たる空気を吹き飛ばす良い報せをお伝えします」
「良い報せ?」
「ルマトゥーラ王国現国王、ルヴァジ・ヒル・ルマトゥーラ陛下がお呼びです」
お前それマジで言ってんのか、おい?
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